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【 第八章 】 同じ思いを抱いている
⑧ 犯人たいてい語るに落ちる
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ダリスの用意した小楽団が、各々楽器を打ち鳴らす。
「♪ラ──ラァ~~ラ・ラ・ララ~ア~アア~~」
(ああ、私の歌ではちっとも神が降臨しなかったけど……)
アリアンロッドの歌唱は、聖女の口から紡がれるものにしては、「ただの、ものすごく上手い歌」であった。
(聖女の役目を果たせる希望が持てなくて、ずっと苦しかったけど……今回、初めて助かったわ!)
アリアンロッドは心軽やかに歌った。自らの演芸で人が安らぎを感じてくれたなら、まさに至福である。それは神の使いではない、練習を積み重ねた、ただの人間である自分にできることだ。
しかし何も知らない聴衆はむしろ、彼女こそ天からギフトを贈られた歌姫だろうと感じた。この場でその美しい奏でに耳を奪われない者は皆無で、彼女が歌い終えた時、そこには大きな拍手喝采の渦が巻き起こった。
(ふぅ…。ああ、ディオ様とヴァルにも聴いて欲しかったな。囚われる身分なんて何もない、私の歌声を……)
こうして王代理の老官は、4人すべての候補者から品を受け取り、「いずれの品も素晴らしい。王陛下もさぞお喜びじゃろう」と彼らを労った。しかしこの中で、上に立つひとりを決めなくてはならない。
今、発表の時。
結果、統率者に選ばれたのは、元よりこの地域に暮らす役人だった。
「我の歳でも目にしたことのない、この作物は、実に魅惑的な赤い色をしておるし、美味である。ユング王は珍味にご興味をお持ちじゃからな」
「お褒め頂き光栄でございます」
「良きに励めよ」
この一連の会話を聞きながら、アリアンロッドはあの家族の主人の話を思い出した。ふと観客の方に目をやると、やはりその主人が来ていて、喜んでいるように見える。
あの作物が認められ、アリアンロッドも嬉しかった。これからの統率者が、元来国の住民であるということも。
そして老官はアリアンロッドらに告げた。
「我は歌姫が良いと思ったのじゃが」
彼は残念そうな声で続ける。
「今回は“物”を見計らうようにとの触れ込みであったからのう。娘を王の御元に連れて行っても、叱られてしまう。王は民に対する横暴を許さぬお方じゃ。しかしいつの日か、そなたの歌をお聴かせしたいのう」
アリアンロッドは上品に頭を下げた。
(ユング王に関しては丁重にお断りいたします……。)
ともあれ、彼女を拾った貴族ダリスは満足そうで、その後、悲願であった告発もしていたようだ。
その夜、館に戻ったアリアンロッドは、告発も実を結んで上機嫌なダリスから豪勢なもてなしを受けた。葡萄酒も振舞われ、ちょっとした宴会となる。彼には「ずっとここにいて欲しい」と望まれたが、そういうわけにもいかず。
「私、たとえここにいると言ったとしても、いつの間にか姿を消してしまうと思うの」
「なんてことだ、君は本当に天空から舞い降りてきた妖精だったのか! なんて神秘的なんだ!」
彼は十分に酔っていた。
アリアンロッドも大して呑めない酒をずいぶんと飲まされてしまい、ふらふらしながら客室に戻った。
「はぁ……」
歌い手の衣装を着たまま、どさりとベッドに倒れ込む。頭もズキズキ痛む中、いつ帰れるのだろう、早く戻りたいと、故郷恋しさで瞳を滲ませた。
その時、この場に向かってくる、床の絨毯の擦れる音が聞こえてきた。
(扉……ちゃんと閉めてなかった)
そこを目視したら間もなく扉が開き、うっすら人影が伸びる。こんな夜更けに女の寝室にやってくるとは、とアリアンロッドは上半身を起こそうとするが、どうにも力が入らない。
「誰……?」
人影が室内の蝋燭を焚き、明らかになった。この館の主、ダリスだった。
「どうしたの? 何か?」
そう尋ねられたと同時に彼は、アリアンロッドの衣装を乱暴に掴み、その裾を破りだすのだった。
「きゃっ。……何をするの!?」
「綺麗だよ……とても綺麗だ」
かなり近付いたことで表情が見えた。彼は薄気味悪い笑みを浮かべている。
アリアンロッドの背筋にゾワッと寒気が走り、飛び出そうとした。しかし身体がまともに動かない。
更に彼は、腰に差していたナイフを取り出し、彼女に切っ先を突きつける。
「綺麗に着飾った時を待っていたんだ……」
「まさか……まさかとは思うけど」
アリアンロッドはここで、彼と対等な女性がこの屋敷にはいないのに、煌びやかな女性用の衣装が何着もあったことを思い出した。
「もしかして、例の事件の犯人って……。あなたが女性を誘拐して……?」
「そうだよ。私は綺麗に飾り立てた女神のような娘を、彫像のように叩き割りたいんだ」
アリアンロッドには、その言葉の意味がさっぱり理解できない。ただこの男の、薄笑いを浮かべすり寄る挙動に、五体満足では帰してもらえないだろうことを予感した。
「あなたが市民を殺したの? あなたは、統率者を目指していた人でしょう!?」
「そこの人民を好きにできるが故にみな、上に立ちたがるのだろう? ……さぁ少しずつ削いでいってあげよう」
後ずさりするも、すぐに捕まえられてしまい──。
「嫌っ!!」
「抵抗しようにも身動き取れないだろ!?」
アリアンロッドはめいっぱい叫んだ。「ヴァル助けて」と。彼がここに来られないことは意識の外にあった。
上から襲いかかってこられ、もうだめだと思ったその時。
「うっ……」
一縷の嗚咽が聞こえ、彼女は固く閉じた目をぱっと開けた。すると視界には、倒れ込む悪漢ダリス。その後方に、大きな人影が。
横に倒れたダリスに目をやると。
「死んでる……?」
背中に剣が刺さっている。同時に血の臭いも浮かんできた。
「誰? ……あなたは」
それは昨日まで共にいた男であった。
「油断し過ぎだぞ。なぁ歌姫」
アリアンロッドの鼓動はまだ速い。
「どうしてあなたがここに? まさか、私を助けに来てくれたの?」
しかしこんな出来事を、事前に察知できるはずもない。
「いや、俺はただ夜這いしに来ただけだが」
「夜這い? 誰を??」
「お前を」
「ん!?」
「だからすぐそこに潜んでいたら、急にこんなことが起こるんだからな」
彼はあっけらかんと話す。
「なんで他人の屋敷に、そんなあっさり忍び込めるの!?」
「俺に不可能の文字はない」
アリアンロッドは呆気に取られた。しかし自分の元にある死体をちらりと目にし、おずおずと声を発する。
「殺してしまったの……?」
「殺さなきゃお前が殺られてたぞ。それにこいつが連続娘殺しの犯人のようじゃないか」
「そうだけど……彼の言い分を聞いてから罰しても、良かったんじゃ……」
アリアンロッドのその言葉に、彼は鼻で笑った。
「他人に任せたら追及にどれほど時間がかかる? 本当に適性な裁きは下るのか? 他者を私欲で殺めた人間に生きる道理などない。むしろこんな楽に死ぬ権もないんだが。無為に殺された者の、無念以上の苦しみを与えられた後、悔いて死ぬべきだ」
「そんな…………」
人を斬った直後に、そうためらいなく語る彼を、アリアンロッドはこの上なく恐ろしく感じ、言葉に詰まった。しかしまったく理にかなっているとも思える。
猟奇的な人殺しにどんな言い分があるというのか。また、そんな悪人に更生の機など与えたところで、という話だ。
口にはとてもできないが、犠牲者の無念などきっと際限はないのだから、「無念以上の苦しみを」────
(その通りだわ────……)
ぎゅっと目をつむったら、こう、実感が込み上げた。
────この男とは意思を共有している感覚がある。
「♪ラ──ラァ~~ラ・ラ・ララ~ア~アア~~」
(ああ、私の歌ではちっとも神が降臨しなかったけど……)
アリアンロッドの歌唱は、聖女の口から紡がれるものにしては、「ただの、ものすごく上手い歌」であった。
(聖女の役目を果たせる希望が持てなくて、ずっと苦しかったけど……今回、初めて助かったわ!)
アリアンロッドは心軽やかに歌った。自らの演芸で人が安らぎを感じてくれたなら、まさに至福である。それは神の使いではない、練習を積み重ねた、ただの人間である自分にできることだ。
しかし何も知らない聴衆はむしろ、彼女こそ天からギフトを贈られた歌姫だろうと感じた。この場でその美しい奏でに耳を奪われない者は皆無で、彼女が歌い終えた時、そこには大きな拍手喝采の渦が巻き起こった。
(ふぅ…。ああ、ディオ様とヴァルにも聴いて欲しかったな。囚われる身分なんて何もない、私の歌声を……)
こうして王代理の老官は、4人すべての候補者から品を受け取り、「いずれの品も素晴らしい。王陛下もさぞお喜びじゃろう」と彼らを労った。しかしこの中で、上に立つひとりを決めなくてはならない。
今、発表の時。
結果、統率者に選ばれたのは、元よりこの地域に暮らす役人だった。
「我の歳でも目にしたことのない、この作物は、実に魅惑的な赤い色をしておるし、美味である。ユング王は珍味にご興味をお持ちじゃからな」
「お褒め頂き光栄でございます」
「良きに励めよ」
この一連の会話を聞きながら、アリアンロッドはあの家族の主人の話を思い出した。ふと観客の方に目をやると、やはりその主人が来ていて、喜んでいるように見える。
あの作物が認められ、アリアンロッドも嬉しかった。これからの統率者が、元来国の住民であるということも。
そして老官はアリアンロッドらに告げた。
「我は歌姫が良いと思ったのじゃが」
彼は残念そうな声で続ける。
「今回は“物”を見計らうようにとの触れ込みであったからのう。娘を王の御元に連れて行っても、叱られてしまう。王は民に対する横暴を許さぬお方じゃ。しかしいつの日か、そなたの歌をお聴かせしたいのう」
アリアンロッドは上品に頭を下げた。
(ユング王に関しては丁重にお断りいたします……。)
ともあれ、彼女を拾った貴族ダリスは満足そうで、その後、悲願であった告発もしていたようだ。
その夜、館に戻ったアリアンロッドは、告発も実を結んで上機嫌なダリスから豪勢なもてなしを受けた。葡萄酒も振舞われ、ちょっとした宴会となる。彼には「ずっとここにいて欲しい」と望まれたが、そういうわけにもいかず。
「私、たとえここにいると言ったとしても、いつの間にか姿を消してしまうと思うの」
「なんてことだ、君は本当に天空から舞い降りてきた妖精だったのか! なんて神秘的なんだ!」
彼は十分に酔っていた。
アリアンロッドも大して呑めない酒をずいぶんと飲まされてしまい、ふらふらしながら客室に戻った。
「はぁ……」
歌い手の衣装を着たまま、どさりとベッドに倒れ込む。頭もズキズキ痛む中、いつ帰れるのだろう、早く戻りたいと、故郷恋しさで瞳を滲ませた。
その時、この場に向かってくる、床の絨毯の擦れる音が聞こえてきた。
(扉……ちゃんと閉めてなかった)
そこを目視したら間もなく扉が開き、うっすら人影が伸びる。こんな夜更けに女の寝室にやってくるとは、とアリアンロッドは上半身を起こそうとするが、どうにも力が入らない。
「誰……?」
人影が室内の蝋燭を焚き、明らかになった。この館の主、ダリスだった。
「どうしたの? 何か?」
そう尋ねられたと同時に彼は、アリアンロッドの衣装を乱暴に掴み、その裾を破りだすのだった。
「きゃっ。……何をするの!?」
「綺麗だよ……とても綺麗だ」
かなり近付いたことで表情が見えた。彼は薄気味悪い笑みを浮かべている。
アリアンロッドの背筋にゾワッと寒気が走り、飛び出そうとした。しかし身体がまともに動かない。
更に彼は、腰に差していたナイフを取り出し、彼女に切っ先を突きつける。
「綺麗に着飾った時を待っていたんだ……」
「まさか……まさかとは思うけど」
アリアンロッドはここで、彼と対等な女性がこの屋敷にはいないのに、煌びやかな女性用の衣装が何着もあったことを思い出した。
「もしかして、例の事件の犯人って……。あなたが女性を誘拐して……?」
「そうだよ。私は綺麗に飾り立てた女神のような娘を、彫像のように叩き割りたいんだ」
アリアンロッドには、その言葉の意味がさっぱり理解できない。ただこの男の、薄笑いを浮かべすり寄る挙動に、五体満足では帰してもらえないだろうことを予感した。
「あなたが市民を殺したの? あなたは、統率者を目指していた人でしょう!?」
「そこの人民を好きにできるが故にみな、上に立ちたがるのだろう? ……さぁ少しずつ削いでいってあげよう」
後ずさりするも、すぐに捕まえられてしまい──。
「嫌っ!!」
「抵抗しようにも身動き取れないだろ!?」
アリアンロッドはめいっぱい叫んだ。「ヴァル助けて」と。彼がここに来られないことは意識の外にあった。
上から襲いかかってこられ、もうだめだと思ったその時。
「うっ……」
一縷の嗚咽が聞こえ、彼女は固く閉じた目をぱっと開けた。すると視界には、倒れ込む悪漢ダリス。その後方に、大きな人影が。
横に倒れたダリスに目をやると。
「死んでる……?」
背中に剣が刺さっている。同時に血の臭いも浮かんできた。
「誰? ……あなたは」
それは昨日まで共にいた男であった。
「油断し過ぎだぞ。なぁ歌姫」
アリアンロッドの鼓動はまだ速い。
「どうしてあなたがここに? まさか、私を助けに来てくれたの?」
しかしこんな出来事を、事前に察知できるはずもない。
「いや、俺はただ夜這いしに来ただけだが」
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アリアンロッドは呆気に取られた。しかし自分の元にある死体をちらりと目にし、おずおずと声を発する。
「殺してしまったの……?」
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「そうだけど……彼の言い分を聞いてから罰しても、良かったんじゃ……」
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猟奇的な人殺しにどんな言い分があるというのか。また、そんな悪人に更生の機など与えたところで、という話だ。
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