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第11話:ベーカリーキング(侍女)
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最近、城下町に話題のパン屋さんが出来た。
うん、新しいパン屋さん。
パンなんてのは、堅くて長持ちするものが二~三種類あれば良い方だと思ってたけど。
このパン屋さんはかなり斬新だ。
斬新すぎて、長蛇の列ができるくらいに。
お陰で、他のパン屋さんは閑古鳥が鳴いている。
おそらく、ほとんどのパン屋さんが店仕舞いすることになるだろうと思ったんだけどね。
あっ、私の名前はメアリー。
メアリー・フォン・ブレッド。
ブレッド子爵家の三女で、今は王城勤めの侍女です。
王様ではなく、王妃様付きなのでそこそこ気楽なポジションです。
ん? 王妃様の侍女とか、緊張感をもって臨むような役職?
それは、まあそうなのですが。
外部から見たら、特にそう見えるかもしれません。
でも……国王陛下担当の侍女に比べると、待遇も安全性も雲泥の差というか。
とりあえず、良い職場なのです。
そして、その話題のパン屋さんのパンを買ったのですが……
これは、先月くらいから王城で出されるパンですね。
私たちの、賄にも出てきます。
ええ、とても美味しくて何度もおかわりしたのが懐かしいですね。
ただ、このパン屋さんは種類も凄い豊富ですね。
菓子パンやおかずパンなるものも。
流石、ベーカリーキング。
王様を名乗るだけのことはあります。
とりあえず、王妃様にも頼まれたので、数種類のパンをトレーに乗せてカウンターに。
女性が凄い速さで、札を並べていきます。
札を並べ終えると、木の板に数字が浮かび上がってきました。
何かの魔道具でしょうか?
「2,300エンラです」
えっと、計算をしてくれる道具なのでしょうか?
なにそれ! 欲しい!
そして、これだけ買っても、大銅貨23枚。
私のトレイの上には、パンが20個も乗っているのに。
それも、高そうな具材が入ったパンとかもあるんだけど。
計算間違い……てことは、無さそうだし。
いや、20個も買ってこの値段だから、店員さんも普通の表情なのだろう。
だって、普通の感覚なら安すぎて、自分の計算を疑うだろうし。
普通の堅いパンでも、20個も買えば1,000エンラはするはず。
まあ、こっちが損しないなら良いけど。
「ありがとうございます」
「おお、ありがとうなぁ!」
店員さんだけではなく、奥の方にいた職人の方もこっちに笑顔で手を振ってますね。
……見間違いでなければ、ここにいちゃダメな人が見えたのですが。
いえ、でも私の記憶よりはだいぶ細い気がしますし。
ただのそっくりさんでしょう。
ああ、あれか……職人さんのルックスが陛下に似てるから、店の名前もキングにしたのかもしれませんね。
何度か振り返って確認してしまいましたが、まあ気のせいでしょう。
あの、ものぐさな陛下が、パンなんか作るわけないでしょうし。
結局のところ、他のパン屋は潰れなかった。
代わりに、美味しいパンをたくさん取り扱うようになった。
まあ、それぞれの地域に一店舗ずつしかなかったからね。
潰れたら、そこの周辺に住んでいる人たちが困ることになるし。
ベーカリーキングが、週に一度だけれどもパン教室を開いてくれたおかげですね。
成功間違いないほどのクオリティだったのに、独占せずに広く伝えるとか。
ああ、色々な店で個性あふれるパンを作って欲しいと。
作るより、食べる方が好きと……根っからのパン職人のようですね。
ベーカリーキングの職人さんは。
早々に、後任の弟子を育て上げて、店を譲って引退してしまいましたが。
暇なときには顔を出して、新作のパンを焼いているみたいですね。
本当にランダムなので、その日にたまたま行き当たらないと、その新作のパンは弟子の新店主が覚えるまで食べられないんですよねぇ……
そういえば、ほんの数日前に陛下と会う機会があったのですが……痩せてましたね。
ええ、かなり。
どこかで見た顔だなと、思わずまじまじと見てしまうくらいには。
うん、どこかで見たというか、少し前までよく見た顔ですね。
ベーカリーキングとかで……
何か言うよりも先に、黙ってはちみつと食パンを渡されました。
口止め料……ですかね?
えっ? 新作の桃とダージリンのジャムも?
ダージリンとは?
紅茶?
紅茶と桃のジャム……しかも、高級そうな瓶に入ったものを……
ふふ……まさか、陛下が正攻法で口止めをしてくるとは。
一番簡単な口止め方法……物理的に口を塞ぐ……永遠に! をされなかったのは、本当に運が良かったのでしょう。
袖の下とか、良くないことではありますが、陛下がやったとなると凄く良い事に思えてしまいますね。
勿論、私の対応は一つですね。
「お初にお目にかかります。王妃様の侍女を任せられております、メアリーと申します。陛下におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」
「いや、初対面のフリとまでは……何度か、顔合わせてるでしょ」
陛下にも王妃様にも変な顔をされてしまいました。
やり過ぎてしまったようです。
「わざと?」
「いえ、滅相もございません。大変、スリムになられたので、つい初対面のような錯覚に陥ってしまいました」
「まあ、そういうことにしておこうか」
本当に、寛容になられたようですね。
噂で聞いてはいましたが、実際に体験するまでは半信半疑……いや、無信全疑でした。
そんな言葉はない? いえ、意味は伝わったでしょう?
うん、新しいパン屋さん。
パンなんてのは、堅くて長持ちするものが二~三種類あれば良い方だと思ってたけど。
このパン屋さんはかなり斬新だ。
斬新すぎて、長蛇の列ができるくらいに。
お陰で、他のパン屋さんは閑古鳥が鳴いている。
おそらく、ほとんどのパン屋さんが店仕舞いすることになるだろうと思ったんだけどね。
あっ、私の名前はメアリー。
メアリー・フォン・ブレッド。
ブレッド子爵家の三女で、今は王城勤めの侍女です。
王様ではなく、王妃様付きなのでそこそこ気楽なポジションです。
ん? 王妃様の侍女とか、緊張感をもって臨むような役職?
それは、まあそうなのですが。
外部から見たら、特にそう見えるかもしれません。
でも……国王陛下担当の侍女に比べると、待遇も安全性も雲泥の差というか。
とりあえず、良い職場なのです。
そして、その話題のパン屋さんのパンを買ったのですが……
これは、先月くらいから王城で出されるパンですね。
私たちの、賄にも出てきます。
ええ、とても美味しくて何度もおかわりしたのが懐かしいですね。
ただ、このパン屋さんは種類も凄い豊富ですね。
菓子パンやおかずパンなるものも。
流石、ベーカリーキング。
王様を名乗るだけのことはあります。
とりあえず、王妃様にも頼まれたので、数種類のパンをトレーに乗せてカウンターに。
女性が凄い速さで、札を並べていきます。
札を並べ終えると、木の板に数字が浮かび上がってきました。
何かの魔道具でしょうか?
「2,300エンラです」
えっと、計算をしてくれる道具なのでしょうか?
なにそれ! 欲しい!
そして、これだけ買っても、大銅貨23枚。
私のトレイの上には、パンが20個も乗っているのに。
それも、高そうな具材が入ったパンとかもあるんだけど。
計算間違い……てことは、無さそうだし。
いや、20個も買ってこの値段だから、店員さんも普通の表情なのだろう。
だって、普通の感覚なら安すぎて、自分の計算を疑うだろうし。
普通の堅いパンでも、20個も買えば1,000エンラはするはず。
まあ、こっちが損しないなら良いけど。
「ありがとうございます」
「おお、ありがとうなぁ!」
店員さんだけではなく、奥の方にいた職人の方もこっちに笑顔で手を振ってますね。
……見間違いでなければ、ここにいちゃダメな人が見えたのですが。
いえ、でも私の記憶よりはだいぶ細い気がしますし。
ただのそっくりさんでしょう。
ああ、あれか……職人さんのルックスが陛下に似てるから、店の名前もキングにしたのかもしれませんね。
何度か振り返って確認してしまいましたが、まあ気のせいでしょう。
あの、ものぐさな陛下が、パンなんか作るわけないでしょうし。
結局のところ、他のパン屋は潰れなかった。
代わりに、美味しいパンをたくさん取り扱うようになった。
まあ、それぞれの地域に一店舗ずつしかなかったからね。
潰れたら、そこの周辺に住んでいる人たちが困ることになるし。
ベーカリーキングが、週に一度だけれどもパン教室を開いてくれたおかげですね。
成功間違いないほどのクオリティだったのに、独占せずに広く伝えるとか。
ああ、色々な店で個性あふれるパンを作って欲しいと。
作るより、食べる方が好きと……根っからのパン職人のようですね。
ベーカリーキングの職人さんは。
早々に、後任の弟子を育て上げて、店を譲って引退してしまいましたが。
暇なときには顔を出して、新作のパンを焼いているみたいですね。
本当にランダムなので、その日にたまたま行き当たらないと、その新作のパンは弟子の新店主が覚えるまで食べられないんですよねぇ……
そういえば、ほんの数日前に陛下と会う機会があったのですが……痩せてましたね。
ええ、かなり。
どこかで見た顔だなと、思わずまじまじと見てしまうくらいには。
うん、どこかで見たというか、少し前までよく見た顔ですね。
ベーカリーキングとかで……
何か言うよりも先に、黙ってはちみつと食パンを渡されました。
口止め料……ですかね?
えっ? 新作の桃とダージリンのジャムも?
ダージリンとは?
紅茶?
紅茶と桃のジャム……しかも、高級そうな瓶に入ったものを……
ふふ……まさか、陛下が正攻法で口止めをしてくるとは。
一番簡単な口止め方法……物理的に口を塞ぐ……永遠に! をされなかったのは、本当に運が良かったのでしょう。
袖の下とか、良くないことではありますが、陛下がやったとなると凄く良い事に思えてしまいますね。
勿論、私の対応は一つですね。
「お初にお目にかかります。王妃様の侍女を任せられております、メアリーと申します。陛下におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」
「いや、初対面のフリとまでは……何度か、顔合わせてるでしょ」
陛下にも王妃様にも変な顔をされてしまいました。
やり過ぎてしまったようです。
「わざと?」
「いえ、滅相もございません。大変、スリムになられたので、つい初対面のような錯覚に陥ってしまいました」
「まあ、そういうことにしておこうか」
本当に、寛容になられたようですね。
噂で聞いてはいましたが、実際に体験するまでは半信半疑……いや、無信全疑でした。
そんな言葉はない? いえ、意味は伝わったでしょう?
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