女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

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第2章 夏

◆湯加減よし!火力もよし!(いや、やりすぎ)

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「よーし!これで十分じゃろ!」

目の前にいるのは一体のゴーレム。

私が持ってる呪縛の古城の“呪いの骨”とシヴァさん達が持ってた“呪いの骨”を合わせて、一体のスケルトンを召喚し、そこにエルディナさんが土と植物で肉付けを行い、バッカスさんが魔石で色々調整して、ゴーレム型の“洞窟温泉コンシェルジュ”を作り上げてしまったのだ。

しかし、レアな骨と精霊と神話級の職人による合作ゴーレムがただのゴーレムですむはずもなく―

まず、その手には立派な「湯もみ板」。しかも、ただの木板ではない。艶のある有難そうなご神木製で、おそらく素材は 護国賢樹ごこくけんじゅ。ずっしりと重みを感じるそれは、この子にしか扱えない重量級の代物。

ゴーレムは湯加減を見ては、その板で湯をモミモミ、シャバシャバ、と絶妙に調整してくれる。それと連動して、制御室でも「ぬるめ」「適温」「熱め」と、まるで熟練の職人のような完璧な湯温調整が。もはや入浴する側の一切の判断を必要としない、至れり尽くせりの全自動温泉管理ゴーレム。

それだけでも驚きなのに、なんとこのゴーレム、腰から生えたツタが入浴者を認識すると、するすると動いて、木桶と手拭いを差し出してくれるのだ。「お客様、どうぞごゆるりと」という幻聴すら聞こえてきそうな完璧な所作で。

それだけじゃない。一定時間ごとに泉質をスキャンして、ミネラル濃度、湯の鮮度、清浄度を測定。場合によっては、勝手に“くすり湯”を作成するという超絶おせっかいな仕様まで。
誰だ!そんな機能を追加したやつは!



……助かります。ありがとうございます。心から。



また、ベースのスケルトン骨格の名残なのか、背筋が驚くほどにピンと姿勢よく、完璧な直立でお客様をお出迎えしてくれる。その様はまるで格式高い老舗旅館の番頭そのもの。その風格と気配りを前に、私はつい口をついて出てしまったのだ。

「……番頭さん…」と。

すると、その瞬間。

ブオンとまなこのない木のうろのような瞳から光が溢れ―

「うおっ、名前付いてしもうた」とバッカスさんが即座に反応。

「おいおいおいおい、いくら湯守だからって“番頭さん”はねぇだろ」とシヴァさんがツッコミを入れてくる。

「しょうがないじゃん!!見た目も機能も“番頭さん”だったんだもん!私だって、命名されちゃうとは思わなかったんだもん!」と全力で弁解。だって本当にそう見えたんだから!

でも、その時ふと過ったのは――“命名=テイム”という、過去(※姫ちゃま事件◆家族が増えました)の記憶。

急いでステータス画面を確認する私。

(……よ、よかった! テイムしてない!!)

ほっと胸を撫で下ろしていると、近くでエルディナさんがくすくす笑いながらこう言った。

「大丈夫よ。その子は使命を果たすためのゴーレム。私の力も、バッカスさんの技も“自立運用型”を前提に作ってますので、あなたが名前を呼んだくらいじゃテイムされたりはしないわ」

ふぅ、と安堵の息をついた私は、改めて思う。

虫でもモンスターでも、なんでもかんでも“名前をつけて感情移入しちゃう”この習性は、もはや本能だ。本能型エモーショナル・テイマーとでも呼ぼうか。
私はどうにも生き物全般に感情を寄せてしまいがちなのだ。
その寄せてしまいがちな対象が近くにいるなら猶更で、そればかりは気をつけていても自力でどうにかできる問題でもなく、もはや私の本能に根差した習性のようなものでもある。
それは距離が近ければ近いほどダメで、情がうっかりどっぷりと。

だから今回のゴーレム……、いや、“番頭さん”にも、そりゃあ当然、情が湧く。

でも、もしこのまま“番頭さん”がテイム対象だったら? きっと私は、毎回「入ります」と言うたびに、心のどこかで「今日こそうっかり従魔にならないよね!?」とビクビクしながら温泉に入るハメになっていただろう。

……うん。テイムできない仕様で本当によかった。ありがとうエルディナさん。ありがとうバッカスさん。ありがとう番頭さん。ありがとう温泉の神様。

ああ、湯の香りと番頭さんの安心感で、これからもいい温泉ライフになりそうです。

違う違う!!!それは私の問題で、本来の問題はそれじゃないのよ!!!むしろ大問題なのはここから!!

この番頭さん、私の調理指導によるレシピ付与や給仕、温泉の維持管理まではよかったのだけれど、エルディナさんの土と植物による受肉ベースが“マンドラゴラ”と“羅縛葛ラバクカズラ”というヤベー代物な上に、バッカスさんが組み込んでた魔石は、確かゴーレム遺跡の“城壁粉砕用強化ゴーレム”の核。しかもゴーレムベースが呪縛の古城原産“呪いの骨・組み立て式レア種スケルトン”…。

………つまり、
温泉コンシェルジュという体で生み出されたこの“番頭さん”
実体は――

「呪いの骨格×自動再生植物×拘束型自立蔦植物×城壁粉砕級魔石」という「なんでそれ組み合わせた!?」選手権で堂々の優勝を果たしそうな禁断の混成兵器だったのだ。

しかも、
「気配遮断と戦闘継続能力、両方欲しかったから」と謎の理由でバッカスさんがうっかり組み込んだ副次機能により「無音」「無臭」「無圧」のステルス搭載。

いる!?ねぇ!?その機能、温泉コンシェルジュにいる!?!?
エルディナさんも何で止めなかったの!?!?

その結果、シヴァさんが何気なく飲み物を取りに立ち上がろうとした瞬間、背後から音もなくヌルリと蔦が伸びてきて「お冷でございます」とでも言いたげに差し出されたコップを見て、僅かに「ヒッ」と悲鳴を上げたのだった。

「こら番頭!せめて声かけろや!いや、気配出せよ」

「………(ピピピ…湯温・快適)」

「おい、無視かよ!!」

ちなみに、この時、番頭さんの後ろからガチャ丸がそっと近付いて悪戯をしようとしていたのだが、あっさりと見破られ、悔しそうな顔をしていた。
しかし、「静かに接近して急所をドカン」という意味では、ガチャ丸と番頭さんの親和性は高い気がする。
番頭さんは気配遮断でドカンのタイプ、ガチャ丸はスピード接近でドカンのタイプ。
これは恐ろしい組み合わせができてしまったかもしれない…。

そんなことを考えていたせいか、「テイムの香り」を察知したエルディナさんが、くすりと笑いながら横目でにこにこ

「彼はあくまで“湯守”ですよ?」と。

(それってつまり、“湯を守るためなら全力で戦う”ってことだよね!?)

という気付きを、私はそっと胸の中にしまっておくことにした。

―これはただの温泉番頭ではない。
洞窟温泉を守護する、超弩級の癒し特化型戦略兵器。

もしこの温泉に何かあったなら――
「湯気を上げろ」と番頭さんに命令しているバッカスさんの姿が見えるような見えないような………

なーんてね。




………ないよね?



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