転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

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第1章:赴任

第51話:キノコノコノコ元気の子

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「わしも何度も魔王と闘ってきたが、歴代最強で間違いない」

 アスマさんは、勇者か何かかな?
 そんなに、何度も魔王と闘う機会があるなんて。

「ふんっ! わしで腕試しをするものや、わしを配下に加えようとするものが多くてな。前者は適当に楽しませてもらって、後者はしっかりと適性を図らせてもらっておる」

 でもって、アスマさんの眼鏡に叶う魔王はいなかったと。

「誇るといい。わしが生涯で部下にしてくれと頼んだのは、お主ただ一人じゃ!」

 結局部下にはなってないけどね。
 あと生涯って……

「なんじゃ? わしは、まだ生きておるぞ」

 そういうことにしておこう。

 そのエルハザード。
 彼に対するクレームが、ゴブリン達から出ている。
 起きているときは喚いてうるさいし、寝てたらいびきがうるさいしと。
 常にうるさい。
 でも、今日は不思議と静かだ。

 嫌な予感がしたので、慌ててエルハザードのところに。
 しっかりと埋まっていて、安心した。
 かなりコミカルな格好になっているけど。
 
 でもって、近づくとうるさい。
 フガフガ言ってる。

 それもそのはず。
 口には花柄の布が巻かれている。
 そして、鼻の穴にきのこが二本つっこまれていた。
 頭には、これまたお花の冠。
 角にカラフルな輪っかが、たくさんかぶせられている。
 そしてサングラス。
 かなり大きなパーティ仕様の。
 兎耳のカチューシャ付き。

 遅れてきたアスマさんを見ると、わしじゃないとばかりに首を横にふっている。
 
 となると、あいつか。
 そんな気しかしなかったけど。
 ちょっと離れたところで、腹を抱えてケタケタ笑っているあいつ。

「寝ててもうるさいから、物理的に静かにしたっすよー」

 物理的とか、難しい言葉を知ってるんだな。

「馬鹿にしてるっすか?」

 馬鹿にしてるわけじゃない。
 お馬鹿だと思ってるだけだ。

「はぁ……」

 俺は溜息を吐くと、エルハザードの首飾りを取る。

「あっ!」

 次の瞬間、エルハザードが地面を隆起させて飛び出す。

「貴様! くそゴブリン風情が……いや、ゴブリンにしてはあれだが、ゴブリンの分際でよくも俺を辱めてくれたな」

 凄い勢いでエルハザードがキノコマルに突っ込んでいって、轟音を響かせながら拳を振るう。
 まあ、当然あっさりと避けられているわけだけど。

「ぐぬぬ! 避けるな! くそっ! すばしっこいやつめ! ぬぅ! わざわざ近づいてくるとはよほど死にたいらっ! この距離で外しただと!」

 やっぱり騒がしい。
 
「ウチを殴りたかったら、ロードの10倍は速くないと無理っすよ!」

 両手をパーにして、親指を鼻の穴に沿えて舌を出してベロベロと小ばかにした仕草をしているが。
 そうか……俺でもまだまだ遅いと。
 そう、言いたいんだな?
 まあ、こいつはそういうやつだからな。

「ちょっ! そっちは、シャレにならないっす! 当たる気はしないっすけど、当たったらやばいっす!」
「まるで、俺の拳は当たっても平気みたいな口ぶりだな」

 当たる気はしないと……ふふ……そうか……その挑戦、受けて立つ!

***
 エルハザードにキノコマルをぶつけて、エルハザードがムキになるのを見て楽しもうと思っていたが。
 いつの間にか、俺も熱くなってしまっていた。
 落ち着こう。

 よし落ち着いた。
 だから、冷静にキノコマルの動きが見える。
 ここだ!
 よし、捉えた!

「ふっ……残像っすよ!」

 なんだ……と?
 俺の拳は確かに、キノコマルの顔面を打ち抜いたはずだったのに。
 気付けば、ちょっと離れた場所にキノコマルがいた。

「こうなったら、ここら一帯ごと吹き飛ばしてやる!」

 あっ、エルハザードがキレた。
 でも、それはちょっと困る。

「おわっとっす」

 と、ちょうどそのタイミングでキノコマルがつまずいた。

「馬鹿め!」
 
 そして、エルハザードの渾身の一撃がキノコマルを弾き飛ばす。
 どうやら、物騒な技じゃなくて、殴れると思ったらしく普通の攻撃に切り替えてくれたようだ。
 
「とことん、その身に俺の強さを染みこませてくれるわ」

 空中コンボよろしく、上空に飛翔しながらキノコマルをボコボコにしているけど。

「ノリノリっすねー」

 そのキノコマルは俺の横に立って、手を水平にして眉のとこに当てて自分が吹き飛ばされていくのを見ている。
 チャンス!

「いや、当たらないっすって」

 こっちを見てないからと思って裏拳を放ったが、しゃがんであっさり躱されてしまった。
 もう諦めた。
 挑戦的だったから乗ってみただけで、本気で殴りたいと思ったわけじゃないし。
 最初は。

「で、あれはなんだ?」
「実体を伴う幻術っすよ」

 凄いな。
 実体のある幻は、幻と言わないと思うんだが。

「本人の望む事象を見せて幸せな気分にさせる、自分のユニークスキルっす」

 あんまり多用しないように。
 なんか、ハマったらまずいスキルに聞こえるし。

「常習性はないっすけど、意思が弱いと落ち込んだときとかに頼られそうっすね」

 麻薬に近いスキルだな。
 俺が許可した相手以外に使わないように。

「了解っす! ちなみに、あれは?」

 まあ、あいつなら良いだろう。
 存在自体がここまで迷惑な客は初めてだし。
 
「これで、ラストだ!」

 最後にスレッジハンマーを空中で放って、キノコマルが地面にたたきつけられて爆発していた。
 なぜか、エルハザードがビクッとなってたけど。

「やりすぎたか? まさか、火系統の造成付与が攻撃に乗るとは」

 ああ、本来は爆発するような技じゃないのね。

「演出っすよー! 本人が、派手なフィニッシュを望んだんじゃないっすかねー? にしても、酷い人っすね? どんだけ、自分の事ボコボコにしたいんすか」

 そう言って、また腹を抱えて地面を転がりながら笑っているけど。
 自分があんな目に合う姿を見て、笑えるとか。
 とことん、人生楽しんでるなー。
 
「ちなみに効果時間は?」
「本人が幻覚に気付くか、自分が解除するか、寝て起きたら解けるっすよ」

 一晩経ったら解けるときいて、一安心。
 とりあえず、満足げに地面に降り立って頷いているエルハザードに声を掛ける。

「もう満足か?」
「ぬ? 誰だお前は!」

 本気でぶん殴ろうかと思った。
 この間、自己紹介して気に入ってくれたんじゃなかったのか。
 
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