女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

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第2章 夏

◆それぞれの戦い

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その頃、ツンドラ地帯。

ドチャッ。

紫煙に包まれたミノタウロスの首が雪上に転がった。
ここはネイブルナルから遠く離れた極寒のツンドラ。
氷と風が吠える地で、シヴァとジェイは「呪穴の王」を討ち果たしたばかりだった。

ブンッ。
大剣を振り、血糊を雪に散らすシヴァの視線が、腰の「走駆羊皮紙キャリースクロール」の点滅に吸い寄せられる。
確認した瞬間、シヴァの握る拳に力がこもった。

「おーい、ジェイ。バッカス拾って緊急ミッションだー」

声はのんびり。しかし、呪穴の王を斃したばかりだというのに体からはゆらゆらと赤い闘志が迸っている。
残党狩りを終えたジェイが転移で隣に現れる。
無表情な彼の眉がわずかにピクリと動いた。

「……(コクコク)」

視線だけで意志は通じる。
二人は雪煙を蹴立て、バッカスの待つカナンガラへ。

「全力で行けば、召還日までには間に合うだろ」
「……(コク)」

氷原に白煙のようなしぶきを上げる雪が彼等の逸る気持ちを表しているようだった。


--------


同じ頃、ブラッドベリ伯爵家。

緊急会談を終えたブラッドベリ伯爵は、すぐさま自宅へ戻り、執務室で机に広げた羊皮紙の束へ次々と筆を走らせる。
命令書、協力要請、密書――どれ一つとして無駄はない。

「まずは……リアム経由でポーショングミを大量発注する」

そして――
派閥の貴族、他国の交易ルート…

(こんな時に「緑の筋肉祭グリーンマッスルフェス」の絆が役立つとはな……)

脳裏に浮かぶのは、汗と笑いと筋肉で結ばれた奇妙な仲間達。
あの縁が、今ノエルを守る盾になるとは。

(……これも、あの娘が引き寄せた幸運か)

伯爵は一度だけ口元を緩め、次の瞬間には眼光を鋭くした。
ここからは一刻を争う。
ブラッドベリ家総出の、静かで苛烈な“貴族の戦”が始まった。


---------


その頃、モルトンはノエルから買い取ったありったけの「ポーショングミ」を市中で販売しまくっていた。
ポーショングミはその安さ、美味しさ、美しさ、手軽さからあっという間に市中で話題になり、人気が急騰していく。

「おいおい、これ下手なポーションよりもすごくないか?」
「もうこっちで良くね?」
「俺の娘はこれで助かったんだよ」

瞬く間に噂が広がり、売れ行きは雪崩のように加速する。
だが、それは同時によからぬ敵も呼び寄せた。
市中の薬師達が差し向けるならず者や破落戸。
しかし――

「おじさんたち残念。ここは俺達“疾風ハンター”が通さねぇーぜ」
「………弱い(ぼそ)」

次々と襲撃者を無力化していく。
刃も拳も、モルトンには届かない。

市中の薬師達はギリリと奥歯を噛みしめるしかなかった。


----------


――王都冒険者ギルド。

また同じくして、冒険者ギルドでもわずかながら「ポーショングミ」が流通していた。
絶対数が少ないので目立った評判は出ていないが、その存在は確実に、冒険者達の命を救う形で存在感を増している。

「これは食品だからなァ。薬師ギルドのクソどもに文句は言わせねぇーぜ」

ギルド長の口元が弧を描く。


----------


この瞬間――

ツンドラを駆ける超越者、人脈と知略で貴族の戦いを仕掛ける伯爵家、市中で商戦を制する商人、ギルドで技術の種火を守る長。
それぞれがそれぞれの場所で各々の戦いを繰り広げながら見えない糸は一点へと収束していく。

ノエルを守るための戦いの火蓋は、今切って落とされた。





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