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王様がおかしくなった【こっ!これは!】(技術開発局局長)
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儂の名は、ショク・ニン。
代々、チビマール工房クランの代表親方を務めてきた、ニン家の家長になる男だ。
じいさまと、親父が死ねばな……
ちなみに、じいさまは今年で八十二歳。
平民の平均寿命が五十代のこの国にあっては、化物と呼ばれるほどの長寿だな。
我がニン工房の、大親方だ。
そして、チビマール工房クランの名誉代表。
親父が親方で、クランの代表親方だ。
その次が儂になるのだが……いつになることやら。
そんな儂が今いるのは、王城に作られた工房だ。
各、鍛冶屋や木工店、工務店など多くの製造系の店から優秀な人材が集められている。
そう、優秀な人材が集められたのだ。
いや、王様に来いって言われて、断れるやつがいたら見てみたい。
べらんめえな親父が、二つ返事で儂を差し出すくらいには、あれだから……ヤバイ人だから。
祖父は悪い笑みを浮かべて、儂を送り出していたが。
ニン家を継ぐための登竜門になりそうだと、呟いていたのを儂は聞き逃さなかった。
さて、そんな優秀な職人が集められて、どんな無理難題を言われるのかと思えば……新たに、王城内に部署を立ち上げるらしい。
その責任者に、儂は選ばれてしまった。
あの……そういうのは、普通は貴族の方が……あっ、はい。
おっしゃる通りで……ご理解いただき、まことに恐悦至極……気持ち悪い?
ずんぐりむっくりした筋肉質の豆タンクな髭親父が、へりくだる姿は見たくない?
酷いことをおっしゃいますね……
そして、ここまでは普通でした。
ここからが、無理難題のオンパレードでした。
被革職人のナーメシ氏が、均等な厚みの円形の弾力質な皮を用意しろと言われて、十キロも痩せたり。
ガラス職人の、ギヤマン氏が死んだ魚のような目で、ずっとガラスをお皿状にして磨かさせられたりとか。
いや、それで何をと思ったが、出来た物はなるほど素晴らしい物ばかりだ。
ナーメシ氏が用意した皮は、木の車輪に巻かれて、王族の馬車に使用されている。
乗り心地は……木工職人のモクザイ氏と儂の共同開発によるサスペンションなるものの効果も相まって、既存の馬車に乗れなくなるレベルで向上した。
わしは、金属加工がメインだからな。
旋盤なるものを作らされたが、あれはまだまだ難易度は簡単な方だ。
その効果は、素晴らしいものであったが。
陛下に呼ばれて、最初に絵で見せられたのは、丸が二つひっついた何かだ。
それを大量に? その丸には穴が空いている。
そして、その穴より少し大きな筒や、その穴に着ける円柱の釘のようなもの。
ピンですか……
穴の開いた丸が二つ並んだものを、プレートと呼ぶらしい。
そして、穴のサイズをやや大きくしたプレートも用意させられた。
物凄く頑張った。
しばらく、鉄を見たくなくなるレベルで。
それでこれは?
穴の小さなものが外プレート?
大きなものが内プレート?
外プレートと内プレートを片方の丸だけ重ねると。
で、筒を間に入れて、外プレートにピンを差す。
反対側にも内プレートを外プレートを付けて、ピンの先に予めいれておいた溝に、一方向に切り込みの入ったこれまた横長の丸いプレートを、力任せに押し込んではめると。
おお! なんか、クネクネ動く状態で合体しましたね。
ほうほう、この作業を繰り返して、このプレートを一定の長さまでくっつけると……チェーンですか?
鎖ですよね?
似たようなもの?
凄くごついですが……
陛下の考案されたチェーンだが……歯車を繋ぐことで、その効果が実感できた。
やばい……これ、産業界に革命が起きる。
様々な工房で使われている設備が、一気に進化するんじゃ。
「陛下、それは?」
「ん? このクランクにつけられたペダルを回すとだな……」
王様が、前と後ろにタイヤが一本ずつついた、変な椅子にのっていた。
足元にはクランクと足置きがあり、その内側に大きな歯車が。
そして、後ろのタイヤに前のそれよりも、やや小さめの歯車が。
その歯車同士を、儂が作ったチェーンが繋いでいる。
もしかして……
「おおおおおおおおお!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
儂も、ナーメシ氏も、モクザイ氏もつい大声を出してしまった。
王様がそのクランクを足で回すと、歩くよりも速い速度で椅子が進んだのだ。
しかも、その速度や移動の工程に対して、疲労感も少なそうだし。
「自転車と名付けよう!」
「素晴らしい!」
フレームやハンドル、タイヤの軸はモクザイ氏。
タイヤに着けられた皮はナーメシ氏。
そして、チェーンは儂が作ったのだ。
まさに、技術開発局の英知と技術の総結集だ!
ギヤマン氏? ああ、儂らの声に反応はしたが、すぐに死んだ目でガラスのお皿を磨いている。
しかし……しかしだ、確認をしておかないと……
「こ、これは量産されるのですか?」
ああ、他の二人も縋るような目で、儂と王様を見ている。
「可能ならな」
不可能です! とは言いづらい。
「分かりました」
あっ、ナーメシ氏とモクザイ氏が、儂を凄く睨んでいる。
いや……でも。
「ははは、無理は言わないよ。とりあえず、チェーンの量産体制を整えたいから、そっちを頼むよ」
あっ……儂だけが、大変な予感。
ナーメシ氏と、モクザイ氏が、凄く嫌な笑みを浮かべて儂を見ていた。
ある晴れた、王城の中庭での昼下がり……儂はそんな二人に、苦笑いを返しておいた。
代々、チビマール工房クランの代表親方を務めてきた、ニン家の家長になる男だ。
じいさまと、親父が死ねばな……
ちなみに、じいさまは今年で八十二歳。
平民の平均寿命が五十代のこの国にあっては、化物と呼ばれるほどの長寿だな。
我がニン工房の、大親方だ。
そして、チビマール工房クランの名誉代表。
親父が親方で、クランの代表親方だ。
その次が儂になるのだが……いつになることやら。
そんな儂が今いるのは、王城に作られた工房だ。
各、鍛冶屋や木工店、工務店など多くの製造系の店から優秀な人材が集められている。
そう、優秀な人材が集められたのだ。
いや、王様に来いって言われて、断れるやつがいたら見てみたい。
べらんめえな親父が、二つ返事で儂を差し出すくらいには、あれだから……ヤバイ人だから。
祖父は悪い笑みを浮かべて、儂を送り出していたが。
ニン家を継ぐための登竜門になりそうだと、呟いていたのを儂は聞き逃さなかった。
さて、そんな優秀な職人が集められて、どんな無理難題を言われるのかと思えば……新たに、王城内に部署を立ち上げるらしい。
その責任者に、儂は選ばれてしまった。
あの……そういうのは、普通は貴族の方が……あっ、はい。
おっしゃる通りで……ご理解いただき、まことに恐悦至極……気持ち悪い?
ずんぐりむっくりした筋肉質の豆タンクな髭親父が、へりくだる姿は見たくない?
酷いことをおっしゃいますね……
そして、ここまでは普通でした。
ここからが、無理難題のオンパレードでした。
被革職人のナーメシ氏が、均等な厚みの円形の弾力質な皮を用意しろと言われて、十キロも痩せたり。
ガラス職人の、ギヤマン氏が死んだ魚のような目で、ずっとガラスをお皿状にして磨かさせられたりとか。
いや、それで何をと思ったが、出来た物はなるほど素晴らしい物ばかりだ。
ナーメシ氏が用意した皮は、木の車輪に巻かれて、王族の馬車に使用されている。
乗り心地は……木工職人のモクザイ氏と儂の共同開発によるサスペンションなるものの効果も相まって、既存の馬車に乗れなくなるレベルで向上した。
わしは、金属加工がメインだからな。
旋盤なるものを作らされたが、あれはまだまだ難易度は簡単な方だ。
その効果は、素晴らしいものであったが。
陛下に呼ばれて、最初に絵で見せられたのは、丸が二つひっついた何かだ。
それを大量に? その丸には穴が空いている。
そして、その穴より少し大きな筒や、その穴に着ける円柱の釘のようなもの。
ピンですか……
穴の開いた丸が二つ並んだものを、プレートと呼ぶらしい。
そして、穴のサイズをやや大きくしたプレートも用意させられた。
物凄く頑張った。
しばらく、鉄を見たくなくなるレベルで。
それでこれは?
穴の小さなものが外プレート?
大きなものが内プレート?
外プレートと内プレートを片方の丸だけ重ねると。
で、筒を間に入れて、外プレートにピンを差す。
反対側にも内プレートを外プレートを付けて、ピンの先に予めいれておいた溝に、一方向に切り込みの入ったこれまた横長の丸いプレートを、力任せに押し込んではめると。
おお! なんか、クネクネ動く状態で合体しましたね。
ほうほう、この作業を繰り返して、このプレートを一定の長さまでくっつけると……チェーンですか?
鎖ですよね?
似たようなもの?
凄くごついですが……
陛下の考案されたチェーンだが……歯車を繋ぐことで、その効果が実感できた。
やばい……これ、産業界に革命が起きる。
様々な工房で使われている設備が、一気に進化するんじゃ。
「陛下、それは?」
「ん? このクランクにつけられたペダルを回すとだな……」
王様が、前と後ろにタイヤが一本ずつついた、変な椅子にのっていた。
足元にはクランクと足置きがあり、その内側に大きな歯車が。
そして、後ろのタイヤに前のそれよりも、やや小さめの歯車が。
その歯車同士を、儂が作ったチェーンが繋いでいる。
もしかして……
「おおおおおおおおお!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
儂も、ナーメシ氏も、モクザイ氏もつい大声を出してしまった。
王様がそのクランクを足で回すと、歩くよりも速い速度で椅子が進んだのだ。
しかも、その速度や移動の工程に対して、疲労感も少なそうだし。
「自転車と名付けよう!」
「素晴らしい!」
フレームやハンドル、タイヤの軸はモクザイ氏。
タイヤに着けられた皮はナーメシ氏。
そして、チェーンは儂が作ったのだ。
まさに、技術開発局の英知と技術の総結集だ!
ギヤマン氏? ああ、儂らの声に反応はしたが、すぐに死んだ目でガラスのお皿を磨いている。
しかし……しかしだ、確認をしておかないと……
「こ、これは量産されるのですか?」
ああ、他の二人も縋るような目で、儂と王様を見ている。
「可能ならな」
不可能です! とは言いづらい。
「分かりました」
あっ、ナーメシ氏とモクザイ氏が、儂を凄く睨んでいる。
いや……でも。
「ははは、無理は言わないよ。とりあえず、チェーンの量産体制を整えたいから、そっちを頼むよ」
あっ……儂だけが、大変な予感。
ナーメシ氏と、モクザイ氏が、凄く嫌な笑みを浮かべて儂を見ていた。
ある晴れた、王城の中庭での昼下がり……儂はそんな二人に、苦笑いを返しておいた。
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