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メテオの章
⑩ 打ち明けられずにいた思いは
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しばらくして私たちはロイエとルーチェのいる湖畔に戻ってきた。夕暮れ時に差し掛かる、湖面の色の移り変わりもまた、恋人らの甘い情感を高めるだろう。
『ラス、アンジュ。彼らをずっと見ていてくれたのね、ありがとう』
『ユニ様……』
アンジュがいつになく不安げな顔をしている。
『どうしたの? ……ルーチェはまだ成仏しそうにない?』
湖岸でロイエの手を握る彼の実体が、私の目にくっきりと映る。
『彼はいまだ意気揚々と、ロイエ嬢との時を楽しんでいます。のべつ幕なしにしゃべり続け、彼女を連れ回し。その半面……』
『ロイエさんは顔から生気が失われていってます。そろそろ限界かも。ルーチェさんはそれに気付いていなくて……』
私たちは、ロイエが今まさしく“憑りつかれている状態”だと確信し、肝を冷やした。
『まさか本当に彼女を、彼岸へ連れていこうとしているのでは』
ラスは冷静にものを言う。
『わざとではないのでしょうけど、幽霊さんにはコントロールできないものなのですね』
『無理に彼女から引き離したら、この世に縛り付けるきっかけになったりするかしら』
『怨霊化されたら困りますね』
へたなことはできないわね……。
『あら?』
その時、ダイン様のお姿が隣にないことに気付いた。そういえば、しばらく物言いが聞こえてこなかった。
『おい、お前。男なら臆することなく本懐を遂げたらどうだ!』
「「「~~~~!??」」」
真っ向からルーチェに引導を渡しに行ったダイン様に、私たちの叫びも枯れた。
それに対し、引き離されてなるものかと、ロイエをダイン様から隠すかのように前に出るルーチェ。
いくらダイン様の剛腕でも、たった今最高潮に霊力みなぎる御霊を相手にするには、分野が違いすぎるわ。私も出て行くべきよね。
固唾を呑み、足を一歩踏み出した。
「ユニ様……」
厄介な怨霊に化ける前に彼を説得しなくては……。
“そうですよね!!”
「「「!!」」」
私の出番を待つまでもなく、亡霊ルーチェ、まったく素直にダイン様の提言を聞き入れる。
“ロイエ! 君に聞いてほしいことがあるんだ!”
ああ、なんだ……とりあえず、無事にプロポーズが始まりそう。
「この国の人っていいですね。なんていうか、お心が……、シンプルで!」
「殿下と御霊、あのおふたりがとりわけシンプルなんだと思うぞ」
まぁ、国民性というものもあるかしら。
“……というわけで、ロイエ、結婚してください!”
彼は緊張感をたぎらせて、透き通る霊体の手を差し伸べる。
ついに、念願のプロポーズ!
「せっかくのプロポーズの場面、隣にダインスレイヴ様がおられますが」
微笑み顔のアンジュの目、光が灯っていない。
「しかし、ロイエ嬢はもう表情が瀕死だな……」
「ちゃんと聞こえていたかしら。心配だわ」
「もうあと少しですからね! なんとか耐えて欲しいです。ロイエさん、セイ・イエスですよ!」
ロイエはルーチェの顔を見上げ、まっすぐに目を見つめこう答えた。
『はい。末永くよろしくお願いします』
少々やつれた容貌だが、実に幸せな笑みを浮かばせ、彼女は手をふんわり彼の手に重ねるのだった。
“やったぁ──!!”
彼の雄たけびに私たちも胸をなでおろす。これで彼は光に包まれ天へと昇っていけるはず。
本来なら結ばれた直後のふたりが分かれる運命は悲しいものだけど、これは彼女の明るい未来へ続く、前向きな別れだから。
“あれ? 僕、何も変わらないや……”
え?
ルーチェが自身の霊体をきょろきょろと見回す。
何が起こるわけでもなく、私の目からも相変わらず明確な存在の彼だ。
「あっロイエさんが!」
「!」
とうとう彼女がふらりと──
『おっと。大丈夫か?』
倒れかけたところをダイン様がしっかり受け止めてくれた。
どういうことなのかしら……?
「ラス、ルーチェの日記帳を貸して」
ここで考えてみた。
私はすっかり、生前プロポーズできなかったことがルーチェにとっての心残りだと思い込んでいたけれど……他に何かあるのでは?
私が初見では涙で視野を曇らせて掴めなかった、彼の本当の未練が……。
「あっ……」
「どうしました?」
「彼はもっと本質的なことを望んでいたのかもしれない……」
────“僕はあの日、流星に誓ったんだ。決して自分の気持ちをごまかさない。彼女に正直な僕になる。”
愛を告白することではなくて、何かあるのよ。彼女に伝えたくて、伝えられなかった正直な気持ちが。だって彼の性格は案外、生真面目で、神経質で……日記帳から窺える彼は……。
でももうロイエはギリギリの状態。ダイン様が彼女を抱えてこちらへ戻る。それをルーチェが慌てて追ってくる。
ルーチェが忘れてしまっている限り突破口は開かない。本当にロイエは道連れにされてしまう!
「こうなったら……流星を頼りましょう」
「ユニ様? 流星って?」
「このトワイライトから星空へ以降するまでにはまだ3刻ほどかかりますし、星は瞬いても、流れるのを期待するのはさすがに……」
『ユニ。この娘には微熱がある。いったん馬車で休ませるか』
“うわぁぁロイエっ、ロイエ~~!”
ダイン様に抱えられたロイエは朦朧としているし、ルーチェは狼狽えていて話が通じそうにない。
『ダイン様。ロイエからいったんルーチェを引き離して、馬車でゆっくり学院に連れて来てください。ラスとアンジュも、ロイエを介抱してあげて。そしてルーチェをちゃんと、引き離しながらも連れてくるように』
『分かった』
『承知いたしました』
『ユニ様は?』
『私は一足先に学院へ向かうわ。きっと解決に助力をしてくれる子たちがいるから』
『了解です!』
私は御者にできる限り急ぐよう頼み、馬車に乗り込んだ。
『ラス、アンジュ。彼らをずっと見ていてくれたのね、ありがとう』
『ユニ様……』
アンジュがいつになく不安げな顔をしている。
『どうしたの? ……ルーチェはまだ成仏しそうにない?』
湖岸でロイエの手を握る彼の実体が、私の目にくっきりと映る。
『彼はいまだ意気揚々と、ロイエ嬢との時を楽しんでいます。のべつ幕なしにしゃべり続け、彼女を連れ回し。その半面……』
『ロイエさんは顔から生気が失われていってます。そろそろ限界かも。ルーチェさんはそれに気付いていなくて……』
私たちは、ロイエが今まさしく“憑りつかれている状態”だと確信し、肝を冷やした。
『まさか本当に彼女を、彼岸へ連れていこうとしているのでは』
ラスは冷静にものを言う。
『わざとではないのでしょうけど、幽霊さんにはコントロールできないものなのですね』
『無理に彼女から引き離したら、この世に縛り付けるきっかけになったりするかしら』
『怨霊化されたら困りますね』
へたなことはできないわね……。
『あら?』
その時、ダイン様のお姿が隣にないことに気付いた。そういえば、しばらく物言いが聞こえてこなかった。
『おい、お前。男なら臆することなく本懐を遂げたらどうだ!』
「「「~~~~!??」」」
真っ向からルーチェに引導を渡しに行ったダイン様に、私たちの叫びも枯れた。
それに対し、引き離されてなるものかと、ロイエをダイン様から隠すかのように前に出るルーチェ。
いくらダイン様の剛腕でも、たった今最高潮に霊力みなぎる御霊を相手にするには、分野が違いすぎるわ。私も出て行くべきよね。
固唾を呑み、足を一歩踏み出した。
「ユニ様……」
厄介な怨霊に化ける前に彼を説得しなくては……。
“そうですよね!!”
「「「!!」」」
私の出番を待つまでもなく、亡霊ルーチェ、まったく素直にダイン様の提言を聞き入れる。
“ロイエ! 君に聞いてほしいことがあるんだ!”
ああ、なんだ……とりあえず、無事にプロポーズが始まりそう。
「この国の人っていいですね。なんていうか、お心が……、シンプルで!」
「殿下と御霊、あのおふたりがとりわけシンプルなんだと思うぞ」
まぁ、国民性というものもあるかしら。
“……というわけで、ロイエ、結婚してください!”
彼は緊張感をたぎらせて、透き通る霊体の手を差し伸べる。
ついに、念願のプロポーズ!
「せっかくのプロポーズの場面、隣にダインスレイヴ様がおられますが」
微笑み顔のアンジュの目、光が灯っていない。
「しかし、ロイエ嬢はもう表情が瀕死だな……」
「ちゃんと聞こえていたかしら。心配だわ」
「もうあと少しですからね! なんとか耐えて欲しいです。ロイエさん、セイ・イエスですよ!」
ロイエはルーチェの顔を見上げ、まっすぐに目を見つめこう答えた。
『はい。末永くよろしくお願いします』
少々やつれた容貌だが、実に幸せな笑みを浮かばせ、彼女は手をふんわり彼の手に重ねるのだった。
“やったぁ──!!”
彼の雄たけびに私たちも胸をなでおろす。これで彼は光に包まれ天へと昇っていけるはず。
本来なら結ばれた直後のふたりが分かれる運命は悲しいものだけど、これは彼女の明るい未来へ続く、前向きな別れだから。
“あれ? 僕、何も変わらないや……”
え?
ルーチェが自身の霊体をきょろきょろと見回す。
何が起こるわけでもなく、私の目からも相変わらず明確な存在の彼だ。
「あっロイエさんが!」
「!」
とうとう彼女がふらりと──
『おっと。大丈夫か?』
倒れかけたところをダイン様がしっかり受け止めてくれた。
どういうことなのかしら……?
「ラス、ルーチェの日記帳を貸して」
ここで考えてみた。
私はすっかり、生前プロポーズできなかったことがルーチェにとっての心残りだと思い込んでいたけれど……他に何かあるのでは?
私が初見では涙で視野を曇らせて掴めなかった、彼の本当の未練が……。
「あっ……」
「どうしました?」
「彼はもっと本質的なことを望んでいたのかもしれない……」
────“僕はあの日、流星に誓ったんだ。決して自分の気持ちをごまかさない。彼女に正直な僕になる。”
愛を告白することではなくて、何かあるのよ。彼女に伝えたくて、伝えられなかった正直な気持ちが。だって彼の性格は案外、生真面目で、神経質で……日記帳から窺える彼は……。
でももうロイエはギリギリの状態。ダイン様が彼女を抱えてこちらへ戻る。それをルーチェが慌てて追ってくる。
ルーチェが忘れてしまっている限り突破口は開かない。本当にロイエは道連れにされてしまう!
「こうなったら……流星を頼りましょう」
「ユニ様? 流星って?」
「このトワイライトから星空へ以降するまでにはまだ3刻ほどかかりますし、星は瞬いても、流れるのを期待するのはさすがに……」
『ユニ。この娘には微熱がある。いったん馬車で休ませるか』
“うわぁぁロイエっ、ロイエ~~!”
ダイン様に抱えられたロイエは朦朧としているし、ルーチェは狼狽えていて話が通じそうにない。
『ダイン様。ロイエからいったんルーチェを引き離して、馬車でゆっくり学院に連れて来てください。ラスとアンジュも、ロイエを介抱してあげて。そしてルーチェをちゃんと、引き離しながらも連れてくるように』
『分かった』
『承知いたしました』
『ユニ様は?』
『私は一足先に学院へ向かうわ。きっと解決に助力をしてくれる子たちがいるから』
『了解です!』
私は御者にできる限り急ぐよう頼み、馬車に乗り込んだ。
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