王様がおかしくなった~憑依? 転生? 別人格が乗り移り色々とやらかします~

へたまろ

文字の大きさ
39 / 60

王様がおかしくなった【ソロキャン?えっ?ソロキャン?】(近衛兵)

しおりを挟む
 陛下が、大きな荷物を持って一人で城門から外に向かおうとしている。
 そして、門兵と何やら揉めている。
 またか……

 ちょっと、待った。
 その荷物は?

 慌てて現場へと駆けつける。
 今日の護衛任務は、私の番だ。
 そして、陛下の荷物。
 もしかして、家出?
 国王陛下が?
 反対勢力も大人しくなった、この状態で?

「なんだ、お前がさっさと通さないから、見つかってしまったではないか」
「流石に、陛下御自身に大荷物を背負わせて、単独で街に向かわせるなど。バレたら、上長に殺されます」

 私の姿を確認した陛下が諦めたように溜息を吐くと、門番の若い男性兵士に文句を言っている。
 表情は若干呆れた様子だから、怒っているようでは無さそうだ。
 一安心だ。

「うむ、お勤めご苦労。よく、引き留めてくれた」
「お前、それ俺に対する皮肉か?」

 最近の陛下の一人称は余では無くなった。
 威厳は減ったが、好感は少し持てる。
 親近感という意味でも。
 そうじゃない。

「申し訳ありません。近衛騎士として、護衛対象であらせられる陛下を見失ったとなれば、それこそ騎士団長に殺されます。純粋に、感謝とねぎらいの気持ちですよ」

 少し前までなら、二人ともクビか首だろう。
 うん、首。
 首だけにされるってこと。
 今なら、多少の無礼は許される。
 国王陛下に対してれることは、良い事ではないかもしれないが。
 陛下が喜ばれるのだ。
 現状では、悪いことでは無いはず。
 もしかしたら、今まで周囲との距離感に悩んで荒れていたのかもしれない。
 寂しかったのだろう。

「急に、俺に同情の視線を向けてきたぞこいつ。大丈夫か?」
「さあ? お疲れなのでしょう」

 私の気持ちを知ってか知らずか、陛下と門番が失礼なことを言ってる気がするが。
 まあ、良い。

「それで、どちらに向かわれるつもりで?」
「ん? ちょっと、山にな」
「も……もしかして、その鞄の中には死体か何か?」
「失礼なことを。人を埋めにいくわけじゃないぞ」

 うっかり誰かを殺してしまったのかと思った。
 最近では、城内での評判も良いから。
 自分の罪を隠すために、こっそり山に向かうのかと。
 ……口の堅い部下に、始末させれば済む話か。

「家出ですか?」
「馬鹿を言うな。家族だっているのに。ただの、ソロキャンだ」
「ソロキャン……ですか?」
「ああ、一人で山でキャンプでもしようかと「馬鹿じゃないのですか?」」
「あっ?」
「いえ、その無謀ではないかと」

 危ない危ない。
 あまりにも予想を超えた返答に、思わず本音が漏れてしまった。

「私もご一緒します」
「はあ? お前も一緒なら、ソロキャンにはならんだろう。大体、お前キャンプ用品持ってるのか? それに、お前の勤務時間は日の入りまでだろう。残業は認めんぞ」
「日の入りまでは陛下の護衛をして、その後は陛下と一緒にキャンプを楽しみます」
「家で、家族が待ってるだろう!」
「生憎の独り身でして」

 私の言葉に、陛下が首を横に振る。
 まあ、しがない子爵家の三男だ。
 王都に下宿して、勝手気ままな一人暮らしだ。
 残念ながら、王都邸なんて別邸を持てるような富強でもないしな。

「仕方ない。キャンプ地では、一定の距離を保てよ! それから、自分のことは自分でしろよ! 俺に面倒を掛けないなら、認める。ただし、日の入り後はただのキャンプ地で一緒になった、他人だからな!」

 ……本来なら、私が陛下の手足となって色々とする立場なのですが。
 とりあえず、これで団長に叱られることはないだろう。
 そうだ、門番に言伝を頼まないと。
 今日は、陛下は外泊……これ、事後報告拙いよな。
 でも、これ以上引き留められないし。
 アイコンタクトで、門番に合図を送る。
 良い笑顔で頷いてくれた。

「楽しそうで、羨ましいです!」

 違う、そうじゃない。
 結局、陛下は待ってくれずさっさと、城門の外に。
 その後、知り合いの職人の工房を回って、私のキャンプ道具も用意してくれた。
 さらに、食料品まで。
 費用は、全部陛下持ちだ。
 いや、後でお支払いさせていただきます。

「俺に恥をかかせる気か? それと、これは残業手当の代わりだ。俺は、ただ働きはするのもさせるのも嫌だ。ただ、お前が勝手に俺についてくるんだから、現金じゃなくて現物支給で納得しろよ」

 言葉は悪いが、お優しい。
 心遣いが、凄く有難い。
 鎧とマントで、一晩を過ごすつもりだったから。
 鎧といっても、肩当てと胸当て、それから胴当てのみの軽装。
 腰には、剣が一本だけだ。
 まあ、夜の冷え込みで鎧が冷たくなったら、大変だし。
 素直にありがたい。

 しかし、これを持ったら陛下の荷物が持てないのですが?

「もともと、一人で行くつもりだったんだ。自分で持つ。というか、そういうものだからな」

 とはいっても、山の麓までは馬車での移動。
 すでに話をしてあったのだろう。
 幌のついた荷馬車だ……荷馬車か……

「オーサマー商会の馬車だ。乗り心地は約束する」
「なるほど、確かに揺れが少なくて快適ですね」
「ああ、水物や壺に入った食品を輸送するからな。そのために改良に改良を重ねた馬車だ。トーションバーを使った簡易な物などはすで実用されている。コイルスプリングの開発と並行して、最初はリーフスプリング……板ばねで実験を重ねて、ダブルウィッシュボーンの概念を「はい、何をおっしゃっているのか、さっぱり分かりません」」
「まあ、これは前がストラット式のサスで、後ろがトーションビームだが乗り心地はだいぶいいな」

 陛下が、難しい言葉を話してるのって……違和感しかない。

「何か、失礼なことを考えてないか?」
「いえ、滅相もありません。おっしゃる通り、荷馬車とは思えないほど快適です」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...