巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

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淫魔編

5-29

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式当日は朝から夜まで拘束される、人間共に。

とってもげんなりです。

「ん?」
「いかがなさいました?」

式当日の朝からリクに支度されてるんだけど、というかリクって本当に器用だよね。

「私乾燥しない?」
「見た事ありませんね」
「んー?」

洗浄しなければ臭くなるし痒くなるのは知ってる、それは魔人でも変わらない。
おじいさんを取り込んでからも洗浄しない日もあったから、気持ち悪くなるのは知ってる。
食べなければ細くなる事も…

「私って食べなくて細くなったけど、思うほどガリガリにならなくない?」
「私も不思議でしたよ」

魔力のお陰?
でも魔力量が多ければ多いほど食の量が増えるのは魔国で検証済み。
でも私はお腹が空かない。
ううん、お腹は空くけどあんな量を食べたいと思わないし、魚一匹食べたら苦しくなる。

なんだかチグハグな気がしてきた。

「あーん」
「あー」
「…」

口に入れられた果物はやっぱり美味しくない。

「伝えようか迷っていたのですが…」
「うん?」
「私と2人で浄化の旅を続けた事がありましたよね」
「うん」
「その時は普通に食べて下さったのですよ」
「言ってたね」
「国王の元に来てから私と2人きりのこの部屋では嫌な顔せずに食べて頂けます。意味は分かりますか?」

リクから与えられる物でも美味しくない。
今だって美味しくないと思ってたから。
でもなんとなく分かる。
ここではリクの元だけが安全だと思い、あの時は穏やかな休憩をしていた私の心が落ち着いていたからだ。

私はとっくにリクを選んでた。

だけど、それでも召喚されないなら今の形でもいいんだろうと納得させながら言葉を吐き出す。

「リクは私の特別で私の唯一になった、そうやって思わないように世界を騙すように生きてきたし、これからもそうやって生き続ける。だけど…やっぱりリクだけが今の私には全てだからきっと心が穏やかで幸せな事ばかりに気を取られて不味さなんて些細な事なんだと思う」
「っっ~……はぁ…奪い去ってやろうかと思いました」
「ふふ、奪ってくれるの?」
「そうしたらヒナノ様は悲しみますか?」
「とても」
「でしたらやめておきましょう、ヒナノ様の悲しみは私の悲しみですから」

どこまでも私ファーストなリクに早く守れる力が欲しいと思う、だけど私にはまだ魔法陣にうまく魔力を流せな…

「ああっ!!!」
「っ、どうしました?」
「ご、ごめん、驚かしちゃったね、怖かった?」
「大丈夫ですよ」
「詠唱だよ!詠唱!詠唱なら私出来るかも!?」
「………どこか広い場所を確保しておきます」
「ふふ、ありが……あれ?」
「どうしました?」

詠唱もそうだけど無詠唱もそうだ。
無理な転移は無詠唱で行っている。
だけど反動が多いからやめてるだけで…でもそれって全部じゃなくない?転移は魔力消耗が激しいから体を壊すだけで、例えばリクのように氷みたいな少ない魔力で…

「ヒナノ様!」
「んえ?」
「お止めください!」
「え?え?………んえ!?」

部屋中が氷の部屋になってました。

なんとなく元通りにしたいなと思ったら出来ました。

「「…」」

興味本位でリクの氷を出してみたら出来ました。

「「…」」

無詠唱バンザイ………

「しばらくはお止め下さい」
「はい、ごめんなさい」

こんなに人間の多い場所でする事じゃないですね。
ちなみに驚いた護衛から声をかけられたけど、リクのせいにしておきました、えへ♡





支度を整えてアディティの元へ行く。
ありがちな玉座がある宴会場…会場に入りリクは私の後ろ。
私の第二の旦那様として正式に認められるのもこの場で。
そして変わらず私の側仕えに。
リクはアルナブの兄弟として迎え入れられた。
そしてアルナブの立場は変わらず…
私を手に入れる為に妻と縁を切ったと公では言われているから他の人間を娶るのは、少なくとも今はよろしくない。

私のマナーはまだまだだ。
そんな事しなかったし、必要なかったから時間があればせっせとリクに教わってる最中。

それでも表情を作るのは上手いと言われてる私は顔を作り少しでもマナーの綻びがバレないようにアディティの元へ向かい礼をする。

「聖女としてオルレインガル神殿に召喚し3国の浄化を終えたそなたに礼を」
「勿体ないお言葉です陛下」
「これから余の妃となりウェイヤグルン国を思い生涯を終える事を誓え」
「はい、私はウェイヤグルン国を常に考え、行動し、私の生涯は国王陛下と共に散る事をお約束致します」
「あい、分かった、顔を上げ」

ゆっくりと顔を上げアディティを見つめ何故だか予定にない手を差し出されたから掴むとそのまま膝の上に乗せられた。

「「…」」

玉座に座る妃がどこに居るんだよ。

相変わらず待てが出来ない人だ。

集められた貴族に戸惑いながらも拍手され、やがて盛大に祝福された。
ちなみにナルマイとアミニーも居たけど穏やかそうじゃない。
国王の元妻は娶る事も難しいみたいだからバーズリー国に要請してる最中だ。
そんな事必要ないと言われたから捨て駒は最後に牙を向くって教えてやったら黙ったからそのうちバーズリー国に2人とも向かうだろう。

リクはアルナブの横に行き佇んでる姿は相変わらず格好良くて見惚れちゃう。

耳を済ませても特に危険はなさそうで安心したけど、1つだけ危険があるとするならアーヴァだ。
あれから私を憎んでいるらしい。
それも当然だ。
平民の身で国王の妻となり愛し合っていたのに、いきなり出て来た聖女のいいようにされてしまったと思うだろう。

まぁ、そんなもんだけど。

私は希望らしい。
だから顔としてはいいのか文句はないみたいだけど、幼女趣味っつった奴の顔は覚えたからな!




そこからアディティの馬に乗ってそこかしこを歩いて民にお披露目だ。
なんで馬に乗るのにこんな華美なドレスなんだよと思わなくないけど我慢我慢。

今日の夜を思って我慢します!

馬に乗って2人で手を振るけど、歓声が煩すぎて頭がくらくらする。
危険はないか聞きたいのにこれじゃ無理。
諦めて1人1人の表情を観察する。

にしても、気さくな国王だからか馬鹿みたいに人が多い。
こんな人混みよく来ようと思ったね君たちって感じ。

私の髪はこういう時おろしておくみたい。
黒目黒髪は神聖さがあっていいんだとか。

2時間…押して3時間、馬に乗り続けて最後は海だ。
2人で祈るらしい。
とっても意味のない儀式だよって言いたいね。
そんな事より紐パンと染め布を海に投げてやった方が喜ぶよ?

膝をついて頭を下げてしばらくはこのままらしい。
時間は分からないけどアディティが上げれば上げていいでしょ。

「海の幸福とはどういう意味だ」

下げた頭のまま私に聞く。
最近は隙あらば色んな事を聞き出そうとするアディティには慣れた。
カスケンの話を探してみたけどなかったな。
多分、途中の戦かなにかで本はなくなったんだろうとも思う。

「なにを知っておる」

アディティは知的好奇心旺盛で知らない事があるのが嫌らしい。
ちなみにフネは作り始めたばかり。
とりあえず私を国に置いて利益があると思われる事と、商売の方が大切かと言われない為に少しずつ案を出していこうと思ってる。

「アーヴァ」
「なに?」
「アーヴァが後ろに居る、祈りは終えた方がいい」
「…あい、分かった」

アディティが立ち上がるから私も立ち上がれば後ろの人達も立ち上がる。
私はリクに、アディティはアルナブに目線を送り、警戒して欲しいと願い出た。

「なぜ分かる」
「なぜ分からないの」

城に戻るまで襲撃もなく、どうしてだかドレスを変える為に着替える。
本当は6回もするらしいけど、そんな事を気にするのは本人だけだとアディティに伝えたらまた襲われた。

どんどん変態化してくるな。
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