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第1章:赴任
第32話:イッヌ・フォン・カマセ
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この集落の数少ない人間。
ミレーネ、ジニー、あとあいつなんだっけ?
ゴブリンの嫁さん3人貰ったやつ。
「ストリングですかな?」
そうそう、そいつ。
俺が唸っていたら、ジソチが教えてくれた。
なんだかんだで、幸せそうなやつだ。
そして、残る一人。
イッヌ・フォン・カマセ。
分かりやすいマッチポンプで、ミレーネを娶ろうとしてたあいつ。
今はなんだかんだで、ゴブリンの女性と一緒にそれなりに幸せな生活を送っている。
……はず。
「ほらほら、そんなことではロードのお役に立てませんよ」
「はい」
いまは、ゴブサクと一緒に薪を割っているが。
大丈夫かな?
元は貴族だったから、慣れない生活で色々とすり減ってないといいけど。
「まあ、騎士団の訓練に比べればどうということはありませんよ」
角が取れて、だいぶ丸くなってるけど。
最初の頃は帰りたい、帰りたいと泣いていたのに。
「えっ? 領地に帰りたいですかって? とんでもありません」
何が、どうとんでもないのだろうか?
「貴族の子弟としてのしがらみから解放されて、分かりました。権力のなんと儚いものか」
色々と達観した様子だけど。
「それに、ゴブリナさんはとても優しいですし」
ゴブリナ、うん彼を連れ去ったゴブリン。
まあ、汚れた下着を洗ってもらった相手だ。
自尊心やプライドなんか、とっくにどっかに消え失せてるだろう。
ゴブリナも手のかかる子供を見るような目で、よく面倒を見ているけど。
なかなかに、夫婦仲は良さそうだ。
「いえ、照れますね」
夫婦であることは否定しないらしい。
まあ、本人が幸せならそれでいい。
ただ、流石は貴族のボンボン。
最近は精力的に集落の仕事を手伝っているけど。
あまり、役に立っていない。
まったく立っていないわけじゃないのが、少し扱いにくい。
いないより、いた方がマシな程度。
ただ、本人が楽しくやる気をもってやっているから。
手伝わせている方も、あまり邪険にはできない。
そんなイッヌだけど、意外な才能があることが分かった。
「うん、美味しい」
イッヌが持ってきたクッキーを口に入れて、思わず唸ってしまった。
そう、お菓子作りにおいて、思わぬ才能があったのだ。
まず、几帳面な性格故に、レシピに書かれている材料の分量をきっちりと図る。
それこそ俺が用意した電子スケールの小数点第1位のレベルで。
時間もきっちり。
温度もきっちり。
几帳面な性格が幸いして、お菓子作りにおいては集落でもダントツで一位。
お祝い事や、何かあるときにはお願いするレベル。
ゴブリナにもことあるごとに、お菓子を振舞っているらしい。
周囲の雌ゴブリン達が、羨ましがっている。
とはいえ、一応一夫一妻制になりつつある。
だから、他の雌ゴブリンも手を出すことはない。
ストリング?
あいつは最初から3人だったから。
結婚も3人同時だったから。
だから、あれはあれでいいんじゃないかな?
俺も見習ってお菓子を作ってみたけど。
「お……美味しいですよ?」
ジニーが食べたあとで、凄い勢いで牛乳を飲んでたのを見たら。
色々と察した。
「いや、本当に味は美味しいんですよ? ただ、口の中の水分を全てもっていかれるというか」
だったら、その手に持った牛乳の紙パックを先に置こうか?
現状クッキー1枚に対して、コップいっぱいの牛乳が無くなっているけど?
牛乳片手にクッキーは分かるけど、それはコップの話であって。
「小麦粉にはグルテンが含まれてますので、練りすぎると弾力が強くなりすぎるんです。その状態で焼くと固くてパサパサになります。あとは、打ち粉はきちんと強力粉を使ってますか?」
えっ?
小麦粉なんて、全部一緒だろ?
薄力粉で作ったから、薄力粉で……
「はぁ……」
イッヌに盛大に溜息を吐かれた。
いや、おま……まあ、はい……すみません。
「薄力粉は粒子が細かいので生地に吸収されます。それで結果として、生地の小麦量が増えて……」
細かい。
凄く細かい。
油なんて適当でいいだろう。
牛乳だって、一度にドバッと入れようが、ちょっとずつ入れようが大差ないと思うんだけど。
「その結果がこれですが?」
一枚食べては牛乳をぐいっと口に含んで、ゆすぐようにして飲み込んでいるジニーの姿を見ると。
ミレーネは……一枚食べてから、あとは紅茶をゆっくりと飲んでいる。
二枚目を手にとることはなかった。
……
「これもらっていい?」
あっ、ミレーネが戸棚からキキキナガのビスケットを持ってきて、強請ってくる。
いや、別に構わないけど。
「ありがとう」
うん、俺の焼いたクッキーがまだ、たくさんあるんだけど?
仕方なく、イグニに処理してもらった。
あれだけ口がでかいと、お皿いっぱいのクッキーをほおばったところで。
「これ、いつまでも口にに残るのだが?」
そんなでかい口で何を言ってるのかな?
「あー……なんか粘り気が増してきたら、余計に飲み込みにくくなったのじゃが?」
仕方ないから、口に大量の牛乳を流し込んでやった。
ちょっとむせてたけど、無事飲み込めたらしい。
「料理は目分量でも、そこそこ上手にできるのにな」
「おかずとお菓子は字面は似てても、全然違うものですよ」
そういうものなのか。
「こうして食べれば美味しいぞ?」
アスマさんが、キキキナガのカフェオレに浸して食べていたが。
確かにしっとりして、美味しそう。
ただ、カフェオレの中がすごいことになってる。
ポロポロと崩れたクッキーの欠片で。
ふふ……でも、美味しく食べようとしてくれてありがとう。
アスマさんの優しさが染みるというか、痛いというか。
でも、素直に受け取っておこう。
ミレーネ、ジニー、あとあいつなんだっけ?
ゴブリンの嫁さん3人貰ったやつ。
「ストリングですかな?」
そうそう、そいつ。
俺が唸っていたら、ジソチが教えてくれた。
なんだかんだで、幸せそうなやつだ。
そして、残る一人。
イッヌ・フォン・カマセ。
分かりやすいマッチポンプで、ミレーネを娶ろうとしてたあいつ。
今はなんだかんだで、ゴブリンの女性と一緒にそれなりに幸せな生活を送っている。
……はず。
「ほらほら、そんなことではロードのお役に立てませんよ」
「はい」
いまは、ゴブサクと一緒に薪を割っているが。
大丈夫かな?
元は貴族だったから、慣れない生活で色々とすり減ってないといいけど。
「まあ、騎士団の訓練に比べればどうということはありませんよ」
角が取れて、だいぶ丸くなってるけど。
最初の頃は帰りたい、帰りたいと泣いていたのに。
「えっ? 領地に帰りたいですかって? とんでもありません」
何が、どうとんでもないのだろうか?
「貴族の子弟としてのしがらみから解放されて、分かりました。権力のなんと儚いものか」
色々と達観した様子だけど。
「それに、ゴブリナさんはとても優しいですし」
ゴブリナ、うん彼を連れ去ったゴブリン。
まあ、汚れた下着を洗ってもらった相手だ。
自尊心やプライドなんか、とっくにどっかに消え失せてるだろう。
ゴブリナも手のかかる子供を見るような目で、よく面倒を見ているけど。
なかなかに、夫婦仲は良さそうだ。
「いえ、照れますね」
夫婦であることは否定しないらしい。
まあ、本人が幸せならそれでいい。
ただ、流石は貴族のボンボン。
最近は精力的に集落の仕事を手伝っているけど。
あまり、役に立っていない。
まったく立っていないわけじゃないのが、少し扱いにくい。
いないより、いた方がマシな程度。
ただ、本人が楽しくやる気をもってやっているから。
手伝わせている方も、あまり邪険にはできない。
そんなイッヌだけど、意外な才能があることが分かった。
「うん、美味しい」
イッヌが持ってきたクッキーを口に入れて、思わず唸ってしまった。
そう、お菓子作りにおいて、思わぬ才能があったのだ。
まず、几帳面な性格故に、レシピに書かれている材料の分量をきっちりと図る。
それこそ俺が用意した電子スケールの小数点第1位のレベルで。
時間もきっちり。
温度もきっちり。
几帳面な性格が幸いして、お菓子作りにおいては集落でもダントツで一位。
お祝い事や、何かあるときにはお願いするレベル。
ゴブリナにもことあるごとに、お菓子を振舞っているらしい。
周囲の雌ゴブリン達が、羨ましがっている。
とはいえ、一応一夫一妻制になりつつある。
だから、他の雌ゴブリンも手を出すことはない。
ストリング?
あいつは最初から3人だったから。
結婚も3人同時だったから。
だから、あれはあれでいいんじゃないかな?
俺も見習ってお菓子を作ってみたけど。
「お……美味しいですよ?」
ジニーが食べたあとで、凄い勢いで牛乳を飲んでたのを見たら。
色々と察した。
「いや、本当に味は美味しいんですよ? ただ、口の中の水分を全てもっていかれるというか」
だったら、その手に持った牛乳の紙パックを先に置こうか?
現状クッキー1枚に対して、コップいっぱいの牛乳が無くなっているけど?
牛乳片手にクッキーは分かるけど、それはコップの話であって。
「小麦粉にはグルテンが含まれてますので、練りすぎると弾力が強くなりすぎるんです。その状態で焼くと固くてパサパサになります。あとは、打ち粉はきちんと強力粉を使ってますか?」
えっ?
小麦粉なんて、全部一緒だろ?
薄力粉で作ったから、薄力粉で……
「はぁ……」
イッヌに盛大に溜息を吐かれた。
いや、おま……まあ、はい……すみません。
「薄力粉は粒子が細かいので生地に吸収されます。それで結果として、生地の小麦量が増えて……」
細かい。
凄く細かい。
油なんて適当でいいだろう。
牛乳だって、一度にドバッと入れようが、ちょっとずつ入れようが大差ないと思うんだけど。
「その結果がこれですが?」
一枚食べては牛乳をぐいっと口に含んで、ゆすぐようにして飲み込んでいるジニーの姿を見ると。
ミレーネは……一枚食べてから、あとは紅茶をゆっくりと飲んでいる。
二枚目を手にとることはなかった。
……
「これもらっていい?」
あっ、ミレーネが戸棚からキキキナガのビスケットを持ってきて、強請ってくる。
いや、別に構わないけど。
「ありがとう」
うん、俺の焼いたクッキーがまだ、たくさんあるんだけど?
仕方なく、イグニに処理してもらった。
あれだけ口がでかいと、お皿いっぱいのクッキーをほおばったところで。
「これ、いつまでも口にに残るのだが?」
そんなでかい口で何を言ってるのかな?
「あー……なんか粘り気が増してきたら、余計に飲み込みにくくなったのじゃが?」
仕方ないから、口に大量の牛乳を流し込んでやった。
ちょっとむせてたけど、無事飲み込めたらしい。
「料理は目分量でも、そこそこ上手にできるのにな」
「おかずとお菓子は字面は似てても、全然違うものですよ」
そういうものなのか。
「こうして食べれば美味しいぞ?」
アスマさんが、キキキナガのカフェオレに浸して食べていたが。
確かにしっとりして、美味しそう。
ただ、カフェオレの中がすごいことになってる。
ポロポロと崩れたクッキーの欠片で。
ふふ……でも、美味しく食べようとしてくれてありがとう。
アスマさんの優しさが染みるというか、痛いというか。
でも、素直に受け取っておこう。
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