181 / 247
淫魔編
5-29
しおりを挟む式当日は朝から夜まで拘束される、人間共に。
とってもげんなりです。
「ん?」
「いかがなさいました?」
式当日の朝からリクに支度されてるんだけど、というかリクって本当に器用だよね。
「私乾燥しない?」
「見た事ありませんね」
「んー?」
洗浄しなければ臭くなるし痒くなるのは知ってる、それは魔人でも変わらない。
おじいさんを取り込んでからも洗浄しない日もあったから、気持ち悪くなるのは知ってる。
食べなければ細くなる事も…
「私って食べなくて細くなったけど、思うほどガリガリにならなくない?」
「私も不思議でしたよ」
魔力のお陰?
でも魔力量が多ければ多いほど食の量が増えるのは魔国で検証済み。
でも私はお腹が空かない。
ううん、お腹は空くけどあんな量を食べたいと思わないし、魚一匹食べたら苦しくなる。
なんだかチグハグな気がしてきた。
「あーん」
「あー」
「…」
口に入れられた果物はやっぱり美味しくない。
「伝えようか迷っていたのですが…」
「うん?」
「私と2人で浄化の旅を続けた事がありましたよね」
「うん」
「その時は普通に食べて下さったのですよ」
「言ってたね」
「国王の元に来てから私と2人きりのこの部屋では嫌な顔せずに食べて頂けます。意味は分かりますか?」
リクから与えられる物でも美味しくない。
今だって美味しくないと思ってたから。
でもなんとなく分かる。
ここではリクの元だけが安全だと思い、あの時は穏やかな休憩をしていた私の心が落ち着いていたからだ。
私はとっくにリクを選んでた。
だけど、それでも召喚されないなら今の形でもいいんだろうと納得させながら言葉を吐き出す。
「リクは私の特別で私の唯一になった、そうやって思わないように世界を騙すように生きてきたし、これからもそうやって生き続ける。だけど…やっぱりリクだけが今の私には全てだからきっと心が穏やかで幸せな事ばかりに気を取られて不味さなんて些細な事なんだと思う」
「っっ~……はぁ…奪い去ってやろうかと思いました」
「ふふ、奪ってくれるの?」
「そうしたらヒナノ様は悲しみますか?」
「とても」
「でしたらやめておきましょう、ヒナノ様の悲しみは私の悲しみですから」
どこまでも私ファーストなリクに早く守れる力が欲しいと思う、だけど私にはまだ魔法陣にうまく魔力を流せな…
「ああっ!!!」
「っ、どうしました?」
「ご、ごめん、驚かしちゃったね、怖かった?」
「大丈夫ですよ」
「詠唱だよ!詠唱!詠唱なら私出来るかも!?」
「………どこか広い場所を確保しておきます」
「ふふ、ありが……あれ?」
「どうしました?」
詠唱もそうだけど無詠唱もそうだ。
無理な転移は無詠唱で行っている。
だけど反動が多いからやめてるだけで…でもそれって全部じゃなくない?転移は魔力消耗が激しいから体を壊すだけで、例えばリクのように氷みたいな少ない魔力で…
「ヒナノ様!」
「んえ?」
「お止めください!」
「え?え?………んえ!?」
部屋中が氷の部屋になってました。
なんとなく元通りにしたいなと思ったら出来ました。
「「…」」
興味本位でリクの氷を出してみたら出来ました。
「「…」」
無詠唱バンザイ………
「しばらくはお止め下さい」
「はい、ごめんなさい」
こんなに人間の多い場所でする事じゃないですね。
ちなみに驚いた護衛から声をかけられたけど、リクのせいにしておきました、えへ♡
支度を整えてアディティの元へ行く。
ありがちな玉座がある宴会場…会場に入りリクは私の後ろ。
私の第二の旦那様として正式に認められるのもこの場で。
そして変わらず私の側仕えに。
リクはアルナブの兄弟として迎え入れられた。
そしてアルナブの立場は変わらず…
私を手に入れる為に妻と縁を切ったと公では言われているから他の人間を娶るのは、少なくとも今はよろしくない。
私のマナーはまだまだだ。
そんな事しなかったし、必要なかったから時間があればせっせとリクに教わってる最中。
それでも表情を作るのは上手いと言われてる私は顔を作り少しでもマナーの綻びがバレないようにアディティの元へ向かい礼をする。
「聖女としてオルレインガル神殿に召喚し3国の浄化を終えたそなたに礼を」
「勿体ないお言葉です陛下」
「これから余の妃となりウェイヤグルン国を思い生涯を終える事を誓え」
「はい、私はウェイヤグルン国を常に考え、行動し、私の生涯は国王陛下と共に散る事をお約束致します」
「あい、分かった、顔を上げ」
ゆっくりと顔を上げアディティを見つめ何故だか予定にない手を差し出されたから掴むとそのまま膝の上に乗せられた。
「「…」」
玉座に座る妃がどこに居るんだよ。
相変わらず待てが出来ない人だ。
集められた貴族に戸惑いながらも拍手され、やがて盛大に祝福された。
ちなみにナルマイとアミニーも居たけど穏やかそうじゃない。
国王の元妻は娶る事も難しいみたいだからバーズリー国に要請してる最中だ。
そんな事必要ないと言われたから捨て駒は最後に牙を向くって教えてやったら黙ったからそのうちバーズリー国に2人とも向かうだろう。
リクはアルナブの横に行き佇んでる姿は相変わらず格好良くて見惚れちゃう。
耳を済ませても特に危険はなさそうで安心したけど、1つだけ危険があるとするならアーヴァだ。
あれから私を憎んでいるらしい。
それも当然だ。
平民の身で国王の妻となり愛し合っていたのに、いきなり出て来た聖女のいいようにされてしまったと思うだろう。
まぁ、そんなもんだけど。
私は希望らしい。
だから顔としてはいいのか文句はないみたいだけど、幼女趣味っつった奴の顔は覚えたからな!
そこからアディティの馬に乗ってそこかしこを歩いて民にお披露目だ。
なんで馬に乗るのにこんな華美なドレスなんだよと思わなくないけど我慢我慢。
今日の夜を思って我慢します!
馬に乗って2人で手を振るけど、歓声が煩すぎて頭がくらくらする。
危険はないか聞きたいのにこれじゃ無理。
諦めて1人1人の表情を観察する。
にしても、気さくな国王だからか馬鹿みたいに人が多い。
こんな人混みよく来ようと思ったね君たちって感じ。
私の髪はこういう時おろしておくみたい。
黒目黒髪は神聖さがあっていいんだとか。
2時間…押して3時間、馬に乗り続けて最後は海だ。
2人で祈るらしい。
とっても意味のない儀式だよって言いたいね。
そんな事より紐パンと染め布を海に投げてやった方が喜ぶよ?
膝をついて頭を下げてしばらくはこのままらしい。
時間は分からないけどアディティが上げれば上げていいでしょ。
「海の幸福とはどういう意味だ」
下げた頭のまま私に聞く。
最近は隙あらば色んな事を聞き出そうとするアディティには慣れた。
カスケンの話を探してみたけどなかったな。
多分、途中の戦かなにかで本はなくなったんだろうとも思う。
「なにを知っておる」
アディティは知的好奇心旺盛で知らない事があるのが嫌らしい。
ちなみにフネは作り始めたばかり。
とりあえず私を国に置いて利益があると思われる事と、商売の方が大切かと言われない為に少しずつ案を出していこうと思ってる。
「アーヴァ」
「なに?」
「アーヴァが後ろに居る、祈りは終えた方がいい」
「…あい、分かった」
アディティが立ち上がるから私も立ち上がれば後ろの人達も立ち上がる。
私はリクに、アディティはアルナブに目線を送り、警戒して欲しいと願い出た。
「なぜ分かる」
「なぜ分からないの」
城に戻るまで襲撃もなく、どうしてだかドレスを変える為に着替える。
本当は6回もするらしいけど、そんな事を気にするのは本人だけだとアディティに伝えたらまた襲われた。
どんどん変態化してくるな。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる