騎士隊長と黒髪の青年

朔弥

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甘い蜜の誘い (玩具?←冒頭に注意事項有り)

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「よう···クソ神官」
 厨房の調理員に紛れ込んでコソコソしている男にカウンターから声をかける。
 男はギクリと肩を揺らし振り返った。
「···何故分かった」
 振り向いた男は思った通りジョルジュだった。
 明らかにこちらの様子を伺うような、物の影から見え隠れする不審な動きをする調理員などいない···。
「分からない方がおかしいだろ···」
 性懲りもなくまだ周囲を彷徨うろついているのかと、うんざりした表情を浮かべる。
「また妙なもの仕込んでんじゃねぇだろうな···」
「まだしとらんわ!」
「··まだって何だよ、やっぱ何かしようと ─··」
 カウンター越しにジョルジュの服を掴みかかると、ゴトッとジョルジュの袖口から果実のような物が転がり出た。
「···?」
 薄紫色の10cm程の卵のような楕円形だえんけいをした果実からは少し甘い香りがしている。
 熟れて食べ頃なのか、果皮が割れ実の中が見え ──···
「えっ?」
 莉人は実の中から覗くモノに絶句した。果実の中に明らかに陰茎の形を模した物が見える。


 ···陰茎アレに見える俺がおかしいのか??


「···おい、これって ──···」
 問いかけようとジョルジュを見ると、そこにはもう彼の姿はなかった。

 どうすんだよコレ···

 呆然とカウンターの上に転がったままの果実を見つめる。
 このまま放置···しておくわけにもいかないか、と莉人は果皮の破れ目から中身が人の目に触れないように手に持つと食堂を出た。




 ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇




 執務室ではジョルジュの動向を監視させていた、第6騎士団から持ち込まれた植木鉢を前にアシュレイとグレースが何とも言えない表情を浮べていた。
 植木鉢の土から出た数本の幹が絡み合うように背の高さまで伸び、沢山の葉を繁らせている。その隙間からはいくつかの果実を覗かせていた。
「···第6の連中アイツら何て報告していった?」
 アシュレイは果実を見つめたままグレースに問いかける。
「···この果実から零れる蜜には人を引き寄せる甘い香りがあり、この蜜を舐めた者は実の中にあるモノで射精しない限り躰の疼きは収まらないそうですよ。この樹···と呼ぶものかは分かりませんが、コレの栄養源は精液だそうで」
 呆れた表情で第6騎士団から報告された内容を淡々とグレースは語る。
「その果実の中にあるモノは、体内に挿れると形や大きさを変えてイイ所を探るとか···。貴族に高値で売れると、自信満々に大層な独り言を言っていたそうですよ」
 語りながらグレースの表情は次第に無の境地に達っしていった。
「···それで、うちに持ち込まれたのか」
「まあ、それもありますが、あの異世界人で試してみるかと言っていたようで。···第6隊長には大変な奴に目をつけられたな、と同情の眼差しを向けられましたよ」
ジョルジュアイツの頭ん中はどうなってんだ···」
 アシュレイは溜息を吐いた。
「どうしますか?コレ···。一応、成長を止める魔法をほどこしたので蜜は出しませんが···」
「····処分してくれ」
 疲れ切った表情かおでアシュレイは呟いた。
 

 執務室を出て行くアシュレイを見送った後、グレースは植木鉢に向けて手を翳(かざ)すと燃焼させる為の炎魔法を詠唱した。
 炎が植物を飲み込む様子を見ていたグレースの目に、揺れた葉の隙間から実をもぎ取ったような枝がねじり切られた跡が一瞬映った。
「─── っ!?」
 炎を止めようとした時には遅く、植物は跡形も無く燃え尽きてしまった。
「······いや、まさか···ね」
 嫌な予感が一瞬よぎるが、コレが莉人の所まで辿り着くことはないだろうと考えを振り払う。
「······」
 あの植物、精液が栄養源だと言っていたが···。その栄養源を摂取する為に人を引き寄せる密があの実にあるという事は、ただアレでイっただけでは蜜の効果は消えないのではないだろうか。
 グレースは今まで鉢植えがあった場所を、もう少し調べてから処分するべきだったと、後悔の念に駆られながら見つめる。

 本体が消滅した場合はあの蜜の効力はどうなるのだろうか···

 あの男を捕まえて聞き出すしかないか、とグレースは深い溜息を洩らした。

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