6 / 11
奇妙な最上階
しおりを挟む塔に用事があるのは、魔法を研究する余程の物好きだけだ。だからなのか管理は一年に一度司書が書物の整理に来るだけだ。
価値がないと知っているから、なにもないから安全だと思っているからだかはわからないけど、塔に入る申請はひどく簡単に済むのは有名な話だ。(ーーー西の森は有名な心霊スポットである)
ベンが許可を取りに行った司書曰く、塔にあるのは本棚だけで特別なものはなにもないのだという。
最近は魔法を研究する生徒が減ったせいか遊び半分、肝試しに来る生徒以外は来ないのだという。
入塔記録の最後は一ヶ月前の生徒の肝試しが最後。
記録では異常なし。
だが、これはなんだ。
下の階と違い、埃のない清浄な空気、何かを守るように円形に並べられた書籍。
「 まるでなにかの儀式の後みたいだ 」
「そうだが、なんのために?」
塔の鍵は司書がひとつだけ管理している。噂ではなんの変哲も無い鉄製の鍵の見た目に反して、古い魔法がかかった鍵だかで複製は難しいのだという。
「いたずらは有り得ないよ、俺が聞いた噂を立てたやつ以外の入室記録はなかったから 」
「じゃあ、魔法か?こんな魔法なんざない時代に?」
「それだったら面白いんだけどなぁ、俺的には」
どこか楽しげな声音でそう言いながら、スタスタと得体の知れないそれに近づいて行く。
「おい!!何かあったら......」
「だいじょうぶだろ、今まで何にもなかったんだし」
気楽な様子でそれを近くで観察する彼は楽しげだ。
そのなんともない様子に、サイラスが恐る恐る近づいても、ただ不思議な円を描くそれは沈黙したままだ。
ただただ、静寂とひたひたと寄ってくる夜の気配だけが部屋を支配する。
「............なにも、ないね」
「........ああ 、やはりいたずらだったのか 」
ほっとしたサイラスは、そのまま興味本意で並べられた本に触れようとする。
ーーーーーーー リン
涼やかな鈴の音が耳元で鳴った気がした。
サイラスは驚いて手を止めあたりを見回す。
「なあ、ベン」
「どうしたの急に手を止めて、周りなんか見回して?ユーレイが怖くなったとか?」
隣で他の本を手に取っていた彼は楽しげに笑う。
どうやら、ベンには聞こえていないらしかった。きっと気のせいだろう、臆病な自分が雰囲気にビビったらしい。そう思ってサイラスは少し笑った。
「いやなんでもないさ。ただ早くかいらないと門限だって思っただけさ 」
「げっ、それ早く言ってよ。俺がりょーちょーに怒られるだろ? 早く帰ろう、美女なんていなかったわけだし」
「ま、そうだな」
興味を失ったのだろう、そのまま振り返らずにスタスタ戻って行く彼を追う。
ふと、振り返ってもその不思議な本たちは静かに眠っているだけだ。
きっとさっきの鈴の音は幻聴だったのだろう。
サイラスはそう思って、今度こそ振り返らずに帰路に着いた。
ーーSigillum est solved
誰かがそう言ってクスリと嗤った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる