王様がおかしくなった~憑依? 転生? 別人格が乗り移り色々とやらかします~

へたまろ

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王様がおかしくなった【チキンレーサー】(侍女メアリーの場合)

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 最近の陛下はおかしい。
 あっ、私はメアリー。
 とある子爵家の四女です。
 といっても、妾の子ですけどね。

 でもって、私がいま仕えているのはこの国の、国王陛下です。
 稀代の愚王と呼ばれた方でした。
 ええ、過去形です。
 数か月前に熱病を患ってから、変わられました。
 好い方向に。

 それまでは、本当にひどかった。
 自分が乳母ナニーになったような気になるレベルで。
 だって、本当に自分で何もなさらない方でしたから。
 部屋の片づけだとか、そういうレベルじゃなく。 

 着替え……は、まあそういうこともあるでしょう。
 王族の服は、面倒な仕様のものが多いですし。
 お風呂で身体を洗うのも、ご飯を食べさせるのも私たちの仕事です。
 なんなら、トイレの後始末まで。
 恥ずかしくないのでしょうか?
 恥ずかしくないから、できるのでしょう。
 それが、王族というもの……王子殿下は、自分でやられますね。
 着替え以外は。
 
 その陛下が、熱病で死の淵を彷徨ってから変わられたのです。
 いや、お亡くなりになって、まったく手が掛からなくなったわけじゃないですよ?
 ……はい、ちょっと期待しました。
 いまは、そんなことないです。
 快復されたことを、心より喜んでおりますとも。
 ええ、本当ですわ。

 どう変わったかというと。
 なんと、自分でご飯を食べるようになりました!
 当然ですけどね。
 さらには、着替えもほぼご自身でなされます。
 たまに、着方が難しいものとかは教えたり、手伝ったりしますが。
 その必要もすぐになくなります。
 服飾関係の工場に、依頼を出して一人で着られるように仕立て直すからです。

 陛下の偉大な発明……ファスナーとマジックテープ。
 それから、アジャスター。
 まだ、王家御用達の被服店にしか、この技術は伝わってません。
 ですが陛下が情報は秘匿せずに、広めよとのご指示を出されております。

 いずれ、私たちのお仕着せも、快適なものに変わるはずです。
 期待してますよ、陛下!

 あと、トイレ……室内に、誰かが同行するのを嫌がるようになりました。
 私たちからすれば、普通の感覚ですが。
 他国を含め、王族の中には当たり前のように従者に始末をさせることもあるらしいですし。
 なんなら、貴族当主の中にも。

 オンスイセンジョウベンザが恋しいといってましたが、なんのことでしょう?
 よく分かりませんが、温水を出す魔法を最初に習得していたので何かしら関係があるかもしれません。

 それから、色々と自分のことは自分でやり始めただけではなく、周囲に対する気遣いも増えてます。
 あと、他人に対して寛容になってます。
 凄くいい変化です。
 
 例えば……

「申し訳ございません。陛下のお気に入りのグラスを割ってしまいました」
「えっ? そうなの? 怪我はない?」

 と、気遣いの言葉まで。
 あっ、割ったのは私です。

「だ……大丈夫です。なにとぞ、命だけは……」

 本気の命乞いでしたが、変な顔をされました。

「えっ? たかが、コップでしょ? しかも、趣味が変わったから、以前のお気に入りは今のお気に入りでもないし……というか、高くなくても、飲みやすいグラスならなんでもいいよ」

 そのグラスが、凄くお高いのですが。
 庶民は、木製のカップ等を使っています。
 ガラスや陶器の食器なんてのは、貴族や商人くらいしか持ってないですよ?

 とは、言いません。
 藪蛇ですからね。

「てか、食器くらいいくらでもあるんじゃない? 一個や二個くらい気にしないよ」
「いえ……そのワンセット八脚ほど……」
「盛大にやったねぇ……てか、ワイングラスとかあったんだ」

 あっ、陛下が引いてる。
 これは、処刑される流れかも。
 いや、キレたわけじゃなくて、引いてるだけだ。
 ワンチャン、助かるかも。

「王族に仕えるレベルの侍女でも、意外とおっちょこちょいな娘もいるんだねぇ」
「申し訳ありません」

 なんだろう。
 全面的に私が悪いのに、モヤモヤとした感情が。
 イラっとする。

「次から気を付けてね」
「……はっ?」

 えっ?

「いや、次は気を付けてねって。そんな盛大な割り方して怪我しなかったのは、今回は本当に奇跡的に運が良かっただけだと思うからね」
「えっ?」

 あっ、いや……

「その百叩きとか、処刑とか?」
「はっ? いや、たかがグラスでそこまでする? てか、百叩きとかしたら怪我で、しばらく働けないじゃん。処刑とか、それこそ何の生産性もないし」
「あっ、ああ……これの罰として、奴隷のように……いや、馬車馬のように……」
「奴隷はともかく、馬車馬は定期的に水休憩や食事休憩あるし、夜は眠らせてもらえるから今と変わらないと思うけど。あと、複数頭飼ってるとこだと、交代で休日もあるし……うん、この国に休日制度無いのびっくりしたよ」

 話が脱線したけど、なぜかグラスを割ったら週休二日になった。
 侍女全員が……代わりに、良い娘がいたら紹介しないといけなくなったけど。
 私の時と違って、騙されたー! なんて、部屋で暴れる羽目にはならないだろう。
 そのくらい、職場環境が激変してる。
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