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【 第十章 】 あなたが導いてくれたから
② 初めてって決めつけるな! (※初めてです。
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ここ移動先は、太陽が天の高い所から照りつける真っ昼間だ。
ふたりともこの明るさゆえに、「移動した」ことを即座に理解した。アリアンロッドはアンヴァルに飛びついていたので、慌てて彼の胸から離れる。そして彼の態度が以前とは違っていることを思い出し、距離を開けようとした。
だが当のアンヴァルは、ここで彼女を解放するわけにいかなかった。彼にとっては彼女こそいつもと違っていて、ほぼ無意識にそれを問い詰めずにはいられないのだ。
「おい、こっち向けって」
「どこか来ちゃったみたい、探らなきゃ」
「なんでこっち見ないんだよ!」
「なんのこと?」
このように軽く押し問答をしているふたりに、ちょうどその頃、真っ直ぐ向かってくる人影がふたつある。
しかし取り込み中のふたりの、視界に入るはずもなく。
「本当に、まず、ここはどこなのかとか調べなきゃ……」
アリアンロッドはアンヴァルの腕を振り払い、そしらぬ顔でどこかへ行こうとした。すると、
「あっ!」
間髪入れず小石につまずき、こてっと転んだ。焦りを隠せていない。
その間、全力疾走の足音がふたりに近付いてきて、その足音の主が衝突するかというところだ。が、アンヴァルはやはりそれどころではない。
アリアンロッドのことで夢中の彼に、転んだ彼女に手を差し伸べようとした彼に、疾走中の人影が今まさに突進するかという瞬間。
小柄なその人物はぴたりと足を止め、アンヴァルの頭を両手で押さえ、その唇に自らの唇を押し当てたのだった。
「!!? …………」
アンヴァルは頭が完全に真っ白になった。
「…………???」
アリアンロッドも唐突に、目の前の空間に割り込まれ、時が止まった。
膝をついたままのアリアンロッドの位置からだと、見えるのは小柄な人物の後ろ頭のみで、何が起こったかよく分からない。が、自分たちの間に人が割って入ってきた、ぐらいの認識はある。
そこにもう一人やってきた。こちらは大柄な男だ。
この小柄な人物は、アンヴァルの口から口を離して宣言する。
「この人が僕の情人です。そういうわけで、もう諦めてください」
アリアンロッドはとっさに真に受けて、「んっ??」と小さく声を上げた。
追いかけてきたもうひとりの男は、狼狽の色を見せる。
「そんな……嘘だろう?」
「こんな白昼堂々口づけを交わす仲が、嘘のわけないではないですか」
「口づけ?」
アリアンロッドは「あ、今の、そういう……?」とふんわり思った。
「あと、このことは僕の両親に内密にお願いします。心配かけたくないので」
「分かった。君のことは……諦めよう。無理強いはしたくない……」
気落ちした大柄な男はトボトボと立ち去った。
「ああ、助かりました」
アリアンロッドに軽快な声が振りかかる。彼女の目に映る、この屈託のない人物は、顔立ちのとても可愛らしい子どもだった。
現在のアリアンロッドの理解度を10段階で5とするなら、アンヴァルは思考回路が働いていないので測定不可である。
「本当にありがとうございます。不躾な真似をしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ」
アンヴァルが固まっているので、アリアンロッドが代わりに答えた。
しかしアンヴァルを気付かせないことには、と、アリアンロッドは頬を叩いたりするのだが、まだ返事はなく。
「あの、大丈夫ですか?」
原因の張本人も心配になってきたようだ。
「まぁ急にね、人がぶつかってきたらそりゃぁもう驚いて、こうなっちゃっても仕方ないわよね。ところであなたは……男の子? 女の子?」
「僕はもちろん男です。名をルーンと申します! 兵士志望で歳は13です!」
彼は目をキラッとさせて、元気よく答えた。
「男の子かぁ……」
ここでアンヴァルがやっと、ぴくりと動いた。意識が戻ったようだ。
「あ、大丈夫でしたか? 歯がぶつからないように直前で計ったんですけど、痛い思いをされましたか?」
「……いや……」
「そうですよね、僕も別に痛くなかったし!」
「直前で計ったって?」
アリアンロッドには興味深い話であった。
「どれほどの角度や圧力で重なり合えば、鼻や歯をぶつけずに押せるかを、その瞬間、頭の中でシミュレーションしてみました」
彼は嫌味のない笑顔で答える。
「へぇ~~。キスする時、鼻や歯がぶつかることもあるんだ?」
アリアンロッドはディオニソスが上手にしてくれたので、そんな事故が起こるとは知らなかった。
「……おい……」
「はい?」
ここからアンヴァルが怒り狂った様は、アリアンロッドですら初見といったほどの暴発具合であった。少年はその場で地に額を付け平謝りすることとなった。
「ごめんなさい、まさか初めてだったとは……」
「っ~~~~!」
アンヴァルが声にならない声を上げ更に憤慨するのを、アリアンロッドが隣でなだめる。
「ヴァル、落ち着いて。ほら、まだ13歳の子どものしたことだし」
「でも僕も初めてだったので! 初めて同士の割りに、やはり事故にならずに済んで……」
「~~~~~~!!」
その日アンヴァルの機嫌が直ることはもはや、かなわなかった。
そこでアリアンロッドはルーンの整然とした身なりを見て、彼が身分のある家の者であると判断した。
「はい、父は元軍人で、兄たちは王宮預かりの兵士です!」
「じゃあ、暦は分かる?」
「今は分かりませんが、役場で尋ねれば。まず家に帰って……」
「家かぁ。私たち、旅をしてるんだけど。どこか泊まれるところはないかしらね?」
アリアンロッドの割りには含んだ言い方をする。アンヴァルが使い物にならない時は、彼女が穴を埋めるよう頑張るのだ。
「助けていただいたお礼に、我が家での宿泊を父に頼んでみます」
「ありがとう! これで旅の第一関門突破だわ」
◇◆
さすがに少年ルーンのところは役人の家だ。ふたりはすぐにも十分な寝室を、きちんと2室用意してもらえた。
今はアンヴァルの泊まる部屋に集まっている。暦はまだ分からないが、この街は王宮よりだいぶ西の方に位置するようだ。
「で、さっきの人はなんだったの?」
「えーっと、彼は僕の学問の師で、決して怪しい人ではないのです」
「でも、追われてたのよね?」
「それがこの頃、彼から情人になって欲しいと申し込まれてしまい、断っても聞いてもらえず……。先ほども、想い人と逢引きするからとごまかして逃げたら、追いかけてこられて……」
アリアンロッドですら、これには表情が固まった。
「奥様にも悪いし、僕とそんなに歳の違わない子たちもいるし、気まずくて仕方ないですが、それでも学問は続けたいです……」
彼の父は元兵士で、兄たちは現在王宮で兵として勤務していて、彼ももちろんそうなるように育てられているのだとか。
「父からは、学問はそれほど必要ないと言われていますが、僕は学んで損はないと思っているので、個人的にあの人に頼みました。しかし今、こうなってしまって」
「あなた可愛いもんね……」
アリアンロッドはもう、それしか言えなかった。
ふたりともこの明るさゆえに、「移動した」ことを即座に理解した。アリアンロッドはアンヴァルに飛びついていたので、慌てて彼の胸から離れる。そして彼の態度が以前とは違っていることを思い出し、距離を開けようとした。
だが当のアンヴァルは、ここで彼女を解放するわけにいかなかった。彼にとっては彼女こそいつもと違っていて、ほぼ無意識にそれを問い詰めずにはいられないのだ。
「おい、こっち向けって」
「どこか来ちゃったみたい、探らなきゃ」
「なんでこっち見ないんだよ!」
「なんのこと?」
このように軽く押し問答をしているふたりに、ちょうどその頃、真っ直ぐ向かってくる人影がふたつある。
しかし取り込み中のふたりの、視界に入るはずもなく。
「本当に、まず、ここはどこなのかとか調べなきゃ……」
アリアンロッドはアンヴァルの腕を振り払い、そしらぬ顔でどこかへ行こうとした。すると、
「あっ!」
間髪入れず小石につまずき、こてっと転んだ。焦りを隠せていない。
その間、全力疾走の足音がふたりに近付いてきて、その足音の主が衝突するかというところだ。が、アンヴァルはやはりそれどころではない。
アリアンロッドのことで夢中の彼に、転んだ彼女に手を差し伸べようとした彼に、疾走中の人影が今まさに突進するかという瞬間。
小柄なその人物はぴたりと足を止め、アンヴァルの頭を両手で押さえ、その唇に自らの唇を押し当てたのだった。
「!!? …………」
アンヴァルは頭が完全に真っ白になった。
「…………???」
アリアンロッドも唐突に、目の前の空間に割り込まれ、時が止まった。
膝をついたままのアリアンロッドの位置からだと、見えるのは小柄な人物の後ろ頭のみで、何が起こったかよく分からない。が、自分たちの間に人が割って入ってきた、ぐらいの認識はある。
そこにもう一人やってきた。こちらは大柄な男だ。
この小柄な人物は、アンヴァルの口から口を離して宣言する。
「この人が僕の情人です。そういうわけで、もう諦めてください」
アリアンロッドはとっさに真に受けて、「んっ??」と小さく声を上げた。
追いかけてきたもうひとりの男は、狼狽の色を見せる。
「そんな……嘘だろう?」
「こんな白昼堂々口づけを交わす仲が、嘘のわけないではないですか」
「口づけ?」
アリアンロッドは「あ、今の、そういう……?」とふんわり思った。
「あと、このことは僕の両親に内密にお願いします。心配かけたくないので」
「分かった。君のことは……諦めよう。無理強いはしたくない……」
気落ちした大柄な男はトボトボと立ち去った。
「ああ、助かりました」
アリアンロッドに軽快な声が振りかかる。彼女の目に映る、この屈託のない人物は、顔立ちのとても可愛らしい子どもだった。
現在のアリアンロッドの理解度を10段階で5とするなら、アンヴァルは思考回路が働いていないので測定不可である。
「本当にありがとうございます。不躾な真似をしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ」
アンヴァルが固まっているので、アリアンロッドが代わりに答えた。
しかしアンヴァルを気付かせないことには、と、アリアンロッドは頬を叩いたりするのだが、まだ返事はなく。
「あの、大丈夫ですか?」
原因の張本人も心配になってきたようだ。
「まぁ急にね、人がぶつかってきたらそりゃぁもう驚いて、こうなっちゃっても仕方ないわよね。ところであなたは……男の子? 女の子?」
「僕はもちろん男です。名をルーンと申します! 兵士志望で歳は13です!」
彼は目をキラッとさせて、元気よく答えた。
「男の子かぁ……」
ここでアンヴァルがやっと、ぴくりと動いた。意識が戻ったようだ。
「あ、大丈夫でしたか? 歯がぶつからないように直前で計ったんですけど、痛い思いをされましたか?」
「……いや……」
「そうですよね、僕も別に痛くなかったし!」
「直前で計ったって?」
アリアンロッドには興味深い話であった。
「どれほどの角度や圧力で重なり合えば、鼻や歯をぶつけずに押せるかを、その瞬間、頭の中でシミュレーションしてみました」
彼は嫌味のない笑顔で答える。
「へぇ~~。キスする時、鼻や歯がぶつかることもあるんだ?」
アリアンロッドはディオニソスが上手にしてくれたので、そんな事故が起こるとは知らなかった。
「……おい……」
「はい?」
ここからアンヴァルが怒り狂った様は、アリアンロッドですら初見といったほどの暴発具合であった。少年はその場で地に額を付け平謝りすることとなった。
「ごめんなさい、まさか初めてだったとは……」
「っ~~~~!」
アンヴァルが声にならない声を上げ更に憤慨するのを、アリアンロッドが隣でなだめる。
「ヴァル、落ち着いて。ほら、まだ13歳の子どものしたことだし」
「でも僕も初めてだったので! 初めて同士の割りに、やはり事故にならずに済んで……」
「~~~~~~!!」
その日アンヴァルの機嫌が直ることはもはや、かなわなかった。
そこでアリアンロッドはルーンの整然とした身なりを見て、彼が身分のある家の者であると判断した。
「はい、父は元軍人で、兄たちは王宮預かりの兵士です!」
「じゃあ、暦は分かる?」
「今は分かりませんが、役場で尋ねれば。まず家に帰って……」
「家かぁ。私たち、旅をしてるんだけど。どこか泊まれるところはないかしらね?」
アリアンロッドの割りには含んだ言い方をする。アンヴァルが使い物にならない時は、彼女が穴を埋めるよう頑張るのだ。
「助けていただいたお礼に、我が家での宿泊を父に頼んでみます」
「ありがとう! これで旅の第一関門突破だわ」
◇◆
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「でも、追われてたのよね?」
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アリアンロッドですら、これには表情が固まった。
「奥様にも悪いし、僕とそんなに歳の違わない子たちもいるし、気まずくて仕方ないですが、それでも学問は続けたいです……」
彼の父は元兵士で、兄たちは現在王宮で兵として勤務していて、彼ももちろんそうなるように育てられているのだとか。
「父からは、学問はそれほど必要ないと言われていますが、僕は学んで損はないと思っているので、個人的にあの人に頼みました。しかし今、こうなってしまって」
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