愛に飢えてる化け物は運命を拒絶する

ユミグ

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「ひっく!ぐすっ、ヘディ」
「あとは任せて」

鱗を4つも飲んでいる愚かな人間に嫌気が差して、全ての人間を…ううん、愚かな存在に嫌気が差してしまった私は、咄嗟に全てを消滅させてやろう。なんて気持ちが襲ってきちゃって、そんな気持ちを誤魔化すようにヘディへと声をかけたんだけど、「あとは任せて」なんて答えがきて、我に返った。

「ううん、全然大丈夫」
「………そんなに嫌なの」
「嫌な訳じゃ………」

「任せて」は、ヘディがどうにかする。という訳ではなく、淫魔世界の王であるあの子にどうにかしてもらおうと考えたんだろうと分かったから、突っぱねる言い方をしちゃった私に悲しげの声を出すから………。
そういう事じゃないよって。あの子は関係ないんだよって言いたかったけど、ここでそんな事を言えないし、何やら騒がしく……うん、私のせいで騒がしくなっちゃったから、話を盗み聞きしなきゃいけないし………。

『大丈夫だと伝えて。それと、感情的になってごめんなさいと。気持ちが伝わってしまっていたなら気に病む必要もないと言っておいて』
『直接話せばいいじゃない』

悪魔世界には行っていたし、淫魔世界も、悪魔世界ほどではないけれど、遊びに行っていた。
アレスとは天使として会ったけど、偽りなく私自身で神々と関わっていた時期も実はある。
でも……その時に私は深く傷付いて、それから行かなく……みんなの前に姿を現さなくなった。
情報は共有されているだろうから、淫魔世界の王であるあの子も事の顛末を聞いているだろうと思うと……中々顔を出せないでいる。
私が感情的になると、世界を通じて神々に伝わってしまうんだ。
そういう意味でもある“世界様”だ。

ううん、そんな事より今はバーナビーの状況を聞かないと。

「天使様、戻りましょう」
「あう……」

ヒナノは強制退席させられるらしい!

「「「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」」」 
「…」「♡」

ああ、本当に…私は弱いな。
新しい世界になってからずっと…弱い。
弱すぎて誰かが動いてしまう。

「あー…敬わなくていいっすよ。この世界の管理……あー、アレスとは違うんで」

薄茶の髪に意思の強い薄紫の瞳。
体の線は細いけれど、細すぎる訳でもない目の前の子が現れた瞬間、皆、傅き、平伏している。

目の前の子は、私の弱さを、心を守ろうとして来てくれた。

「あー…えーっと…大丈夫っすか?」

その言葉は私に投げかけられているんだろう。

「ゼトス様ぁ♡」
「ヘディ、助かった」
「はい♡!」

淫魔世界の王、ゼトスだ。
ヘディから全て聞いているんだろうなと理解したのは次の言葉で。

「バーナビー・エインズワースは誰すか」
「わ、私でございます」
「憂いを聞いたんすけど、アレスは忙しいんで、俺が変わりに」
「は、はい!あり、んっ、ありがとうございます!」
「ヘディ、どれだ」
「あれよ」
「ああ、気持ち悪い奴だな」

どうやら私が嫌う人間を排除しようとしてくれているらしい。
人間の問題なんだから、人間に任せておけばいいのに。なんて、私の心を誤魔化してみるけど…心配…して来てくれたんだ。
そして、私の“嫌”を目の前から消そうとしている。

「天使様は誰っすか」 
「………私」
「……そうっすか。………大丈夫すか?」
「平気」
「………分かったっす、バーナビー」
「はい!」
「この人間は引き取る、問題ないっすか?」
「ご、ございません」
「コレのせいで世界までもが憂いてるんすよ。お陰で俺らも随分と腹立ってるんで」

やっぱり気持ちが通じてしまっているんだな。
甘いよ私。
もっと制御しなきゃ。



「二度とこんな人間をのさばらせておくな。命令だ」



「「「「「「「「かしこまりました」」」」」」」」

卑怯にも顔を傾けたままの私は、最後までゼトスを見れなかった。

「天使様、戻りましょう」
「…」
「天使様?」

子どもに心配させてなにやってるの。
いつまでも嘆いていたら駄目なんだって…とっくに理解しているでしょう?
どうせ死ねないんだ。そんな事も分かってるよ。
生きるならきちんと生きないと。
心配ばかりかけさせて、私のせいで、憂いが増えてしまっては駄目だよ。

「天使様、失礼致します」

リンジーが抱き上げてくれて、すぐに部屋へと戻った。

『あー…一応、鱗は吐き出させたっす。あとは悪魔に任せました。ヒナノが好む拷問を続けてくれるそうっす』

ありがとうと声をかけたいのに…。

「ヒナノ、大丈夫?」

グロリアが心配そうに顔を覗き込んできた。
うん、心配ばかりだ。本当に。
こんなんじゃ駄目だって、そう思うのに、色々な悲しみが襲ってきて、熱い涙しか流せない。

「ヒナノ、神様が対処してくださったから、もう大丈夫だよ」

召喚される前の私に戻ってしまう。




デズモンド様を殺してしまった。
私が私を思い出せていたら、取り込まなくて良かったのに。

大好きで頼りになる精霊の友達みんなを、まだ生きて、隣にいる伴侶に愛を伝え続けられたのに、私が消滅させてしまった。

「「ヒナノ………」」

そんな感情や、みんなで過ごした日々を思い返しては悔み、罪に意識を向けてしまう。

駄目だよ。
天使として仕事をすると、心に決めたでしょ?

今を………。

「今を………今を見なきゃ………」
「「…」」

目の前にある愛を見ないと。
子らの愛情も、友の愛情も。
全て見て、そして与えなければ。
貰った愛を返したいから。

でも………。

鱗を4つも飲んだ男がいた。
人間は愚かだ。
他の世界にもそういう愚かが存在する。
そう気付くと、目の前の者達がぐにゃぐにゃと姿形を変え、心あると思えなくなってきてしまって…その心が深く深く、侵食するように広がっていく。
なにもかもが同じに見えてしまう。
大切にしなければならない存在など1つもないと、そう………心で感じてしまうんだ。

私の世界は愚かで、

薄汚く、

実に滑稽だ。











「起きてください」




どれくらい部屋に戻って座り込んでいたのだろう?グロリアもリンジーも抱きしめてくれて気もするし、声をかけてくれた気もするけれど、よく分からない。

「起きてください」

ふわっと、熱いぬくもりが私の全てを覆った。

「デズモンド様?」
「起きてください」

私の声に返事をした内容は相変わらず機械人形みたいだな。なんて思った瞬間。

黒く、鈍色に、ドロドロな心に染まり、侵食していた気持ちを、端に追いやるように、広がった“黒”ばかりではなく、今を見て、確かな今の愛も心に落とせた。

「ディアブロ」
「体が冷えてるだろうから、露天風呂にでも浸かろう」

そんな声が横からして見上げると、心配そうな目と、泣いたのか腫れている目があった。

「悲しいの?グロリア、大丈夫?」
「っっ~~!私の心配よりあんたの心配をしなさいよ!そんな風になって動かなくなれば心配するに決まってるでしょ!早くお風呂に入る!」
「う、うん………ありがとう、二人とも」
「いいんだよ、お風呂に浸かったら王様の元へ行こうね」
「うん……うん?わ!」
「持ち上げます」

ディアブロが持ち上げるの?
なんだか心臓に悪いな…。

露天風呂に行き、着替えて、ゆっくりとお風呂に落とされて浸かると…。

「んー!染みるー!」
「あんたねぇ…」
「良かった…」
「ちょっといってきまーす!」
「え?」「は?」「…」

ジャポンッ!

露天風呂の中に潜って、頭を振るう。
今を見よう。
悲しんだって仕方ない。
今のこの休息が終われば、また死を研究する毎日に戻ろうと思ってたけど……うん。
駄目だよ。
愛が欲しいと召喚されたけれど、愛なんてたくさん貰ってたんだ。
その愛に顔向け出来ないような生き方をしないで、今を見て、ツラくなれば愛する者達の胸で泣こう。
慰められて、時に私が慰める関係性を作ろう。

その為には、天界に行って話をしないと。

でもその前に…。

「ぷはっ!はぁっ、なんでバーナビー?」
「「「…」」」

バーナビーの元に行かなくちゃね。
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