王様がおかしくなった～憑依？ 転生？ 別人格が乗り移り色々とやらかします～

第１０話：王様がおかしくなった【視察】（料理長）

「料理長！　陛下が来られました！」
「またか！」

　最近、陛下が時折厨房に顔を覗かせるようになった。
　初めて来られた時は、何をやらかしてしまったのかと青くなった。
　仕事をクビ程度ならともかく、物理的に首を斬られたらと思うと……手に持っていた卵の入った籠を、床に落としてしまい終わったと思った。

　陛下は驚かせたことを謝罪され、すぐに床を綺麗にするように差配していたな。
　私が慌てて跪こうとしたのを、押しとどめて。

「服が汚れるから、そのままでいいよ」

　うん、言葉もなんだか気さくなものだった。
　熱病以降、陛下が変わられたと聞かされたが。
　ここまでの変化だとは思わなかった。

　侍従を通じて、食事のリクエストは今までもあったが。
　最近は、嗜好が変わったご様子。
　前は肉ばかりで、野菜は出すなと言っていたのに。
　
　初めて来たときは「なんで、俺の料理って野菜が殆どないの？」という、クレームでした。

　口ごたえをしたら、ただでは済まない。
　でも、どうせただでは済まないならと、正直に話した。

「陛下の御指示です」
「マジで？　いや、意味分からん。皿に肉しか乗ってないし、スープも肉しか入ってないからびっくりしたわ。こういうお国柄かと思ったら、嫁や子供の前にはサラダがちゃんとあるし。スープにも野菜入ってるし、メインの付け合わせの野菜もあるし……嫌がらせかと思ったわ」

　普通に会話が出来たことに、驚いてしまった。
　驚きすぎた後に、安堵から膝から崩れ落ちてしまった。
　すぐに腕を掴まれた。

「だから、卵が落ちて割れてるから、汚れるって」

　……これ、本当に陛下？
　肉だけで良いと言われて、よっしゃぁ！　はよ死ねや！　とか思ってごめんなさい。
　肉だけ食ってたら、脚気になって最終的には死ぬって聞いたことあったから。
　なかなか虚脱にすらならない、健康優良児過ぎてどうしようかとも思ってたけど。

　とりあえず、今日の用事はなんでしょうね。

「酵母作ろう、酵母」
「コウボ……ですか？」
「この国だって、どっかにあるでしょう？　果物とかで作る、パンがふっくらするあれ」

　なんでしょうね。
　聞いたことがありません。
　とりあえず、部下たちに聞いてみますが誰も知らないようでした。

「干しブドウがいいよ。水と砂糖と干しブドウで出来るから」

　いやそこまで分かるなら、作り方まで教えてくれたらいいのにと。
　教えてもらいました。
　瓶に水と干しブドウと砂糖を入れて、密封するだけ。
　一日に２～３回振って、蓋を取って外気にさらして密封する。
　それを繰り返すと……これ、使えるんですか？

　とりあえず、底のゴミみたいな澱オリも使うと聞かされて、絶望した。

　ストレート法と、元種方を教えてもらった。
　元種を作るのは少し面倒だったが、なるほど……
　ストレート法だと、少し固めのパンができた。
　今までのものよりは、遥かに柔らかい。
　今までのパンは堅いだが、これは少し固い程度。
　バケットと陛下が呼んでいた。

　元種を使った方が、ふんわりしたパンが出来上がった。

「よっしゃ、これでエリーゼに蜂蜜トーストを食べさせらる！」

　そう言って、陛下が焼きあがったパンを持っていってたけど。
　蜂蜜？
　それ、私聞いてないんですけど？