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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと
第3話:大荷物の正体
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「じゃあ、オオキバイノシシの素材全部で、金貨3枚ね」
「あー、金貨2枚は大銀貨でもらえますか?」
「良いわよ」
アリアがニコに、金貨1枚と大銀貨20枚手渡している。
分かりやすい価値観的には金貨が10万円くらいだけど、物価が安いからなー……
金貨1枚で家族が暮らせるくらい。
だから、たぶん30万くらいの感覚でいた方が……微妙に判断に迷う。
あのイノシシ1頭で90万となると、凄い価値だな。
豚が枝肉でだいたい、1kgで500円くらい……
いや、ちょっとまて。
考えてもさっぱり分からん。
あれから、食肉がどれだけ取られるか。
物凄くでかかったから、少なく見積もって100kg。
グラム300円のお肉と考えたら、30万で妥当な感じか。
売値なら。
仕入れ値なら……
ちょっとまて、このイノシシどんだけ高級なんだ?
『ニコ、1kgぐらい肉を確保しとけ』
「えっ?」
『きっと、かなり良い肉だそれ!』
俺の言葉に、少しモヤモヤした様子で1kgの肉を返してもらっていたが。
ギルドの買取価格は変わらなかった。
あー……
牙とかも素材として……牙が1本大銀貨6枚と。
1本は罅が入ってるから……ああ、粉にして使えるから大丈夫?
ちょっと落ちて大銀貨5枚。
内臓関係も使い道があると。
というか、割と余すとこなく使えるらしい。
それこそ骨の髄まで。
ふふ……
肉の相場は普通の食肉っぽい感じか。
「じゃあ、これみんなの分ね」
「えっ?」
「いやいや、貰いすぎ」
そう言って大銀貨5枚をそれぞれに渡す。
バンチョとテッドが驚いた表情を浮かべ、そしてバンチョが慌てた様子で銀貨を返そうとしている。
「うふふ」
「あわわ」
それに対してリサは嬉しそうに微笑みながら大銀貨を握りしめ、ミーナは両手でしっかりと包んで胸に抱いて周りを警戒している。
男の子と女の子で反応が違いすぎて面白いが。
そうか、大銀貨5枚。
肉運んだだけで5万円……
あげすぎじゃね?
『ニコ、それは多いだろう……運んだ分の半分って約束だろ?』
「うーん、部位によって金額が違うから計算めんどくさくて」
「そういうことじゃなくてですね! というか、殆どニコさんが運んだじゃないですか!」
俺に対する返事が、またも奇跡を……
こいつは、もってるんじゃないだろうか。
それよりもだ。
やりすぎは駄目だ。
施しみたいになってるし、それは甘えや悪意を生む。
泥棒じゃなくてもお金がない時に目の前に持ち主のいない財布があったら、悪いと思っててもつい取っちゃうこともあるだろう?
そんな人たちをいままで、たくさん見てきた。
凄く感じのいい年配の女性ですら、道に落ちてた財布をそのまま持って行っちゃったり。
人間なんてのはそんなもん。
ちょっとしたきっかけで、簡単に傾いちゃうことがあるんだ。
盗られた人は当然怒るだろうが、そいつが迂闊なせいで犯罪者になった人も大概可哀そうだな……
俺はそういった現場で、仲裁に入ることが多かったが。
なんともやるせない気持ちになることも。
盗った方が悪いのは当然だが、逆にいえば迂闊な人間のせいで、今まで真っすぐ歩いていた人が道を踏み外して落ちていく。
いや、そういうことが言いたいんじゃなくて。
『やりすぎは、どちらのためにもならない。お前の為にも、適正な報酬を決めろ』
「うん……じゃあ、いくらくらいが妥当なのかな?」
「えーっと、金貨1枚を4等分?」
「うーん、難しい。元のお金が大金過ぎて……ただのポーターなら大銀貨1枚でも御の字だよ」
「はわわ」
テッドの提案に対して、バンチョが困り顔。
それに対して、ミーナは手元の大銀貨を増やしたり、減らしたり。
いくら返すのか決まらい状況にあたふたしている。
そんななかでリサだけが、祈るような表情で成り行きを見守っているが。
この子は欲が深いのか……それとも、お金に困っているのか。
どちらにしろ、要チェックだな。
『大銀貨1枚と銀貨5枚にしとけ。そしたら、4人は大銀貨1枚分、お前も大銀貨2枚分損した気分でちょうど良いんじゃないか?』
「めっちゃ、僕が得してるよ!」
「えっ?」
「どんだけお人よしなんだ、二コさんは!」
『本当にな……呆れる』
なんだかんだと押し問答の末、大銀貨1枚と銀貨5枚、それに肉をギルドから分けてもらうことで片付いた。
話を横で聞いていたアリアからの提案。
そして、お肉の代金は今回も差し引かないらしい。
うん、一番胡散臭いのがアリアのような気がしてきた。
結果、追加で4kgの肉を手に入れたが。
まあ、100kg以上の肉が取れそうなイノシシだ。
5kg減ったところで、大した影響ないか。
となると、肉の価値は案外安いのかもしれない。
「これだけで銀貨3枚は軽く超える……」
ふふふ……ギルドぼろ儲け。
ってわけでもないか。
食肉加工業者に卸して、そこから精肉にして卸すことを考えたら。
えっ?
肉屋で精肉まで一気に加工?
というか、ギルドでも出来る?
ギルド販売だと、100グラムで大銅貨5枚?
100kgで金貨5枚か……
冒険者に対する福利厚生費や、職員の給料とかもあるだろうし。
他所だともっと買いたたかれることの方が多いと。
本当に、なんというか……
まあ、肉にして売れない方が悪いか。
技術料が高いのだと割り切ろう。
「さてと、もうお昼過ぎだし……ゴブリン狩りはどうするの?」
「うーん、そうですね。ご飯を食べてないので食事にしましょう」
「ちょっと、森に戻りましょう」
それぞれがホクホクとした顔をしているのを見て、ちょっと申し訳ない気分。
俺一人だけ損したつもりだったけど、全員満足してるみたいだし。
俺も素直に喜ぶべきだったな。
「追加で色々と買ってからがいい!」
「そうだね、豪勢にいこうか!」
少し街をぶらぶら。
途中肉屋さんで、猪の肉を他の肉と交換してもらってた。
牛っぽいのとか……牛か。
豚っぽいのとか……豚だ。
でも、猪と豚を交換か……
この世界の豚が、どの程度食用に品種改良されてるか知らないけど。
猪と大差なかったら、ショックだな。
『というか、こいつらどういうつもりなんだ?』
「さあ、どういうことかな?」
「あー、実は森の比較的安全な場所で、バーベキューをしようかと」
「というか、入り口の脇にあるセーフエリアで! あそこなら、常に色んな人が間引きして魔物が出ないし」
「水もくめるところがあるから」
本気でハイキング気分だったのかこいつら。
「英気を養うのも、冒険には必要かなって」
それでか……
テッドの鞄を見る。
うん……
いらね。
その荷物を運ぶ労力を考えたら、普通に弁当で良いよね?
まあ、そういうことなら。
『ちょっと家によろうか? 返事気を付けろよ』
「うん……なんで?」
俺が注意したからか、小声でニコが返事を返してきた。
いや、せっかく外で食べるんだったら、俺達もなんかした方が良いだろうし。
『かくかくしかじかで』
「かくかくしかじか?」
『ごほん、なんでもない。まあ、俺達も何か提供すべきだろうってことだ! だから、ゴブリンの国でやってた鍋を提供しようかと』
「うん、それが良いね!」
『声がでかい』
つまらんことを言ってしまったのを、咳払いで誤魔化しつつ説明。
俺が咳払いをしたことにも突っ込んでくれない。
剣に喉はあるのか? とか、気にならないのかな?
気にしないところが、ニコの良いところでもあるが。
心配……
「そんなこんなで」
「どんなこんな? フィーナまで鈴木さんみたいなこと言い出した」
「えっ? 私が主に似てるって? いいじゃない、いいじゃない、いいじゃない?」
フィーナがついてくることになった。
背中に大きな中華鍋を背負って。
うんうん、なんか旅の料理人っぽくていいな。
さらに普通の鍋をかぶって、鍋の蓋を盾にしたり。
でもって、おたまを武器の代わりに。
うーん……
鍋だから、中華鍋よりも土鍋が……
「それは、現地で魔法で作り出せばよくないですか?」
『その背負ってる鍋と、かぶってる鍋の存在意義』
俺の言葉を伝えたニコに対して、にべもなくフィーナが返してきたが。
だったら、手ぶらでいいだろう。
と思ったが、楽しそうなので良いか。
「あの、恥ずかしい」
「そんな、私が一緒だと恥ずかしいのですか?」
「そうじゃなくて、格好が変」
「ガーン」
ニコの的確な指摘に、フィーナが蓋とおたまを取り落として、ガックリと両手両ひざをついて項垂れる。
ウケる。
亀みたい。
何故か剣の方が睨まれた。
うーん、ちょっと鋭くなってきてるな。
「まあ、冗談はさておき、あまり待たせちゃ悪いですよ」
「えっ? 冗談だったの?」
「当り前じゃないですか」
フィーナがすっと起き上がって、いつものワンピースにエプロンを着ける。
うーん、それも森に行く格好としては、大概どうかと思うけど。
そしてギルドで再度集まって、森に。
何故かゴートもついてきた。
流石にC級冒険者についていきたいと言われて、断れるようなE級冒険者はいない。
「そうあからさまに嫌そうにするな」
「えっ?」
残念、ニコじゃなくて俺だ。
別に嫌いじゃないけどね。
反応が面白くてついつい。
というか、俺に反応してくれるのが嬉しくてついだな。
「凄い……」
「どこに、そんな……」
ちなみに、これはニコとフィーナの言葉だ。
それマジックバック? って聞きたくなるくらい、テッドの鞄から出るわ出るわ。
バーベキューセットの数々。
綺麗に折りたたんで収納されてるだけみたいだけど。
細い棒を組み合わせて、ロープと木を使ったターフテントとか。
バンチョが石を集めてきたと思ったら、そこに折り畳みの鉄板を置いたり。
固いもので、鞄の外側を埋めて。
中からは、食材がどんどんと。
鉄板を冷やしてから出たらしく、中の生ものはそんな酷いことにはなってなさそう。
加えて、現地調達したニードルラビットのお肉。
そして、そのた追加のお肉。
目の前にどっさりとお肉。
でもウィンナーは危険じゃないかな?
ポツリヌスとか。
もしかしたら魔法的な力で、どうにか出来たり。
ニコには悪食を発動させておこう。
「ニコさんには助けてもらったお礼をちゃんとしてなかったですから」
「ニコさんが居なかったら、私もテッドもきっと蟻のお腹の中に……」
「本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
なんと、そんなことを考えていたのか。
なかなかいい奴らじゃないか。
なあ、ニコ?
ニコ?
「うっ……」
「ニコさん?」
「うん、みんな無事で良かった」
「そんな、泣かないでください!」
「貴方達、ニコ様を泣かすなんてどういうこと!」
「違うよフィーナ! これはうれし涙だよ!」
「うれし涙?」
「まさか、ニコさんがこんなに感受性豊かだったなんて」
「やばい、私も泣きそう……って、テッド!」
「うぅ……ニコさん、本当に有難う」
「うっ、うぅ……ヴァァァァ」
「わぁ、ミーナまで泣き出した!」
ニコが嬉しくて涙をこぼしたあたりから、場が混沌としてきた。
「で、貴方は何故泣いているのですか?」
「へへ、バーベキューの煙が目に染みてさ」
ちょっと離れたところでゴートがほろりときていたが、フィーナから厳しい突っ込みが。
「勝手についてきたみたいですが……何か思うことはないですか?」
「お……おおう、手厳しいな。流石に、涙も引っ込んだわ」
うん、ややお邪魔虫だもんな。
楽しそうという理由だけで、強引についてきてたけど。
こういうことなら、完全にアウェーというか。
場違い……笑える。
「チクショー!」
ゴートが俺を見て、その場から駆け出したが。
すぐに、トボトボと戻ってきた。
こいつも、相当な寂しがりやだな。
だから、いっつも人が居るギルドにいるんだろうな。
「そんな、生暖かい目で見るな!」
「えっ?」
ニコに向かってゴートが串を片手に悔しそうに叫んでいたが、ニコに首を傾げられるだけだった。
「あー、金貨2枚は大銀貨でもらえますか?」
「良いわよ」
アリアがニコに、金貨1枚と大銀貨20枚手渡している。
分かりやすい価値観的には金貨が10万円くらいだけど、物価が安いからなー……
金貨1枚で家族が暮らせるくらい。
だから、たぶん30万くらいの感覚でいた方が……微妙に判断に迷う。
あのイノシシ1頭で90万となると、凄い価値だな。
豚が枝肉でだいたい、1kgで500円くらい……
いや、ちょっとまて。
考えてもさっぱり分からん。
あれから、食肉がどれだけ取られるか。
物凄くでかかったから、少なく見積もって100kg。
グラム300円のお肉と考えたら、30万で妥当な感じか。
売値なら。
仕入れ値なら……
ちょっとまて、このイノシシどんだけ高級なんだ?
『ニコ、1kgぐらい肉を確保しとけ』
「えっ?」
『きっと、かなり良い肉だそれ!』
俺の言葉に、少しモヤモヤした様子で1kgの肉を返してもらっていたが。
ギルドの買取価格は変わらなかった。
あー……
牙とかも素材として……牙が1本大銀貨6枚と。
1本は罅が入ってるから……ああ、粉にして使えるから大丈夫?
ちょっと落ちて大銀貨5枚。
内臓関係も使い道があると。
というか、割と余すとこなく使えるらしい。
それこそ骨の髄まで。
ふふ……
肉の相場は普通の食肉っぽい感じか。
「じゃあ、これみんなの分ね」
「えっ?」
「いやいや、貰いすぎ」
そう言って大銀貨5枚をそれぞれに渡す。
バンチョとテッドが驚いた表情を浮かべ、そしてバンチョが慌てた様子で銀貨を返そうとしている。
「うふふ」
「あわわ」
それに対してリサは嬉しそうに微笑みながら大銀貨を握りしめ、ミーナは両手でしっかりと包んで胸に抱いて周りを警戒している。
男の子と女の子で反応が違いすぎて面白いが。
そうか、大銀貨5枚。
肉運んだだけで5万円……
あげすぎじゃね?
『ニコ、それは多いだろう……運んだ分の半分って約束だろ?』
「うーん、部位によって金額が違うから計算めんどくさくて」
「そういうことじゃなくてですね! というか、殆どニコさんが運んだじゃないですか!」
俺に対する返事が、またも奇跡を……
こいつは、もってるんじゃないだろうか。
それよりもだ。
やりすぎは駄目だ。
施しみたいになってるし、それは甘えや悪意を生む。
泥棒じゃなくてもお金がない時に目の前に持ち主のいない財布があったら、悪いと思っててもつい取っちゃうこともあるだろう?
そんな人たちをいままで、たくさん見てきた。
凄く感じのいい年配の女性ですら、道に落ちてた財布をそのまま持って行っちゃったり。
人間なんてのはそんなもん。
ちょっとしたきっかけで、簡単に傾いちゃうことがあるんだ。
盗られた人は当然怒るだろうが、そいつが迂闊なせいで犯罪者になった人も大概可哀そうだな……
俺はそういった現場で、仲裁に入ることが多かったが。
なんともやるせない気持ちになることも。
盗った方が悪いのは当然だが、逆にいえば迂闊な人間のせいで、今まで真っすぐ歩いていた人が道を踏み外して落ちていく。
いや、そういうことが言いたいんじゃなくて。
『やりすぎは、どちらのためにもならない。お前の為にも、適正な報酬を決めろ』
「うん……じゃあ、いくらくらいが妥当なのかな?」
「えーっと、金貨1枚を4等分?」
「うーん、難しい。元のお金が大金過ぎて……ただのポーターなら大銀貨1枚でも御の字だよ」
「はわわ」
テッドの提案に対して、バンチョが困り顔。
それに対して、ミーナは手元の大銀貨を増やしたり、減らしたり。
いくら返すのか決まらい状況にあたふたしている。
そんななかでリサだけが、祈るような表情で成り行きを見守っているが。
この子は欲が深いのか……それとも、お金に困っているのか。
どちらにしろ、要チェックだな。
『大銀貨1枚と銀貨5枚にしとけ。そしたら、4人は大銀貨1枚分、お前も大銀貨2枚分損した気分でちょうど良いんじゃないか?』
「めっちゃ、僕が得してるよ!」
「えっ?」
「どんだけお人よしなんだ、二コさんは!」
『本当にな……呆れる』
なんだかんだと押し問答の末、大銀貨1枚と銀貨5枚、それに肉をギルドから分けてもらうことで片付いた。
話を横で聞いていたアリアからの提案。
そして、お肉の代金は今回も差し引かないらしい。
うん、一番胡散臭いのがアリアのような気がしてきた。
結果、追加で4kgの肉を手に入れたが。
まあ、100kg以上の肉が取れそうなイノシシだ。
5kg減ったところで、大した影響ないか。
となると、肉の価値は案外安いのかもしれない。
「これだけで銀貨3枚は軽く超える……」
ふふふ……ギルドぼろ儲け。
ってわけでもないか。
食肉加工業者に卸して、そこから精肉にして卸すことを考えたら。
えっ?
肉屋で精肉まで一気に加工?
というか、ギルドでも出来る?
ギルド販売だと、100グラムで大銅貨5枚?
100kgで金貨5枚か……
冒険者に対する福利厚生費や、職員の給料とかもあるだろうし。
他所だともっと買いたたかれることの方が多いと。
本当に、なんというか……
まあ、肉にして売れない方が悪いか。
技術料が高いのだと割り切ろう。
「さてと、もうお昼過ぎだし……ゴブリン狩りはどうするの?」
「うーん、そうですね。ご飯を食べてないので食事にしましょう」
「ちょっと、森に戻りましょう」
それぞれがホクホクとした顔をしているのを見て、ちょっと申し訳ない気分。
俺一人だけ損したつもりだったけど、全員満足してるみたいだし。
俺も素直に喜ぶべきだったな。
「追加で色々と買ってからがいい!」
「そうだね、豪勢にいこうか!」
少し街をぶらぶら。
途中肉屋さんで、猪の肉を他の肉と交換してもらってた。
牛っぽいのとか……牛か。
豚っぽいのとか……豚だ。
でも、猪と豚を交換か……
この世界の豚が、どの程度食用に品種改良されてるか知らないけど。
猪と大差なかったら、ショックだな。
『というか、こいつらどういうつもりなんだ?』
「さあ、どういうことかな?」
「あー、実は森の比較的安全な場所で、バーベキューをしようかと」
「というか、入り口の脇にあるセーフエリアで! あそこなら、常に色んな人が間引きして魔物が出ないし」
「水もくめるところがあるから」
本気でハイキング気分だったのかこいつら。
「英気を養うのも、冒険には必要かなって」
それでか……
テッドの鞄を見る。
うん……
いらね。
その荷物を運ぶ労力を考えたら、普通に弁当で良いよね?
まあ、そういうことなら。
『ちょっと家によろうか? 返事気を付けろよ』
「うん……なんで?」
俺が注意したからか、小声でニコが返事を返してきた。
いや、せっかく外で食べるんだったら、俺達もなんかした方が良いだろうし。
『かくかくしかじかで』
「かくかくしかじか?」
『ごほん、なんでもない。まあ、俺達も何か提供すべきだろうってことだ! だから、ゴブリンの国でやってた鍋を提供しようかと』
「うん、それが良いね!」
『声がでかい』
つまらんことを言ってしまったのを、咳払いで誤魔化しつつ説明。
俺が咳払いをしたことにも突っ込んでくれない。
剣に喉はあるのか? とか、気にならないのかな?
気にしないところが、ニコの良いところでもあるが。
心配……
「そんなこんなで」
「どんなこんな? フィーナまで鈴木さんみたいなこと言い出した」
「えっ? 私が主に似てるって? いいじゃない、いいじゃない、いいじゃない?」
フィーナがついてくることになった。
背中に大きな中華鍋を背負って。
うんうん、なんか旅の料理人っぽくていいな。
さらに普通の鍋をかぶって、鍋の蓋を盾にしたり。
でもって、おたまを武器の代わりに。
うーん……
鍋だから、中華鍋よりも土鍋が……
「それは、現地で魔法で作り出せばよくないですか?」
『その背負ってる鍋と、かぶってる鍋の存在意義』
俺の言葉を伝えたニコに対して、にべもなくフィーナが返してきたが。
だったら、手ぶらでいいだろう。
と思ったが、楽しそうなので良いか。
「あの、恥ずかしい」
「そんな、私が一緒だと恥ずかしいのですか?」
「そうじゃなくて、格好が変」
「ガーン」
ニコの的確な指摘に、フィーナが蓋とおたまを取り落として、ガックリと両手両ひざをついて項垂れる。
ウケる。
亀みたい。
何故か剣の方が睨まれた。
うーん、ちょっと鋭くなってきてるな。
「まあ、冗談はさておき、あまり待たせちゃ悪いですよ」
「えっ? 冗談だったの?」
「当り前じゃないですか」
フィーナがすっと起き上がって、いつものワンピースにエプロンを着ける。
うーん、それも森に行く格好としては、大概どうかと思うけど。
そしてギルドで再度集まって、森に。
何故かゴートもついてきた。
流石にC級冒険者についていきたいと言われて、断れるようなE級冒険者はいない。
「そうあからさまに嫌そうにするな」
「えっ?」
残念、ニコじゃなくて俺だ。
別に嫌いじゃないけどね。
反応が面白くてついつい。
というか、俺に反応してくれるのが嬉しくてついだな。
「凄い……」
「どこに、そんな……」
ちなみに、これはニコとフィーナの言葉だ。
それマジックバック? って聞きたくなるくらい、テッドの鞄から出るわ出るわ。
バーベキューセットの数々。
綺麗に折りたたんで収納されてるだけみたいだけど。
細い棒を組み合わせて、ロープと木を使ったターフテントとか。
バンチョが石を集めてきたと思ったら、そこに折り畳みの鉄板を置いたり。
固いもので、鞄の外側を埋めて。
中からは、食材がどんどんと。
鉄板を冷やしてから出たらしく、中の生ものはそんな酷いことにはなってなさそう。
加えて、現地調達したニードルラビットのお肉。
そして、そのた追加のお肉。
目の前にどっさりとお肉。
でもウィンナーは危険じゃないかな?
ポツリヌスとか。
もしかしたら魔法的な力で、どうにか出来たり。
ニコには悪食を発動させておこう。
「ニコさんには助けてもらったお礼をちゃんとしてなかったですから」
「ニコさんが居なかったら、私もテッドもきっと蟻のお腹の中に……」
「本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
なんと、そんなことを考えていたのか。
なかなかいい奴らじゃないか。
なあ、ニコ?
ニコ?
「うっ……」
「ニコさん?」
「うん、みんな無事で良かった」
「そんな、泣かないでください!」
「貴方達、ニコ様を泣かすなんてどういうこと!」
「違うよフィーナ! これはうれし涙だよ!」
「うれし涙?」
「まさか、ニコさんがこんなに感受性豊かだったなんて」
「やばい、私も泣きそう……って、テッド!」
「うぅ……ニコさん、本当に有難う」
「うっ、うぅ……ヴァァァァ」
「わぁ、ミーナまで泣き出した!」
ニコが嬉しくて涙をこぼしたあたりから、場が混沌としてきた。
「で、貴方は何故泣いているのですか?」
「へへ、バーベキューの煙が目に染みてさ」
ちょっと離れたところでゴートがほろりときていたが、フィーナから厳しい突っ込みが。
「勝手についてきたみたいですが……何か思うことはないですか?」
「お……おおう、手厳しいな。流石に、涙も引っ込んだわ」
うん、ややお邪魔虫だもんな。
楽しそうという理由だけで、強引についてきてたけど。
こういうことなら、完全にアウェーというか。
場違い……笑える。
「チクショー!」
ゴートが俺を見て、その場から駆け出したが。
すぐに、トボトボと戻ってきた。
こいつも、相当な寂しがりやだな。
だから、いっつも人が居るギルドにいるんだろうな。
「そんな、生暖かい目で見るな!」
「えっ?」
ニコに向かってゴートが串を片手に悔しそうに叫んでいたが、ニコに首を傾げられるだけだった。
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カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
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