え?何これ?

もっちドーナッツ

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3話「体育祭」②

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ガラガラ

「なんかちょっと早く着いちゃったみたいだね」

  そう美夜みよちゃんの言う通り準備担当の集まりとしてあてがわれている1年3組の教室はまだまだ一年生でいっぱいだった。理科室とか音楽室とか生徒がいない部屋の方がいいんだけど、一回場所を決めてしまうと変えることにいろいろ手続きがあるし、準備担当なので机や椅子を全部廊下に出せて広々と使える生徒の教室が一番いいのでは?となったみたいだった。音楽室も出せるには出せるけど、部活動で使用するため担当教室にはあまりあてがわれないのだ。1年3組になったのは単なるくじ引きだった。一年生の教室って二年より更に上にあるから上るのが大変なんだけど、まあ、他の担当教室は同じ一年生の階にはないので少々声が大きくなったり、音をたてても怒られることはないってことは利点だと思う。

  私と美夜ちゃんは壁に寄り掛かって教室から生徒がいなくなるのを待つことにした。一年生の教室を眺めながら、私は私達が一年生だった時のことをちょっとだけ思い出していた。

  
  冬架とうかとは運のいいことに入学後も同じクラスで、冬架は好意を抱いている万知まちと二年ぶりに同じ学校に通えることに浮かれていた。その浮かれっぷりは中学を卒業する前からだったから冬架の周りの取り巻き達は卒業が嬉しいんだと思っててどうにか頑張って同じ高校に入るぞって息巻いていた。そんなに頑張らなくてもバカな私でもB判定出た学校だから頑張らないといけないのは私の方だったのに、私はその時また万知と一年同じ学校に通わないといけないと思うとただただ憂鬱で卒業したくないと思っていたのだ。でも、それでも冬架を離れて行きたい学校があったわけでもなかったので、幼馴染のみんなが通うこの学校を選んだ。
  
  取り巻き達の頑張りのお陰か同じ高校に進路を志望していた子達はみんな受かったみたいだった。それは合格発表で私が彼女たちと同じ時間に結果を見に行ったから知れたことで、冬架とは別々だったので冬架がいつ知ったのかは知らないけど、そもそも取り巻きには興味もないだろうなと思った。

  そんな万知は冬架の好意に気づいているのかは知らないけど、万知より私と一緒にいる方が多い気がした。万知がいつも冬架より私を優先するから、冬架が私に八つ当たりすることもしばしばあったのである。冬架が私に八つ当たりするのは万知がいない時だけだから、万知は知ってるのかは分からない。


「……って、ちょっと!来実くるみちゃん聞いてるの?面倒なヤツ選んじゃうよ??」

「……ごめんなさい。ボーっとしてました。」

  私達はいつの間にか話し合いに参加していて、全然声を発しない私に変に思ったのか美夜ちゃんが声をかけてくれたみたいだった。危うく、美夜ちゃんの言う通り前日の設営とか面倒な係になるところだった。私は小道具準備になり、美夜ちゃんは片想い中の4組の井塚いつかくんと同じ大道具作りの係になったようで嬉しそうだった。

  体育祭前日にもなると、学校中がなんだか浮足立っているような感じでいつもは7時には下校なんだけど、10時まで居残っていいってなってそんな遅い時間でも学校に人が残っていることに私自身も明日が楽しみなってきていた。高校で初めての万知がいない体育祭、そうだ、そうだよ。万知がいないんだから…冬架が万知の応援ばかりをするのを見なくていいんだって思うと嬉しくてたまらなくなった。やっぱり辛いものはないに越したことはないんだから。

  当日、冬架の家に寄ると冬架のおばさんに冬架は体育祭だから先に行くって言ってたって言われた。やっぱり応援担当って忙しいんだなあと思い、鼻歌なんか歌いながら学校に向かった。

  準備担当って、前日までが勝負だから当日やその後は何もすることがなくて楽だなと思って選んだのになんと、もし、道具が壊れたら修理とかしないといけないって言われたときはみんなでガーンとなってしまった。そこは先輩からもしもの話しだから、もしも壊れたらアナウンスして呼び出すからなるべくアナウンスの聞こえる範囲にいてねと念を押された。去年も準備担当になった別の先輩に聞くと修理とかほぼないから安心して。と言われてようやくホッとした。

  だって、せっかく冬架のカッコいいとこ見れるのに見逃すかもしれないなんて最悪だから。結局、体育祭で修理の呼び出しはなかった。

  私は冬架の応援合戦に大笑いしたり、ドキドキしたりして一日は過ぎて行った。体育祭の片づけはもちろん、片づけ担当がいて、それ以外の生徒はすぐに下校となった。

  冬架からは体育祭が終わるまでだったはずなので、さっそく教室にいない冬架を探しに行った。帰りのホームルームはあったけど、ホームルームの後に着替えて下校だったので一旦教室に戻ってみたら鞄はあるけど、本人はいなかったのだ。

  そしたら、屋上で告白を受けていた。ドアからそっと覗き見ると相手は上級生の人だった。上級生の人が小走りでドアの方に向かってきたので咄嗟に隠れようとしたが、残念ながら残念ながら隠れられるものが何一つなく、気まずい顔でその人から目をそらした。その上級生が一瞬ジッと私の方を見ていた気がしたけど一瞬だけだったのでまた上級生の方を向き直ると、上級生の後ろ姿しか見えなかった。

  私はドアを開けて、冬架に帰ろうと声をかけた。

「いや、今日は先約が結構残っててさ。まだまだ帰れねーわ」

  と、冬架はまだ告白が何件か残ってるから先帰ってれば?と言ってきた。

「んー。でも、私今日ゲーセン寄りたいんだよね。友達とかみんな帰っちゃったから冬架待っとくね」

「……遅くなっても知んねーぞ。つーか、今日くらい早く帰りたいとかふつー思わねーの?」

「やっと解放されるんだから、思わないですー!じゃ、教室で暇つぶしとくから!」

  と冬架に声をかけて、教室まで走った。去年も冬架への告白シーンを見たけど、体育祭だけで数件入ってるなんてやっぱり有名人だなあと思った。今年も今年でポイント沢山上がったに違いない。ファンも見た感じ増えてたし。特に、一年生に。ゲーセンとは言ったけど、ただ単に一緒に下校したいだけ。冬架を独り占めしたいだけなんだけどね。
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