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第4章:鬼
閑話2:鬼の里滞在 鬼の暮らし
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「おはようございます」
「おはよう、早起きさんだね。しっかり眠れたかい?」
「はい、昨日は疲れてたみたいで、すぐに眠れました」
フィーナが台所で火を起こして、何かを似ているおばあさんに声を掛ける。
いつもは寝坊助さんだが、今日は早起きだな。
まあ、お客さんの立場とはいえ、じっとしてるのは気が引けたのかな?
「ニコと、ランドールさんはもう少し寝かしておいても良いですか?」
「構わんよ、フィーナちゃんもゆっくりすればよかったのに」
そこに、外からおじいさんが入ってきた。
薪を持っているところを見ると、朝から薪割をしていたようだ。
こうしてみると、普通の農村の老夫婦だな。
「いえ、しっかりと休めましたんで。それよりも手伝えることありますか?」
「あらあら、それならそこの戸棚から器を出してもってきてくれるかい?」
フィーナの言葉を受けて、おばあさんがあれこれと指示をだす。
台所の台のうえに、フィーナが器を並べ始めるとおばあさんがそこに鍋の中身を移し始める。
葉野菜と蕪のようなものが入っているのが見える。
上から覗き込む形だが、スキルで見ているからか湯気の影響を全く受けないのは本当に映像で見ているような感覚だ。
瞬きしなくても、目が痛くならないし。
いや、目が無いからスキルで見てるわけだけど。
その後、リュウキが迎えにきたので朝食を一緒に食べて、家の外に。
おばあさんは家で留守番のようだ。
引率は、おじいさん一人。
大丈夫かな?
ランドールもついてきてるのに。
「何もないところですが、まあ珍しい景色ならあちらこちらにあるかもしれませんな」
「うむ、オーガの生活というのも、なかなかに興味深い」
ランドールが一番の年長者でドラゴンだからか、かなり彼に気を使った案内だ。
ニコとフィーナは、リュウキとあれこれと会話しながら歩いている。
「昨日は久しぶりにお母さんと一緒に寝たんだ」
「良かったね」
10歳だったら、母親と寝るのはそんなにおかしくはないか。
まあ、しばらく離れてたわけだし。
でもなんか、鬼が一緒に並んで寝てると寝返り打ったときに、角がぶつかったりとかしないのかな?
刺さったりとか。
まあ、そこは慣れとかあるのかな?
あるんだろうな。
「ずっと抱き着いていたみたいで、ちょっと暑くて寝苦しかったけど」
「でも、いまくらいしか一緒に寝られないんだから、我慢我慢」
ニコが微笑ましいものを見ているが、そうだな。
ニコの母親はもう亡くなってしまってるし、二度と母親のぬくもりを感じることはできないわけだし。
ニコ達の会話に耳を傾けつつ、里の中全体が見えるように視界を広げる。
畑は……あまり、野菜の発育はよくなさそうだな。
春菊や、水菜のようなものが植えられているが。
いやしっかりと育っている畑もあるし、土の問題だろうか。
土の問題だろうな。
シャキッとした野菜のある畑から少しはずれると、しなしなの野菜がもはや置いてあるような畑も見える。
この辺りは、手助けできなくもなさそうだが。
道具は、割と立派なものを使っているようにも思える。
たたら場とかがあるわけでもないのに、鉄製の農具があるのは……
ああ、鉄鉱石から魔法で鉄を抽出して製鉄し、あとは高熱で溶かして加工する職人がいると。
その職人の鬼も、先祖に人間がいるらしい。
相当に純度の高い鉄を造っているらしく、錆びには強いらしい。
強いだけで錆びないわけじゃないと。
刀職人を期待したが、それはいないらしい。
普通に両刃のロングソードを打つ鍛冶師なら、里にもいるらしいが。
それも、人を先祖に持つ魔法が得意な鬼らしい。
普通の鬼はそこまで魔力が強いというわけではないと。
ただ、中には妖鬼とよばれる、魔力が強い鬼もいるらしい。
特殊な固有スキルをメインに操る血筋らしく、普通の魔法に対する適正は低いらしい。
逆に人の血が混じっている鬼のなかには、こういった汎用性の高い魔法を使える鬼が多いらしい。
力がステータスになる鬼の社会で、鬼を娶ったり嫁いだりとなるとその人間も普通じゃないってことだろう。
オーガは総じて物理特化で、固有スキルも強化系ばかりと。
自然現象を操るような魔法の適性は、一部の名家を除いていないと。
その名家にあたる血筋も、1つの里に1人いればいいと。
大部分は、オーガの国にいるらしい。
そうか、オーガの国というのがあるのか。
凄く、興味深い。
「流石に、オーガの国には案内できんがな。この大陸ではないうえに、島がまるまる1つオーガの国になっておる。あと、あそこは五鬼神家が人をよく思ってないみたいでのう」
残念。
いや、いつかいけるかもしれないし。
その時を楽しみにしておこう。
オーガの国のある島。
まんま、鬼ヶ島……
「ヒャッキさん、その人たちが人間のお客人かい?」
「ああ、それと孫のリュウキもおるで」
「おお、リュウキ君も帰ってきたんかい。良かったのう」
畑の横の道を歩いていたら、ちょうど休憩をしていた農家の鬼っぽい人が話しかけてきた。
石に腰かけて、キセルのようなものをふかしているが。
麦わら帽子的なものが……すごく浮いてます!
いや、角が当たって浮いてるってわけじゃなくて。
鬼に麦わら帽子ってのが。
きちんと角を出すための穴が空いてはいるが。
「あとで、孫に野菜を家に届けさせるで、食べとくれ」
「いつも悪いのう、今度うちで採れたトメートを届けさせよう」
「おう、あんたんとこのトメートは、みずみずしくて美味しいで嫁こも喜んどるで」
トメート?
いや、人の町だと普通にトマトだった気が。
なぜ、ここにきてネイティブな感じの、インチキ英語発音なのか分からないが。
じゃあ、じゃがいもはポテイトってか。
いや、おばあさん普通にじゃがいもって言ってたわ。
この世界の固有名詞の呼び方に、いまいちなれない。
そこんとこ、翻訳機能にしっかりと頑張って欲しい。
「さてと、まあ唯一ここが物珍しい場所かのう」
「ここは……」
「まあ、集会所じゃな。人の町にも似たような場所はあるじゃろうが、人の村だと普通は村長の家がこれにあたる施設かのう」
「集会所?」
「この中には、この里の成り立ちが絵で残されておる。オーガにも絵師の家系くらいおるでの」
そう言って、中に案内してもらう。
中を見渡すと板の間になっていて、真ん中に囲炉裏のようなものがあった。
へえ、暖炉じゃないのか。
そして、長押には絵が立てかけられている。
長押は鴨居の戸口じゃないバージョンというか。
柱と柱を繋ぐ、横木だな。
ハンガーとか引っ掛けたりするあれ。
その長押に絵の入れられた額の縁が引っ掛けられていて、壁に打った棒に紐を引っかけて飾ってあった。
「あれが、里が出来た頃の絵じゃが……まあ、あれは開拓した先祖の話を元に描かれた絵じゃのう。で、次が家が出来ていく過程。あれが、地鎮祭や豊穣祭などの祭りの景色じゃ」
「へえ、こうしてみると歴史を感じられるというか……凄く面白いです」
「ほう、これは良い。わしの軌跡も絵に残させるべきじゃな。最初は、ゴブリンの王国の建国の様子か?」
おいっ、ランドール!
ゴブリン王国を造ったのは俺と、ゴブスチャン達だ。
お前は、ただの居候……ああ、資材運びとか、建材を起こしたりとか色々と手伝ってもらってたわ。
でも、なんか言い方が。
よし、絵を描かせるときは肉体労働者宜しく、がっつり柱を運んだり組んだりしてる絵にしよう。
鬼たちが祭壇のようなものに、花瓶と榊のような植物を飾って何やら儀式のようなものを行っている絵がある。
あれが地鎮祭かな?
盛り塩がしてあるけど……
「森塩?」
「おお、よくご存じで! 塩には邪を払う効果ありますので、ああやって塩を盛って清めるのですよ」
ふふ、日本では鬼がその邪に含まれるんだけどな。
なんとも、不思議な。
日本の鬼と違って、オーガっていうちゃんとした種族だからな。
日本の鬼は、様々な災厄の化身でもあるわけだし。
こっちのは、生物だから違うんだろう。
「森で塩が取れるんですか? 海も無いのに?」
「塩って、よく考えたらなんだ?」
「えっ?」
ニコとランドールの素朴な疑問に、フィーナが驚いていた。
「えっとゴブリン王国では森というか、山から岩塩が取れますし……森でも暖かいお湯のある場所では、塩が見つかることも」
「そうなの?」
「ほっほ、フィーナさんは良くしっておるのう」
フィーナの説明に、おじいさんが満足そうに髭をさすっている。
ランドールは首を傾げているが。
「その、塩とはそもそもなんなのだ?」
「塩はしょっぱい調味料?」
「いや、そいう意味ではなくてな」
っと、根本的な部分での質問らしい。
こういうときの、子供みたいな好奇心はランドールの幼さを実感するが。
うむ……
子供に困らされる質問だよな。
常識として理解していることの、その根底となる深い知識の部分の質問。
なんで、指は5本あるの? とか、なんで砂糖は甘いの? とか。
塩か……
「塩ってのは塩化ナトリウムを主な成分とした鉱物の一種で、生物が生きる上で必要なミネラルを補うものであると共に、しょっぱいという味を出せる唯一の調味料です」
「なるほど……で、塩化ナトリウムってのはなんだ?」
なるほどって分かったのか?
フィーナにだけ念話を飛ばして、説明させたが理解してるんだかしてないんだか。
そして、追加の質問。
「塩みたいなものです」
「よく分からんぞ?」
「ランドール様はなぜランドール様なのですかという質問と一緒です」
「そうか……」
面倒なので、これ以上の詳しい説明はしなくても良いだろう。
おじいさんが、ポカンとしてるし。
「フィーナちゃんは、物知りなんだね」
「まあね」
リュウキが感心したように漏らしていたが、俺が入れ知恵したからかちょっとぶっきらぼうな返事になっていた。
次に豊穣祭の方の絵に目をやる。
こっちは巫女みたいな恰好した雌の鬼が、木の剣で竜の面をかぶった他の鬼を追い払っているような絵だった。
ちょっと、ランドールが微妙な表情をしている。
「なぜ、竜のお面をかぶったものが追われているのだ?」
「これは、雷雲と暴風を司る竜を追い払う儀式ですね。天災によって、作物がダメにならないようという祈りも込められてます」
「そうか……空竜の一種か。なら、まあ良いか」
地竜も地震を起こしそうとかで、祭りで追い払われてそうだが。
まあ、黙っとこう。
ここで、へそを曲げられても仕方ないし。
こうして、里の歴史をおじいさんに聞き終わるころには昼になっていたので、家に帰ることに。
いよいよ、この里を出るときも近づいてきた。
一応、昼前に出る予定だと昨晩のうちに伝えたが、それなら最後に昼食でもと誘われたので家でおばあさんにまたご馳走になる。
うん、俺も食べたかった。
「味と作り方は覚えてますよ」
フィーナが慰め程度に教えてくれたが、できれば鬼が作った本場の鬼料理が。
まあ、こんごも鬼と交流すれば食べる機会はあるかな。
こうして、縁は結べたわけだし。
ゴブリン王国に、何人か招待しても良いわけだし。
なんか、最初に受けた依頼とだいぶかけ離れた冒険になってしまったが。
これも、いい経験だな。
「おはよう、早起きさんだね。しっかり眠れたかい?」
「はい、昨日は疲れてたみたいで、すぐに眠れました」
フィーナが台所で火を起こして、何かを似ているおばあさんに声を掛ける。
いつもは寝坊助さんだが、今日は早起きだな。
まあ、お客さんの立場とはいえ、じっとしてるのは気が引けたのかな?
「ニコと、ランドールさんはもう少し寝かしておいても良いですか?」
「構わんよ、フィーナちゃんもゆっくりすればよかったのに」
そこに、外からおじいさんが入ってきた。
薪を持っているところを見ると、朝から薪割をしていたようだ。
こうしてみると、普通の農村の老夫婦だな。
「いえ、しっかりと休めましたんで。それよりも手伝えることありますか?」
「あらあら、それならそこの戸棚から器を出してもってきてくれるかい?」
フィーナの言葉を受けて、おばあさんがあれこれと指示をだす。
台所の台のうえに、フィーナが器を並べ始めるとおばあさんがそこに鍋の中身を移し始める。
葉野菜と蕪のようなものが入っているのが見える。
上から覗き込む形だが、スキルで見ているからか湯気の影響を全く受けないのは本当に映像で見ているような感覚だ。
瞬きしなくても、目が痛くならないし。
いや、目が無いからスキルで見てるわけだけど。
その後、リュウキが迎えにきたので朝食を一緒に食べて、家の外に。
おばあさんは家で留守番のようだ。
引率は、おじいさん一人。
大丈夫かな?
ランドールもついてきてるのに。
「何もないところですが、まあ珍しい景色ならあちらこちらにあるかもしれませんな」
「うむ、オーガの生活というのも、なかなかに興味深い」
ランドールが一番の年長者でドラゴンだからか、かなり彼に気を使った案内だ。
ニコとフィーナは、リュウキとあれこれと会話しながら歩いている。
「昨日は久しぶりにお母さんと一緒に寝たんだ」
「良かったね」
10歳だったら、母親と寝るのはそんなにおかしくはないか。
まあ、しばらく離れてたわけだし。
でもなんか、鬼が一緒に並んで寝てると寝返り打ったときに、角がぶつかったりとかしないのかな?
刺さったりとか。
まあ、そこは慣れとかあるのかな?
あるんだろうな。
「ずっと抱き着いていたみたいで、ちょっと暑くて寝苦しかったけど」
「でも、いまくらいしか一緒に寝られないんだから、我慢我慢」
ニコが微笑ましいものを見ているが、そうだな。
ニコの母親はもう亡くなってしまってるし、二度と母親のぬくもりを感じることはできないわけだし。
ニコ達の会話に耳を傾けつつ、里の中全体が見えるように視界を広げる。
畑は……あまり、野菜の発育はよくなさそうだな。
春菊や、水菜のようなものが植えられているが。
いやしっかりと育っている畑もあるし、土の問題だろうか。
土の問題だろうな。
シャキッとした野菜のある畑から少しはずれると、しなしなの野菜がもはや置いてあるような畑も見える。
この辺りは、手助けできなくもなさそうだが。
道具は、割と立派なものを使っているようにも思える。
たたら場とかがあるわけでもないのに、鉄製の農具があるのは……
ああ、鉄鉱石から魔法で鉄を抽出して製鉄し、あとは高熱で溶かして加工する職人がいると。
その職人の鬼も、先祖に人間がいるらしい。
相当に純度の高い鉄を造っているらしく、錆びには強いらしい。
強いだけで錆びないわけじゃないと。
刀職人を期待したが、それはいないらしい。
普通に両刃のロングソードを打つ鍛冶師なら、里にもいるらしいが。
それも、人を先祖に持つ魔法が得意な鬼らしい。
普通の鬼はそこまで魔力が強いというわけではないと。
ただ、中には妖鬼とよばれる、魔力が強い鬼もいるらしい。
特殊な固有スキルをメインに操る血筋らしく、普通の魔法に対する適正は低いらしい。
逆に人の血が混じっている鬼のなかには、こういった汎用性の高い魔法を使える鬼が多いらしい。
力がステータスになる鬼の社会で、鬼を娶ったり嫁いだりとなるとその人間も普通じゃないってことだろう。
オーガは総じて物理特化で、固有スキルも強化系ばかりと。
自然現象を操るような魔法の適性は、一部の名家を除いていないと。
その名家にあたる血筋も、1つの里に1人いればいいと。
大部分は、オーガの国にいるらしい。
そうか、オーガの国というのがあるのか。
凄く、興味深い。
「流石に、オーガの国には案内できんがな。この大陸ではないうえに、島がまるまる1つオーガの国になっておる。あと、あそこは五鬼神家が人をよく思ってないみたいでのう」
残念。
いや、いつかいけるかもしれないし。
その時を楽しみにしておこう。
オーガの国のある島。
まんま、鬼ヶ島……
「ヒャッキさん、その人たちが人間のお客人かい?」
「ああ、それと孫のリュウキもおるで」
「おお、リュウキ君も帰ってきたんかい。良かったのう」
畑の横の道を歩いていたら、ちょうど休憩をしていた農家の鬼っぽい人が話しかけてきた。
石に腰かけて、キセルのようなものをふかしているが。
麦わら帽子的なものが……すごく浮いてます!
いや、角が当たって浮いてるってわけじゃなくて。
鬼に麦わら帽子ってのが。
きちんと角を出すための穴が空いてはいるが。
「あとで、孫に野菜を家に届けさせるで、食べとくれ」
「いつも悪いのう、今度うちで採れたトメートを届けさせよう」
「おう、あんたんとこのトメートは、みずみずしくて美味しいで嫁こも喜んどるで」
トメート?
いや、人の町だと普通にトマトだった気が。
なぜ、ここにきてネイティブな感じの、インチキ英語発音なのか分からないが。
じゃあ、じゃがいもはポテイトってか。
いや、おばあさん普通にじゃがいもって言ってたわ。
この世界の固有名詞の呼び方に、いまいちなれない。
そこんとこ、翻訳機能にしっかりと頑張って欲しい。
「さてと、まあ唯一ここが物珍しい場所かのう」
「ここは……」
「まあ、集会所じゃな。人の町にも似たような場所はあるじゃろうが、人の村だと普通は村長の家がこれにあたる施設かのう」
「集会所?」
「この中には、この里の成り立ちが絵で残されておる。オーガにも絵師の家系くらいおるでの」
そう言って、中に案内してもらう。
中を見渡すと板の間になっていて、真ん中に囲炉裏のようなものがあった。
へえ、暖炉じゃないのか。
そして、長押には絵が立てかけられている。
長押は鴨居の戸口じゃないバージョンというか。
柱と柱を繋ぐ、横木だな。
ハンガーとか引っ掛けたりするあれ。
その長押に絵の入れられた額の縁が引っ掛けられていて、壁に打った棒に紐を引っかけて飾ってあった。
「あれが、里が出来た頃の絵じゃが……まあ、あれは開拓した先祖の話を元に描かれた絵じゃのう。で、次が家が出来ていく過程。あれが、地鎮祭や豊穣祭などの祭りの景色じゃ」
「へえ、こうしてみると歴史を感じられるというか……凄く面白いです」
「ほう、これは良い。わしの軌跡も絵に残させるべきじゃな。最初は、ゴブリンの王国の建国の様子か?」
おいっ、ランドール!
ゴブリン王国を造ったのは俺と、ゴブスチャン達だ。
お前は、ただの居候……ああ、資材運びとか、建材を起こしたりとか色々と手伝ってもらってたわ。
でも、なんか言い方が。
よし、絵を描かせるときは肉体労働者宜しく、がっつり柱を運んだり組んだりしてる絵にしよう。
鬼たちが祭壇のようなものに、花瓶と榊のような植物を飾って何やら儀式のようなものを行っている絵がある。
あれが地鎮祭かな?
盛り塩がしてあるけど……
「森塩?」
「おお、よくご存じで! 塩には邪を払う効果ありますので、ああやって塩を盛って清めるのですよ」
ふふ、日本では鬼がその邪に含まれるんだけどな。
なんとも、不思議な。
日本の鬼と違って、オーガっていうちゃんとした種族だからな。
日本の鬼は、様々な災厄の化身でもあるわけだし。
こっちのは、生物だから違うんだろう。
「森で塩が取れるんですか? 海も無いのに?」
「塩って、よく考えたらなんだ?」
「えっ?」
ニコとランドールの素朴な疑問に、フィーナが驚いていた。
「えっとゴブリン王国では森というか、山から岩塩が取れますし……森でも暖かいお湯のある場所では、塩が見つかることも」
「そうなの?」
「ほっほ、フィーナさんは良くしっておるのう」
フィーナの説明に、おじいさんが満足そうに髭をさすっている。
ランドールは首を傾げているが。
「その、塩とはそもそもなんなのだ?」
「塩はしょっぱい調味料?」
「いや、そいう意味ではなくてな」
っと、根本的な部分での質問らしい。
こういうときの、子供みたいな好奇心はランドールの幼さを実感するが。
うむ……
子供に困らされる質問だよな。
常識として理解していることの、その根底となる深い知識の部分の質問。
なんで、指は5本あるの? とか、なんで砂糖は甘いの? とか。
塩か……
「塩ってのは塩化ナトリウムを主な成分とした鉱物の一種で、生物が生きる上で必要なミネラルを補うものであると共に、しょっぱいという味を出せる唯一の調味料です」
「なるほど……で、塩化ナトリウムってのはなんだ?」
なるほどって分かったのか?
フィーナにだけ念話を飛ばして、説明させたが理解してるんだかしてないんだか。
そして、追加の質問。
「塩みたいなものです」
「よく分からんぞ?」
「ランドール様はなぜランドール様なのですかという質問と一緒です」
「そうか……」
面倒なので、これ以上の詳しい説明はしなくても良いだろう。
おじいさんが、ポカンとしてるし。
「フィーナちゃんは、物知りなんだね」
「まあね」
リュウキが感心したように漏らしていたが、俺が入れ知恵したからかちょっとぶっきらぼうな返事になっていた。
次に豊穣祭の方の絵に目をやる。
こっちは巫女みたいな恰好した雌の鬼が、木の剣で竜の面をかぶった他の鬼を追い払っているような絵だった。
ちょっと、ランドールが微妙な表情をしている。
「なぜ、竜のお面をかぶったものが追われているのだ?」
「これは、雷雲と暴風を司る竜を追い払う儀式ですね。天災によって、作物がダメにならないようという祈りも込められてます」
「そうか……空竜の一種か。なら、まあ良いか」
地竜も地震を起こしそうとかで、祭りで追い払われてそうだが。
まあ、黙っとこう。
ここで、へそを曲げられても仕方ないし。
こうして、里の歴史をおじいさんに聞き終わるころには昼になっていたので、家に帰ることに。
いよいよ、この里を出るときも近づいてきた。
一応、昼前に出る予定だと昨晩のうちに伝えたが、それなら最後に昼食でもと誘われたので家でおばあさんにまたご馳走になる。
うん、俺も食べたかった。
「味と作り方は覚えてますよ」
フィーナが慰め程度に教えてくれたが、できれば鬼が作った本場の鬼料理が。
まあ、こんごも鬼と交流すれば食べる機会はあるかな。
こうして、縁は結べたわけだし。
ゴブリン王国に、何人か招待しても良いわけだし。
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