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第1章:赴任

第33話:エドとシドとキノコマル

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 来客が立て続けに来て、エドとシドを少し放置してしまった。
 2人を家に呼んで、頭を下げる。

「いえいえ、気にしなさんな」
「うむ、おかげでゆっくりと身体を休めることもできたしのう」

 2人が笑いながら、許してくれたが。
 その間に、2人で集落内を見て回っていたらしい。
 ゲソチの案内で。

「しかし、この規模で集落か」
「もはや、村……人口規模でいえば村じゃが、町と遜色ないな」

 確かに土魔法による建物が立ち並んでいる様は、それなりに立派だ。
 倉庫もしっかりとしたものを作っているし。
 外周の農業地帯も、それなりに整っている。
 しかし、お店というものが一軒もない。
 それもそうだ。
 集落内でお金を使うというか、ゴブリンがお金を使うことはないから。

「エドが鉱物について、教えてくれるんだっけ?」
「ふむ、そうじゃな。ここは土魔法が得意なものが多いから、露天掘りでもいいかもしれぬの」

 露天掘り。
 露天掘りといえば、ダイヤモンド鉱山が思い浮かぶ。
 あの底の見えない、巨大な穴。
 そんなものを、この集落の近くで作られても目立って仕方ない。
 それよりも、周囲の生態系への影響も気になる。

「鉱内掘りよりは、手間が掛からぬが」

 鉱内掘りは、採掘といわれて真っ先に思い浮かぶあれだな。
 鉱山とかで、よくみるあれ。
 ということは、山か。

「はっはっは! 別に山でなくとも、縦穴を掘ってそこから横に向けて坑道を掘る方法もある。まあ、山であればその縦穴を掘る手間が無い分楽じゃが……」

 そう言って、エドが顎髭をさすりながら窓の外を見る。
 うん……山はあるにはあるが、凄く遠い。
 
「あそこから運んでくるだけでも大変じゃのう」

 ちなみにエドは顎髭を三つ編みにしている。
 首を振るたびに、その髭がプラプラ揺れるのがちょっと気になる。

 とりあえず、ゴブサク達と話し合って試験的に色々と試してもらうことに。
 
「で、シドが金属加工を」
「まずは、炉と窯からだな。インゴッドを作るところから始めねばなるまい」

 こっちは髭は綺麗に切りそろえられている。
 てっきり、ドワーフにとって髭は大事なもので、切ったり剃ったりはしないと思っていたが。

「はっはっは! わしらは火を扱って、鍛冶をするからの? そんな長い髭すぐに火が燃え移って、あっという間にボロボロになる」
 
 言われてみればそうか。
 いや、そこは熟練の技術とかで……

「髭に気を遣いながら作業するくらいなら、その分の集中力も鍛冶に回す。命を守る武具を作る仕事に手抜きは許されぬからのう」

 立派だ。
 くだらないことを言ったと、素直に謝罪。

「いや、ドワーフを知らぬものからすれば、みなサトウ様のようなイメージをもたれておる」
 
 それから、2人の歓迎会を開くことに。

「我の歓迎会はないのか?」

 イグニが何やらのたまっているが。
 いつまでいるつもりなのかな?

「いや、別にいつまでというわけでもないが。連れてきた手前、問題が無いか見届けるまではおるつもりだが?」

 意外とちゃんとした理由で、安心した。
 ここでの生活が快適で居座る奴が、ちょっとずつ増えてたから。

「わ……我にはいろいろと窮屈すぎる。人型が安定できるよう、帰ったら祖父に鍛えてもらうつもりではあるが」

 そうか。
 確かに大きな竜からすれば、不便だな。
 ちょっと疑心暗鬼になりすぎていたみたいだ。

***
「このキノコうまいっすよー」
 
 その夜に行われた宴会で、キノコマルがエドとシドに茸を進めている。
 キノコマルのテンションが、異様に高い。
 ステータス欄に、毒の表示が。
 いつものやつか。

「こ……これは、アレな茸ではないのか?」
「流石に酒と一緒はまずかろう」

 2人とも知ってたらしい。

「不味くないっすよ! この舌先にピリッと残る感じが、お酒に合うっすよー」
「そういうことを言ってるのではないのだが」
「その気分の昂揚効果が……」
「つべこべ言わずにどうぞっすー!」

 あっ。
 2人が口を開いた瞬間に、キノコマルが手に持った串でハッピーマッシュを突き刺して口に突っ込んでいた。

「ふむ……なかなか、これは」
「確かに、ビールとの相性は良さそうだ」

 一瞬逡巡したが、すぐに咀嚼を始めたところを見ると割と一般的に食されているのかな?
 俺が構えすぎただけか?

「あー、わしらドワーフも、ゴブリンに負けず劣らず頑丈な胃をもっておるからの」
「他の亜人……獣人も大丈夫じゃろうが、耳長や人種、小人には勧めん方がいいぞ」

 なるほど……
 確かに、腹は強そうなイメージがある。
 お酒の飲みすぎで、腹を下したりもしなさそうだし。

「ロードはいかがっすか」
「いらない」

 俺もかなりの耐性らしいが、冒険はしない。
 流石にそこまで、ハメを外すつもりはない。

「そろそろ、うちの集落の雌の誰かにハメてもらいたいものですが」

 横から、ジソチが何やら……

「ありがとうございます!」
 
 久しぶりに強めに殴った。
 やっぱり感謝の言葉が口から出てきたが。
 素直に反省してもらいたい。
 むしろ、こいつをキッチリ型にハメるべきだろうか?
 次期村長として、俺の補佐になるつもりなら。

「りょ、料理をいただいてまいります」

 不穏な気配を察知したのか、ジソチがテーブルの方に向かっていったが。

「ロードって下ネタ苦手っすよねー!」

 キノコマルが横でにやにやしているが。
 苦手というか、なんというか。
 そもそもゴブリンと猥談なんかしても、まったく楽しくない。
 まあ、元から好きでもないが。

「日常的にそういうことを口にしていたら、いつか失敗する。今は、特に厳しいからな」

 あと、下品だとかどうだとか以前に、単純に何が面白いのかさっぱり分からないのもある。
 なんか、茶化すようなものでもないとも思っているし。

「顔に大きな大根張り付けて真面目な話されても、全然入ってこないっすよー」

 それは、その手に持ってる茸のせいじゃないかな?
 俺の顔には、何もついてないぞ?

「ロードの顎がニョーンってなってるっすー! アハハハハハ!」

 人の顔を指さすな。
 はぁ……
 ハッピーマッシュを食べたキノコマルを見てると、なぜだかこっちまでハッピーになってくるが。
 まさか、吐く息に胞子が混ざってたりしないよな?

「キノコマルも情けないのう。その程度の量でトリップするとは」

 エドが呆れたように言ってるけど、お前がいま話しかけてるのスープが入ったお皿だからな?

「すまぬな、サトウ殿。エドも流石に酒と一緒なら、ああなってしまうようだ」

 うんシド、俺に謝ってるつもりかもしれないが。
 それは、ミレーネだ。

「わ……私はまだサトウではない」

 ミレーネが意味が分からないことを口走っている。
 人間は進化しないし、進化してもサトウにはならないぞ?

 ハッピーマッシュでも食わされたのか?

 あー……ただの飲みすぎか。

「私もまだサトウじゃないよー」

 ジニーも酔っているようだ。
 よし、あそこで服を脱いで、鍋に入ろうとしているキノコマルを止めにいかないと。

「それは風呂じゃないぞー! 茹でられるからやめとけー」
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