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31【1600年前】
しおりを挟む精霊の住まう国、ウォーカー国。
精霊には2種類存在する。
人型の精霊と、光の粒のような精霊達はチビと呼ばれている。人型の精霊はチビ達の主であり、母であり、父である。チビ達が見た物、感じた物を人型の精霊は感じ取り、視界さえも見る事が可能だ。人間達には大精霊と人型の精霊は呼ばれており、チビ達は精霊と呼ばれている。チビ達は全て同じ精霊と通じ合う事は出来ない。炎の大精霊なら炎のチビが…森の大精霊なら森のチビと通じ合い、チビ達の絶対的な主として君臨している者達が人型の大精霊だ。
当時ウォーカー国では人と精霊は友人だった。助け合い、時に友達となり、時には恋情も生まれる。
当時のウォーカー国王は隣国であるコロチャイダ国の領土を欲していた。
現在はウォーカー国の領土となったイーモン・スタンリー辺境伯の領地である。
雪ばかりが振り積もるその領地には、珍しい果物と、現在魔力増長石として使用している鉱石が埋もれている領地が手に入れば、隣国からの襲撃も、生活も豊かになると考えた当時の国王は考えた。
戦力も魔力量も守りの陣も互角。
両国共、秀でている所を見つける事が困難な程に互角だが…
あの領土が欲しいと…あの領土さえ手に入ればコロチャイダ国さえ手に入れるのも夢ではない…と。
臣下らに案を出せと命令しても、案を出し襲撃しようとしても、上手くは行かず敗れるまではいかないが…互角の争いをし、消耗していくのみ。
忌々しいと、なんて愚かな臣下らなんだと、嘆き愚痴を吐き出す場所は決まって海の中。
今とは違い、魔力量も魔力の扱いに長けている者達の頂点に君臨していた国王には海で眠る事も、転移する事も容易かった。
「ふふ、珍しいですわ。こんなところに人間がいらっしゃったなんて…」
大精霊が目の前に現れた。くさくさとしていた所に輝きを放ち青の色味を持った大精霊が現れたのだ。大精霊は存在する。だが、滅多に見ない。見れない者達を目にし、力の差を相対しただけで理解した国王は…
笑ったのだ。
「美しい方、お名前を…」
「まぁ…ふふ、もう少し仲良くなったらね?」
「でしたら海の中でダンスはいかがでしょう?」
「ダンス?」
「手を取って」
海の中では弾んだ会話、そして不思議な空間が出来上がっていた。
国王は足繁く通った。来ない日が多くとも、毎日毎日海の中へと潜る。
知っていたのだ。
いや、当時の者達なら誰でも知っている。
精霊が見ている先に居るのは大精霊だと…
そして毎日欠かさず通い、大精霊を探す私の姿を見ているだろうと…
そしてアレは武器になると確信していた。
「美しい方…」
「もう……願いはないのかしら?」
「でしたらダンスを」
「………不思議な人間ね」
精霊に会えば、特に大精霊に出会った人間達が口にするのはいつも同じ。
“お願いです…私の願いを叶えて下さい”
けれども国王はそんな言葉は吐かず、会えた暁にはダンスと他愛のないお喋りだけが続いた。
大精霊に恋する心は生まれなかった、だが心許せる友達となってしまったのが…
全ての始まり。
「今日はなにを聞かせてくれるのかしら?」
「いつまでも大精霊なんて味気ない、名前を教えてくれ」
「名前………」
大精霊にとって名前を教えるというのは特別な事だ。
世界に縛られている精霊達は…世界と共に生まれ世界の消滅と共に消え行く精霊達の名は生まれ持って決まっている。
そしてその名を悪用されれば命令を聞かざる終えない。
けれども新しく友となった人間はとても心優しいのだから、きっと…
「私の名前は………」
そうして崩壊した。
名を知った瞬間、国王の表情は醜く歪み大精霊の首を掴んだ後言い放った言葉は…
「雪降る大地を我が物へ」
「や、やめて…」
「全て蹂躙して来い」
「ぅ゙……っっ、は、い、」
けれどそれはすぐに終わりを迎えた。
大精霊は他にも存在している。
そして国王と出会った大精霊には伴侶が居た。国が造られる前から…人間が生まれてくる前からの伴侶が居た。
現スタンリー領地を半分程蹂躙し終えた時に現れたのが…
「なにしてるの!?」
「あ、あ、あ、あ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!たすけっ!助けてっ!名を…!名を…!お願い!助けて!」
「っっ、だから人間とは…!ごめん、ごめんね。ツライのは僕じゃない…すぐに終わらせてくるから、大丈夫」
「ごめっ、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
「大丈夫」
伴侶である大精霊が異変を感じて見に行った場所には人間が倒れ氷で体を貫かれていた。
チビ達から情報を貰い、直ぐ様国王の元へと向かい一瞬で命を奪った際に近くに居た人間達へと叫ぶ。
「2度とこの国に精霊は踏み入れない!僕の伴侶を苦しめた罪を背負い苦しめ!」
怒号のような叫び声を上げた後、一斉にウォーカー国から精霊が立ち去った。
なにも伴侶である大精霊だけが愛していた訳じゃない。
他の大精霊達も違う愛ではあるけれど、名を使われた大精霊の事を愛しているのだ。
全ての精霊達に通達し、2度とこの国へと足を運ばないようにと言い放った言葉を簡単に聞き入れたのは…
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「悪くないでしょ?大丈夫、大丈夫だから」
「そうよ?腐った人間が悪いだけよ」
「だから言ったではありませんか、ふふ、人間とは醜悪な生き物なのだと、ねぇ?」
「そうですね」
嘆く大精霊を思い、人間のくだらなさに疲弊していたからだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
その日から時々、ウォーカー国が栄えると淀みを発生させる為、他の国から魔物を持って来ては森に放置し食い荒らさせているのは、伴侶が今も尚嘆き悲しんでいるから。
彼女の心が少しでも楽になればと続けている行為を責められる者は果たしてウォーカー国に居るのだろうか。
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