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15【クーパー】
しおりを挟む聖女様の側仕えが足らず、抜擢された際にはなぜ私がそのような事をしなくてはならないのかという、不満しかなかった。
醜い聖主様に誰も近寄らなければ、近寄る事もしない聖主様の側仕えのような事をしていたのは、単に楽だからだ。
それなのに、聖女様は女性…しかも、とてもお美しいと聞いた時には振り回されるなと思い、神官職は楽に金稼ぎが出来る私の居場所に面倒が訪れたとため息を吐く。
だが、それ以上に聖主様が喋る際に、大きな口を開けて話されるのを視界に入れるよりは気分転換になるなとも思った。
側仕えとして最初にする事は起床の手伝いだった。夜のうちに挨拶をしようと向かったが、すでに就寝になられてるとの事だったので、朝伺う事となった。
「失礼致します。本日より聖女様の側仕えに選ばれましたクーパーと申します」
しばらく返答がなかったので、寝室に入らせて頂くと精霊様がいた。
この国には淀みが広がる前、精霊様が居たとされていて、その姿形はとても麗しく、神でさえも跪く可憐さと透明感があったとされている。その為この国では”精霊のよう”という例えは最上級の褒め言葉に使われている。
瞳が開いたら一体どのような輝きを放っているのだろう………
触れるのさえ烏滸がましく、私の穢れや浅ましさが移ってしまうと躊躇したが、朝食を召し上がられずお腹を空かせてしまう方が罪深いと思い、声を掛けゆさゆさと遠慮気味に触れた。
「………………ん」
か細い声が聞こえるとゆっくりと瞼を開けた。
あの時に私はきっと全ての感情を余すことなく出し尽くしたと思う。
タレ目でふにゃっとした瞳、長くキラキラと輝いているまつ毛、小さな口、小さな顔、指通りが良さそうな髪質に、輪っかのように光っている髪、庇護欲を誘う小さな体に柔らかな素肌。
私も今まで散々、嫌と言うほど容姿を褒められてきたが、本当の美しさというものを初めて知り、今までの己の傲慢さに恥じた。
そして同時に私が仕え、生きる目的はこの方以外いない。
その為の布石だったと、世界が拓けたのだ。
そこから寝ぼけていらっしゃる精霊様の上体を起こし顔を拭き、ふらふらとしている体を支えながら着替えを手伝わせていただき、朝食の席に案内した。
なかなか召し上がろうとしないので、お好みではなかったかと伺ったが返答はなく、もしかしたら精霊様はお一人での食事が出来ないのかと思い、手ずから食べさせる。
なんて、夢のような心地が明日も明後日も続くなど思いもよらなかった…
後で知ったことだが寝起きが弱く覚醒までにお時間がかかるということを………
そこから、時々紡がれるお声・意思に何度も感銘を受け、そのたびに己の浅ましさを恥じ入り、ヒナノ様を知れた喜びとヒナノ様のお心に近づけるよう工夫、行動し、全てを吸収し己の心を変えていく努力をした。
ちなみに、日に日に護衛が増えていくが、皆一様に(もちろん私達側仕えも)感銘を受け
ヒナノ様の数少ない笑顔や幸福が聖主様にあるという事を知り、ただただお二人が傍に居られるように全力でサポートする事に決めたのです。
「クーパー」
「はい」
「この本読んで」
「かしこまりました」
ヒナノ様は無駄を嫌う。
その為、ヒナノ様の室内に居る側仕えや護衛達は訓練を行い、体を鍛え頭を鍛えている。
普段は立ったまま護衛対象を守っている者達でさえ、魔力操作や肉体強化に勤しんでいる。そんな室内になっている事は陛下もご存じないだろう。
私はヒナノ様の求める力と能力を身に着けたいという思いと同時に、手の内を晒したくないという気持ちが芽生えた事をヒナノ様は見逃さなかった。その日から訓練ではなく、私だけに…!は、知識を入れろというように本を渡して下さる。
それをヒナノ様の対面に座り読むのです。
立っているのが当たり前の常識や、警護という概念を全て覆してしまうこの室内だけは別世界のようだ。
今ヒナノ様は、ぬいぐるみという縫い物をしていらっしゃるが、時々漏れ出る微笑みに部屋に居る誰も彼もが…
「「「「「「「「聖女様が可愛すぎる!」」」」」」」」
と今日で8回目になる事実を心で叫んでいた…
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