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【 第三章 】 復讐を果たしたら
⑦ 作戦決行
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その後、アリアンロッドはフレイヤと食事の準備をしていた。
「思ったんだけど、なんでユンは山の男たちに手伝ってもらっての襲撃を考えなかったの? 彼らも強いんでしょう?」
フレイヤはひとたび準備の手を止めて、考えを述べる。
「それは……あの子は、自分以外の誰の手も汚させたくないからだと思う。少なくとも自分が巻き込んだ戦いでは。血気盛んな山のみんなは、入り乱れて命の奪い合いにならないとも限らないので……」
「気持ちは分かるが、これからはそんなこと言ってられないだろうな。子どもなりに野望があるんだろ?」
聞き役に徹していたアンヴァルが、ここで口を開いた。
「あの子は、本当は自分だって人を殺すようなことしたくないはず。だから世そのものを変えたがってる。そのためにどうすればいいのかはまだ分からなくて、焦っているのね」
「なら、国を作ればいいわ! ねぇ、ヴァルもそう思わない?」
「まぁそうだけど、簡単に言うな」
「国って?」
「ここはまだ自治区としても発展を遂げていないのよね? だったらまず王を擁立して……ここからここまでの区域で強奪のために人を殺すのダメです、やった人は死刑です、って法律を定めるの。その範囲内に暮らす人共通の決まりを作ってみんなが守る、それが国」
「みんなちゃんと守るの?」
「王と政権を守る軍隊も作れば大丈夫。法律に反しても死刑だから」
「へぇ」
フレイヤはぴんとこないようで、ちょうど食事の準備ができたので話はそこで終わった。
敵討ちの日がやってきた。
彼らは昼過ぎから支度を始めている。
フレイヤの遣いを終えて外から戻ったアリアンロッドの目に、最初に飛び込んできたのは踊り子の恰好をしたユンだった。
「ほら、やっぱり子どもだってばれそうじゃないの」
「現場は暗がりだから問題ない」
そこでアリアンロッドの帰宅に気付いたフレイヤが、嬉しそうに話しかける。
「ねぇ見て、すごい美女よ」
そして着替えのため簾にしていた布を取っ払い、その“美女”をアリアンロッドに見せつけた。
ゆっくりと振り向いたのはやはり踊り子の衣装で、フレイヤによって入念に化粧を施されたアンヴァルだった。
「!」
「ね、本当に女の子みたい。キレイでしょう?」
「え、ええ。そうね、女にしては大きいけれど」
「すっぴんのお前の方がきれいだぞフレイヤ」
ユンの合いの手はお約束だ。
夕刻になり、フレイヤを家に残したアリアンロッドら三人は出立した。山の民も酒を運ぶのを手伝ってくれている。
現地に着いてまず、はす向かいの建物の影から館門を確認し、互いに目を見合わせたら、先鋒のユンが酒樽を荷台で運んでいった。
ユンはうまく館の中に入っていったようで、アンヴァルは機を計りながらアリアンロッドに告げる。
「俺たちの獲物が外へ出ていったら俺も合流するから、それまで無茶するなよ。ちゃんと隠れてろ」
「そっちでしっかり酔わせておいてくれれば大丈夫よ」
「言うこと聞け。じゃあ行くから、俺が門兵を連れて入って30数えたら侵入するんだぞ」
アリアンロッドがうなずいたので、アンヴァルも酒樽を乗せた荷台を引いて門へと向かった。
言われたとおりにアリアンロッドは侵入し、彼らが通ったであろう敷石の道をコソコソと行く。
「ええっと……こっちかな」
日はすっかり沈んだ後の暗がりの中、小坂の道を上り、酒場方面からはやや外れていった。
宴のテラスからレストルームは200メートルほど離れている。木々に挟まれた小路から、獲物はやってくるはずだ。
「よし。ここらで待ち伏せよ」
ユンに槍を持たせられたが、しょせん相手は酔っぱらい。脅して気絶させてやろうという魂胆でいる。
一方、酒宴の方でははじめ、子どものように小さい女が酒を持ってやってきて、ならず者兄弟らはそれでもいないよりましかと、それなりに盛り上がりを見せた。
その直後、今度は逆にずいぶん背丈は大きいが、声も野太い気はするが、そこらではまったく珍しいほどの美女が同じく酒を持ってやってきた。これには大盛り上がりだ。
兄弟はいかにも人相の悪い、厳つい奴らだが、ひとりだけ毛色の違う者がいる。
どちらかというと細面の、綺麗な髪がまっすぐに伸びた男だ。若そうに見えるので、こいつが情報のない五男だろうと、ユンとアンヴァルは思った。
「さぁ、どんどんお飲みになって!」
「あらご主人サマ、イイ飲みっぷり♪」
ふたりとも、アンヴァルは特に、心の中でうげえ──……と、えずきながらの接待だ。
「ぐはははは! あァ~~いい気分だぁ!」
「おい~~ちったぁ触らせろや!」
この体格のある、つれない娼婦には、そこを触ろうとしてもスルリと避けられオアズケをくらう。
「まだですわ、ご主人サマ♡」
アンヴァルの心の中のアンヴァルが、うげえええとえずいている。
が、これが実は同性なのだと露にも疑わない男たち、思わせぶりな態度に欲求をより刺激され、更に舞えや唄えやのどんちゃん騒ぎとなった。
しばらくすると四男が便所へ行くと立ち上がった。完全な千鳥足だ。アンヴァルは神経を尖らせるが、ユンの許可がまだ出ない。
◇◆
「うーん、まだかなぁ」
アリアンロッドが外の待機場でしびれをきらす、この時。
「はっ」
がさりと草を踏む音が聞こえる。人物が近づいてくる。木々の影から頭を出して確認したら、人影はひとつ。それが長男次男だったらユンが共に来ることになっているので、
「あれは私の獲物ね」
(緊張する……。でも相手は丸腰の酔っぱらいだもんね)
彼女は、ここは脚を狙って痛めつけて動けなくなったところを、さも命を狙うふりして、獲物を恐怖で失神させる、といった計画だ。
(うん、完璧な計画!)
アリアンロッドは勇んで飛び出した。
「お命いただきます! いざ、勝負!」
そこで立ちすくんでいた男が振り向く。
なぜか男は花摘みの最中だった。
「えっ??」
「うぃ~~うぇっ。なんだぁ~~おまえ~~」
夜間の暗闇だが、月明かりでなんとなく分かる。男は花摘みの真っ最中で、つまり、履いていない。
「え、なんで?? レストルームはこの奥でしょ!?」
「ああ~~? そこまで我慢できるかあああ」
摘み終えた男はそのまま全身で振り向いた。アリアンロッドは間髪を入れず、ばっと顔を背ける。
「ちょ、ちょっと……」
「う~~ん、なんだその声、お前、女か~~?」
男がふらふらしながら、にじり寄ってくる。
「や、やだ……」
アリアンロッドは目を逸らしたまま、後退りするより他なかった。
◆◇
その頃、宴の場では、三男も外で風に当たると言い出した。
そこへ意識のすべてが向かうアンヴァルに、ユンは「そろそろだ」と合図を出す。ついでに塀の向こうのいちばん大きな篝火を消すよう、アンヴァルに耳打ちした。
アンヴァルは、三男に付き添うと残りの男たちに告げ、ふらつくその男を支えた。
兄弟のうちふたりが退室して、ここテラスは少し落ち着いた雰囲気となった。
「ねえ、何か面白い話が聞きたいわぁ」
すっかり女言葉が板に付いたユンだが、とうとう正念場、といったところであった。
「面白い話か。俺様の無敵伝説はどうだ! 沢山あり過ぎて朝まで語り続けにゃならんな!」
「おお兄貴ぃ、とくと聞かせてやれぇ!」
その時、ひとつの篝火が消えた。
今、笑みを浮かべてユン少年は──
おもむろに立ち上がり、ひらひらした衣装を脱ぎ捨て、隠し持っていた剣を振りかざすのだった。
「思ったんだけど、なんでユンは山の男たちに手伝ってもらっての襲撃を考えなかったの? 彼らも強いんでしょう?」
フレイヤはひとたび準備の手を止めて、考えを述べる。
「それは……あの子は、自分以外の誰の手も汚させたくないからだと思う。少なくとも自分が巻き込んだ戦いでは。血気盛んな山のみんなは、入り乱れて命の奪い合いにならないとも限らないので……」
「気持ちは分かるが、これからはそんなこと言ってられないだろうな。子どもなりに野望があるんだろ?」
聞き役に徹していたアンヴァルが、ここで口を開いた。
「あの子は、本当は自分だって人を殺すようなことしたくないはず。だから世そのものを変えたがってる。そのためにどうすればいいのかはまだ分からなくて、焦っているのね」
「なら、国を作ればいいわ! ねぇ、ヴァルもそう思わない?」
「まぁそうだけど、簡単に言うな」
「国って?」
「ここはまだ自治区としても発展を遂げていないのよね? だったらまず王を擁立して……ここからここまでの区域で強奪のために人を殺すのダメです、やった人は死刑です、って法律を定めるの。その範囲内に暮らす人共通の決まりを作ってみんなが守る、それが国」
「みんなちゃんと守るの?」
「王と政権を守る軍隊も作れば大丈夫。法律に反しても死刑だから」
「へぇ」
フレイヤはぴんとこないようで、ちょうど食事の準備ができたので話はそこで終わった。
敵討ちの日がやってきた。
彼らは昼過ぎから支度を始めている。
フレイヤの遣いを終えて外から戻ったアリアンロッドの目に、最初に飛び込んできたのは踊り子の恰好をしたユンだった。
「ほら、やっぱり子どもだってばれそうじゃないの」
「現場は暗がりだから問題ない」
そこでアリアンロッドの帰宅に気付いたフレイヤが、嬉しそうに話しかける。
「ねぇ見て、すごい美女よ」
そして着替えのため簾にしていた布を取っ払い、その“美女”をアリアンロッドに見せつけた。
ゆっくりと振り向いたのはやはり踊り子の衣装で、フレイヤによって入念に化粧を施されたアンヴァルだった。
「!」
「ね、本当に女の子みたい。キレイでしょう?」
「え、ええ。そうね、女にしては大きいけれど」
「すっぴんのお前の方がきれいだぞフレイヤ」
ユンの合いの手はお約束だ。
夕刻になり、フレイヤを家に残したアリアンロッドら三人は出立した。山の民も酒を運ぶのを手伝ってくれている。
現地に着いてまず、はす向かいの建物の影から館門を確認し、互いに目を見合わせたら、先鋒のユンが酒樽を荷台で運んでいった。
ユンはうまく館の中に入っていったようで、アンヴァルは機を計りながらアリアンロッドに告げる。
「俺たちの獲物が外へ出ていったら俺も合流するから、それまで無茶するなよ。ちゃんと隠れてろ」
「そっちでしっかり酔わせておいてくれれば大丈夫よ」
「言うこと聞け。じゃあ行くから、俺が門兵を連れて入って30数えたら侵入するんだぞ」
アリアンロッドがうなずいたので、アンヴァルも酒樽を乗せた荷台を引いて門へと向かった。
言われたとおりにアリアンロッドは侵入し、彼らが通ったであろう敷石の道をコソコソと行く。
「ええっと……こっちかな」
日はすっかり沈んだ後の暗がりの中、小坂の道を上り、酒場方面からはやや外れていった。
宴のテラスからレストルームは200メートルほど離れている。木々に挟まれた小路から、獲物はやってくるはずだ。
「よし。ここらで待ち伏せよ」
ユンに槍を持たせられたが、しょせん相手は酔っぱらい。脅して気絶させてやろうという魂胆でいる。
一方、酒宴の方でははじめ、子どものように小さい女が酒を持ってやってきて、ならず者兄弟らはそれでもいないよりましかと、それなりに盛り上がりを見せた。
その直後、今度は逆にずいぶん背丈は大きいが、声も野太い気はするが、そこらではまったく珍しいほどの美女が同じく酒を持ってやってきた。これには大盛り上がりだ。
兄弟はいかにも人相の悪い、厳つい奴らだが、ひとりだけ毛色の違う者がいる。
どちらかというと細面の、綺麗な髪がまっすぐに伸びた男だ。若そうに見えるので、こいつが情報のない五男だろうと、ユンとアンヴァルは思った。
「さぁ、どんどんお飲みになって!」
「あらご主人サマ、イイ飲みっぷり♪」
ふたりとも、アンヴァルは特に、心の中でうげえ──……と、えずきながらの接待だ。
「ぐはははは! あァ~~いい気分だぁ!」
「おい~~ちったぁ触らせろや!」
この体格のある、つれない娼婦には、そこを触ろうとしてもスルリと避けられオアズケをくらう。
「まだですわ、ご主人サマ♡」
アンヴァルの心の中のアンヴァルが、うげえええとえずいている。
が、これが実は同性なのだと露にも疑わない男たち、思わせぶりな態度に欲求をより刺激され、更に舞えや唄えやのどんちゃん騒ぎとなった。
しばらくすると四男が便所へ行くと立ち上がった。完全な千鳥足だ。アンヴァルは神経を尖らせるが、ユンの許可がまだ出ない。
◇◆
「うーん、まだかなぁ」
アリアンロッドが外の待機場でしびれをきらす、この時。
「はっ」
がさりと草を踏む音が聞こえる。人物が近づいてくる。木々の影から頭を出して確認したら、人影はひとつ。それが長男次男だったらユンが共に来ることになっているので、
「あれは私の獲物ね」
(緊張する……。でも相手は丸腰の酔っぱらいだもんね)
彼女は、ここは脚を狙って痛めつけて動けなくなったところを、さも命を狙うふりして、獲物を恐怖で失神させる、といった計画だ。
(うん、完璧な計画!)
アリアンロッドは勇んで飛び出した。
「お命いただきます! いざ、勝負!」
そこで立ちすくんでいた男が振り向く。
なぜか男は花摘みの最中だった。
「えっ??」
「うぃ~~うぇっ。なんだぁ~~おまえ~~」
夜間の暗闇だが、月明かりでなんとなく分かる。男は花摘みの真っ最中で、つまり、履いていない。
「え、なんで?? レストルームはこの奥でしょ!?」
「ああ~~? そこまで我慢できるかあああ」
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男がふらふらしながら、にじり寄ってくる。
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◆◇
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