魔王が泊まりにきた!え?なに言ってんだ?魔王じゃなくてお父さんだろ?

ユミグ

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 ガバッと起き上がって現状を把握した俺の心境は。

 いや、異世界転生ってこういうのじゃなくね?

 だってそうだろ?普通はさ悪役子息とか虐げられている貴族の息子とか屈強な男との初夜の最中とか!そういうのを想像するじゃん!いや、想像させてくれよ。特に筋肉質な男との初夜を切望してた!切実に!いいだろ?筋肉、最高じゃん、ビバ筋肉。
 なのに俺が転生した人間にはそんな事、起こりうるはずないんだ。
 だって生涯一人だし。
 この体の持ち主は…いや、思い出すまで俺がこいつだったんだけど…まぁ、とにかく俺は結界守護という特殊な役職に就いている。仕事内容は至ってシンプル、国全体に張り巡らせてある魔法陣の結界に魔力を流し続けること。それだけ。な?簡単だろ?
 ただ…特殊な理由は二つあって、一つは俺1人で魔法陣に魔力を流し続けることが重要なんだ。魔力質っていうのがあってな?一応、国を守る役割を持つ重要な魔法陣だから異なる魔力質を混じり合わせることができない、人それぞれ魔力質が違う為、混じると魔法陣がぐちゃぐちゃになっちゃうんだよ、絵の具を混ぜる感じか?まぁ、そんな訳で今代の結界守護が俺の役目って訳。
 そんで二つ目が、ある特定の場所からしか魔力を流せないんだ、一応魔法陣にも出口入り口っていうのがあってな?その入り口からしか魔力を流し込めない。そしてその特定の場所がものすっげぇ辺鄙な森の中なんだよ、離れることもできないし、遠足すら無理なレベルな辺鄙な場所。な?分かるだろ?俺が生涯一人って意味が。死ぬか魔力が上手く流せなくなるまで結界守護という役目はやめられない。
 という訳で生涯独り身が確定している俺は日課になっている結界に魔力を流している。
 おわり、これで終わりだよ?びっくりだろ?俺だけが分かるようになっている入り口にちょんっと触って、あー……これで消耗した分は補給できたなー…なんてところでやめる。うん、わずか30秒。うん、暇!!!これが毎日!むしろこれしかすることない!暇だ!!!
 一応、今までは魔法陣創作やらで時間潰ししてたけど、なんせ意識が…前世っていうのか?記憶が戻った俺は娯楽がいっぱいあることを知ってるんだ、だから暇、ていうか手持ち無沙汰感が否めねぇ……
 あー………!!!スマホ欲しー!!!

 あ、そうそう。
 一応自己紹介しておくか、俺の為に。
 だって忘れそうなんだもん、自分が何者か朧気になるよね、人と接しないと。
 金の髪に紫の瞳、これだけ聞くとかっこよく聞こえるだろ?でも異世界あるあるなのか昔見た人間たちも色鮮やかだったからよくある色味なんだろう。あとはえーっと……ああ、そうそう、確か歳は………忘れたな………まぁ、いいか。その代わり名前は覚えてる。
 レオカディラ・ウェルズ、一応貴族の息子……あ、俺貴族だったわ。
 貴族位は忘れたけどパパ……お父さんが貴族だった。
 どうしてこんなにあやふやなのかというと8歳くらいか?その頃には親元から離れてたんだよ。ほら、結界守護って一応重大な席な訳で、しかも誰でもなれる訳じゃない。莫大といわれる魔力量を持っていなければなれないんだ、人と比べたことがないから分かんないけど俺の魔力量は莫大だった、いや、莫大だ。
 んで、俺が8歳の時に先代の結界守護が亡くなったんだよ、で、一応スペアとして選ばれてたのが俺って訳。
 そんな俺は8歳の時にここに連れられて一度結界を新しくして俺の魔力に塗り替えたのを確認した国の偉い人たちが去っていく後ろ姿が人を見た最後。
 もちろん食事というか食材は20日に一度届く、つってもここは森の中でも奥深くにある場所だから中間地点とよばれているところまで取りに行かなきゃならない、行ったところで人は居ないんだけどな。あるのはいつだって食材や生活用品だけ。
 でも、実はそれもいらないんだけどな、家庭菜園ばっちし!なんなら野良の動物を狩ったりしてるから新鮮な肉も、近くに川があるから新鮮な魚も採れる。
 俺だって意識は今までなかったけど、あんまり性格が変わってないのか風呂好きはそのままだから魔法陣作ってぱぱっと風呂場も作って、なんなら雨漏りが気になる時があったから家も魔法陣作成してぱぱっと作り変えたりしてる。よくやった俺。お陰で毎日暖かいぞ。

 あ、そういえば今日は前回から20日経ったな、中間地点まで行くか。日数は数えてあるからな、それも習慣の一つだ。
 ちなみに転移やら空を飛べる魔法陣はない、いや、新しく開発されてるのかもしれないが知らん。
 1人暮らしだからか生活魔法だけが充実してるな、まぁ、そんなもんか。

 道中、動物もいない森の中は日差しが強くて心地いい中、中間地点まで歩いていく。
 たまに木の実を見つけて採ったりするんだが、あいにく今は食材がたんまりある。というより腐らせちゃうんだよな、あっちこっちと食材見つけたり家庭菜園の物を収穫すると持って来てくれてる物資をよく余らせちゃうんだよ、でもしょうがないよな。いらないって言えないんだもん。だって誰も居ないから。
 毎日そこに行って見張ってもいいんだろうけど……なんかできない。
 ていうか今更人と会ってなに話せばいいんだよ、いい天気ですねーくらいしか会話デッキ持ってねぇよ。
 そんなことを考えてたらそろそろ着くなーなんて思ってたらなんか遠くで動いてるナニかを目視した。
 今ここで動物見つけても持って帰れねぇよーと考えてたら鳴き声がした、知らない鳴き声が。
 こんな動物の鳴き声知らないって音を聞いて咄嗟に風の魔法陣を展開した、だって死にたくないし。
 一体どんな生き物だ?近付いてきてるのか声が近くなってるけど想像がつかない鳴き方だ。

 だって。

「うああああああああん!レオカディラあああああああああああ!!!」

 あん?

「会いたかったよおおおおお!ぶっ!」

 俺の前まで走ってきた…人間…だよな?………うん、この姿形は人間だ。走ったはいいが盛大にコケた人間は顔中土まみれになりながら鳴いてる、あ、いや、泣いてるか。

「ぐすっ!ひっく!ぐすっ!レオぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「……………」

 俺の名前を呼んでんのか?この人間は。
 ああ、もしかしたら国が寄越したお偉いさんかもしれないな。
 森の中に入ったことがないのか高そうな服を着てるが、あっちこっちボロボロになってる。靴も森の中を歩くには適していなさそうだ。
 さっき見た青の瞳からはまだ涙を流しながらぐしゃぐしゃになった金色の髪の毛をいやいやと横に振りながら地面に顔を擦り付けてる。

「あ、あいたかったっ…レオカディラっ…!」

 もしかしたらこんな森の中に用事を頼まれた使いっ走りかもしれないなぁ…早く俺に会って伝言を伝えて帰りたいんだろう。分かるぞ、俺も帰れるなら帰りたい。そしてこんな細っこい男じゃなくて筋肉質の男を一目見たい。

「レオっ…!」
「………ぁ………」

 久しぶりに人間と会話した内容が「ぁ」。
 もう少しなにかあるだろうと思うけれど、人と話したことなんて記憶にすらないんだと心の中で言い訳する。

「…………ようけ、んは」

 なんでこんなか細いんだ!俺!ちゃんと喋ってよ!ああ、確かにね、会話なんて必要なかったから声を出す生活じゃなかったからな!許せおっさん!

「レオカディラ!!!」

 ガバァッ!と立ち上がったよれよれなおっさんが抱き着いてきた。
 やめろとは思わない、むしろ人のぬくもりなんて初めてに近しい俺は若干涙が出そうなほど喜んでる。
 でも…でも…できれば屈強な……いや、贅沢はやめよう。これで充分だ、むしろご褒美だな。ありがとうございます。

「ぐすっ!よく顔を見せて?」

 そういうと俺の頬を持ち上げたおっさんは意外にも背が高い。

「ああ…大きくなったねぇ…」

 あん?誰だ?こんな奴知らない…いや、記憶にないだけでもしかしたらここまで送ってくれた国の偉い奴かもな。

「ど……ちら、さま、です、か」
「!………そうだよね、覚えてないのも無理ないか」

 悲しげな表情をして少しだけ顔を傾けたおっさんは衝撃的な一言を発した。



「レオカディラのパパだよ」




 確かにな?さっき俺だってことを思い出した時に思わず心の中で“パパ”とは呼んじゃったけど、さすがにパパ呼びはキツイんじゃないか?なんて事を考えたのが父親に対する初めての感想だった。

「ずっと会いたかったんだ、だから会いに来ちゃった」

 きちゃった♡は可愛い男の子が言う台詞であっておっさんの口から出るのは少々、いや、だいぶキツイ。

「しばらく泊まることにしたんだ」

 いや、確かにな?家は建て替えたけど一応ここは国の所有地、俺の家なのになに勝手に決めてんの?とは言えない立場かもしれないが、それでも言わせて欲しい。
 なに勝手に決めてんだ?俺の家なんだけど?お父さんの言う“しばらく”はいつまでか分からないけど、今更父親と過ごすって若干気まずいぞ?

「帰ろう」

 いや、なに勝手に帰ろうとしてんだ。しかも帰ろうってなんだ。俺の家だ、俺だけの家なんだけど!

「あ、これが補給品?重そうだね、僕が持つよ………ぐっ…ぐぐっ…!ふぬぬぬぬ……!」
「……………」

 重そうかどうかは分かんない、でも確かに重そうだな、あんたが持とうとすると。
 そんなか弱いアピールしなくても見た目で分かるぞ?持ち上げようとしなくて大丈夫だ、どうせ持てそうにない。

「あ、ありがとう…レオカディラは力持ちなんだね」

 そうか?これくらい普通だ、というか重くないな。いつも通りの重さだ。
 てかお礼は言わなくていい、これは俺の荷物だから。

「ぐぅぅぅぅぅー………」

 どうしよう……お父さんとの再会ってこんな感じなの?みんな久しぶりに会うお父さんとどう接してる?教えてくれないかな?横でお腹を鳴らして恥ずかしそうにしてるお父さんになんて言えばいい!?

「えへへ」

 照れなくていい。
 おっさんが照れても可愛くは……確かに可愛いか?………うん、可愛い顔付きしてるな。でも、いいんだ。俺に可愛さを振りまかなくて。間に合ってる、いや、嘘。間に合ってはない。だって人がいないんだ、どんな反応でも人が居るというのは駆けだしたくなるほど嬉しい。

「ごはん、つくる、から」
「喉が痛い?風邪かな?大丈夫?」

 大丈夫だ、そんな心配はしなくていい。もう子どもでもないんだ、風邪だとしても自力でどうにかする。どうにかしてきたしな。

「しゃべってない、から、なれてない、だけ」
「………ぅぅ………」

 な、なんでまた泣き出したんだ……ど、どうしたらいい…泣き止ませる方法なんて知らないぞ?というより人との付き合い方も知らない。前世を思い出したからといっても今の俺は長年誰とも話していないんだ、赤子より拙いと思ってくれ。

 ぐずぐずと泣いていたけど、大人だからなのか自力で泣き止んだお父さん。偉いぞ。

 家に着くとぽかんとした表情のまま立ちすくんでしまって、またどうしたらいいのかおろおろしていたら家の感想をくれた。

「こんなに立派な場所だったか?」

 どうやらお父さんも来たことがあるらしい。
 嬉しいな……。俺が作った家が褒められるって嬉しいことなんだ。

「かえた、から」
「っっ!レオが作ったのか!?」

 そう言うとまた家を見上げたお父さんはしばらくそのままだったけど。

「凄いな、とても偉い」

 俺の頭をぽんぽんと撫でながらまた褒めてくれた。
 嬉しくて家の中も見て欲しくなり足早に家へ入ると後ろに着いてきてるお父さんはキョロキョロと見渡してる。
 その間に荷物を分別して食事の用意に取り掛かる俺はなんとも言えない感情に襲われていた。
 だって生涯独り身だと気付いたばかりなんだ、それなのに人と居てその人の為にご飯を作ってる。あり得そうで絶対にあり得ない今を噛みしめていると物色し終わったのかキッチンまで来たお父さんは腕まくりをしてその手で食材に触ろうとするから頭にチョップをかました。

「いたっ」
「お風呂、ためた、から、はいってきて」
「でも僕も手伝いたいんだ」
「きたない」
「ぅ”っ…!ありがとう」

 そんな土まみれでご飯を作って欲しくないと思うのは普通のことだよな?
 にしても……ちょっと想像してたのは「血まみれ騎士を拾ったらなつかれちゃいました!」とか「犬だと思ったら人間で…?」なんていう出会いだった。いいよな?妄想するくらい。まぁ、出会ったのはよれよれのおっさんだったけど。それでも……人に会えた。
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