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【 第八章 】 同じ思いを抱いている
③ アナタいったい何なのよ!
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アリアンロッドは彼の隣に座った。彼の姿を横目で見たら、歳の頃は30半ばといったところか、アリアンロッドにしてみたら中年だ。先ほども多少見てしまったが、背が高く肩幅も広く恵まれた肢体に、精悍であるのにどこか上品な顔立ち、と、ずいぶん人目を引く容姿をしている。
「魚、釣れるの?」
「釣れなさそうだな」
「あなたはこの街の人?」
「いいや、仕事で来た」
「そうだ、あなたの名前は? 私は、アリー」
「アリー。お前の情人の名は?」
アリアンロッドはきょとんとした。
「夫の名」
「夫、いないわ」
「なら、惚れてる男」
「それなら……。ん?? さっきから何?」
「その男の名で呼んでいいぞ」
きょとん顔が目をぱちくり開いて、頬はパッと赤く染まった。
「なに言ってるのっ? そんなのっ……」
どんどん赤くなる顔を両手で押さえる彼女。その様子を眺めて男は、獲物を見つけたような笑みを浮かべるのだが、それがアリアンロッドに気付けるわけもなく。
彼はここで、一息ついてよっこいせと立ち上がる。
「さて、行くか」
「釣れてないのに?」
「お前を釣った」
さっさと行こうとする彼に、つられて立ち上がり尋ねる。
「どこへ?」
「俺はここに来たばかりだから、市街地の探索だ。お前はこの辺に詳しいのか?」
アリアンロッドは首をゆるり横に振った。
「使えないな。まぁいい、付いてこい」
言い方にトゲはあるが、行く当てもないので彼に付いていくことに。
森を徒歩で抜ける間、アリアンロッドは考えを巡らせていた。今回、自分の居所は分かるが、ここは“いつ”なのだろうと。
そんな考え事をしていて黙りこくる彼女に、男は急にこんなことを言い出した。
「その服の見返りは倍にして寄越せよ」
「えっ?」
「素っ裸で出るわけにはいかなかっただろう? ただの服の何倍も価値のあるものだろうが」
「そんな……」
口をぽっかり四角に開けたアリアンロッド、そこで立ち止まってしまう。が、すぐに、すたすた前進する男を追いかけて、なんとか取り繕おうと──
「私、今お金を持ってないから、他の何かで……」
「今晩身体で返してくれてもいいが。それならいらないとここで脱いでもまぁ同じ結果だな、俺といる限り」
「そういうのでなくてっ、普通の下働きとかで……」
「そんなのは間に合っている」
アリアンロッドは黙ってしまった。貞操の危機である。こんな調子で手当たり次第、女を食い散らかしていそうな男だ。
思えばこの狼のような男と比べたら、周りには羊のような男しかいなかった。
しかしともかく、衣服を借りたまま逃げるわけにもいかない。アリアンロッドはなかなか律儀な娘だ。小心者ともいう。
(それにしても、見返りは倍に、とかいうちゃっかり具合……)
この男は商人ではないかと彼女は踏んだ。業務で国内を移動しているならば、その線が固い。
(しかもあくどい商法で儲けていそうね。)
森を出てまたしばらく歩いたら、街の中心地に出た。そこは人通りが多く、確かにアリアンロッドの滞在している街なのだが、知る風景より建物が多い。ここは未来なのか、と推し量るには十分な景観だった。
「すごく活気づいてるわね」
「このところ、一気に他地域から人民が移住してきてるのさ。この地は農業や物作りに適した土壌らしい。更に発展していくだろう」
(ここはもう、私の国ではない……)
アリアンロッドの心はズドンと重くなった。
(でも、そういえばさっき……)
男と周囲を見回しながら歩く最中、昨日紹介された家族の暮らす家屋を見つけた。まったく同じ建物があり安心したのだった。
(問題はそこに住む人々が変わっているか、だけど……。ここは何年後の街なのだろう?)
大まかに街の中心部を見てまわったふたりはそこらに腰かけ、男は下げ袋に入れていた果実をアリアンロッドに渡した。
「ありがとう」
「今はこれぐらいしか持ってないんだ」
「十分よ」
その時、そばで町の女性が数人、不安げな様子で立ち話をしていた。それに男は興味を持ったのか、首を伸ばして話しかける。
「ここらで何かあったのか?」
「ああ、外から来たばかり? 最近この辺では恐ろしいことが起こっていてねぇ……」
どうやら、若い娘が立て続けに殺されたり行方知れずになったり、という事件があったようだ。
「数日前、近所の娘が巻き込まれて、今は葬儀を行ってるんだ。そこのお嬢さんも気を付けなよ」
「…………」
アリアンロッドは恐ろしさで言葉を失った。
話を終え、再び探索を始めると、前方から明るい声が聞こえてきた。
「さぁ、もう他に歌い手はいないかい!?」
ふたり揃ってそこの人だかりへ寄っていくと。
広場の、仮設舞台の上で、男性が大勢に声を掛けている。それを綺麗な衣装の娘たちが囲んでいた。
アリアンロッドが集まっている人に尋ねたところ、歌唱で競い合う催しをやっているようだ。
「いちばん優れた歌い手には、高級まるごとメロンを贈呈だよ!」
アリアンロッドは小声でつぶやく。
「1番とか2番ってどうやって決めるのよ」
それと同時に、隣の彼が高らかに声を上げた。
「おう! こいつが参戦するぜ!」
そう言いながらアリアンロッドの手を掴み上げる。
「えっ!?」
「おお! じゃあお嬢さんが最後の歌い手だな! 上がっておいで」
「ちょ、ちょっと! 急にっ」
「いいじゃねえか。参加料をとられるわけでもなさそうだし。優勝すれば高級メロンだぜ?」
アリアンロッドは二の句が継げなくなった。人だかりが彼女のために舞台への道を開ける。
「……はぁ」
仕方なく、一度息を吐いて前進した。男は自分に恥をかかせようとこういうことをするのだろうが、それなら受けて立とうと奮い立つ。
「楽師のみなさん、気持ちよく歌わせてくださいね」
アリアンロッドは不遜にも、舞台横に座る弦楽器や打楽器の奏者に人差し指を立てて言い放った。
そして背筋をぐいっと伸ばし、息を大きく吸って胸を張るのだった。
────みんな、私の讃美歌を心ゆくまで聴いていって!
「♪ラ~~ララ~~アア~~」
そこにワァっと歓声が起こる。それは地上じゃそうは見られない、女神さながらの美しい歌声だ。観客はひと時、春の暖かな空気に包まれた。
(ああ、気持ちいい。神の降臨どうこうなんて考えずに、聴衆の安らいだ顔を目にしながら歌う歌は、なんて気持ちいの!)
アリアンロッドが歌い終え、礼をすると、沸き上がる拍手喝采。この催しを先導する者も舌を巻き、はっとして叫ぶ。
「これは驚いた! これはもう決まりでいいかな!? この歌姫に高級まるごとメロンを!!」
そういったわけで、アリアンロッドの手に図らずも高級メロンが渡り、彼女は、芸は身を助けるのねとまんざらでもなかった。
その後、アリアンロッドはにこにこしながら男にそれを渡した。
「まさかそこまで歌えるとはな」
彼は肩透かしを食らったような顔をしている。
「ふふ――ん。意地悪は通用しないわよ」
「意地悪じゃねえよ。まぁ壇上で下手クソな歌を歌わせたら面白いとは思ったが」
「意地悪すぎるわ。じゃあ、これでこの服は買わせてもらうわね。お世話になりました、さよなら」
「あ、待てよ」
すたすた行こうとした彼女を男は引き止める。
「さっきの話忘れたのか? 女がひとりでうろつかない方がいい」
「でも……」
「魚、釣れるの?」
「釣れなさそうだな」
「あなたはこの街の人?」
「いいや、仕事で来た」
「そうだ、あなたの名前は? 私は、アリー」
「アリー。お前の情人の名は?」
アリアンロッドはきょとんとした。
「夫の名」
「夫、いないわ」
「なら、惚れてる男」
「それなら……。ん?? さっきから何?」
「その男の名で呼んでいいぞ」
きょとん顔が目をぱちくり開いて、頬はパッと赤く染まった。
「なに言ってるのっ? そんなのっ……」
どんどん赤くなる顔を両手で押さえる彼女。その様子を眺めて男は、獲物を見つけたような笑みを浮かべるのだが、それがアリアンロッドに気付けるわけもなく。
彼はここで、一息ついてよっこいせと立ち上がる。
「さて、行くか」
「釣れてないのに?」
「お前を釣った」
さっさと行こうとする彼に、つられて立ち上がり尋ねる。
「どこへ?」
「俺はここに来たばかりだから、市街地の探索だ。お前はこの辺に詳しいのか?」
アリアンロッドは首をゆるり横に振った。
「使えないな。まぁいい、付いてこい」
言い方にトゲはあるが、行く当てもないので彼に付いていくことに。
森を徒歩で抜ける間、アリアンロッドは考えを巡らせていた。今回、自分の居所は分かるが、ここは“いつ”なのだろうと。
そんな考え事をしていて黙りこくる彼女に、男は急にこんなことを言い出した。
「その服の見返りは倍にして寄越せよ」
「えっ?」
「素っ裸で出るわけにはいかなかっただろう? ただの服の何倍も価値のあるものだろうが」
「そんな……」
口をぽっかり四角に開けたアリアンロッド、そこで立ち止まってしまう。が、すぐに、すたすた前進する男を追いかけて、なんとか取り繕おうと──
「私、今お金を持ってないから、他の何かで……」
「今晩身体で返してくれてもいいが。それならいらないとここで脱いでもまぁ同じ結果だな、俺といる限り」
「そういうのでなくてっ、普通の下働きとかで……」
「そんなのは間に合っている」
アリアンロッドは黙ってしまった。貞操の危機である。こんな調子で手当たり次第、女を食い散らかしていそうな男だ。
思えばこの狼のような男と比べたら、周りには羊のような男しかいなかった。
しかしともかく、衣服を借りたまま逃げるわけにもいかない。アリアンロッドはなかなか律儀な娘だ。小心者ともいう。
(それにしても、見返りは倍に、とかいうちゃっかり具合……)
この男は商人ではないかと彼女は踏んだ。業務で国内を移動しているならば、その線が固い。
(しかもあくどい商法で儲けていそうね。)
森を出てまたしばらく歩いたら、街の中心地に出た。そこは人通りが多く、確かにアリアンロッドの滞在している街なのだが、知る風景より建物が多い。ここは未来なのか、と推し量るには十分な景観だった。
「すごく活気づいてるわね」
「このところ、一気に他地域から人民が移住してきてるのさ。この地は農業や物作りに適した土壌らしい。更に発展していくだろう」
(ここはもう、私の国ではない……)
アリアンロッドの心はズドンと重くなった。
(でも、そういえばさっき……)
男と周囲を見回しながら歩く最中、昨日紹介された家族の暮らす家屋を見つけた。まったく同じ建物があり安心したのだった。
(問題はそこに住む人々が変わっているか、だけど……。ここは何年後の街なのだろう?)
大まかに街の中心部を見てまわったふたりはそこらに腰かけ、男は下げ袋に入れていた果実をアリアンロッドに渡した。
「ありがとう」
「今はこれぐらいしか持ってないんだ」
「十分よ」
その時、そばで町の女性が数人、不安げな様子で立ち話をしていた。それに男は興味を持ったのか、首を伸ばして話しかける。
「ここらで何かあったのか?」
「ああ、外から来たばかり? 最近この辺では恐ろしいことが起こっていてねぇ……」
どうやら、若い娘が立て続けに殺されたり行方知れずになったり、という事件があったようだ。
「数日前、近所の娘が巻き込まれて、今は葬儀を行ってるんだ。そこのお嬢さんも気を付けなよ」
「…………」
アリアンロッドは恐ろしさで言葉を失った。
話を終え、再び探索を始めると、前方から明るい声が聞こえてきた。
「さぁ、もう他に歌い手はいないかい!?」
ふたり揃ってそこの人だかりへ寄っていくと。
広場の、仮設舞台の上で、男性が大勢に声を掛けている。それを綺麗な衣装の娘たちが囲んでいた。
アリアンロッドが集まっている人に尋ねたところ、歌唱で競い合う催しをやっているようだ。
「いちばん優れた歌い手には、高級まるごとメロンを贈呈だよ!」
アリアンロッドは小声でつぶやく。
「1番とか2番ってどうやって決めるのよ」
それと同時に、隣の彼が高らかに声を上げた。
「おう! こいつが参戦するぜ!」
そう言いながらアリアンロッドの手を掴み上げる。
「えっ!?」
「おお! じゃあお嬢さんが最後の歌い手だな! 上がっておいで」
「ちょ、ちょっと! 急にっ」
「いいじゃねえか。参加料をとられるわけでもなさそうだし。優勝すれば高級メロンだぜ?」
アリアンロッドは二の句が継げなくなった。人だかりが彼女のために舞台への道を開ける。
「……はぁ」
仕方なく、一度息を吐いて前進した。男は自分に恥をかかせようとこういうことをするのだろうが、それなら受けて立とうと奮い立つ。
「楽師のみなさん、気持ちよく歌わせてくださいね」
アリアンロッドは不遜にも、舞台横に座る弦楽器や打楽器の奏者に人差し指を立てて言い放った。
そして背筋をぐいっと伸ばし、息を大きく吸って胸を張るのだった。
────みんな、私の讃美歌を心ゆくまで聴いていって!
「♪ラ~~ララ~~アア~~」
そこにワァっと歓声が起こる。それは地上じゃそうは見られない、女神さながらの美しい歌声だ。観客はひと時、春の暖かな空気に包まれた。
(ああ、気持ちいい。神の降臨どうこうなんて考えずに、聴衆の安らいだ顔を目にしながら歌う歌は、なんて気持ちいの!)
アリアンロッドが歌い終え、礼をすると、沸き上がる拍手喝采。この催しを先導する者も舌を巻き、はっとして叫ぶ。
「これは驚いた! これはもう決まりでいいかな!? この歌姫に高級まるごとメロンを!!」
そういったわけで、アリアンロッドの手に図らずも高級メロンが渡り、彼女は、芸は身を助けるのねとまんざらでもなかった。
その後、アリアンロッドはにこにこしながら男にそれを渡した。
「まさかそこまで歌えるとはな」
彼は肩透かしを食らったような顔をしている。
「ふふ――ん。意地悪は通用しないわよ」
「意地悪じゃねえよ。まぁ壇上で下手クソな歌を歌わせたら面白いとは思ったが」
「意地悪すぎるわ。じゃあ、これでこの服は買わせてもらうわね。お世話になりました、さよなら」
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