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【 第三章 】 復讐を果たしたら
⑧ 決戦
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宴の場ではユンが仇敵と対峙するその頃、アリアンロッドは、にじり寄ってきた男を追い払うように槍をぶんぶん振り回していた。
「うへへえ~~」
それを酔っぱらいはひょひょいとかわしてしまう。
「ああっ、もうっ、脚を狙いたいのに……!」
そこを視界に入れることができないのだから、ただ闇雲に武器を振るだけに甘んじている。
彼女は心中、全力で叫んでいた。
「酔っぱらいなんて最っ低! 気持ち悪いっ、本っ当──に気持ち悪い!!」
その酔っぱらいは彼女をおちょくり、腰を振って小躍りしている。
(もう、こうなったら。ちょっとくらい見たって平気でしょっ。大人のそれは見たことないけど、5歳児のより大きいってだけよ多分! とにかく攻撃が当たらないと、捕らえることができない!)
恐る恐る前を向く。そしてぼんやりその全身を目にしたら、彼女は……
「やっぱりいやぁああ! キモチワルイっ!!」
その場にうずくまってしまった。為す術もない。
ちょうどその時、敵サイドから男がやってきた。
(兄弟のひとり……?)
男の股間を目に入れないように、ぼんやりした像だけを視界の隅に留めた。
酔っぱらい兄弟は何かコソコソと話をしている。そして、なぜかもうひとりも、下を脱ぎ始めるのだった。
「……。もう、いい加減にして……」
珍しく怒りが頂点に達したアリアンロッド。
まずはその脱衣中で隙だらけの男の肩をめがけて、槍を全力で突き出した。
「ぎゃああっ」
男は奇襲に倒れ、地に這いつくばり藻掻く。
アリアンロッドは負傷した男には目もくれず、逃げようとした半裸のほうを追い、すぐそこの大木に追い詰めたら槍を突き立てた。
「ぐはっ……」
すると男はそのまま嘔吐して気を失った。
「はぁ。一応、計画通り……はっ」
そのとき油断したアリアンロッドに、先に倒したはずの男が背後から、がむしゃらに襲い掛かる。
「!?」
「ぐぁっ」
間一髪の間合いに男は悲鳴を上げ、またもや倒れた。見るとその腿に、短剣が刺さっている。
「大丈夫か、アリア!!」
「ヴァル!」
アンヴァルが向こうから走ってきた。彼は篝火を消しに戻るため、この男を途中で殴って一度は気絶させたが、思いのほか男は覚醒が早かった。
着慣れない衣装で、アンヴァルも動きづらいのだった。
そして動けなくなった男をもう一発殴って昇天させ、縄を掛けた。
「遅くなって悪かったな」
「まったく平気」
「手こずらなかったか?」
彼に他意はないが、事実アリアンロッドは手こずったので大口を叩けない。
ぷいっと横を向いてごまかした。
「こっちの奴も縛るぞ。……って、なんでこいつ履いてないんだ?」
「だから攻撃できなかったのよ。私の腕の問題じゃないわ」
アンヴァルは怪訝な顔をする。
「だって、見せつけてくるから……」
「ほ──ぉ? 切り落としておくか」
「えっ、それはやめてあげよう!?」
ふたりは捕らえた男たちを引きずり、宴の場へ戻っていった。
その頃、門前にはフレイヤの姿があった。夜空に浮かぶ満月を見上げ、彼女は話しかける。
「もうすぐだね」
◇◆◇
引きずってきた三男四男はそこらに放置し、ふたりはテラスに踏み入った。アリアンロッドはずっとユンを心配していたのだが──。
そんな彼女の目に飛び込んできたのは、まるで電光石火のごとく閃く太刀筋に、胴体から離れて浮かぶ男の頭だった。
「!!」
ちょうど雲が流れ、顔を出した月の明かりで、ユンの姿もあらわになる。
アリアンロッドは息を呑む。宣言どおり敵を討ち佇む彼を、これはまさか戦神なのでは、と一時、言葉を失った。
アンヴァルは荷台に置いておいた松明に、急いで火を付ける。
「ひっ……ひいぃぃぃ!!」
兄の無残な遺体を目にし、喚き声を上げて飛び出し逃げていく次男。アンヴァルがそれを追おうとしたが、ユンは止めた。
「あれもお前の敵じゃないのか?」
「まだいい。後で必ずやる」
「後で?」
アリアンロッドはユンの元へ走り寄る。が、そこで、
「きゃっ」
ツルッと滑って転んだ。足元に血が流れてきていたのだった。
衣服を鮮血で汚していたユンが、彼女を引っ張り起こした。
アリアンロッドはその生々しい返り血の色を目にしてゾワッとしたが、とにかく彼に伝えたかった。
「あなたは本当に、やる男なのね」
「なんだ、惚れるなよ」
声にならない声でアリアンロッドは笑った。
そこでアンヴァルが尋ねる。
「ここにいたのは3人だったよな。あとひとりはどうした?」
「そういえばいないな。奴も逃げたか?」
「さっきの飛び出していった男は、どうするの?」
「館門の近くに雇い兵の舎がある。逃げた次男はそこの奴らを全員連れて出てくるだろう」
「それが一気に襲い掛かってくるってこと?」
「そうだな。だから、下に降りて広場で迎えられよう」
「下で戦うのか? どれほどかは知らないが、多勢を相手に?」
「問題ない。でもお前たちはとばっちりをくらわないように、俺の後ろにいろよ」
「あなただけで!? そんなの危……」
焦るアリアンロッドをアンヴァルは制止した。ユンの真意は分からないが、ここまできたら最後まで、これは彼の復讐劇。ただ、従おうと。
上の建物から少し急な石の小路を下り、途中の踊り場で3人は気付いた。
ふもとにはいくらかの松明が灯っている。
「ほらな、大勢呼べばどうにかなると思ってんだ」
「ここからどうやって切り抜けるの? 奴だけを仕留めるのよね?」
後ろからアリアンロッドは不安そうに尋ねる。
「いいから、このまま降りるぞ」
下に降りきる前、ユンに気付いた次男は威勢を張り、何かを喚いている。
「おうおう、やっちまえ!!」
という意気込みはよく伝わってきた。
次男を囲む兵たちは呼応して、おおおう! と声を荒げる。それでもユンは涼しい顔で突き進むので、アリアンロッドもアンヴァルもただ付いていく。
その時。
後ろから、グガルルルル……と地を這うような唸り声が地を伝ってきた。
そこにいるすべての者の体軸に振動が響いた。
彼らはみな驚き、そちらを振り向くと、信じられない物象を目にして、ざわわっと騒ぎ出す。
そこにいたのは、艶やかに流れる白金の毛並みの、ギラリと鋭く輝く目つきの、それはそれは恐ろしい生きものであった。
「も、猛獣だあああ!!」
各々が叫び逃げようした結果、そこには道が出来上がり、それはユンへと歩み寄る。
「ライオン……!? 本物の……」
アリアンロッドも図鑑の画では知っていても、実物を見たのはこれが初めて。
恐れで声が震える彼女を、アンヴァルは即、自身の後ろに回し、緊迫した眼差しでその獣を視界に捉えていた。
そんな彼らの緊張ぶりにはお構いもせず、ユンは手を振り、猛獣の元へと走って行く。
「よく来たな、フレイ」
ユンはフレイと呼んだそれの身体を優しく撫でる。
「えっ……え!?」
アリアンロッドの声は、驚きのあまり裏返った。
この光景を目に焼き付けた、すべての者らに戦慄が走り、誰一人微動だにできずにいる。
集められたのは腕力に自信のある者ばかりのはずだが、その場の全員が、自分だけ逃げ出したらむしろ目立って狙われるのではと、たじろいでいる。
対照的に、ユンは余裕の笑みを頬に浮かべ、猛獣に語りかける。
「お前の獲物はどれだか分かるな? 任せたぞ」
主人の言葉を受け、獣は首をゆっくりと回し、者共を見渡す。
「さぁ、行け!!」
その号令により、一歩、二歩と、準備運動のように、それは歩み始めたのだった。
「うへへえ~~」
それを酔っぱらいはひょひょいとかわしてしまう。
「ああっ、もうっ、脚を狙いたいのに……!」
そこを視界に入れることができないのだから、ただ闇雲に武器を振るだけに甘んじている。
彼女は心中、全力で叫んでいた。
「酔っぱらいなんて最っ低! 気持ち悪いっ、本っ当──に気持ち悪い!!」
その酔っぱらいは彼女をおちょくり、腰を振って小躍りしている。
(もう、こうなったら。ちょっとくらい見たって平気でしょっ。大人のそれは見たことないけど、5歳児のより大きいってだけよ多分! とにかく攻撃が当たらないと、捕らえることができない!)
恐る恐る前を向く。そしてぼんやりその全身を目にしたら、彼女は……
「やっぱりいやぁああ! キモチワルイっ!!」
その場にうずくまってしまった。為す術もない。
ちょうどその時、敵サイドから男がやってきた。
(兄弟のひとり……?)
男の股間を目に入れないように、ぼんやりした像だけを視界の隅に留めた。
酔っぱらい兄弟は何かコソコソと話をしている。そして、なぜかもうひとりも、下を脱ぎ始めるのだった。
「……。もう、いい加減にして……」
珍しく怒りが頂点に達したアリアンロッド。
まずはその脱衣中で隙だらけの男の肩をめがけて、槍を全力で突き出した。
「ぎゃああっ」
男は奇襲に倒れ、地に這いつくばり藻掻く。
アリアンロッドは負傷した男には目もくれず、逃げようとした半裸のほうを追い、すぐそこの大木に追い詰めたら槍を突き立てた。
「ぐはっ……」
すると男はそのまま嘔吐して気を失った。
「はぁ。一応、計画通り……はっ」
そのとき油断したアリアンロッドに、先に倒したはずの男が背後から、がむしゃらに襲い掛かる。
「!?」
「ぐぁっ」
間一髪の間合いに男は悲鳴を上げ、またもや倒れた。見るとその腿に、短剣が刺さっている。
「大丈夫か、アリア!!」
「ヴァル!」
アンヴァルが向こうから走ってきた。彼は篝火を消しに戻るため、この男を途中で殴って一度は気絶させたが、思いのほか男は覚醒が早かった。
着慣れない衣装で、アンヴァルも動きづらいのだった。
そして動けなくなった男をもう一発殴って昇天させ、縄を掛けた。
「遅くなって悪かったな」
「まったく平気」
「手こずらなかったか?」
彼に他意はないが、事実アリアンロッドは手こずったので大口を叩けない。
ぷいっと横を向いてごまかした。
「こっちの奴も縛るぞ。……って、なんでこいつ履いてないんだ?」
「だから攻撃できなかったのよ。私の腕の問題じゃないわ」
アンヴァルは怪訝な顔をする。
「だって、見せつけてくるから……」
「ほ──ぉ? 切り落としておくか」
「えっ、それはやめてあげよう!?」
ふたりは捕らえた男たちを引きずり、宴の場へ戻っていった。
その頃、門前にはフレイヤの姿があった。夜空に浮かぶ満月を見上げ、彼女は話しかける。
「もうすぐだね」
◇◆◇
引きずってきた三男四男はそこらに放置し、ふたりはテラスに踏み入った。アリアンロッドはずっとユンを心配していたのだが──。
そんな彼女の目に飛び込んできたのは、まるで電光石火のごとく閃く太刀筋に、胴体から離れて浮かぶ男の頭だった。
「!!」
ちょうど雲が流れ、顔を出した月の明かりで、ユンの姿もあらわになる。
アリアンロッドは息を呑む。宣言どおり敵を討ち佇む彼を、これはまさか戦神なのでは、と一時、言葉を失った。
アンヴァルは荷台に置いておいた松明に、急いで火を付ける。
「ひっ……ひいぃぃぃ!!」
兄の無残な遺体を目にし、喚き声を上げて飛び出し逃げていく次男。アンヴァルがそれを追おうとしたが、ユンは止めた。
「あれもお前の敵じゃないのか?」
「まだいい。後で必ずやる」
「後で?」
アリアンロッドはユンの元へ走り寄る。が、そこで、
「きゃっ」
ツルッと滑って転んだ。足元に血が流れてきていたのだった。
衣服を鮮血で汚していたユンが、彼女を引っ張り起こした。
アリアンロッドはその生々しい返り血の色を目にしてゾワッとしたが、とにかく彼に伝えたかった。
「あなたは本当に、やる男なのね」
「なんだ、惚れるなよ」
声にならない声でアリアンロッドは笑った。
そこでアンヴァルが尋ねる。
「ここにいたのは3人だったよな。あとひとりはどうした?」
「そういえばいないな。奴も逃げたか?」
「さっきの飛び出していった男は、どうするの?」
「館門の近くに雇い兵の舎がある。逃げた次男はそこの奴らを全員連れて出てくるだろう」
「それが一気に襲い掛かってくるってこと?」
「そうだな。だから、下に降りて広場で迎えられよう」
「下で戦うのか? どれほどかは知らないが、多勢を相手に?」
「問題ない。でもお前たちはとばっちりをくらわないように、俺の後ろにいろよ」
「あなただけで!? そんなの危……」
焦るアリアンロッドをアンヴァルは制止した。ユンの真意は分からないが、ここまできたら最後まで、これは彼の復讐劇。ただ、従おうと。
上の建物から少し急な石の小路を下り、途中の踊り場で3人は気付いた。
ふもとにはいくらかの松明が灯っている。
「ほらな、大勢呼べばどうにかなると思ってんだ」
「ここからどうやって切り抜けるの? 奴だけを仕留めるのよね?」
後ろからアリアンロッドは不安そうに尋ねる。
「いいから、このまま降りるぞ」
下に降りきる前、ユンに気付いた次男は威勢を張り、何かを喚いている。
「おうおう、やっちまえ!!」
という意気込みはよく伝わってきた。
次男を囲む兵たちは呼応して、おおおう! と声を荒げる。それでもユンは涼しい顔で突き進むので、アリアンロッドもアンヴァルもただ付いていく。
その時。
後ろから、グガルルルル……と地を這うような唸り声が地を伝ってきた。
そこにいるすべての者の体軸に振動が響いた。
彼らはみな驚き、そちらを振り向くと、信じられない物象を目にして、ざわわっと騒ぎ出す。
そこにいたのは、艶やかに流れる白金の毛並みの、ギラリと鋭く輝く目つきの、それはそれは恐ろしい生きものであった。
「も、猛獣だあああ!!」
各々が叫び逃げようした結果、そこには道が出来上がり、それはユンへと歩み寄る。
「ライオン……!? 本物の……」
アリアンロッドも図鑑の画では知っていても、実物を見たのはこれが初めて。
恐れで声が震える彼女を、アンヴァルは即、自身の後ろに回し、緊迫した眼差しでその獣を視界に捉えていた。
そんな彼らの緊張ぶりにはお構いもせず、ユンは手を振り、猛獣の元へと走って行く。
「よく来たな、フレイ」
ユンはフレイと呼んだそれの身体を優しく撫でる。
「えっ……え!?」
アリアンロッドの声は、驚きのあまり裏返った。
この光景を目に焼き付けた、すべての者らに戦慄が走り、誰一人微動だにできずにいる。
集められたのは腕力に自信のある者ばかりのはずだが、その場の全員が、自分だけ逃げ出したらむしろ目立って狙われるのではと、たじろいでいる。
対照的に、ユンは余裕の笑みを頬に浮かべ、猛獣に語りかける。
「お前の獲物はどれだか分かるな? 任せたぞ」
主人の言葉を受け、獣は首をゆっくりと回し、者共を見渡す。
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