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第5章:巨人と魔王

第4話:定番イベント

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「とりあえず、カモミールの宿に向かおうか」
「そうですね」

 ニコとフィーナとランドールが宿へと向かう。
 ゴタロウは、他にもやることがあるのか自然な感じで消えていった。
 本当、いつもいつも働かせて申し訳ない。
 しかも、俺のためというよりもニコの為といった感じだしな。
  
 お金がだいぶ減ってきたようだったが、ジェジェの町で受けた依頼の報酬分もあるのでまだ余裕はありそうだ。
 採取系の依頼でも、ゴブリン達の人海戦術で集めればすぐに達成できるしな。
 正直、金稼ぎに不自由はしてないので足りなくなってから考えよう。

 いや、考えさせよう。
 ニコのやつ、お金の管理もゴタロウ任せだしな。
 
 突き刺すような寒さに耐えながらも、目的の宿に。
 いや、俺もフィーナもランドールも、全然寒くないんだけど。
 ニコだけが、フル装備の癖に震えてて。
 いや、分かるけどイラっとするというか、 
 まあ、寒さを感じない俺にはニコを責める資格はないと理解していても、皆が我慢できてることが出来ていないのにイラつきが……
 なんだろう、これがどういった感情なのかが分からない。
 最近は出来の悪い弟というか、どんくさい友達を見ているようでストレスを感じることもある。

 それを敏感に感じ取っているのか、シノビゴブリン達が色々と先回りをして手助けするのも実はストレスの原因だったり。
 お前らが、そうやって甘やかすからと思わなくもない。
 
 カモミールの宿の中に入ると、ロビーには大きな暖炉が置いてあった。

「わあ、あったかい!」

 そういって、一目散に暖炉に向かっていくニコ。
 うん……これでも、この世界だと成人なんだよな?
 まあ、特殊な家庭環境のせいか、今まで人に頼ったことが少なかったのもあるだろう。
 だから、こうやって頼れる相手に囲まれて、幼児返りしてしまったのかもしれないが。

 まずは、受付で宿泊の予約だろう!
 ゴタロウが所要でいないんだから、お前がやらなくて誰がやる。

「4人です、あとで1人来ますので。部屋は3人部屋と1人部屋で」
「えっと、3人部屋はないので2人部屋で1人ソファで寝てもらうか、4人部屋になります」
「じゃあ、4人部屋1つでいいですよ」

 フィーナが、テキパキと予約していた。

「料金は一室一泊、ビスマルク銀貨20枚です」
「分かりました」

 支払いまで……
 事前にゴタロウに聞いていたのか、スムーズなやり取りだった。
 
「部屋の予約は終わりましたよ」
「ありがとう」

 暖炉の方に手を向けたまま、お礼をいうニコ。
 たぶん、俺に身体があったらげんこつでも落としてそうだ。
 いや、俺に身体があったら、俺が受付をしてそうだ。
 それ以前に、ニコと旅になんか出てないと思う。

「酷いよ、鈴木さん」

 おっと、いつの間にか心の声が発信されていたようだ。
 うっかり。

「絶対、わざとでしょ!」

 酷くはないと思うぞ。
 こんなに手が掛かって、役に持たたない足手まといを連れまわすなんて、どんなもの好きだ。
 俺は、そこまでMじゃない。

「Mってなに?」

 うん、あんまり俺の心配が伝わってないというか……嫌味よりも、そこが気になったのか。
 確かに同情を禁じ得ないところはあるが、いつかこいつは精神の修行に出そう。
 
「Mって、どういう意味?」

 もういい。
 精神の修行は、決定事項だな。
 
 ロビーには、他にもいろいろな人が居た。
 勿論、種族的な意味で。
 リザードマンとか、こんな寒い地方にきて大丈夫なのかと思わなくもないが。

 それから部屋に荷物を置く。
 4人部屋ということだったが、中に入ると珍しく2部屋あるタイプだった。
 奥の寝室にはベッドが4つ置いてあって、手前の部屋は広くはないがテーブルセットがあった。
 まあ、ここで話とかができるようにということかな?
 その代わりに、ベッドにサイドテーブルはついていなかったが。
 個人的な荷物を置く籠が、横にポンポンとおいてあるだけ。
 それでも掃除が行き届いていて、とても感じが良いというのは分かる。

 天井にはダクトのようなものがあって、そこから暖かい空気が。
 ロビーの大きな暖炉で温められた空気が流れてきているのかな?
 セントラルヒーティングシステムがあるとは、少し異世界を嘗めていた。
 いや、確かにこの地で暖房をおろそかにするのは、死活問題か。
 それに、各部屋に暖炉なんかおいたら、別途薪代が掛かるし。
 そもそも、その薪の消費が半端なくて、用意すら難しいだろう。

「うーん、あたたかいと眠くなってきちゃった……」

 うん、寝るな! 
 という、俺は色々と見て回りたいんだけど?

「そうだよね、ちょっとだけ昼寝して出かけようか?」
 
 昼寝するのは、確定なのか。
 いいから、出るぞ。

「ええ、外寒いよ?」

 知らん。
 寒いかもしれんが、だからといって部屋の中で過ごしてたら、なんのためにこの町に来たのか分からんだろう。

「うぅ……分かったよ」

 っすでにベッドにもぐりこもうとしていたニコが、仕方なしに外に向かう。

「ランドールとフィーナは?」
「我はパスだ。同族の気配がするので、ちょっとそっちに行ってみようかと」

 同族ってことは、ドラゴンってことかな?
 大丈夫か?

「大丈夫……だと思うがな。ドラゴン同士で、そこまでもめることは『おまえ、どっかのドラゴンの縄張りに飛び込んで、追い出されたんじゃなかったっけ?』
「あれは、住もうとしたからだ! ただ、通りがかっただけなら文句もいうまい」

 本当かな?
 
「そう、不安を煽るでない。もしかしたら、我にも竜族の友人が出来るかもしれんではないか」

 まあ、そこまで言うなら好きにしたらいいと思うぞ。

「私は、ニコ様と一緒に出掛けます」

 フィーナはついてくるらしい。
 少しだけ安心だ。

 いざとなったら、ニコを眠らせてもらうことも出来るし。
 
 というわけで、1人と1匹と1本でお出かけ。
 と思ったら、いつの間にかゴタロウが合流していた。

「ついてくるの?」
「ええ、いろいろと気になる情報が手に入りましたので」
「気になる情報?」
「それを知るには、冒険者ギルドに向かうべきですね」

 おい、ゴタロウ。
 いきなり冒険者ギルドって。
 もっと、普通に観光したかったんだけど。

『ちょっと、壁の向こう側で不穏な空気が流れてるようです』

 壁の向こう側?
 なにがし帝国だっけ?

『ゴルゴン帝国です。魔物の活性化が確認されてます……というか、暴走も』

 へえ、スタンビートってやつか。

『スタンピードです』

 細かいやつだ。
 それって、特定の魔物なの?

『ジャイアントを主軸にした、多種多様な魔物の集団のようです』

 ジャイアントってことは、巨人か。
 あれって、魔物扱いなのか。

 取り合えずゴタロウの話では、ジャイアントとサイクロプスをメインに、動物系の魔物も合わさった集団暴走状態らしい。
 すでに、2つの町と数え切れない村や集落が被害にあってると。
 そんな情報、こっちに入ってきてないんじゃないかなと聞いたら、自国の恥を他国にわざわざ報告しないでしょうと言われた。

 いやいや、自国でどうにかならなかったり、外の国に被害が出ることを考えたら、早急に連絡するべきでは?
 と思ったけど、国同士で密接な関係が築き上げてられなかったら、そうとは限らないらしい。
 現に、ビスマルク王国に話はきてないが、帝国を挟んで南側にあるジャンバラヤ王国には連絡済らしい。
 国交って大事だなと思える話だった。

 てか、それってかなりヤバいんじゃないか?
 ヤバいから、これからこっちも混乱になるだろう?

 そうか……
 すでにシノビゴブリンが、この町の冒険者ギルドに報告済?
 でもって、ギルドでも裏を取っているところと。
 そんなに早く、裏って取れるものなのか?

 この町の場合は、出来るらしい。
 聞けば応えてくれる情報屋が、あちこちにいるらしい。
 それこそ、壁の向こうの情報も。
 というか、情報や同士で自国の情報を売りあってるとか。

 なるほどねぇ……それって、スパイじゃないの?
 個人でやってる分には、問題ない?
 問題あるでしょ。
 大丈夫……暗黙の了解だから?
 国としては情報を提供できくても、個人なら問題ない?

 そういうものなのかな?
 そういった情報屋のいくつかは、国からもお金をもらっていると。
 なるほど……面子にこだわってたら、取り返しのつかないことになる場合もあるしね。

 今回のスタンピードはまだ始まったばかりで、国境からは離れているらしい。
 が、ちょっと特殊な状況らしく、もし抑えきれなかったらここに来る可能性もないことはないと。
 今のところ、可能性は限りなく低いらしいが。
 そうなったときに、向こうが言わなくてもこっちが情報を掴んでいたら、ビスマルク王国側から援助の提案をすることは出来るだろうな。 
 そうすれば、共同戦線は張れると。
 いや、帝国も大きな被害が予想されるなら、さっさとこっちに言えばいいのに。
 
 向こうから要請があった場合と、こっちから提案した場合では謝礼に大きな差が出ると。
 今回は、ビスマルク王国側にも被害が出る可能性があるから、ゴルゴン帝国内で押しとどめるためにも、かなり良心的な条件で援助するかもしれないと。
 ただ、相手から先に要求が来たら、足元見るかもしれないか。

 しかし、定番中の定番だな。
 
『スタンピードなんて、異常事態ですよ。定番って、主はどんな危険なところに住んでたんですか?』

 ちょっと、誤解されてしまった。
 この手の話だと、結構な頻度で出てくる事故みたいなもんだと思ってたが。
 そうじゃないようだ。
 
 
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