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【第一話】身投げ、そして出会い
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晩夏の涼しい夜。
僕は勝浦海岸の波に身を投げる少女を見た。
どこか儚く、溶けて消えてしまうようだった。
「まずい!」
大きな波に攫われ見えなくなった彼女を助けるため、砂浜のガードレールを飛び越え走った。
もう”二度”とあんなこと。
白波の立つひんやりとした海に飛び込み、どこにいるかもわからない彼女のもとへ向かう。
微かに水中に制服の白いシャツが見えた。
「そこか!」
沈んでゆく彼女に手を伸ばし、腕を掴んだ。
急いで浜まで引き上げたが彼女の意識はない。
「クソッ!」
息をしていない彼女を救う方法はただ一つ、人工呼吸だけだ。
だがそれをためらった。
「24になってもまだこんなことを恥ずかしがっているのか」
頬を赤く染め、水で透けた服を着ている彼女を見ていると妙な色気を感じてしまう。
その凛とした顔の美しい少女を自らの手で汚してしまうのが嫌だった。
覚悟を決め、彼女の柔らかな唇に口を密着させた。
人工呼吸を開始して10分程経った頃。
「ゲホッ! ゲホッ!」
やっと彼女は水を吐き出した。
だが意識は戻らない。
「とりあえず体を温めないと」
弱りきった彼女を抱え、砂浜にある屋根付きのベンチに寝かせた。
冷えないように濡れた服を脱がそうとしたところ、胸をはだけさせてしまっていることに気付いた。
「……何考えてるんだ俺」
目をつむりながらこの近くの高校のものだと思われる制服のシャツを脱がしていく。
「こんなところ見られたらひとたまりもないな」
いかにも年上の男性が無抵抗の女子高生を脱がしているところなんて犯罪現場に他ならないだろう。
そして、海に飛び込む前に脱ぎ棄てた羽織を彼女にかけてあげた。
なんとかひと段落つき安心したのか地面に座り込んでしまった。
「”今度”は助けられた」
それから1時間くらい経っただろうか。
ついに少女が目を覚ました。
「ここは? 私は死んだの?」
彼女は困惑している様子だった。
「君は死んでなんかいないよ。怪我してはいないかな?」
彼女はボーっとしたまま自らの体を見回した。
「!?」
上半身が下着だけになっていることに気付いたのだろうか。
殴られる覚悟をした。
「なんで……」
彼女が何か小声で言ったがうまく聞き取れなかった。
「すまない。もう一度言ってくれるかな?」
彼女は噛みつくような声で答えた。
「なんで助けたりなんかしたの!!!! あとちょっと……あとちょっとだったのに!!!!」
予想外の返事に驚いたが、彼女の目には涙が滲んでいた。
その言葉を残し少女は走り去ってしまった。
「やっと……助けられたのに」
その時、急な目まいがしてその場に倒れこんでしまった。
僕は勝浦海岸の波に身を投げる少女を見た。
どこか儚く、溶けて消えてしまうようだった。
「まずい!」
大きな波に攫われ見えなくなった彼女を助けるため、砂浜のガードレールを飛び越え走った。
もう”二度”とあんなこと。
白波の立つひんやりとした海に飛び込み、どこにいるかもわからない彼女のもとへ向かう。
微かに水中に制服の白いシャツが見えた。
「そこか!」
沈んでゆく彼女に手を伸ばし、腕を掴んだ。
急いで浜まで引き上げたが彼女の意識はない。
「クソッ!」
息をしていない彼女を救う方法はただ一つ、人工呼吸だけだ。
だがそれをためらった。
「24になってもまだこんなことを恥ずかしがっているのか」
頬を赤く染め、水で透けた服を着ている彼女を見ていると妙な色気を感じてしまう。
その凛とした顔の美しい少女を自らの手で汚してしまうのが嫌だった。
覚悟を決め、彼女の柔らかな唇に口を密着させた。
人工呼吸を開始して10分程経った頃。
「ゲホッ! ゲホッ!」
やっと彼女は水を吐き出した。
だが意識は戻らない。
「とりあえず体を温めないと」
弱りきった彼女を抱え、砂浜にある屋根付きのベンチに寝かせた。
冷えないように濡れた服を脱がそうとしたところ、胸をはだけさせてしまっていることに気付いた。
「……何考えてるんだ俺」
目をつむりながらこの近くの高校のものだと思われる制服のシャツを脱がしていく。
「こんなところ見られたらひとたまりもないな」
いかにも年上の男性が無抵抗の女子高生を脱がしているところなんて犯罪現場に他ならないだろう。
そして、海に飛び込む前に脱ぎ棄てた羽織を彼女にかけてあげた。
なんとかひと段落つき安心したのか地面に座り込んでしまった。
「”今度”は助けられた」
それから1時間くらい経っただろうか。
ついに少女が目を覚ました。
「ここは? 私は死んだの?」
彼女は困惑している様子だった。
「君は死んでなんかいないよ。怪我してはいないかな?」
彼女はボーっとしたまま自らの体を見回した。
「!?」
上半身が下着だけになっていることに気付いたのだろうか。
殴られる覚悟をした。
「なんで……」
彼女が何か小声で言ったがうまく聞き取れなかった。
「すまない。もう一度言ってくれるかな?」
彼女は噛みつくような声で答えた。
「なんで助けたりなんかしたの!!!! あとちょっと……あとちょっとだったのに!!!!」
予想外の返事に驚いたが、彼女の目には涙が滲んでいた。
その言葉を残し少女は走り去ってしまった。
「やっと……助けられたのに」
その時、急な目まいがしてその場に倒れこんでしまった。
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