追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

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【 第十一章 】 選ばなかった道の先にある運命

⑧ 母の思い

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 借家に戻ってからも、アリアンロッドはぼんやりと考えていた。
 ルゥの母親の言う、女神の歌声とはなんなのか? 我が子に歌手を連れて来てほしいなんて思うわけはないのだし、これはやはり、幼子に歌をプレゼントされたいというのではなかろうか。

(特に歌を習わせていたわけでもないのに……?)

「母親の気持ちなんて分からないよ~~」
 アリアンロッドは2本のナイフを両手で持ち、カチカチぶつけていた。

「そういえば、このナイフ……」
 形見で同じものが存在して、アリアンロッドですら救われた気分だが。

「どうしてこっちは突起、こっちは穴……って、これ、同じ大きさじゃない!? ってことは……」
 アリアンロッドはその突起が穴に入るように、2本のそれを重ねてみた。
「こうかな? 違うなぁ。じゃあ、こう? あ、ぴったりはまった! ……これ、ひとつの物なんだ、ナイフじゃなくて。でも、これ何??」

 刃の部分は重なり、柄の部分は輪がふたつ隣り合っている。

 そのころ夜も更けていて、炉の前で彼女はいつの間にか寝てしまった。


 今宵、アリアンロッドの夢の居所は作業場のようだ。
「女の人……? あっ、持ってるあれ、2本の刃くっついてる!」

 アリアンロッドは、この女性はきっと彼の母なのだろうと思った。先ほど重ねてできあがった、例のふしぎな道具を手にしている。使えるかどうか確かめているのだろうか、彼女はその柄端にあるふたつの輪に指を差し込んで握っている。

「ふたつ刃先が重なって離れて……ううん、開いたり閉じたりしてる……。で、何に使うの?」
 そこで女性は輪から指を抜き、真ん中の突起部側面に差し込んであった、非常に小さな棒を摘まんで抜いた。

「あ、重なってたのがまた2本に分かれた! あの小さい棒で押さえてあったのね? 穴なんて空いていたっけ、起きたら見てみよっと」

 そして彼女は2本の刃を、用意したふたつの木箱に1本ずつ入れた。その瞬間の表情は温かな慈愛に満ちていて、やはり彼女は息子たちを思う母なのだと、アリアンロッドは確信した。


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図を載せておきます↑
こういう感じです…。(角度やサイズ比率はテキトウ。

超絶器用な人の仕事ですね…。
あとアリアの夢はズーム機能があります(??

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「ああ、もう朝か……」
 目覚めて早速、夢でみた道具を探し始めた。
「忘れないうちに~~! あったあった」
 それをじっくり見てみたら、真ん中の突起の側面に、非常に小さな穴が開いている。

「職人の技術すごい……。2本重ねて、ここに棒を差し込むと固定されて、離れなくなるのね」
 アリアンロッドは感じた。これは母が兄弟に「これからも共に、助け合って生きていくように」と願掛けた作品なのだと。

「一緒に生まれてきたんだもの、ちゃんと仲良くしてねって言いたかったのよね、きっと……」

 この「上手くいかなさ」がやるせないアリアンロッドは、この日もぼうっとしながら布を織っていた。そこにやってきたルゥが、またおせっかいを焼きたくなった様子。

「今度は何を悩んでいるんだ? またあの息子のことか?」
「夢をみたんだ……彼の母君の夢」
 誰でもいいから聞いて欲しい。この悶々とした感情を吐き出したかった。

「亡くなってる人にはもうどうしようもないけど……彼らは生きてる。今からでも変えられるものがあるはず。でも私は他人だから、説得力がない。私があの母君の夢をみても仕方ないのよ、彼がみなきゃ」

「なら、それも手伝ってやる。やったら礼をくれよ」
「ん?」
「お前がみた夢……、夢の中の母親の表情を、あいつにみせればいいんだな?」
 アリアンロッドは怪訝な顔をした。

「俺そういうの得意だから。普段はイタズラでしかやらないが」
「??」
「俺、秘密だけど、夢使いなんだよ」
「ユメツカイ?」
「得意技がいろいろあってさ。ひとつに、夢を人から人へ移すことができる。……あ、信じてないな?」
 アリアンロッドのぽかんとした顔を、ルゥは口先をすぼめて睨みつける。

「え、えーっと……」
 そういえば、この子が“ちょっと特殊”であることを忘れていた。

(予言ができるとかの発言がいつ出てくるかと思ってたけど……、いきなり夢の得意技って……)

「移すってどうやって……?」
 とにかく話をしっかり聞くことにした。

「まず俺と額を合わせて、みた夢を思い浮かべてみろ」
 彼女の言うことはずいぶん単純だ。言われるままにやってみる。

「この夢あいつのところに飛んでけー!って俺が願ったから、近いうちみるよ」
「こんな簡単に?」
 とても信じられない。
「これが上手くいったら、俺に女神仕込みの歌とやらを教えてくれよな!」
「え、ええ……?」
 そしてルゥはまた採集のため外へ出ていった。



 それから3日が過ぎた。この間アリアンロッドは、果たしてルゥに歌を教えていいものか、ずっと考えていた。双子の兄弟の母と違い、ルゥの母は存命なのだ。聞きに行けばいいのでは、とも思った。しかしなぜだかルゥの家に足が向かなかった。行動的なアリアンロッドにしては珍しい。動物的勘というものだろうか、この付近から離れない方がいいと感じた結果、考えを巡らせるだけに終始していた。

 この日、庭でアリアンロッドがまた薪を割っていたら、林から男がよろよろと歩いてきた。
「……何をしに来たの?」
「あ……」
 男は気まずそうに話す。

「俺のも、あったんだろ……おふくろの形見の……」
「あなたの、じゃなくて、ふたりの、ね」
 アリアンロッドは懐から、布に包んだその道具を取り出して見せた。

「これ、おじいさんと試してみたんだけど、こうやって2本の指を輪に入れて刃を開いたり閉じたりするとね、とくに力を入れなくても、布が思い通りにざくざく切れるの。1本じゃ切れないのよ。すごい発明品!」
 彼は無言で受け取った。

「母君の言いたいこと分かるよね。決して兄の方だけ大事に思ってたとか、そんなことないの分かったよね!?」
「あ、ああ……」
 彼は泣いているようだった。久しぶりに母が夢に出てきて感動したのだろう。それがいちばんの説得力だ。

「でももう兄君はいないのだし、今からでも母孝行したいなら、父君と一緒に暮らすことだけよ、あなたにできるのは」
 アリアンロッドは彼の背中に回って押し出した。
「向こうの林にいるはずだから、久しぶりに話したら?」
「ああ……」


 すぐにとはいかないかもしれないが、また父子が支え合って暮らす日々に戻りそうだと、アリアンロッドは期待を膨らませた。

 そして引き続き薪を割りながら、彼の母に思いを馳せるのだが。

「やっぱりね! 生んだ子はみんな平等に大切だし、禍根を残すようなことするわけないのよ。これはたまたま、すれ違っちゃっただけ!」
 老人は2本の刃についてよく知らなかったというし、兄の方はその存在に気付き、弟の方は気付かなかった、それだけの話だった、という説が固い。

 アリアンロッドはきょうだいの気持ちも、親の気持ちも分からない。だけれど。

「ルゥの母君も、もしかして……」

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