追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

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【 第十一章 】 選ばなかった道の先にある運命

③ 誰しも戻りたい“あの地点”がある……

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 あれからアリアンロッドは、ルーンと話を詰める日々を送る。そこにディオニソスも時折加わるのだが、あるとき彼が切り出した。
 彼はしばらく過去の、大聖女に関する記述の書を読み漁っていたようだ。

「現状を打破する方法が、まったくないわけではないのでは、と……」

 歴代大聖女に関する記録、それは歴代の王ですら、目を通すことは必要最小限だという。
 歴代の書記官は大聖女と国の記録を数種に分けて記述する。そして次世代に読ませるべきものとそうでないものに、王や宰相と相談しながら丁寧に分ける。すべてであれば後世になるほど膨大な情報量となってしまうからだ。しかしその内容の是非は、各々の考え方に大きく左右されるようで。

 以前からディオニソスは好奇心ゆえに、時間の許す限り多くを読み込もうとしていた。今回のことで、むしろ歴代関係者によって隠されている側の情報を得るのはどうかと、それらの書に手を伸ばしたのである。

「打破……それは?」
「我々の命を、または国を存続する方法が、もしかしたら……」
「あるの!?」
「可能性は、限りなく低いと思うが……」

 ふたりは固唾を呑んでディオニソスの話に聞き入る。

「どうしてこれが奥の方に押し込まれていたのだろうか……」
 古びた、薄い冊子を、ディオニソスはふたりの目の前に差し出した。
「歴代で5本の指に入るほどの、特殊な力を持つ大聖女の記録だ」
 あるいは、特殊だからこそ、か。

「どういうものなの?」
「聖女は神の言葉を、夢から伝えられることが多い。君も聖女の記録書をある程度は読んだね?」
 聖歌を歌うことでの神の降臨は、頻度が少なく、最も高度な能力だと考えられている。

「ええ。でも私は、夢で言葉や映像を直接賜ったことがなくて。過去の夢を手掛かりとして、提示はされるんだけど……」
 アリアンロッドはその方法で未来を視ることがないので、自信を持って言えない。

「およそ百年前に即位したその大聖女は、未来だけでなく、現在の夢をみることができたそうだ」
「現在??」
「ああ。現在の、“選ばれなかった道”の夢を」
「……!?」

 アリアンロッドはディオニソスの話にたじろいだ。
「え? えっと、どどどういう意味?」

「たとえば君は今日、街に買い物に出かける。または森に狩猟に出かける。ふたつの選択肢があるとする。そして森に行く行程を選ぶとする。その力があれば、街に出かけていた行程の夢をみられるのだ」

「? それって未来の夢をみる予言とどう違うの? ふたつの選択肢があって、どちらが正解か夢でみてから決められるってことでしょう?」

「いや。選択し終わってから、選ばなかった方の夢をみるのだ」

 アリアンロッドは混乱している。代わりにルーンが口を挟んだ。

「しかしそれでは意味を成しませんよね。選択した地点は過ぎているのですから、満足するか、もしくは後悔が残るかです。こちらの道を選んで良かった、または、あちらを選んでおけば良かった」
「そうだな。しかし、それにはまだ続きがあるのだ」

 彼はルーンの目を見て伝えた。そしてまた、アリアンロッドにも理解できるように、穏やかに語り始める。

「大聖女は一度だけ、その意味のない力に意味を持たせた」
「ん?」
「時をその地点まで戻したのだ。それを知る人々の記憶を残したままで。そうしたことで、国を受難より救った」
 この言にアリアンロッドとルーンは息を飲む。
「神が味方されたのですね……」
「そんな……」
 稀有な力を持つアリアンロッドにも、信じ難い話であった。

「そして大聖女の最後の言葉が、当時の書記官より記されている」
「! なんて?」
「私はまた、百年を超える時の後に還り来る、と」
「その、強大な神の力を持つ聖女が、またこの地に……?」

 場が張り詰めた。

「この地に、かどうかも分からない。そして百年前の大聖女の遺言だ。その聖女が降り立つのは未来……」
「私が、その未来に行けば……?」

 ディオニソスは彼女に切実な視線を投げかける。
「その聖女をこの世に連れてきて、かつて彼女が力を開放するため行った儀式を、記録どおりになぞらえば……。もちろん、実現する可能性は低い。だが、皆無ではない」

 アリアンロッドは、いつものように前向きな気持ちにはなれなかった。雲を掴むような話である。

「ディオ様、いろいろ調べてくれてありがとう。私……、私にできることなら何でもするわ」
「アリア、君を追い立てるつもりはないんだ。ただ、話さずにおくべきでもないかと」
「分かってる」

 アリアンロッドは外の空気を吸いたくて、今日は彼らのもとに戻らないと言って出ていった。



 そこは男ふたりきりとなり、ディオニソスはルーンをじっと見た。このところ、自分よりずっと多く長く大聖女の言葉を聞いている男だと、複雑な思いを抱えている相手だ。

「何か疑っておられるようなお顔ですね」
「いや……まぁ、彼女の言葉に、親身に耳を傾けてくれていることには感謝する。彼女が信頼を寄せられる人物を得られたことは、私にとっても喜びだ」

「しかし、それには何か企みがあるのでは、ということでしょうか?」
「我々がこの世を去った後で、お前が敵国の王に取り入り、この地を導く立場となる……それに関してまったく異存はない。国の民が豊かに暮らしていけることを望むが、それももう私には……。ただ、彼女の思いに背くようなことだけはしないで欲しい。それだけだ」

 ルーンは彼の目を見る。彼の心からの願いを知る。

「事実、アリアンロッドの命ですら、風前の灯なのだ。彼女だけは私の命に代えても、と思っているが……いざ戦場でとなれば、私などさほど役に立たない」
「私も同じです」

 ディオニソスも彼の目を見た。

「私は戦場に出る兵士を志しておりましたが、やはり役には立ちそうもなく……。そんな私にあの方は、違う場での役目を与えてくださった。私は、表舞台に立ちたいとも国をどうしたいとも、それほど大層なことは考えておりません。ただ頼りにしていただいたので、それにお応えできればと思っている次第です」

「なら安心だよ」
「しかしディオニソス陛下、あなた様は私などよりずっと、頼りにされているではないですか。それはあなたがあなたであるだけで、あの方にとっては、心の拠り所として。きっと最後の時まで……」

 その慰めに、何も返す言葉がないディオニソスであった。

「それにしても、先ほどの話ですが」

 彼の話題転換に後ろめたいことがあるのだろうか、そこでディオニソスはゆっくり顔を背けた。それに気付かないルーンではない。

「もし、運よくその、力を持った聖女が見つかったとしましょう。しかもそれが«次代の大聖女»であったとしたならば。あなたはそのお方をどうなさるおつもりで?」

「…………」

 当然すぐには応えてこない。
 聖痕を持った女子はこの国において為政者となる運命だ。その話題の中、ディオニソスがあえて「次代大聖女」の言葉を出さなかったことに、彼は訝しんでいたのだった。

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