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出会い
08. New Rules / 決め事
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レオお兄様の薬問屋から通りへと出ると、いつのまにか雨は上がっていた。雲の切れ間から、光の筋がいくつも差し込んでいる。
天気がいいだけで、何だか気分も良いな。
屋内で雨が止むのを待っていたまちの人々も外へ出はじめ、出店にも活気が戻っている。
というか、それにしても──私の師匠は、歩くのがとても早い。
遅れを取らないように、ややかけ足で師匠の背中を追っていると──かれが路上の水たまりを踏まないよう、避けて歩いていることに気がついた。
もしかしたら師匠にとっては汚く見えるのかもしれないが、私は雨上がりの街の雰囲気が好きだ。水たまりに、日の光がキラキラと映りこんでいて綺麗なのになと思っていると、突然喧騒の中で師匠の低い声が響いた。
「あいつに……何か、言われたか?」
あいつ──それは間違いなくレオお兄様のことだ。
かれからは、本人がいないところで師匠のことをいろいろと聞いてしまった。
正直、少し後ろめたさがある──。
「えっと、とくに大したことは聞いておりませんが……?」
「……僕の弟子なら、これだけは覚えておけ」
とぼけてみると、師匠がはっきりした口調で言った。
「僕は、美しくないものが嫌いだ。つねに身なりを整え、清潔でいること。それと、僕に嘘を吐くな」
わあ──。
お、お見通しだった──。
「それから、何か触れたときには必ず手洗いをする。あいつと……誰かと過度に接触するのを控える。……僕に接触するなど持っての他だ」
「は、はい……」
きっと師匠に飛びついて失神させてしまったことを言っているのだろうなあ──耳が痛い。
「それから!」
ああ、これからはまた違う意味で前途多難だ──と今からぐったりしていると、突然師匠は歩みを止め、私へふりかえる。
そして、ピンと顔に指を差され──。
「それから、絶対に僕に性交を迫ってくるな。お断りだ」
「……え?」
せ、せ──?!
大真面目な顔で──唐突に破廉恥なので思わず言葉を失った。
しかも、こちらは全くそんな気などないのに、お断りされた──。
「何故なら、盛った女というのは……本当に汚らわしい。弟子にも何度襲われかけたことか……まあ、女に限った話ではないが」
わー!もう何も言わないで──!
破廉恥すぎる!
──そして、今になって勘付いた。そういえば、レオお兄様が言っていた、弟子が辞めさせられるほうの〝ある理由〟って、そういうことか──。
「もう分かりましたので、これ以上何も言わないでください」
まあ言ってしまえば師匠は、神様が特別に贔屓して作り上げた至高の逸品であることはたしかだ。
たしかに、顔面は美しいし清潔感は有り余るほどだし、それなのにどこか、私みたいなお子さまにはないセクシーさがあり──。
などとどうでもよいことを考えているうちに、すぐに師匠の店へ到着した。
しかしドアを前にしてかれは私のほうをもう一度振りかえって、念を押してきた。
「襲うなよ」
「襲いません!」
ここまでだと、もはや冗談を言われているのかと疑い始めてきた──。笑うほうが正解だったかな?
師匠は何やら小声で呪文を唱えて解錠し、中へ入っていく。
──そういえば、競売場ではどこかの国の王族かと思うくらいの大判振舞いだったが、かれの自宅はシンプルな赤茶色の煉瓦造りの、この下町に馴染んでいる家だ。
でも、中は分からないわ──と意気込んで足を踏み入れてみると。
「わあ……」
魔法道具がたくさんあって感嘆しての「わあ」ではない。
想像と期待とは正反対の、殺風景──というかあまりにモノが無さすぎて驚いた。──本当にここに住んでいるのかと疑うほどだ。
そして師匠は家に帰ってきた途端、くつろぐようなこともなく、私に言った。
「さあ、まずは風呂でその汚れをこそぎ落とせ。この僕が直々に洗い方を指南する。ついてこい」
天気がいいだけで、何だか気分も良いな。
屋内で雨が止むのを待っていたまちの人々も外へ出はじめ、出店にも活気が戻っている。
というか、それにしても──私の師匠は、歩くのがとても早い。
遅れを取らないように、ややかけ足で師匠の背中を追っていると──かれが路上の水たまりを踏まないよう、避けて歩いていることに気がついた。
もしかしたら師匠にとっては汚く見えるのかもしれないが、私は雨上がりの街の雰囲気が好きだ。水たまりに、日の光がキラキラと映りこんでいて綺麗なのになと思っていると、突然喧騒の中で師匠の低い声が響いた。
「あいつに……何か、言われたか?」
あいつ──それは間違いなくレオお兄様のことだ。
かれからは、本人がいないところで師匠のことをいろいろと聞いてしまった。
正直、少し後ろめたさがある──。
「えっと、とくに大したことは聞いておりませんが……?」
「……僕の弟子なら、これだけは覚えておけ」
とぼけてみると、師匠がはっきりした口調で言った。
「僕は、美しくないものが嫌いだ。つねに身なりを整え、清潔でいること。それと、僕に嘘を吐くな」
わあ──。
お、お見通しだった──。
「それから、何か触れたときには必ず手洗いをする。あいつと……誰かと過度に接触するのを控える。……僕に接触するなど持っての他だ」
「は、はい……」
きっと師匠に飛びついて失神させてしまったことを言っているのだろうなあ──耳が痛い。
「それから!」
ああ、これからはまた違う意味で前途多難だ──と今からぐったりしていると、突然師匠は歩みを止め、私へふりかえる。
そして、ピンと顔に指を差され──。
「それから、絶対に僕に性交を迫ってくるな。お断りだ」
「……え?」
せ、せ──?!
大真面目な顔で──唐突に破廉恥なので思わず言葉を失った。
しかも、こちらは全くそんな気などないのに、お断りされた──。
「何故なら、盛った女というのは……本当に汚らわしい。弟子にも何度襲われかけたことか……まあ、女に限った話ではないが」
わー!もう何も言わないで──!
破廉恥すぎる!
──そして、今になって勘付いた。そういえば、レオお兄様が言っていた、弟子が辞めさせられるほうの〝ある理由〟って、そういうことか──。
「もう分かりましたので、これ以上何も言わないでください」
まあ言ってしまえば師匠は、神様が特別に贔屓して作り上げた至高の逸品であることはたしかだ。
たしかに、顔面は美しいし清潔感は有り余るほどだし、それなのにどこか、私みたいなお子さまにはないセクシーさがあり──。
などとどうでもよいことを考えているうちに、すぐに師匠の店へ到着した。
しかしドアを前にしてかれは私のほうをもう一度振りかえって、念を押してきた。
「襲うなよ」
「襲いません!」
ここまでだと、もはや冗談を言われているのかと疑い始めてきた──。笑うほうが正解だったかな?
師匠は何やら小声で呪文を唱えて解錠し、中へ入っていく。
──そういえば、競売場ではどこかの国の王族かと思うくらいの大判振舞いだったが、かれの自宅はシンプルな赤茶色の煉瓦造りの、この下町に馴染んでいる家だ。
でも、中は分からないわ──と意気込んで足を踏み入れてみると。
「わあ……」
魔法道具がたくさんあって感嘆しての「わあ」ではない。
想像と期待とは正反対の、殺風景──というかあまりにモノが無さすぎて驚いた。──本当にここに住んでいるのかと疑うほどだ。
そして師匠は家に帰ってきた途端、くつろぐようなこともなく、私に言った。
「さあ、まずは風呂でその汚れをこそぎ落とせ。この僕が直々に洗い方を指南する。ついてこい」
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