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第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~
第10話:エストの村のゴブリン退治7
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何故かゴブリンの巣? 集落? の広場に連れてこられた。
そこで、アレクとジェネラルが対峙している。
アレクの手には、ミスリルのロングソード。
ジェネラルの手には装飾が施されているランス。
穂先が鈍く銀色の輝きを放ち、円錐状の柄は艶の無い黒をベースに金字で何やら文様が刻まれている。
護拳はジェネラルの手を包み込むようなフレア状に広がっていて、とても価値のある一品だという事が見てとれる。
よし、アレク頑張れ!
きっと、ジェネラルのドロップ品はあのスピアね!
「さてと、準備は良いようだな。我が勝てばそこな女子と其方たちの血肉を、お主が勝てばこの地からの撤退と、人と100年こちらから関らぬ事を誓おう! そして、正々堂々と子々孫々末代まで語られるよう、素晴らしき決闘を始めようでは無いか!」
「無駄に重いから! っていうか、えーーーー……いや、確かにここまで来てジタバタしても……」
ジェネラルって……思った以上にまともで面食らってしまった。
まあ、村を襲うにしても警戒をしながらも、チマチマと一匹ずつ牛を攫っていたわけだし?
一気に村を襲って討伐隊でも組まれようもんならねえ?
アレクが構えているのはミスリル銀の剣だから、まあどうなんだろう?
あんまり武器の事ってわかんないんだよね。
「アレク危ない!」
そんな事を思っていたら、カバチの叫び声とガンッという音が響き渡る。
「ほうっ! 今の一撃を防ぐか!」
「いってー! ちょっと、マジで強すぎるって!」
ジェネラルが放った突きに対して、どうにか反応することの出来たアレクが剣で叩きつけながら反動で身を躱したのだ。
横でカバチがほっとした表情を浮かべている。
ちなみに、カナタはっと……あいつ、なんか飲んでない?
「いやあ、叩き落とすつもりがピクリともしないとか」
「まあ、まだまだ準備運動じゃからな?」
アレクは手が痺れたのか、左手で右手の手首を押さえつつ苦笑する。
ジェネラルの方は手に持ったランスを一度大きく袈裟懸けに振ると、再度正面を向けて構える。
「次は連続で行くぞ!」
「おわっとっとっとっと!」
「ひゃー!」
物凄い速さで繰り出される突きに対して、アレクの剣がその穂先に吸い込まれるように放たれて先端を叩き落としていく。
何故か横でカバチが手で目を隠してる。
いや、指の隙間から覗いてるのはまるわかりなんだけどね。
「流石に連続だと力が保てぬ分、先端を叩かれれば防がれるか」
「いやいやいや、ちょっと待って、手が勝手に!」
アレクが言ってる言葉の意味が分からない。
と思ってそっちに目を向け直すと……あれっ? 嘘! ……アレクの言ってる意味が良く分かる。
っていうか、なにあれ?
かなり、気持ち悪いんですけど?
「アレクすごーい! 身体が柔らかくなってる!」
何がって?
だってアレクの右手が不自然にくねくねと動き回って、槍に剣をぶつけてるんだもん。
肩から下だけが動いてて、それ以外の部分は全然身動きとって無いんだよ?
本人の目だけは大きく見開かれてるけどさ。
それにしても、異常な光景なのよ!
「奇怪な技を」
「ちょっ、剣が! 剣が手から離れないんですけど? というか、痛い痛い痛い痛い! 肩が! 肘が!」
とうとうバキンという音が数回したかと思うと、関節を無視した動きでジェネラルの槍を捌きつつも反撃まで加えている。
肝心のアレクの表情は脂汗でびっしょり濡れているし、その表情は苦悶に歪んでいる。
あー、あの武器もしかして駄目なやつじゃないのかな?
そんな事を思いながら、剣の元の持ち主であるカナタに目を向けると、めっちゃ顔を逸らされた。
そして、顔を伏せながらもブックッっという、堪えきれない笑い声っぽいもんが聞こえてるから。
知ってたよね?
「やりおる! こうなれば、【旋風】!」
「うおおおお、腕がああああああ、いってええええええええ!」
「げぇぇぇぇぇ!」
ジェネラルの突きに捻りが加えられる。
武技? いやスキルかな?
回転を伴う突きに剣が絡めとられて……
気持ち悪い……
アレクの腕がグルグル捩じられている。
さすがのカバチも食い入るように見入りつつも、その表情は真っ青だ。
これ……ブチッと切れたりしないよね?
そして、次の瞬間剣が青白く光ったかと思うと、一気にアレクの腕が先ほどと逆回転に回り始めてジェネラルの首元を狙っていく。
「くっ! 馬鹿な! 人間が剣で【旋風】を放つだと!」
「千切れる! 千切れる! ……いでぇぇぇぇぇぇうぎゅぁあああぁあぁあ!」
アレクが何やら不穏な叫びをあげているが、次の瞬間さらに耳を塞ぎたくなるような叫び声をあげて、その場にうつぶせに倒れ込んだ。
腕だけは相変わらずジェネラルに向かって剣を振るっているが。
「好機!」
だがジェネラルは唐突に敵が倒れ込んだことをチャンスと思ったのか、不用意に近付いてその背中にスピアを突き立てようとする。
直後腕が弾んだかと思うと、今までとは比べ物にならない鋭さでスピアの穂先を弾きジェネラルの喉元を突き刺す。
気持ち悪っ!
泡噴いて白目剥いて倒れてるアレクと、不自然に伸びたその腕が戦いの奇妙さを物語っていた。
「あー……自動で戦う武器シリーズは失敗か。使用者が気絶した方が動きが良くなるっと……ということは、意識があると本人が無意識か意識的に抵抗してるっぽいな。なら四肢欠損した人の失われた部位を補助する道具としては……」
「えっ? カナタいま何て言った?」
「えっ? いや、急いで回復させないとって!」
何やら聞き捨てならない呟きを発したカナタに、さらに問い詰めようとしたら凄い勢いでアレクとジェネラルの方に走って行き、緑色の液体をぶちまけている。
絶対にそんな短い言葉じゃ無かった。
ブツブツ、おかしなことを呟いてたと思うんだけど。
アレクの身体が一瞬光ったかと思うと、ビヨーンと伸びていた腕が元の長さに戻り、顔色も大分良くなったみたいだ。
何故か、ジェネラルにも振りかけるカナタをちょっと訝し気に見ていると、目があった。
「いや、ほらっ、敗北宣言大事でしょ?」
「えっ? ああ、まあね……でも、ジェネラル居なくなったら抵抗してもたかが知れてるでしょ?」
「アレク大丈夫!」
カナタと話をしてたら、カバチが慌ててアレクに駆け寄っていた。
そうだったわ。
アレクが重症……じゃないわね。
「ん? 勝負はどうなった? 俺が倒れてるってことは負けたのか?」
アレクが横に転がって上半身を起き上がらせて、自分の右腕をペタペタと触っている。
そこに大きな影が差す。
見上げると、ジェネラルがこっちを見下ろしている。
「いや、我の負けだ。見事であった少年よ……ちょっと動きが、気持ち悪かったが」
ちょっとというか、かなりね。
ていうか、戦ってる相手からしたら余計に……か。
「しかし……ジェネラルになってレベル30を超えた我を倒すとは、少年はどのくらい強いのか」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「はっ?」
ジェネラルの言葉に全員の口から、驚きの声が上がる。
まさか、ジェネラルがそんなにレベルが高かったとは。
というか、アレクって確かレベル6じゃなかったっけ?
私が5で、カバチが意外や意外レベル8だったから、3対1でも話にならないレベル差だ。
俗に人同士でもレベルの差が倍で3対1で良い勝負、3倍ともなると9対1でもあやしいのにアレクと5倍も差があるとか。
カナタだけ、なんかガッカリしたような反応だ。
「いや、自分6しかないんですけど」
「ゲッ!」
「馬鹿な! レベル6で我を倒すとは、人間というのはそこまで強いのか? いかなゴブリンと人間の基礎値で人間に軍配が上がるにしても、上位主の我とであれば我の基礎値の方が上をいっていると思っておったのに」
ジェネラルの反応の前に、なんかカナタから「ゲッ!」って声が聞こえたんですけど?
というか、めっちゃ表情が苦笑いになってる。
「まあ、約束は約束だからな? この地を去るんだろ?」
「はい! いえ、ああ、我は約束は守りま……守る……というよりも、居座ってそこなものよりレベルの高い者が来られたらたまりませ……たまらんからな」
カナタが急に会話の主導権を握りだしたかと思うと、取りあえず当初の約束通りに動いてくれるかの確認だった。
ただ、時折ジェネラルから敬語が出かけているのが凄く気になるけど。
まあ、カナタって偉そうだしね。
あっ、睨まれた。
口に出してたかなあ?
ナニナニ?
共通表情スキル?
うっさいわ!
カナタが口パクできょ・う・つ・う・ひょ……まで言ってるのが見えた。
ムカつく!
代わりに口パクで、何か報酬は? と伝えてみる。
「まあ、負けてこの地を去るのは当然だが、他に何か無いのか? 勝ったことに対する褒美とか?」
「えっと、この槍くらいしか無いんですけど?」
「ああ、それは良いや、なんか集落の中とかに無いかな?」
「はあ、何せ食べるのにも困っている状態ですから、食料品などは置いてませんし。奪った牛をお渡しするのは、お返ししたという事にしかなりませんしね……」
「いや、牛は良いよ。殺されて時間立ってるし、人間ってお前らほど腹強く無いし」
「なら、なおさら……はっ! うむ、そうじゃのう……わしらに渡せるもんなど無いしのう、将来敵対せぬ約定と、あとは村の窮地に迷惑を掛けたお詫びに手助けするという約定書くらいなら……まあ、元手のかからぬものしかないという事じゃ!」
「遅いからっ!」
二人の会話を、アレクとカバチと一緒にポカンと眺めてたけど、視線に気づいたジェネラルが慌てて尊大な物言いに変わったところで思わず突っ込んでしまった。
「っていうか、ジェネラルさんはなんでカナタには敬語なの?」
私の言葉に対して、若干ジェネラルが顔を顰める。
周囲を取り囲むゴブリンからも、殺気が上がった気がした。
「ふむ、知らぬという事は幸せな事じゃのう。この方は「おいっ!」」
ジェネラルが説明しようとした直後、カナタが声を掛ける。
顔はいつものニコニコ笑顔だが、何故か周囲の温度が一気に下がった気がする。
というのも、気のせいじゃないよね?
なんか、ジェネラルと周囲のゴブリンがガタガタ震えてるし。
「そんな事はどうでも「良くないから! ジェネラルさん何か……はあ……まあいいや」
カナタの言葉を遮って、ジェネラルに問い詰めようとしたら泣きそうな表情でこっちを見つめて手を合わせてた。
周りを見ると、他のゴブリンも不安そうにしている。
なんかその表情に囲まれると、哀れな気持ちになって来てちょっと戸惑われた……から、後で直接カナタに問い詰めてやろう!
そんな事を思いながら、カナタが何事も無かったかのようにジェネラルと交渉の続きに入るのを見送って、未だに呆けてる2人の元に戻る。
――――――
「よしっ! じゃあ、一度村長にも相談してみよう! 一応約定書は誓約と全員の血印も貰ってあるからその効果は絶対だしな」
こいつマジで何者?
いまカナタの手にあるのは、ジェネラルさんと集落のゴブリンが連判を押した約定書だ。
内容は、先の村で農作業並びに護衛業務に1日1食の提供のみで順ずるというものだ。
まあ、ゴブリンは元々2~3日食わなくても大丈夫らしく、1日1食も食べられるなら十分生きていけるらしい。
そして、村の者に危害を加えない。
盗らない、攻撃しない、逃げないという内容もしっかりと記載されている。
まあ、ジェネラルが護衛に付くとか多少の魔物ならば、しっかりと守ってもらえそうだしね。
「という事でいったん村に戻るよ?」
「ああ」
「はい」
「はいはい」
アレクとカバチが妙に緊張してるけど、2人がさっきからコソコソと本当に何者なんだろうと不安そうに話してるのも見たし、ようやく異常さに気付いたみたいね。
本当なら、剣や盾を出した時点で疑うでしょ。
一応、最初に私が言い出したギルド職員の線を第一候補にしたみたいだけど。
それって、希望的観測が大分入ってるよね?
なんてことを思いながら、ゴブリンが担いだ箱に揺られて眠くなってくる。
なんか、カナタが長い木の棒が付いた箱を出してきて、そこに入れられて運ばれてる。
前と後ろに二匹ずつゴブリンが居て、中は柔らかい藁を編んだような敷物が轢かれている。
籠というらしいが、まんまよね?
というか、こんな大きいものをカナタはどうやって持って運んでたんだろう。
もしかして、噂の空間魔法の掛かった鞄とか……鞄持ってないしこの人。
謎過ぎて、考えるのも面倒くさくなってくる。
究極の眠気に襲われて、寝ようと思った瞬間に降ろされた。
「着いたってさ」
「えー、凄く気持ちよくて丁度眠くなってきたのに」
「アリスは凄いな……俺なんて緊張でトイレいきたくなったのに」
「はっ? それいったら、カバチなんて爆睡してるよ?」
「マジか……マジだ……」
「分かる分かる、馬車とかでもそうだけど、最高に眠くなると何故か目的地に着いたりするよね? これ、マーフィーの法則だよな?」
「誰だよ!」
「誰ですか!」
カナタの発言に二人で突っ込みつつ、遠くに見える村を眺めて長いような、短いような依頼の終わりが近付いているのをようやく実感できた。
ちなみにカナタはジェネラルが一人で引く、車輪が二個しかついてない日よけのある椅子に座ってた。
人力車というらしく、本当は人が引くものらしい。
どうせ奴隷に引かせるんでしょうけど、イースタンって割と残酷な乗り物を作るのね。
なんて考えてたら、しっかりと説明された。
曰く、健康的に日焼けした細身だけどしっかりとした筋肉が付いた白い歯の若い男性が、町の名所を説明付きで案内してくれるちょっと高級な乗り物らしい。
割と気量の良い、いわゆる男前が多くマダムや若い女性に人気の乗り物らしい。
何それ? 行ってみたいし、乗ってみたい!
そこで、アレクとジェネラルが対峙している。
アレクの手には、ミスリルのロングソード。
ジェネラルの手には装飾が施されているランス。
穂先が鈍く銀色の輝きを放ち、円錐状の柄は艶の無い黒をベースに金字で何やら文様が刻まれている。
護拳はジェネラルの手を包み込むようなフレア状に広がっていて、とても価値のある一品だという事が見てとれる。
よし、アレク頑張れ!
きっと、ジェネラルのドロップ品はあのスピアね!
「さてと、準備は良いようだな。我が勝てばそこな女子と其方たちの血肉を、お主が勝てばこの地からの撤退と、人と100年こちらから関らぬ事を誓おう! そして、正々堂々と子々孫々末代まで語られるよう、素晴らしき決闘を始めようでは無いか!」
「無駄に重いから! っていうか、えーーーー……いや、確かにここまで来てジタバタしても……」
ジェネラルって……思った以上にまともで面食らってしまった。
まあ、村を襲うにしても警戒をしながらも、チマチマと一匹ずつ牛を攫っていたわけだし?
一気に村を襲って討伐隊でも組まれようもんならねえ?
アレクが構えているのはミスリル銀の剣だから、まあどうなんだろう?
あんまり武器の事ってわかんないんだよね。
「アレク危ない!」
そんな事を思っていたら、カバチの叫び声とガンッという音が響き渡る。
「ほうっ! 今の一撃を防ぐか!」
「いってー! ちょっと、マジで強すぎるって!」
ジェネラルが放った突きに対して、どうにか反応することの出来たアレクが剣で叩きつけながら反動で身を躱したのだ。
横でカバチがほっとした表情を浮かべている。
ちなみに、カナタはっと……あいつ、なんか飲んでない?
「いやあ、叩き落とすつもりがピクリともしないとか」
「まあ、まだまだ準備運動じゃからな?」
アレクは手が痺れたのか、左手で右手の手首を押さえつつ苦笑する。
ジェネラルの方は手に持ったランスを一度大きく袈裟懸けに振ると、再度正面を向けて構える。
「次は連続で行くぞ!」
「おわっとっとっとっと!」
「ひゃー!」
物凄い速さで繰り出される突きに対して、アレクの剣がその穂先に吸い込まれるように放たれて先端を叩き落としていく。
何故か横でカバチが手で目を隠してる。
いや、指の隙間から覗いてるのはまるわかりなんだけどね。
「流石に連続だと力が保てぬ分、先端を叩かれれば防がれるか」
「いやいやいや、ちょっと待って、手が勝手に!」
アレクが言ってる言葉の意味が分からない。
と思ってそっちに目を向け直すと……あれっ? 嘘! ……アレクの言ってる意味が良く分かる。
っていうか、なにあれ?
かなり、気持ち悪いんですけど?
「アレクすごーい! 身体が柔らかくなってる!」
何がって?
だってアレクの右手が不自然にくねくねと動き回って、槍に剣をぶつけてるんだもん。
肩から下だけが動いてて、それ以外の部分は全然身動きとって無いんだよ?
本人の目だけは大きく見開かれてるけどさ。
それにしても、異常な光景なのよ!
「奇怪な技を」
「ちょっ、剣が! 剣が手から離れないんですけど? というか、痛い痛い痛い痛い! 肩が! 肘が!」
とうとうバキンという音が数回したかと思うと、関節を無視した動きでジェネラルの槍を捌きつつも反撃まで加えている。
肝心のアレクの表情は脂汗でびっしょり濡れているし、その表情は苦悶に歪んでいる。
あー、あの武器もしかして駄目なやつじゃないのかな?
そんな事を思いながら、剣の元の持ち主であるカナタに目を向けると、めっちゃ顔を逸らされた。
そして、顔を伏せながらもブックッっという、堪えきれない笑い声っぽいもんが聞こえてるから。
知ってたよね?
「やりおる! こうなれば、【旋風】!」
「うおおおお、腕がああああああ、いってええええええええ!」
「げぇぇぇぇぇ!」
ジェネラルの突きに捻りが加えられる。
武技? いやスキルかな?
回転を伴う突きに剣が絡めとられて……
気持ち悪い……
アレクの腕がグルグル捩じられている。
さすがのカバチも食い入るように見入りつつも、その表情は真っ青だ。
これ……ブチッと切れたりしないよね?
そして、次の瞬間剣が青白く光ったかと思うと、一気にアレクの腕が先ほどと逆回転に回り始めてジェネラルの首元を狙っていく。
「くっ! 馬鹿な! 人間が剣で【旋風】を放つだと!」
「千切れる! 千切れる! ……いでぇぇぇぇぇぇうぎゅぁあああぁあぁあ!」
アレクが何やら不穏な叫びをあげているが、次の瞬間さらに耳を塞ぎたくなるような叫び声をあげて、その場にうつぶせに倒れ込んだ。
腕だけは相変わらずジェネラルに向かって剣を振るっているが。
「好機!」
だがジェネラルは唐突に敵が倒れ込んだことをチャンスと思ったのか、不用意に近付いてその背中にスピアを突き立てようとする。
直後腕が弾んだかと思うと、今までとは比べ物にならない鋭さでスピアの穂先を弾きジェネラルの喉元を突き刺す。
気持ち悪っ!
泡噴いて白目剥いて倒れてるアレクと、不自然に伸びたその腕が戦いの奇妙さを物語っていた。
「あー……自動で戦う武器シリーズは失敗か。使用者が気絶した方が動きが良くなるっと……ということは、意識があると本人が無意識か意識的に抵抗してるっぽいな。なら四肢欠損した人の失われた部位を補助する道具としては……」
「えっ? カナタいま何て言った?」
「えっ? いや、急いで回復させないとって!」
何やら聞き捨てならない呟きを発したカナタに、さらに問い詰めようとしたら凄い勢いでアレクとジェネラルの方に走って行き、緑色の液体をぶちまけている。
絶対にそんな短い言葉じゃ無かった。
ブツブツ、おかしなことを呟いてたと思うんだけど。
アレクの身体が一瞬光ったかと思うと、ビヨーンと伸びていた腕が元の長さに戻り、顔色も大分良くなったみたいだ。
何故か、ジェネラルにも振りかけるカナタをちょっと訝し気に見ていると、目があった。
「いや、ほらっ、敗北宣言大事でしょ?」
「えっ? ああ、まあね……でも、ジェネラル居なくなったら抵抗してもたかが知れてるでしょ?」
「アレク大丈夫!」
カナタと話をしてたら、カバチが慌ててアレクに駆け寄っていた。
そうだったわ。
アレクが重症……じゃないわね。
「ん? 勝負はどうなった? 俺が倒れてるってことは負けたのか?」
アレクが横に転がって上半身を起き上がらせて、自分の右腕をペタペタと触っている。
そこに大きな影が差す。
見上げると、ジェネラルがこっちを見下ろしている。
「いや、我の負けだ。見事であった少年よ……ちょっと動きが、気持ち悪かったが」
ちょっとというか、かなりね。
ていうか、戦ってる相手からしたら余計に……か。
「しかし……ジェネラルになってレベル30を超えた我を倒すとは、少年はどのくらい強いのか」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「はっ?」
ジェネラルの言葉に全員の口から、驚きの声が上がる。
まさか、ジェネラルがそんなにレベルが高かったとは。
というか、アレクって確かレベル6じゃなかったっけ?
私が5で、カバチが意外や意外レベル8だったから、3対1でも話にならないレベル差だ。
俗に人同士でもレベルの差が倍で3対1で良い勝負、3倍ともなると9対1でもあやしいのにアレクと5倍も差があるとか。
カナタだけ、なんかガッカリしたような反応だ。
「いや、自分6しかないんですけど」
「ゲッ!」
「馬鹿な! レベル6で我を倒すとは、人間というのはそこまで強いのか? いかなゴブリンと人間の基礎値で人間に軍配が上がるにしても、上位主の我とであれば我の基礎値の方が上をいっていると思っておったのに」
ジェネラルの反応の前に、なんかカナタから「ゲッ!」って声が聞こえたんですけど?
というか、めっちゃ表情が苦笑いになってる。
「まあ、約束は約束だからな? この地を去るんだろ?」
「はい! いえ、ああ、我は約束は守りま……守る……というよりも、居座ってそこなものよりレベルの高い者が来られたらたまりませ……たまらんからな」
カナタが急に会話の主導権を握りだしたかと思うと、取りあえず当初の約束通りに動いてくれるかの確認だった。
ただ、時折ジェネラルから敬語が出かけているのが凄く気になるけど。
まあ、カナタって偉そうだしね。
あっ、睨まれた。
口に出してたかなあ?
ナニナニ?
共通表情スキル?
うっさいわ!
カナタが口パクできょ・う・つ・う・ひょ……まで言ってるのが見えた。
ムカつく!
代わりに口パクで、何か報酬は? と伝えてみる。
「まあ、負けてこの地を去るのは当然だが、他に何か無いのか? 勝ったことに対する褒美とか?」
「えっと、この槍くらいしか無いんですけど?」
「ああ、それは良いや、なんか集落の中とかに無いかな?」
「はあ、何せ食べるのにも困っている状態ですから、食料品などは置いてませんし。奪った牛をお渡しするのは、お返ししたという事にしかなりませんしね……」
「いや、牛は良いよ。殺されて時間立ってるし、人間ってお前らほど腹強く無いし」
「なら、なおさら……はっ! うむ、そうじゃのう……わしらに渡せるもんなど無いしのう、将来敵対せぬ約定と、あとは村の窮地に迷惑を掛けたお詫びに手助けするという約定書くらいなら……まあ、元手のかからぬものしかないという事じゃ!」
「遅いからっ!」
二人の会話を、アレクとカバチと一緒にポカンと眺めてたけど、視線に気づいたジェネラルが慌てて尊大な物言いに変わったところで思わず突っ込んでしまった。
「っていうか、ジェネラルさんはなんでカナタには敬語なの?」
私の言葉に対して、若干ジェネラルが顔を顰める。
周囲を取り囲むゴブリンからも、殺気が上がった気がした。
「ふむ、知らぬという事は幸せな事じゃのう。この方は「おいっ!」」
ジェネラルが説明しようとした直後、カナタが声を掛ける。
顔はいつものニコニコ笑顔だが、何故か周囲の温度が一気に下がった気がする。
というのも、気のせいじゃないよね?
なんか、ジェネラルと周囲のゴブリンがガタガタ震えてるし。
「そんな事はどうでも「良くないから! ジェネラルさん何か……はあ……まあいいや」
カナタの言葉を遮って、ジェネラルに問い詰めようとしたら泣きそうな表情でこっちを見つめて手を合わせてた。
周りを見ると、他のゴブリンも不安そうにしている。
なんかその表情に囲まれると、哀れな気持ちになって来てちょっと戸惑われた……から、後で直接カナタに問い詰めてやろう!
そんな事を思いながら、カナタが何事も無かったかのようにジェネラルと交渉の続きに入るのを見送って、未だに呆けてる2人の元に戻る。
――――――
「よしっ! じゃあ、一度村長にも相談してみよう! 一応約定書は誓約と全員の血印も貰ってあるからその効果は絶対だしな」
こいつマジで何者?
いまカナタの手にあるのは、ジェネラルさんと集落のゴブリンが連判を押した約定書だ。
内容は、先の村で農作業並びに護衛業務に1日1食の提供のみで順ずるというものだ。
まあ、ゴブリンは元々2~3日食わなくても大丈夫らしく、1日1食も食べられるなら十分生きていけるらしい。
そして、村の者に危害を加えない。
盗らない、攻撃しない、逃げないという内容もしっかりと記載されている。
まあ、ジェネラルが護衛に付くとか多少の魔物ならば、しっかりと守ってもらえそうだしね。
「という事でいったん村に戻るよ?」
「ああ」
「はい」
「はいはい」
アレクとカバチが妙に緊張してるけど、2人がさっきからコソコソと本当に何者なんだろうと不安そうに話してるのも見たし、ようやく異常さに気付いたみたいね。
本当なら、剣や盾を出した時点で疑うでしょ。
一応、最初に私が言い出したギルド職員の線を第一候補にしたみたいだけど。
それって、希望的観測が大分入ってるよね?
なんてことを思いながら、ゴブリンが担いだ箱に揺られて眠くなってくる。
なんか、カナタが長い木の棒が付いた箱を出してきて、そこに入れられて運ばれてる。
前と後ろに二匹ずつゴブリンが居て、中は柔らかい藁を編んだような敷物が轢かれている。
籠というらしいが、まんまよね?
というか、こんな大きいものをカナタはどうやって持って運んでたんだろう。
もしかして、噂の空間魔法の掛かった鞄とか……鞄持ってないしこの人。
謎過ぎて、考えるのも面倒くさくなってくる。
究極の眠気に襲われて、寝ようと思った瞬間に降ろされた。
「着いたってさ」
「えー、凄く気持ちよくて丁度眠くなってきたのに」
「アリスは凄いな……俺なんて緊張でトイレいきたくなったのに」
「はっ? それいったら、カバチなんて爆睡してるよ?」
「マジか……マジだ……」
「分かる分かる、馬車とかでもそうだけど、最高に眠くなると何故か目的地に着いたりするよね? これ、マーフィーの法則だよな?」
「誰だよ!」
「誰ですか!」
カナタの発言に二人で突っ込みつつ、遠くに見える村を眺めて長いような、短いような依頼の終わりが近付いているのをようやく実感できた。
ちなみにカナタはジェネラルが一人で引く、車輪が二個しかついてない日よけのある椅子に座ってた。
人力車というらしく、本当は人が引くものらしい。
どうせ奴隷に引かせるんでしょうけど、イースタンって割と残酷な乗り物を作るのね。
なんて考えてたら、しっかりと説明された。
曰く、健康的に日焼けした細身だけどしっかりとした筋肉が付いた白い歯の若い男性が、町の名所を説明付きで案内してくれるちょっと高級な乗り物らしい。
割と気量の良い、いわゆる男前が多くマダムや若い女性に人気の乗り物らしい。
何それ? 行ってみたいし、乗ってみたい!
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しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた!
ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。
噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。
一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。
これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
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気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
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暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
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ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
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