騎士隊長と黒髪の青年

朔弥

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背徳の香り (拘束・目隠し)

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 またか······


 莉人は騎士団宿舎の廊下を自室へ向かって歩きながら、自分に注がれる視線に溜息を吐いた。
 ライザーに催淫剤を盛られ羞恥を晒して以来、他の隊員から向けられる視線の中には、性的欲望の対象とした欲情の混ざったものを感じるようになった。こっそりと盗み見する者もいれば、数名だがじっとりと熱のこもった視線を這わす者も。そんな視線から守るようにアシュレイは常に莉人の隣にいた。
 だが、何処へ行くにも隣から離れず、常に一緒にいる事に少なからず息が詰まると感じるようになっていた。
 見られているだけで、今の所手を出そうという輩はいない。
 視線から何を想像しているから安易に予測出来はするが···。


「····いい加減に離れろよ。別に変な想像された所でどうって事ないだろ」
 そんな莉人の言葉にアシュレイはジロリと少し怒った表情で視線を向けた。
 そんな想像すらさせたくないという想いに気づきもしないのか···と、アシュレイは少し苛立ちを感じていた。だからだろうか。つい、莉人を傷つける言葉を選らんでしまった。
「また皆の前でシタいのか?」
「なっ·····!」
 案の定、莉人はカッと頬に朱を走らせ、鋭く睨めつけた。
「リヒト、お前はもう少し危機感を持て。そんな考えだから隙が生まれるんだ」
 アシュレイは先程から特に莉人を見つめている二人の隊員の姿を目の端に捉え、忠告する。
「隙ってなんだよ、普通思わねぇだろあんな所で薬入れられるとか」
「いいからもっと周りを気にしろ。他人に気を許すな」
「······何で襲われる前提で話してんだよ」
 騎士団ここはそんなに飢えた野郎ヤツばかりなのか!?と思わず顔が引きる。

「········自覚しろ」

 ぼそっとアシュレイは呟いた。
「はあ?」
「次も直ぐに駆けつけれるとも限らないだろうが」
 なんだか女扱いされているようで、苛立ちを感じる。助けてもらわなければここで生きていけないと言われたようで、男としての自尊心を傷つけられた気持ちにさせられた。
「別に助けて欲しいなんて言ってないだろ」
すがりついてきたのは誰だ?」
「っ···あれは!」
 いきり立つ莉人に、アシュレイは彼の行く手を阻むように腕を伸ばした。壁に手をつき、莉人の足を止める。
「何し···」
 何して、と文句を言おうとアシュレイの方へ顔を向けた瞬間、唇で塞がれた。
「っ···」
 軽く口腔内を舌で堪能した後、アシュレイはゆっくりと唇を離し、耳元に唇を寄せた。
「隙だらけだと言っただろ」
「だからって、こんなとこで ────」
 人に見せる趣味はない。
「見せつけてやれば少しは妙な視線を向けて来る者も減るだろう」
「ふざけるなっ」
 莉人はアシュレイを押し退けると、さっさと歩き出した。
 彼の後ろを歩きながら先程、男達がいた辺りにチラリと視線を向けるが、そこにはもう姿はなかった。


 杞憂に終わるといいが ────


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