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第1章:剣と少年
閑話2:ゴブリンの村
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「凄いねー」
「はは、ニコ様でも驚かれますか」
何かと世話をやいてくれる、元皺の多いゴブリンさんが横に立ってにこやかに笑っている。
うん、笑っている。
分かる。
だって皺ものびて、ちょっと彫りが深い穏やかな顔になったから。
進化して。
何に?
種族は、ユニークのゴブリンビレッジヘッドマンというらしい。
老齢の風格ある、男性。
背丈は僕と同じくらい。
ゴブリンにしては、かなり大きい。
筋肉は……かなり負けてるけど。
鈴木さんがゴブスチャンと名付けてた。
僕が何に驚いているかというと……
ゴブリンたちが、ワーワー言いながらやってる建築風景に。
最近の彼らは木を加工して、建物を建て始めた。
通りのようなものも整備している。
ゴブリンカーペンターに種族進化したらしい。
基本ホブゴブリンらしいけど、頭領はゴブリンカーペンターヘッドらしい。
うーん……
ゴブリンの進化過程が分からない。
取り合えず、鈴木さんがホブゴブリンの上は無いのかなと残念がっていたけど。
もともとの彼らの家は草で編んだ家だったから、木造住宅はかなりの進歩。
通りは地面をならして、大きくて1面以上が平たい岩を埋め込んでいる。
うんうん……普通に村だね。
集落から村に進歩した感じ?
服も腰蓑から、上下セパレートのものやワンピースに進歩してる。
こっちは雌のホブゴブリンが、頑張ってる。
一部、ゴブリンシームストレスという種族に。
すでにゴブリンたちの3分の2がホブゴブリンに進化した。
そのお陰で、見た目的にもかなり親しみがもてる……
おかしい。
もはやホブゴブリンとか、下手したら1体でも僕にとっては必死で逃げないといけない魔物。
普通のゴブリンとは隔絶された実力を持つ魔物だ。
討伐推奨冒険者ランクでいったら、DからEの間かな?
少なくともコボルトよりは強い。
僕からすればぱっと見コボルトと犬よりの犬獣人の区別がつかないけど、コボルトは魔物だ。
ゴブリンよりは、かなり強い。
そのコボルトの推奨討伐ランクが、EからF級。
だからホブゴブリンになって、実力は2段階くらい上がってる。
個体差があるけど。
これは普通のホブゴブリン。
ここにいるのは、みんな職持ちだからさらにワンランク上。
うーん、大工や裁縫師って強いのかな?
糸は植物の繊維や、キャタピラ系の魔物から入手してるらしい。
というか、キャタピラを飼いだしたのにはびっくり。
魔物同士、意思疎通できるのかな?
いまは、餌によって色のついた糸を出せることを発見して、それの研究をしてるゴブリンもいる。
何故か緑色の葉っぱを食べたキャタピラの吐いた糸が、濃い青だったのには驚いた。
他の色は花を食べたり、石を砕いたものを粉にして葉っぱに混ぜていたのに。
濃い青は、緑の葉っぱから……
『タデ科の植物の中には、藍色の染め物の原料になるものもあってな』
ちなみに花はピンクだったり白だったり。
鈴木さんが何か言ってたけど、単語が全然理解できなかったのでスルーしといた。
鈴木さんはたまに、よく分からないことを言い出す。
てか、自分の知らないところで鈴木さんがゴブリンに色々と入れ知恵をしていた。
どうやって?
問い詰めたら、白状した。
僕が眠ると、鈴木さんが身体を動かせるらしい。
なにそれ、怖い。
どおりでぐっすり眠ったはずなのに、目が覚めたときに疲れていることが多々……
ほぼ毎回。
いや、だめだから!
過労で死んじゃうから!
しばらく剣を手放して、眠ることに。
それでも一向に体調が改善されなかった。
訓練の頑張りすぎかな?
違った……
眠ったあとで、ゴブスチャンさんが剣を僕に持たせてた。
いずれこうなることを見越して、あらかじめ指示していたらしい。
……諦めた。
別に、悪いことはしてないみたいだし。
うーん、せめて寝てる間に何してたかだけでも分かる方法があれば。
でも、聞けば最初は意識を失った僕の身体を使って、熊を倒したって言ってたし。
大目に見よう。
いや、それよりも僕の身体のスペックで、あの熊を倒せたことにびっくり。
グレイベア。
体長3m~6mの大型の熊。
推奨討伐ランクB級~C級。
鈴木さんが僕より遥かに強いことが、分かった。
分かってしまった。
でも、僕でも頑張れば勝てることが分かった。
やる気が出る。
『へえ、じゃあそれなりの剣士の身体を操ったら、A級以上じゃないかな?』
F級の僕がB級に近い実力を発揮したわけだ。
そういうことになるだろう。
でも、それは言わないお約束というか。
なぜ、敢えてそれを言った?
腹が立ったので、剣を隠して寝た。
起きたら、普通に疲れてた。
『はっはっは、どこに隠そうともゴブスチャンは俺を見つけ出す』
いや、自慢げに言われても。
厄介。
「今日はやる気が漲ってますね」
「うん、見返してやりたいやつがいるから」
ゴブロウさんとの訓練も身が入るってもんだ。
『結果、俺のためにもなるがな』
急にやる気が削がれた。
「良い感じに力が抜けて、見事な自然体です。あとは、その状態で緊張感も保てたらいいのですが」
ごめんゴブロウさん。
鈴木さんのせいで、脱力しただけだから。
ゴブロウさんは悪くないし、なんか申し訳ないので真剣にやろう。
そんなこんなで、2カ月。
順調に村は発展し、僕もそれなりに実力が上がってきた。
色々な知識もついてきたし。
ゴブリンに教わる程度の知識しかなかったのは、どうかと思うと鈴木さんに言われたけど。
教えてくれる人が居なかったんだ。
仕方ないよね?
あからさまに、鈴木さんに同情された。
くっ、ダメージが。
「ニコ様、それ食べたらお腹壊すよ?」
籠に入れた薬草を、子供のゴブリンが取り出して見せてくる。
「えっ? 薬草だよ?」
「これは、イヤシ草モドキ! ほら、葉っぱの先にとげがあるでしょ?」
「うーん、ああよく見るとあるね」
「よく見なくてもあるよ? 一昨日も教えたのに」
子供のゴブリンが困ったように首を傾げて、そのあとちょっと頬を膨らませてた。
可愛い。
素直に可愛い。
ホブゴブリン達は何故か、普通の職人みたいなゴブリンに進化するのが多いけど。
子供たちは、ゴブリンキッズに進化してただただ可愛くなった。
でも、ホブゴブリンなんだよね。
***
「鈴木様、今日はどうされますか?」
「ああ、い組を連れて狩りに出ようと思う」
私はゴブスチャン。
テトの森のゴブリンの群れの1つをまとめている。
といっても、我らのボスは目の前の幼い人間……
ではなく、彼がもつ剣だ。
この剣、かなりヤバイ。
どのくらいヤバイかというと……
「前みた熊がいると良いんだけど」
「グレイベアですか……」
熊をこの少年のたおやかな身体で、簡単に仕留める。
うん、正直に言おう。
ニコ様の貧相な身体でも、この森の頂点に近いグレイベアを仕留める。
ちなみにニコ様は、残念ながら凡庸な人間だ。
普通のゴブリンでも2人掛かりで挑めば、リスクなしで狩れるくらいに。
……
お判りいただけただろう。
いかに、我らが主がヤバイかというのが。
その主、鈴木様によって私たちは鍛えられている最中だ。
鈴木様が弱らせた魔物を狩ることで、種族進化を促してもらって。
それだけじゃない。
色々な知識も授けてくださる。
生活も豊かになってきている。
何よりも食糧事情が大幅に改善され、我らの群れは全体的に体つきが立派になってきている。
この森の他のゴブリン相手だと、おそらく3人から4人で他の群れを相手できるくらいに。
そんなに強くなった私達だが、強くなればなるほど鈴木様の凄さが。
それ以前に、鈴木様は硬質な金属だから。
そう簡単にどうこうできる相手ではない。
今となっては恩もあって、どうこうする気すらおきない。
というか、鈴木様に喜んでもらいたい。
主が喜ぶと、何故か私達も嬉しくなる。
順調に群れの生活環境が改善されていくなか、事件が起こった。
他の群れの襲来。
それも4つの群れが共同戦線を組んでの。
ゴブリンにそんな知恵があったことに驚く。
いや、ゴブリンの私が言えたことじゃないが。
しかしホブゴブリンを多数抱える我らに挑むとは。
愚か。
所詮はゴブリンか。
私もゴブリンだが。
いや、本当に馬鹿なんですよ。
私たち。
いまの私たちは違いますが。
主の配下になってから、知性が迸るというか。
色々と思考能力等が大幅に伸びてるのは体感してるのですが。
もともとは愚かな種族です。
食べることと繁殖くらいしから、行動に目的が見いだせない種族。
口伝で先祖代々の生活の知恵を受け継ぎ、それも何度も反芻して言葉で繰り返しながら行動しないと忘れちゃうくらいに。
食事を取ってものの1時間後にお腹が空いたら、食事を取ったことを忘れるくらいに馬鹿なんです。
子作りにしてもことが終わってしばらくしたら、忘れてまた交尾するものも少なくないわけで。
若い新婚のゴブリンの中には、年中寝不足気味のやつもいて。
まあ、新婚あるあるで笑い話でもあるんですけどね。
そんなバカなゴブリンが連合を組む。
これは、異常なこと。
そう思って、相手の群れを見て納得。
ホブゴブリンいました。
しかも、ゴブリンソルジャー。
職持ちのホブゴブリン。
……なるほど。
連合じゃなく、吸収されたわけですね。
で、別に私達を狙った理由も、単なる戦力拡大というか。
手駒を増やすために、侵攻してきたと。
ふはははは!
愚か!
所詮はゴブリンソルジャーとはいえ、ゴブリン。
彼我の力量差も見抜けぬ愚かものが進化したところで、そこに知性は宿らなかったと見える。
えっ?
お前が言うな?
はい、申し訳ありません。
どうやら、口に出してたらしい。
主に、呆れられてしまった。
しかし心外。
流石に、あれよりはマシだと思いたい。
腰蓑をつけて木の棒をもってギャッギャッと醜く喚く、先陣部隊よりは。
いや、ちょっ!
出会ったときの話を持ち出すのは反則ですよ!
今を、見てくださいよ!
確かに、見下せるような立場じゃないですけど。
いま!
いまなら、確実に私たちの方が上ですから。
取り合えず、5人の若いゴブリンを里から送り込んで。
適当に打ち合わせて、撤退……
向こうの先方隊は20匹くらいでしたが、10匹倒したらあっちが逃げて……
いやいや、適当に打ち合ったら逃げるって指示……
弱すぎて?
軽く打っただけで捌くこともできずに、手に持った武器ごと打ち据えられる相手にどう手加減しろと?
いや、そこはうまいこと……
おお!
相手がさらに仲間を引き連れて。
60匹くらい。
うん?
ほぼ全戦力じゃない?
5人相手に?
馬鹿なの?
馬鹿か。
最後尾をゴブリンソルジャーが、剣を振り上げてワーワー言ってるけど。
馬鹿だな。
他より大柄なホブゴブリンだから、頭いっこ飛び出してる。
丸見え。
あー……ゴブリンアーチャーに矢であれを射かけさせたらどうなるかな?
主に教えてもらった十面埋伏ってのやってみたかったのに。
そうなるよね?
気が付いたらそのゴブリンソルジャーに向けて、うちのゴブリンアーチャーが矢を、ゴブリンメイジがファイアーアローを放ってました。
アホ面下げてこっちを挑発しながら、無防備に突っ込んできたからムカついてつい?
うん、分かりすぎる。
額に矢が刺さって大口あけてびっくりした顔したゴブリンソルジャー……
のその顔に、追い打ちで鋭く伸びた火の矢がぶつかり顔面炎上。
いや、すでに致命傷だったよね?
目の前のゴブリンたちは……大将が死んだのに気づかずワーワー言いながら迫ってくる。
うーん……
これは、いけちゃうかな?
主の授けてくださった、計略……
あー、いけちゃわなかったか。
後ろがゴブリンソルジャーの異変に気付いて、騒ぎ始めて。
うわぁ……なんで散り散りに逃げちゃうかな?
あとで、どうやって合流するんだろう?
しばらく、はぐれゴブリンがあちこちに出そう。
……なんか、群れの中に知らない顔がちょっとずつ増えてるけど。
しれっとうちの村に入り込んでるけど、数日前にうちを襲おうとしたの忘れたのかな?
忘れてるんだろうな……
ゴブリンだから。
馬鹿だから。
やっと戻ってこられたみたいな顔してるし。
うんうん……
ここ、キミたちが元いた集落じゃないけどね。
あそこで新入り同士が顔を合わせて、初めましてとかってやってるけど。
君たちここを襲撃したときに、前後で並んでたよね?
あと、私に対して久しぶりですって声かけてきたキミ!
確かに襲撃のとき以来だから、久しぶりだけどさ……
そういう意味じゃないよね?
うん、このくらい普通のゴブリンって馬鹿なんだ。
恥ずかしい……
「はは、ニコ様でも驚かれますか」
何かと世話をやいてくれる、元皺の多いゴブリンさんが横に立ってにこやかに笑っている。
うん、笑っている。
分かる。
だって皺ものびて、ちょっと彫りが深い穏やかな顔になったから。
進化して。
何に?
種族は、ユニークのゴブリンビレッジヘッドマンというらしい。
老齢の風格ある、男性。
背丈は僕と同じくらい。
ゴブリンにしては、かなり大きい。
筋肉は……かなり負けてるけど。
鈴木さんがゴブスチャンと名付けてた。
僕が何に驚いているかというと……
ゴブリンたちが、ワーワー言いながらやってる建築風景に。
最近の彼らは木を加工して、建物を建て始めた。
通りのようなものも整備している。
ゴブリンカーペンターに種族進化したらしい。
基本ホブゴブリンらしいけど、頭領はゴブリンカーペンターヘッドらしい。
うーん……
ゴブリンの進化過程が分からない。
取り合えず、鈴木さんがホブゴブリンの上は無いのかなと残念がっていたけど。
もともとの彼らの家は草で編んだ家だったから、木造住宅はかなりの進歩。
通りは地面をならして、大きくて1面以上が平たい岩を埋め込んでいる。
うんうん……普通に村だね。
集落から村に進歩した感じ?
服も腰蓑から、上下セパレートのものやワンピースに進歩してる。
こっちは雌のホブゴブリンが、頑張ってる。
一部、ゴブリンシームストレスという種族に。
すでにゴブリンたちの3分の2がホブゴブリンに進化した。
そのお陰で、見た目的にもかなり親しみがもてる……
おかしい。
もはやホブゴブリンとか、下手したら1体でも僕にとっては必死で逃げないといけない魔物。
普通のゴブリンとは隔絶された実力を持つ魔物だ。
討伐推奨冒険者ランクでいったら、DからEの間かな?
少なくともコボルトよりは強い。
僕からすればぱっと見コボルトと犬よりの犬獣人の区別がつかないけど、コボルトは魔物だ。
ゴブリンよりは、かなり強い。
そのコボルトの推奨討伐ランクが、EからF級。
だからホブゴブリンになって、実力は2段階くらい上がってる。
個体差があるけど。
これは普通のホブゴブリン。
ここにいるのは、みんな職持ちだからさらにワンランク上。
うーん、大工や裁縫師って強いのかな?
糸は植物の繊維や、キャタピラ系の魔物から入手してるらしい。
というか、キャタピラを飼いだしたのにはびっくり。
魔物同士、意思疎通できるのかな?
いまは、餌によって色のついた糸を出せることを発見して、それの研究をしてるゴブリンもいる。
何故か緑色の葉っぱを食べたキャタピラの吐いた糸が、濃い青だったのには驚いた。
他の色は花を食べたり、石を砕いたものを粉にして葉っぱに混ぜていたのに。
濃い青は、緑の葉っぱから……
『タデ科の植物の中には、藍色の染め物の原料になるものもあってな』
ちなみに花はピンクだったり白だったり。
鈴木さんが何か言ってたけど、単語が全然理解できなかったのでスルーしといた。
鈴木さんはたまに、よく分からないことを言い出す。
てか、自分の知らないところで鈴木さんがゴブリンに色々と入れ知恵をしていた。
どうやって?
問い詰めたら、白状した。
僕が眠ると、鈴木さんが身体を動かせるらしい。
なにそれ、怖い。
どおりでぐっすり眠ったはずなのに、目が覚めたときに疲れていることが多々……
ほぼ毎回。
いや、だめだから!
過労で死んじゃうから!
しばらく剣を手放して、眠ることに。
それでも一向に体調が改善されなかった。
訓練の頑張りすぎかな?
違った……
眠ったあとで、ゴブスチャンさんが剣を僕に持たせてた。
いずれこうなることを見越して、あらかじめ指示していたらしい。
……諦めた。
別に、悪いことはしてないみたいだし。
うーん、せめて寝てる間に何してたかだけでも分かる方法があれば。
でも、聞けば最初は意識を失った僕の身体を使って、熊を倒したって言ってたし。
大目に見よう。
いや、それよりも僕の身体のスペックで、あの熊を倒せたことにびっくり。
グレイベア。
体長3m~6mの大型の熊。
推奨討伐ランクB級~C級。
鈴木さんが僕より遥かに強いことが、分かった。
分かってしまった。
でも、僕でも頑張れば勝てることが分かった。
やる気が出る。
『へえ、じゃあそれなりの剣士の身体を操ったら、A級以上じゃないかな?』
F級の僕がB級に近い実力を発揮したわけだ。
そういうことになるだろう。
でも、それは言わないお約束というか。
なぜ、敢えてそれを言った?
腹が立ったので、剣を隠して寝た。
起きたら、普通に疲れてた。
『はっはっは、どこに隠そうともゴブスチャンは俺を見つけ出す』
いや、自慢げに言われても。
厄介。
「今日はやる気が漲ってますね」
「うん、見返してやりたいやつがいるから」
ゴブロウさんとの訓練も身が入るってもんだ。
『結果、俺のためにもなるがな』
急にやる気が削がれた。
「良い感じに力が抜けて、見事な自然体です。あとは、その状態で緊張感も保てたらいいのですが」
ごめんゴブロウさん。
鈴木さんのせいで、脱力しただけだから。
ゴブロウさんは悪くないし、なんか申し訳ないので真剣にやろう。
そんなこんなで、2カ月。
順調に村は発展し、僕もそれなりに実力が上がってきた。
色々な知識もついてきたし。
ゴブリンに教わる程度の知識しかなかったのは、どうかと思うと鈴木さんに言われたけど。
教えてくれる人が居なかったんだ。
仕方ないよね?
あからさまに、鈴木さんに同情された。
くっ、ダメージが。
「ニコ様、それ食べたらお腹壊すよ?」
籠に入れた薬草を、子供のゴブリンが取り出して見せてくる。
「えっ? 薬草だよ?」
「これは、イヤシ草モドキ! ほら、葉っぱの先にとげがあるでしょ?」
「うーん、ああよく見るとあるね」
「よく見なくてもあるよ? 一昨日も教えたのに」
子供のゴブリンが困ったように首を傾げて、そのあとちょっと頬を膨らませてた。
可愛い。
素直に可愛い。
ホブゴブリン達は何故か、普通の職人みたいなゴブリンに進化するのが多いけど。
子供たちは、ゴブリンキッズに進化してただただ可愛くなった。
でも、ホブゴブリンなんだよね。
***
「鈴木様、今日はどうされますか?」
「ああ、い組を連れて狩りに出ようと思う」
私はゴブスチャン。
テトの森のゴブリンの群れの1つをまとめている。
といっても、我らのボスは目の前の幼い人間……
ではなく、彼がもつ剣だ。
この剣、かなりヤバイ。
どのくらいヤバイかというと……
「前みた熊がいると良いんだけど」
「グレイベアですか……」
熊をこの少年のたおやかな身体で、簡単に仕留める。
うん、正直に言おう。
ニコ様の貧相な身体でも、この森の頂点に近いグレイベアを仕留める。
ちなみにニコ様は、残念ながら凡庸な人間だ。
普通のゴブリンでも2人掛かりで挑めば、リスクなしで狩れるくらいに。
……
お判りいただけただろう。
いかに、我らが主がヤバイかというのが。
その主、鈴木様によって私たちは鍛えられている最中だ。
鈴木様が弱らせた魔物を狩ることで、種族進化を促してもらって。
それだけじゃない。
色々な知識も授けてくださる。
生活も豊かになってきている。
何よりも食糧事情が大幅に改善され、我らの群れは全体的に体つきが立派になってきている。
この森の他のゴブリン相手だと、おそらく3人から4人で他の群れを相手できるくらいに。
そんなに強くなった私達だが、強くなればなるほど鈴木様の凄さが。
それ以前に、鈴木様は硬質な金属だから。
そう簡単にどうこうできる相手ではない。
今となっては恩もあって、どうこうする気すらおきない。
というか、鈴木様に喜んでもらいたい。
主が喜ぶと、何故か私達も嬉しくなる。
順調に群れの生活環境が改善されていくなか、事件が起こった。
他の群れの襲来。
それも4つの群れが共同戦線を組んでの。
ゴブリンにそんな知恵があったことに驚く。
いや、ゴブリンの私が言えたことじゃないが。
しかしホブゴブリンを多数抱える我らに挑むとは。
愚か。
所詮はゴブリンか。
私もゴブリンだが。
いや、本当に馬鹿なんですよ。
私たち。
いまの私たちは違いますが。
主の配下になってから、知性が迸るというか。
色々と思考能力等が大幅に伸びてるのは体感してるのですが。
もともとは愚かな種族です。
食べることと繁殖くらいしから、行動に目的が見いだせない種族。
口伝で先祖代々の生活の知恵を受け継ぎ、それも何度も反芻して言葉で繰り返しながら行動しないと忘れちゃうくらいに。
食事を取ってものの1時間後にお腹が空いたら、食事を取ったことを忘れるくらいに馬鹿なんです。
子作りにしてもことが終わってしばらくしたら、忘れてまた交尾するものも少なくないわけで。
若い新婚のゴブリンの中には、年中寝不足気味のやつもいて。
まあ、新婚あるあるで笑い話でもあるんですけどね。
そんなバカなゴブリンが連合を組む。
これは、異常なこと。
そう思って、相手の群れを見て納得。
ホブゴブリンいました。
しかも、ゴブリンソルジャー。
職持ちのホブゴブリン。
……なるほど。
連合じゃなく、吸収されたわけですね。
で、別に私達を狙った理由も、単なる戦力拡大というか。
手駒を増やすために、侵攻してきたと。
ふはははは!
愚か!
所詮はゴブリンソルジャーとはいえ、ゴブリン。
彼我の力量差も見抜けぬ愚かものが進化したところで、そこに知性は宿らなかったと見える。
えっ?
お前が言うな?
はい、申し訳ありません。
どうやら、口に出してたらしい。
主に、呆れられてしまった。
しかし心外。
流石に、あれよりはマシだと思いたい。
腰蓑をつけて木の棒をもってギャッギャッと醜く喚く、先陣部隊よりは。
いや、ちょっ!
出会ったときの話を持ち出すのは反則ですよ!
今を、見てくださいよ!
確かに、見下せるような立場じゃないですけど。
いま!
いまなら、確実に私たちの方が上ですから。
取り合えず、5人の若いゴブリンを里から送り込んで。
適当に打ち合わせて、撤退……
向こうの先方隊は20匹くらいでしたが、10匹倒したらあっちが逃げて……
いやいや、適当に打ち合ったら逃げるって指示……
弱すぎて?
軽く打っただけで捌くこともできずに、手に持った武器ごと打ち据えられる相手にどう手加減しろと?
いや、そこはうまいこと……
おお!
相手がさらに仲間を引き連れて。
60匹くらい。
うん?
ほぼ全戦力じゃない?
5人相手に?
馬鹿なの?
馬鹿か。
最後尾をゴブリンソルジャーが、剣を振り上げてワーワー言ってるけど。
馬鹿だな。
他より大柄なホブゴブリンだから、頭いっこ飛び出してる。
丸見え。
あー……ゴブリンアーチャーに矢であれを射かけさせたらどうなるかな?
主に教えてもらった十面埋伏ってのやってみたかったのに。
そうなるよね?
気が付いたらそのゴブリンソルジャーに向けて、うちのゴブリンアーチャーが矢を、ゴブリンメイジがファイアーアローを放ってました。
アホ面下げてこっちを挑発しながら、無防備に突っ込んできたからムカついてつい?
うん、分かりすぎる。
額に矢が刺さって大口あけてびっくりした顔したゴブリンソルジャー……
のその顔に、追い打ちで鋭く伸びた火の矢がぶつかり顔面炎上。
いや、すでに致命傷だったよね?
目の前のゴブリンたちは……大将が死んだのに気づかずワーワー言いながら迫ってくる。
うーん……
これは、いけちゃうかな?
主の授けてくださった、計略……
あー、いけちゃわなかったか。
後ろがゴブリンソルジャーの異変に気付いて、騒ぎ始めて。
うわぁ……なんで散り散りに逃げちゃうかな?
あとで、どうやって合流するんだろう?
しばらく、はぐれゴブリンがあちこちに出そう。
……なんか、群れの中に知らない顔がちょっとずつ増えてるけど。
しれっとうちの村に入り込んでるけど、数日前にうちを襲おうとしたの忘れたのかな?
忘れてるんだろうな……
ゴブリンだから。
馬鹿だから。
やっと戻ってこられたみたいな顔してるし。
うんうん……
ここ、キミたちが元いた集落じゃないけどね。
あそこで新入り同士が顔を合わせて、初めましてとかってやってるけど。
君たちここを襲撃したときに、前後で並んでたよね?
あと、私に対して久しぶりですって声かけてきたキミ!
確かに襲撃のとき以来だから、久しぶりだけどさ……
そういう意味じゃないよね?
うん、このくらい普通のゴブリンって馬鹿なんだ。
恥ずかしい……
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順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
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辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
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※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
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