あの世からのお迎えを待つばかりのおばあちゃんが、異世界の悪役令嬢と入れ替わったら

白柿

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残ライフ3

12.

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 やはり人生、言ってみるものだな。こんなに簡単に勘当を免れられるとは思わなかった。
 まあ、父親もマクベスも、どうせ私がたった一晩では何もできないだろうと思っているのだろうが──それは大きな間違いだ!
 なぜなら、どうせ今夜私は死んで、また同じ今日に戻るだけなのだから!!
 ──ああ、言ってるだけで虚しい。
 とにかく、あんな大見得を切ったものの、全くのノープランというやつなのである。
 このままではやはり今夜、殺されてしまうかもしれない──。
 途方に暮れていたとき、私はお父様に続いてこの部屋を去ろうとする若者に目を止めた。
 ああ、頼れるのは若者よ──。

「ああ、セザリエ、私のかわいいセザリエ」
「……。」

 しかしそう愛をこめて呼んでも、弟はそのまま無言で何事もなかったかのように、この部屋を出て行こうとしている──。
 待て、そうはさせるか!
 絶対に逃すもんか!という一心で駆け足して、その体を捕まえた。

「セザリエ、セ・ザ・リ・エ~!」

 そのままタコのごとく絡みつけば──。

「やめろ、くそ義姉上!!」

 弟は悲鳴をあげ、ふりほどこうと必死だが──そうはさせるか!

「セザリエ~、お姉ちゃんを助けておくれよ~」
「すみませんがお断りします……離せ!」

 わが弟ながら、なかなかに手強いな。
 こんなに引き留めているのに──。

「どうして! お姉ちゃんを見捨てるのか!?」
「はい、見捨てます。喜んで見捨てます。義姉上がこの家からいなくなったら非常に、せいせいするので!」

 う~む。
 それほどマーサはおまえにひどいことをしていたのか?

「そんなひどいこと言うなよ」

 セザリエも、姉に恨みがあったのか?
 それとも──今の私が、いやなのか?
 それならもう、仕方がないとしか言えないじゃないか──。
 諦めてその体を解放しようとしたそのとき、女性の、落ち着きはらった声が響いた。

「すみません、姉弟水入らずの時間を楽しまれているところ、申し訳ないのですが……」
「ハァ!?」

 弟は──当然キレた。
 私もこれは姉弟の楽しい時間ではないと思う。残念ながら。
 その声の主は──コホン、と咳払いをしている──あの、侍女頭。

「突然ですが、私めからひとつ、ご提案がございます」







「まずは、マーサ様の言葉が真実であると、仮定してみることにいたしましょう」
「……え!?」
「え」
 
 ──み、味方がいた!
 こんな予期せぬところに、味方が!
 喜んでいると、セザリエが心底驚いたような、呆気に取られたような顔で彼女を見ているからか、念を押した。

「ぜひ、そういたしましょう」
「侍女頭、ありがとう!」
「……僕は、ここで抜けるよ」

 セザリエがひとつため息をついて、立ち上がった。
 やっぱりついてこられないか──まあ、これで医者行きは免れたわけだ。
 でもなぜか、どうしてなのかよく分からないが、行かないでほしい──できれば引き留めたいが、どうすれば?と考えていると、とても不思議そうな声音が。

「あら、なぜですの? ……あくまで仮定の話ですわ、おふたりとも」

 そう言うと、弟は少し立ち止まった。
 ──まあ、あくまで仮定の話だとしても、私としてはありがたいよ。
 「自分はすでに二回死んでる」っていう言葉を完全に信じる人がいたら、私はそいつもちょっと頭がおかしいと思うと思う。
 すると、彼女ははっきりとした口調で、言った。

「私めが思うに、言葉の虚実などは今、関係ありませんわ。マーサ様が泣いていらっしゃるところは、私め見るに堪えませんでしたの」

 え──。
 じ、侍女頭──。
 あなたは女神様か──!

「……僕には、バチが当たったとしか思えないがね」

 彼女の言葉に胸を打たれているところに、そう吐き捨てられた台詞。
 興醒めというより、以前から少し、疑問に思っていたのだ──どうしてこんなにも、マーサという子に対する意見が人によって違うのだろうか?
 このふたりの、この温度差──それにゲールズには、最低陰湿クズ女などという言われ様だったし、一方でジルは、まるで愛のような言葉を囁いてくれて──。
 おかげでマーサがどんな子だったのか、想像するしかないことになった。
 ──でも、私の99年の人生経験から何かしら察することはできる。
 きっと、誰しも、たったひとりの人間にはそれほど関心を持ってない。
 だから、マーサに対する意見も、みなきっと適度に、適当なのだろう。
 どんな子だった?と聞いて回っても、あまり意味がないのかもしれないな。
 あとは、振り返ってみれば、好かれている人には大抵自分も好意的に接しているし、嫌われている人には相応の態度を取っているものだ。
 だから、たぶんマーサって子は人の好き嫌いがわりとあるほうだったのかもしれないな。
 まあ、そういうのは私の苦手なタイプだが──。
 とりあえず、マーサは侍女頭のことをとても好いていたのだろう。 

「侍女頭、あんたの名前を聞いてもいいか?」
「……マリアですわ」

 少し戸惑ったような顔を見せたが、マリアはちゃんと答えてくれた。
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