2度目の高3(さいご)に恋をする。

テラガミコタロウ

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一学期

第4話 何かある日の前の日は無駄にドキドキする

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「ただいま」
 その後帰宅した俺は、洗面所で手を洗い、リビングへと向かった。
「おかえり、学校どうだった?」
 会社の制服を着た母がキッチンで洗い物をしながら、カウンター越しの俺に喋りかける。
「普通」
 そうは答えたが、朝からクラスの一軍に絡まれ、去年と同じ担任にメンタルをえぐられ、帰り道で美少女と出会った。こんな一日が普通なわけない。
「あ、そうそう、さっき初めて近所にあるパン屋に行って来たのー。そこのテーブルにあるから食べて。すごい美味しいの」
 うちの近所にパン屋なんかあったのか。
 ダイニングテーブルの上には、透明なポリ袋に入ったクリームパンが二個あった。
 そのうちの一個を手に取り、袋からパンを取り出して、一口かじってみる。
 ふむふむ、これはなかなか……うまいな。
 ふわふわのパン生地に包まれたカスタードクリームは程よく甘い。普段から甘いものを好んで食べない俺だが、これは何個でも行けそうだ。
 ペロリと1個目をたいらげ、2個目に手を伸ばそうとしたその時……
「え」
 キッチンからこちらに来た母はラスト一個のパンを手に取り、その場で袋から出したと思うと、突如食べ始めた。
「最後の1個は母さんのね」
 1個食ったんじゃなかったのかよ……
 一般的な母親であれば、最後の一個というのは自分の子に譲るものだ。
 クリームパン、食いたかった。
 俺がこれだけ食べ物に夢中になったのはいつぶりだろうか。
「あぁーうま、シンジパン屋になりなさいよー!」
「ならない」
 母親の都合で将来を棒に振るなんて御免だ。
 
 
「……と言うわけなんだ」
 俺は今教卓の前に立ち、留年の理由を全員に向けて語った。
 ここからは全員の顔がよく見え、みんな驚いたような顔をしている。それは昨日絡んできた一軍男子も同様に。
「そうだった…のか。坂井俺、勘違いしてお前のことからかってた! すまん!」
 そう言って一軍男子は席を立ち、俺に頭を下げる。
 そしてそれに続くように、他の生徒も続々と席を立っていく。
「俺も!」
「私も!」
『ごめん!』
 次から次へと俺に寄せられる謝罪の声に、俺は少しの快感を覚えていた。しかしそこでふと思う。

 いや待て、本当にこれで良いのか?

 俺が望むのは謝罪? 違う。みんなと打ち解けたい。だけ。こんなこと、望んでない。
 
 
 目覚まし時計の電子音が耳元で鳴り響く。
 俺は鳴り止まない時計に苛立ち、強く時計を上から叩く。鳴り止んだ。俺の時計はここ半年ほど、壊れるか壊れないかのギリギリの状態だ。だから強い力で叩けば鳴り止んでくれる。いつか壊れるとは思っているが、その時はその時で買い換えようとは思っている。
 ——夢か。
 自己紹介の夢。にしても良く出来た夢だった。でも、今日のがさっきの夢の通りに行ってほしいとは思わない。
 成功すれば良いがな。
 俺は上半身を起こし、ベッドから出る。
 そして一階に行き、洗面所でまず歯を磨く。鏡に映った自分の顔はいつも通り平凡。元同級生の女子からは、どこでにでもいそうな顔とまで言われたほどだ。すごくイケメンでも、すごく不細工でもないらしい。
 
 歯を磨いたら顔を洗い、身支度をしたら、朝食を食べずに家を出た。起きた時間が遅かったせいだ。
 いつもの通学路を歩いていると、前に美空が歩いているのを見つけた。
 一瞬声をかけようか迷ったが、昨日少し話したくらいで、次の日から声をかけるのは何か違うと思って、そのまま何もせずに1人で登校した。
 
 登校時間2分前で間に合った。教室の前まで来たが、中はかなり騒がしい。三年生が始まって二日目の教室とは思えない騒がしさだ。
 俺はガラガラと横開きのドアを開け、教室に入る。
 すると、クラスメートは達は俺を見た途端一斉に静かになった。
 おいおいなんだよこの雰囲気。超気まずい。
 俺は足早に自分の席へと着く。
 そうするとさっきの騒がしさは元に戻る。
「おはよ、また朝から大変ね。こんなので自己紹介、上手くいくのかな」
 突然のおはように動揺しつつも、隣で本を読む美空に返答する。
「お、おはよう。そうだな、自己紹介。今日が勝負所だな」
「おっはよー、ホームルームはじめんぞ、席つけー」
 松島がいつものジャージ姿で教室に入ってきた。
「じゃあ今日は、昨日行った通り自己紹介。それと委員会も決めまーす」
 ついに来た!自己紹介!
 
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