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第17話:王様がおかしくなった【馬に乗ろうぜ!】(厩番)
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最近、陛下の愛馬のスカーレットの機嫌が悪い。
餌も拒否することが多い……
理由は分かっている。
「なかなかに、難しいな」
「そうですね。我らのような軍人ならともかく、一般人に御者が務まるか」
「御者か騎手か。どちらでもいいか」
そう、空を飛んでいる巨大な生き物。
鳥ではない。
それが、複数。
そのうちの一頭、いや一羽に陛下が乗ってご機嫌に会話をしている。
空で会話……スキルか何かだろうか?
ここまで内容が伝わってくるが、大きな声というわけでもない。
「しかし、ワイバーンが手綱で操れるとは……陛下は、なんで何もなしに自由に操れるのですか?」
「ん? 仲が良いからかな?」
そう、亜竜と呼ばれる翼竜の一種。
ワイバーンに陛下がご執心だからだ。
いや、元々、馬に乗ることもあまりなかったが。
しかし、こうも露骨にスカーレットの前で竜に乗って褒めそやされると、そりゃ馬も面白くないだろう。
でも、お前も悪くないか?
陛下が乗るのをずっと拒否してきたんだから。
「ブルル!」
「おいおい、頭を齧るな」
完全に八つ当たりだ。
俺の頭を齧って、それから上を見上げて抗議でもするかのよう鳴き声を出されてもなぁ。
確かに分かる。
陛下は、かなりの巨漢だったからな。
それでいて、運動神経もからっきし。
乗せても、気を付けないとすぐに落ちてしまうくらいに。
お前が、気遣って落ちないように頑張っていたのは知っている。
だからといって、痩せたからってそう露骨に態度を変えなくても。
乗せても良いかなって雰囲気を出していたが、お前は何様だと……動物だから仕方ないか。
人の上下関係は、馬には関係ないもんな。
しかし、陛下は生き物にだけは優しかった。
人間以外の……それはそれで、どうなのかとも思ったが。
スカーレットの面倒を見ているわしにも、他の者に対するのと比べて寛容だったが。
こいつのことで、あれこれと相談を受けたからな。
乗馬の練習方法とかも、聞かれたが。
聞かれただけで、実践した様子は見られなかった。
「ブルッ! ブルッ!」
「なんだ? まだ、ハンガーストライキを続けているのか? 俺に付き合って、お前まで痩せる必要は無いだろう」
いつの間にか、ワイバーンによる遊覧飛行を終えた陛下が、スカーレットの首筋を撫でながら話しかけている。
「ブルルルルルッ!」
「やけに今日は、押しが強いな。はぁ……結構、股関節に来てるんだけどな。仕方ない、たまには付き合ってやるか」
そう言って、フワリと陛下がスカーレットに飛び乗った。
本当に、変われば変わるもので。
あんなに、軽やかに馬に飛び乗れるなんて……まだ、太めよりのポッチャリ体型ではあるけども。
思ったよりも、身体の扱いが上手くなっているのか。
「ちょっと、こいつの機嫌を取ってくるから一号を厩舎に入れておいてくれ」
……思わず、陛下に同行していた騎士様を見てしまった。
彼も、困ったように肩をすくめている。
うん、一号と呼ばれたワイバーンが、わしの前で首を傾げているが。
あー……わしは、馬専門なのですが?
言うことを聞いてくれるか分からないけれど、とりあえず手綱を掴んで引いてみる。
ああ、歩けるのか。
器用に二本足で跳ねるように、後ろをついて来る姿は可愛い……くはない。
かなり、狂暴だ。
本当に、人を襲わないですよね?
「いまのところ、けが人は出ていない」
「それは、襲われたけど無事だったとか? 私が、文字通り第一号になるってことはないですよね?」
「それは……どうだろう?」
「ちょっ!」
冗談だとしても、洒落にならない。
今まで、厩舎に戻すのも、外に出すのも陛下がやられていたのを見ていたけど。
陛下は手綱すら持たずに、それを行っていた。
本当に、意味が分からない。
「北の山脈のレッドドラゴンに借りたと言っていたから、一応は言うことは聞いてくれるみたいだけど」
「何を言ってるのか、よく分かりません」
「なんか、キャンプに行ったときに知り合って、意気投合したらしい」
「言葉の意味は分かるのですが、言ってる意味が分からないんですって」
「一晩一緒に飲み明かしたら、なんでも陛下の御先祖様も知り合いだったらしくてな」
「普通のことのように言われてますが、相手はレッドドラゴンですよね? しかも北の山脈のレッドドラゴンって、火竜の長でこの国の護国竜とも呼ばれている」
そうそう、北から他の国が侵攻してこないのは、このレッドドラゴンの存在が大きい。
いや、そもそも、あまり侵略されることも無いが。
全く無いわけじゃない。
その中で、この北ルートは、レッドドラゴンの目をかいくぐって山越えをする必要がある。
だから、かなり難易度が高い。
「縄張りに武装した集団が来たら、敵認定するのは当然だろうって言ってたらしいよ。だから、軍が侵攻してくると襲ってくれたのかと、俺も納得したけど。陛下いわく、照れ隠しじゃないかなってさ。そんなこと、あるかな?」
「さあ?」
騎士様も、少しおかしなことになっているようだ。
確かに、竜だのワイバーンだの、なかなかお目に掛かれないレベルの魔物達だ。
「陛下は、ワイバーンを使った輸送を考えているらしい。空輸って言っていた」
「輸送ですか? 人を運ぶつもりなのでしょうか?」
「いや、主に物資らしい。流通網の一つとして、大いに期待が出来るとかなんとか」
なるほど……荷馬車の代わりにでもするつもりでしょうか?
それなら、陛下が移動に使うわけではないのでしょう。
これは、スカーレットにとっては、良い事でしょうね。
陛下も少しずつですが細くなっているので、スカーレットも乗せても良いかなって雰囲気ですからね。
その矢先にワイバーンでしたから……
とりあえず、ワイバーン輸送……業者の方は、大変そうですね。
餌も拒否することが多い……
理由は分かっている。
「なかなかに、難しいな」
「そうですね。我らのような軍人ならともかく、一般人に御者が務まるか」
「御者か騎手か。どちらでもいいか」
そう、空を飛んでいる巨大な生き物。
鳥ではない。
それが、複数。
そのうちの一頭、いや一羽に陛下が乗ってご機嫌に会話をしている。
空で会話……スキルか何かだろうか?
ここまで内容が伝わってくるが、大きな声というわけでもない。
「しかし、ワイバーンが手綱で操れるとは……陛下は、なんで何もなしに自由に操れるのですか?」
「ん? 仲が良いからかな?」
そう、亜竜と呼ばれる翼竜の一種。
ワイバーンに陛下がご執心だからだ。
いや、元々、馬に乗ることもあまりなかったが。
しかし、こうも露骨にスカーレットの前で竜に乗って褒めそやされると、そりゃ馬も面白くないだろう。
でも、お前も悪くないか?
陛下が乗るのをずっと拒否してきたんだから。
「ブルル!」
「おいおい、頭を齧るな」
完全に八つ当たりだ。
俺の頭を齧って、それから上を見上げて抗議でもするかのよう鳴き声を出されてもなぁ。
確かに分かる。
陛下は、かなりの巨漢だったからな。
それでいて、運動神経もからっきし。
乗せても、気を付けないとすぐに落ちてしまうくらいに。
お前が、気遣って落ちないように頑張っていたのは知っている。
だからといって、痩せたからってそう露骨に態度を変えなくても。
乗せても良いかなって雰囲気を出していたが、お前は何様だと……動物だから仕方ないか。
人の上下関係は、馬には関係ないもんな。
しかし、陛下は生き物にだけは優しかった。
人間以外の……それはそれで、どうなのかとも思ったが。
スカーレットの面倒を見ているわしにも、他の者に対するのと比べて寛容だったが。
こいつのことで、あれこれと相談を受けたからな。
乗馬の練習方法とかも、聞かれたが。
聞かれただけで、実践した様子は見られなかった。
「ブルッ! ブルッ!」
「なんだ? まだ、ハンガーストライキを続けているのか? 俺に付き合って、お前まで痩せる必要は無いだろう」
いつの間にか、ワイバーンによる遊覧飛行を終えた陛下が、スカーレットの首筋を撫でながら話しかけている。
「ブルルルルルッ!」
「やけに今日は、押しが強いな。はぁ……結構、股関節に来てるんだけどな。仕方ない、たまには付き合ってやるか」
そう言って、フワリと陛下がスカーレットに飛び乗った。
本当に、変われば変わるもので。
あんなに、軽やかに馬に飛び乗れるなんて……まだ、太めよりのポッチャリ体型ではあるけども。
思ったよりも、身体の扱いが上手くなっているのか。
「ちょっと、こいつの機嫌を取ってくるから一号を厩舎に入れておいてくれ」
……思わず、陛下に同行していた騎士様を見てしまった。
彼も、困ったように肩をすくめている。
うん、一号と呼ばれたワイバーンが、わしの前で首を傾げているが。
あー……わしは、馬専門なのですが?
言うことを聞いてくれるか分からないけれど、とりあえず手綱を掴んで引いてみる。
ああ、歩けるのか。
器用に二本足で跳ねるように、後ろをついて来る姿は可愛い……くはない。
かなり、狂暴だ。
本当に、人を襲わないですよね?
「いまのところ、けが人は出ていない」
「それは、襲われたけど無事だったとか? 私が、文字通り第一号になるってことはないですよね?」
「それは……どうだろう?」
「ちょっ!」
冗談だとしても、洒落にならない。
今まで、厩舎に戻すのも、外に出すのも陛下がやられていたのを見ていたけど。
陛下は手綱すら持たずに、それを行っていた。
本当に、意味が分からない。
「北の山脈のレッドドラゴンに借りたと言っていたから、一応は言うことは聞いてくれるみたいだけど」
「何を言ってるのか、よく分かりません」
「なんか、キャンプに行ったときに知り合って、意気投合したらしい」
「言葉の意味は分かるのですが、言ってる意味が分からないんですって」
「一晩一緒に飲み明かしたら、なんでも陛下の御先祖様も知り合いだったらしくてな」
「普通のことのように言われてますが、相手はレッドドラゴンですよね? しかも北の山脈のレッドドラゴンって、火竜の長でこの国の護国竜とも呼ばれている」
そうそう、北から他の国が侵攻してこないのは、このレッドドラゴンの存在が大きい。
いや、そもそも、あまり侵略されることも無いが。
全く無いわけじゃない。
その中で、この北ルートは、レッドドラゴンの目をかいくぐって山越えをする必要がある。
だから、かなり難易度が高い。
「縄張りに武装した集団が来たら、敵認定するのは当然だろうって言ってたらしいよ。だから、軍が侵攻してくると襲ってくれたのかと、俺も納得したけど。陛下いわく、照れ隠しじゃないかなってさ。そんなこと、あるかな?」
「さあ?」
騎士様も、少しおかしなことになっているようだ。
確かに、竜だのワイバーンだの、なかなかお目に掛かれないレベルの魔物達だ。
「陛下は、ワイバーンを使った輸送を考えているらしい。空輸って言っていた」
「輸送ですか? 人を運ぶつもりなのでしょうか?」
「いや、主に物資らしい。流通網の一つとして、大いに期待が出来るとかなんとか」
なるほど……荷馬車の代わりにでもするつもりでしょうか?
それなら、陛下が移動に使うわけではないのでしょう。
これは、スカーレットにとっては、良い事でしょうね。
陛下も少しずつですが細くなっているので、スカーレットも乗せても良いかなって雰囲気ですからね。
その矢先にワイバーンでしたから……
とりあえず、ワイバーン輸送……業者の方は、大変そうですね。
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