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要の兄

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要の兄。


俺は、何て馬鹿だったんだろう。
今、猛烈に反省してる。

俺は、一条肇(はじめ)
一応、一条グループの御曹司になる。
が、弟の要の方が、俺より優秀で人徳もあり、後継者に相応しい。

俺は、そんな要に、嫉妬し妬み嫌悪していた。
両親は、俺達兄弟を差別する事なく、育ててくれた。
子供の頃は、仲良くしてた。
要が可愛い事もあり、自慢の弟だった。
要は、顔もいいし、頭もずば抜けて良かった。性格も良い。
何の欠点もなかった。

いつからだったのだろうか。
多分・・・そう。
俺が中学3年で、要が1年くらいの時。
一条グループの御曹司の兄弟で、何かと騒がしかった。
その頃の俺は、要に対して特に嫌う事もなく、家でも普通に話をしていた。
ただ・・・
何となく、要と比較されるんだろうなと、心の中では思っていたのかも知れない。

ある日、
学校の奴等が話しているのを、偶然聞いてしまった。

「一条の兄貴より、弟の方が跡取りになるんじゃないか?どう考えても、明らかだろう?可哀想にな。兄貴の方は普通だろ?」
「そうみたいだな。まぁ、普通より少し上って感じ?その点、弟は全てに置いて完璧らしいぞ?」
「そうそう!この前の全国模試で1位だったらしいぞ!すげ~な。」
「あ、それ聞いた。頭も良くて、顔もいいって。神は、二物どころか、与え過ぎだろう!モテモテ人生じゃん!」
そう言って、笑いながら去っていった。

俺は、手を強く握りしめた。
悔しくて涙が出そうになるのを、グッと堪えた。
そこで、俺は頑張る方向を間違えたんだ。
悔しさをバネに、全ての事に対して頑張れば良かったのに・・・・
俺は、諦めたんだ。
全ての事から・・・・逃げたんだ。

その日から、要とは距離を置いた。
勉強もやめた。
友達付き合いも変わった。
悪い奴等とつるむようになり、家にも帰らなくなった。

大学は、かろうじて受かったが、行く事はなかった。
このまま、大学も辞めてしまってもいいと思ったが、両親に泣きつかれ何とか卒業はした。

俺は、何の為に生きているのか。
毎日、くだらない事ばかりして、何が楽しいのか。
そんな事を考える日々だった。

父親から、会社を一つ任せるから、やってみろ!
と言われ、渋々会社に行くようになったが
まぁ、何も出来ないわな。
詳しく教えてくれる人が付いたが、全く分からない。
俺の周りは、コロコロ人が変わっていく。
はっきり言って、めんどくさい。
もう、辞めてやる!
と、父親に話をしようと、家に帰ると両親の弾んだ声が聞こえる。
そっと、様子を伺うと、

「要が大切な人に会ってくれって。」
「まぁまぁ!要に大切な人が出来たのね」
「あぁ、そうみたいだ。」
「どんな子かしら?」
「ははっ!あの花束を作った人だよ。」
「えっ?えーー!そうなの?あなた、もう会いに行ったのね?」
「すまない。どんな子なのか気になったんだ。」
「どんな子だったの?」
「あー、内緒だ。今度会うのを楽しみにしてなさい。」
「えぇー!もう!わかりました。」

両親のはしゃいでいる声が聞こえた。

ふぅ~ん。要の大事な人ねぇ~。
そう言えば、今までそんな事なかったよなぁ?
それだけ、本気って事か。
はんっ!どんな奴か見に行くか。
あわよくば、別れさせて、壊してやろうかな!
ははっ!楽しくなってきたな!



そんな事考えていた俺を殴ってやりたい。
蓮に出会い、俺は自分が恥ずかしくて、仕方なかった。
なんて、この子は綺麗なんだと思った。
心が綺麗。
そんな言葉がぴったりだ。

自分と言う物をちゃんと持ってる。
あんな生い立ちなのに、人を恨む事もしない。
相手の心配ばかり。
花が好きで、笑顔が可愛い。
なんて、嬉しそうに笑うんだろう。
要の事が大好きだ。と言う蓮が、眩しい。
俺も、誰かにそんな風に思われたい。
俺は、馬鹿だ。
今の俺に、そんな事言ってくれる人なんている訳がない。

今頃後悔するなんて。
いや、今からでもやり直そう。
もう、馬鹿な事は繰り返さない。

それから、俺は会社を立ち直す為に、勉強をした。
頭も下げ、許しを乞うた。
今までが今までだったから、そんな簡単にはいかない。わかってる。
だから、何度も何度も諦めずに、必死になった。
両親も要も、協力してくれた。
特に要は、あんな仕打ちをした俺を許してくれて、
「俺に出来る事なら、何でも言って。」
そう言ってもらえて、俺は不覚にも涙が出てしまった。
ありがとう。と、ごめん。
何度言っただろう。
それでも、まだ言い足りないくらいだ。
こんなに優しい気持ちをくれた、蓮。
本当にありがとう。

今では、家族全員で過ごす時間が、たまらなく嬉しい。
要が、
「後は、兄貴の嫁さんだな?」
蓮と、両親と、笑顔で、
「うん。うん。」
頷きあってる。
俺は、苦笑しながら、
「まだ、考えてないよ。その内な。」
そう返す。

今は、まだ、この幸せな時間を大切にしたいんだ。
もう少し、俺に懺悔の時間が欲しい。
まだ、皆に返せてないから・・・

自分のケジメだから。
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