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王様がおかしくなった【ソロキャン?えっ?ソロキャン?】(近衛兵)
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陛下が、大きな荷物を持って一人で城門から外に向かおうとしている。
そして、門兵と何やら揉めている。
またか……
ちょっと、待った。
その荷物は?
慌てて現場へと駆けつける。
今日の護衛任務は、私の番だ。
そして、陛下の荷物。
もしかして、家出?
国王陛下が?
反対勢力も大人しくなった、この状態で?
「なんだ、お前がさっさと通さないから、見つかってしまったではないか」
「流石に、陛下御自身に大荷物を背負わせて、単独で街に向かわせるなど。バレたら、上長に殺されます」
私の姿を確認した陛下が諦めたように溜息を吐くと、門番の若い男性兵士に文句を言っている。
表情は若干呆れた様子だから、怒っているようでは無さそうだ。
一安心だ。
「うむ、お勤めご苦労。よく、引き留めてくれた」
「お前、それ俺に対する皮肉か?」
最近の陛下の一人称は余では無くなった。
威厳は減ったが、好感は少し持てる。
親近感という意味でも。
そうじゃない。
「申し訳ありません。近衛騎士として、護衛対象であらせられる陛下を見失ったとなれば、それこそ騎士団長に殺されます。純粋に、感謝と労いの気持ちですよ」
少し前までなら、二人ともクビか首だろう。
うん、首。
首だけにされるってこと。
今なら、多少の無礼は許される。
国王陛下に対して狎れることは、良い事ではないかもしれないが。
陛下が喜ばれるのだ。
現状では、悪いことでは無いはず。
もしかしたら、今まで周囲との距離感に悩んで荒れていたのかもしれない。
寂しかったのだろう。
「急に、俺に同情の視線を向けてきたぞこいつ。大丈夫か?」
「さあ? お疲れなのでしょう」
私の気持ちを知ってか知らずか、陛下と門番が失礼なことを言ってる気がするが。
まあ、良い。
「それで、どちらに向かわれるつもりで?」
「ん? ちょっと、山にな」
「も……もしかして、その鞄の中には死体か何か?」
「失礼なことを。人を埋めにいくわけじゃないぞ」
うっかり誰かを殺してしまったのかと思った。
最近では、城内での評判も良いから。
自分の罪を隠すために、こっそり山に向かうのかと。
……口の堅い部下に、始末させれば済む話か。
「家出ですか?」
「馬鹿を言うな。家族だっているのに。ただの、ソロキャンだ」
「ソロキャン……ですか?」
「ああ、一人で山でキャンプでもしようかと「馬鹿じゃないのですか?」」
「あっ?」
「いえ、その無謀ではないかと」
危ない危ない。
あまりにも予想を超えた返答に、思わず本音が漏れてしまった。
「私もご一緒します」
「はあ? お前も一緒なら、ソロキャンにはならんだろう。大体、お前キャンプ用品持ってるのか? それに、お前の勤務時間は日の入りまでだろう。残業は認めんぞ」
「日の入りまでは陛下の護衛をして、その後は陛下と一緒にキャンプを楽しみます」
「家で、家族が待ってるだろう!」
「生憎の独り身でして」
私の言葉に、陛下が首を横に振る。
まあ、しがない子爵家の三男だ。
王都に下宿して、勝手気ままな一人暮らしだ。
残念ながら、王都邸なんて別邸を持てるような富強でもないしな。
「仕方ない。キャンプ地では、一定の距離を保てよ! それから、自分のことは自分でしろよ! 俺に面倒を掛けないなら、認める。ただし、日の入り後はただのキャンプ地で一緒になった、他人だからな!」
……本来なら、私が陛下の手足となって色々とする立場なのですが。
とりあえず、これで団長に叱られることはないだろう。
そうだ、門番に言伝を頼まないと。
今日は、陛下は外泊……これ、事後報告拙いよな。
でも、これ以上引き留められないし。
アイコンタクトで、門番に合図を送る。
良い笑顔で頷いてくれた。
「楽しそうで、羨ましいです!」
違う、そうじゃない。
結局、陛下は待ってくれずさっさと、城門の外に。
その後、知り合いの職人の工房を回って、私のキャンプ道具も用意してくれた。
さらに、食料品まで。
費用は、全部陛下持ちだ。
いや、後でお支払いさせていただきます。
「俺に恥をかかせる気か? それと、これは残業手当の代わりだ。俺は、ただ働きはするのもさせるのも嫌だ。ただ、お前が勝手に俺についてくるんだから、現金じゃなくて現物支給で納得しろよ」
言葉は悪いが、お優しい。
心遣いが、凄く有難い。
鎧とマントで、一晩を過ごすつもりだったから。
鎧といっても、肩当てと胸当て、それから胴当てのみの軽装。
腰には、剣が一本だけだ。
まあ、夜の冷え込みで鎧が冷たくなったら、大変だし。
素直にありがたい。
しかし、これを持ったら陛下の荷物が持てないのですが?
「もともと、一人で行くつもりだったんだ。自分で持つ。というか、そういうものだからな」
とはいっても、山の麓までは馬車での移動。
すでに話をしてあったのだろう。
幌のついた荷馬車だ……荷馬車か……
「オーサマー商会の馬車だ。乗り心地は約束する」
「なるほど、確かに揺れが少なくて快適ですね」
「ああ、水物や壺に入った食品を輸送するからな。そのために改良に改良を重ねた馬車だ。トーションバーを使った簡易な物などはすで実用されている。コイルスプリングの開発と並行して、最初はリーフスプリング……板ばねで実験を重ねて、ダブルウィッシュボーンの概念を「はい、何をおっしゃっているのか、さっぱり分かりません」」
「まあ、これは前がストラット式のサスで、後ろがトーションビームだが乗り心地はだいぶいいな」
陛下が、難しい言葉を話してるのって……違和感しかない。
「何か、失礼なことを考えてないか?」
「いえ、滅相もありません。おっしゃる通り、荷馬車とは思えないほど快適です」
そして、門兵と何やら揉めている。
またか……
ちょっと、待った。
その荷物は?
慌てて現場へと駆けつける。
今日の護衛任務は、私の番だ。
そして、陛下の荷物。
もしかして、家出?
国王陛下が?
反対勢力も大人しくなった、この状態で?
「なんだ、お前がさっさと通さないから、見つかってしまったではないか」
「流石に、陛下御自身に大荷物を背負わせて、単独で街に向かわせるなど。バレたら、上長に殺されます」
私の姿を確認した陛下が諦めたように溜息を吐くと、門番の若い男性兵士に文句を言っている。
表情は若干呆れた様子だから、怒っているようでは無さそうだ。
一安心だ。
「うむ、お勤めご苦労。よく、引き留めてくれた」
「お前、それ俺に対する皮肉か?」
最近の陛下の一人称は余では無くなった。
威厳は減ったが、好感は少し持てる。
親近感という意味でも。
そうじゃない。
「申し訳ありません。近衛騎士として、護衛対象であらせられる陛下を見失ったとなれば、それこそ騎士団長に殺されます。純粋に、感謝と労いの気持ちですよ」
少し前までなら、二人ともクビか首だろう。
うん、首。
首だけにされるってこと。
今なら、多少の無礼は許される。
国王陛下に対して狎れることは、良い事ではないかもしれないが。
陛下が喜ばれるのだ。
現状では、悪いことでは無いはず。
もしかしたら、今まで周囲との距離感に悩んで荒れていたのかもしれない。
寂しかったのだろう。
「急に、俺に同情の視線を向けてきたぞこいつ。大丈夫か?」
「さあ? お疲れなのでしょう」
私の気持ちを知ってか知らずか、陛下と門番が失礼なことを言ってる気がするが。
まあ、良い。
「それで、どちらに向かわれるつもりで?」
「ん? ちょっと、山にな」
「も……もしかして、その鞄の中には死体か何か?」
「失礼なことを。人を埋めにいくわけじゃないぞ」
うっかり誰かを殺してしまったのかと思った。
最近では、城内での評判も良いから。
自分の罪を隠すために、こっそり山に向かうのかと。
……口の堅い部下に、始末させれば済む話か。
「家出ですか?」
「馬鹿を言うな。家族だっているのに。ただの、ソロキャンだ」
「ソロキャン……ですか?」
「ああ、一人で山でキャンプでもしようかと「馬鹿じゃないのですか?」」
「あっ?」
「いえ、その無謀ではないかと」
危ない危ない。
あまりにも予想を超えた返答に、思わず本音が漏れてしまった。
「私もご一緒します」
「はあ? お前も一緒なら、ソロキャンにはならんだろう。大体、お前キャンプ用品持ってるのか? それに、お前の勤務時間は日の入りまでだろう。残業は認めんぞ」
「日の入りまでは陛下の護衛をして、その後は陛下と一緒にキャンプを楽しみます」
「家で、家族が待ってるだろう!」
「生憎の独り身でして」
私の言葉に、陛下が首を横に振る。
まあ、しがない子爵家の三男だ。
王都に下宿して、勝手気ままな一人暮らしだ。
残念ながら、王都邸なんて別邸を持てるような富強でもないしな。
「仕方ない。キャンプ地では、一定の距離を保てよ! それから、自分のことは自分でしろよ! 俺に面倒を掛けないなら、認める。ただし、日の入り後はただのキャンプ地で一緒になった、他人だからな!」
……本来なら、私が陛下の手足となって色々とする立場なのですが。
とりあえず、これで団長に叱られることはないだろう。
そうだ、門番に言伝を頼まないと。
今日は、陛下は外泊……これ、事後報告拙いよな。
でも、これ以上引き留められないし。
アイコンタクトで、門番に合図を送る。
良い笑顔で頷いてくれた。
「楽しそうで、羨ましいです!」
違う、そうじゃない。
結局、陛下は待ってくれずさっさと、城門の外に。
その後、知り合いの職人の工房を回って、私のキャンプ道具も用意してくれた。
さらに、食料品まで。
費用は、全部陛下持ちだ。
いや、後でお支払いさせていただきます。
「俺に恥をかかせる気か? それと、これは残業手当の代わりだ。俺は、ただ働きはするのもさせるのも嫌だ。ただ、お前が勝手に俺についてくるんだから、現金じゃなくて現物支給で納得しろよ」
言葉は悪いが、お優しい。
心遣いが、凄く有難い。
鎧とマントで、一晩を過ごすつもりだったから。
鎧といっても、肩当てと胸当て、それから胴当てのみの軽装。
腰には、剣が一本だけだ。
まあ、夜の冷え込みで鎧が冷たくなったら、大変だし。
素直にありがたい。
しかし、これを持ったら陛下の荷物が持てないのですが?
「もともと、一人で行くつもりだったんだ。自分で持つ。というか、そういうものだからな」
とはいっても、山の麓までは馬車での移動。
すでに話をしてあったのだろう。
幌のついた荷馬車だ……荷馬車か……
「オーサマー商会の馬車だ。乗り心地は約束する」
「なるほど、確かに揺れが少なくて快適ですね」
「ああ、水物や壺に入った食品を輸送するからな。そのために改良に改良を重ねた馬車だ。トーションバーを使った簡易な物などはすで実用されている。コイルスプリングの開発と並行して、最初はリーフスプリング……板ばねで実験を重ねて、ダブルウィッシュボーンの概念を「はい、何をおっしゃっているのか、さっぱり分かりません」」
「まあ、これは前がストラット式のサスで、後ろがトーションビームだが乗り心地はだいぶいいな」
陛下が、難しい言葉を話してるのって……違和感しかない。
「何か、失礼なことを考えてないか?」
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