4 / 9
一学期
第4話 何かある日の前の日は無駄にドキドキする
しおりを挟む
「ただいま」
その後帰宅した俺は、洗面所で手を洗い、リビングへと向かった。
「おかえり、学校どうだった?」
会社の制服を着た母がキッチンで洗い物をしながら、カウンター越しの俺に喋りかける。
「普通」
そうは答えたが、朝からクラスの一軍に絡まれ、去年と同じ担任にメンタルをえぐられ、帰り道で美少女と出会った。こんな一日が普通なわけない。
「あ、そうそう、さっき初めて近所にあるパン屋に行って来たのー。そこのテーブルにあるから食べて。すごい美味しいの」
うちの近所にパン屋なんかあったのか。
ダイニングテーブルの上には、透明なポリ袋に入ったクリームパンが二個あった。
そのうちの一個を手に取り、袋からパンを取り出して、一口かじってみる。
ふむふむ、これはなかなか……うまいな。
ふわふわのパン生地に包まれたカスタードクリームは程よく甘い。普段から甘いものを好んで食べない俺だが、これは何個でも行けそうだ。
ペロリと1個目をたいらげ、2個目に手を伸ばそうとしたその時……
「え」
キッチンからこちらに来た母はラスト一個のパンを手に取り、その場で袋から出したと思うと、突如食べ始めた。
「最後の1個は母さんのね」
1個食ったんじゃなかったのかよ……
一般的な母親であれば、最後の一個というのは自分の子に譲るものだ。
クリームパン、食いたかった。
俺がこれだけ食べ物に夢中になったのはいつぶりだろうか。
「あぁーうま、シンジパン屋になりなさいよー!」
「ならない」
母親の都合で将来を棒に振るなんて御免だ。
「……と言うわけなんだ」
俺は今教卓の前に立ち、留年の理由を全員に向けて語った。
ここからは全員の顔がよく見え、みんな驚いたような顔をしている。それは昨日絡んできた一軍男子も同様に。
「そうだった…のか。坂井俺、勘違いしてお前のことからかってた! すまん!」
そう言って一軍男子は席を立ち、俺に頭を下げる。
そしてそれに続くように、他の生徒も続々と席を立っていく。
「俺も!」
「私も!」
『ごめん!』
次から次へと俺に寄せられる謝罪の声に、俺は少しの快感を覚えていた。しかしそこでふと思う。
いや待て、本当にこれで良いのか?
俺が望むのは謝罪? 違う。みんなと打ち解けたい。だけ。こんなこと、望んでない。
目覚まし時計の電子音が耳元で鳴り響く。
俺は鳴り止まない時計に苛立ち、強く時計を上から叩く。鳴り止んだ。俺の時計はここ半年ほど、壊れるか壊れないかのギリギリの状態だ。だから強い力で叩けば鳴り止んでくれる。いつか壊れるとは思っているが、その時はその時で買い換えようとは思っている。
——夢か。
自己紹介の夢。にしても良く出来た夢だった。でも、今日のがさっきの夢の通りに行ってほしいとは思わない。
成功すれば良いがな。
俺は上半身を起こし、ベッドから出る。
そして一階に行き、洗面所でまず歯を磨く。鏡に映った自分の顔はいつも通り平凡。元同級生の女子からは、どこでにでもいそうな顔とまで言われたほどだ。すごくイケメンでも、すごく不細工でもないらしい。
歯を磨いたら顔を洗い、身支度をしたら、朝食を食べずに家を出た。起きた時間が遅かったせいだ。
いつもの通学路を歩いていると、前に美空が歩いているのを見つけた。
一瞬声をかけようか迷ったが、昨日少し話したくらいで、次の日から声をかけるのは何か違うと思って、そのまま何もせずに1人で登校した。
登校時間2分前で間に合った。教室の前まで来たが、中はかなり騒がしい。三年生が始まって二日目の教室とは思えない騒がしさだ。
俺はガラガラと横開きのドアを開け、教室に入る。
すると、クラスメートは達は俺を見た途端一斉に静かになった。
おいおいなんだよこの雰囲気。超気まずい。
俺は足早に自分の席へと着く。
そうするとさっきの騒がしさは元に戻る。
「おはよ、また朝から大変ね。こんなので自己紹介、上手くいくのかな」
突然のおはように動揺しつつも、隣で本を読む美空に返答する。
「お、おはよう。そうだな、自己紹介。今日が勝負所だな」
「おっはよー、ホームルームはじめんぞ、席つけー」
松島がいつものジャージ姿で教室に入ってきた。
「じゃあ今日は、昨日行った通り自己紹介。それと委員会も決めまーす」
ついに来た!自己紹介!
その後帰宅した俺は、洗面所で手を洗い、リビングへと向かった。
「おかえり、学校どうだった?」
会社の制服を着た母がキッチンで洗い物をしながら、カウンター越しの俺に喋りかける。
「普通」
そうは答えたが、朝からクラスの一軍に絡まれ、去年と同じ担任にメンタルをえぐられ、帰り道で美少女と出会った。こんな一日が普通なわけない。
「あ、そうそう、さっき初めて近所にあるパン屋に行って来たのー。そこのテーブルにあるから食べて。すごい美味しいの」
うちの近所にパン屋なんかあったのか。
ダイニングテーブルの上には、透明なポリ袋に入ったクリームパンが二個あった。
そのうちの一個を手に取り、袋からパンを取り出して、一口かじってみる。
ふむふむ、これはなかなか……うまいな。
ふわふわのパン生地に包まれたカスタードクリームは程よく甘い。普段から甘いものを好んで食べない俺だが、これは何個でも行けそうだ。
ペロリと1個目をたいらげ、2個目に手を伸ばそうとしたその時……
「え」
キッチンからこちらに来た母はラスト一個のパンを手に取り、その場で袋から出したと思うと、突如食べ始めた。
「最後の1個は母さんのね」
1個食ったんじゃなかったのかよ……
一般的な母親であれば、最後の一個というのは自分の子に譲るものだ。
クリームパン、食いたかった。
俺がこれだけ食べ物に夢中になったのはいつぶりだろうか。
「あぁーうま、シンジパン屋になりなさいよー!」
「ならない」
母親の都合で将来を棒に振るなんて御免だ。
「……と言うわけなんだ」
俺は今教卓の前に立ち、留年の理由を全員に向けて語った。
ここからは全員の顔がよく見え、みんな驚いたような顔をしている。それは昨日絡んできた一軍男子も同様に。
「そうだった…のか。坂井俺、勘違いしてお前のことからかってた! すまん!」
そう言って一軍男子は席を立ち、俺に頭を下げる。
そしてそれに続くように、他の生徒も続々と席を立っていく。
「俺も!」
「私も!」
『ごめん!』
次から次へと俺に寄せられる謝罪の声に、俺は少しの快感を覚えていた。しかしそこでふと思う。
いや待て、本当にこれで良いのか?
俺が望むのは謝罪? 違う。みんなと打ち解けたい。だけ。こんなこと、望んでない。
目覚まし時計の電子音が耳元で鳴り響く。
俺は鳴り止まない時計に苛立ち、強く時計を上から叩く。鳴り止んだ。俺の時計はここ半年ほど、壊れるか壊れないかのギリギリの状態だ。だから強い力で叩けば鳴り止んでくれる。いつか壊れるとは思っているが、その時はその時で買い換えようとは思っている。
——夢か。
自己紹介の夢。にしても良く出来た夢だった。でも、今日のがさっきの夢の通りに行ってほしいとは思わない。
成功すれば良いがな。
俺は上半身を起こし、ベッドから出る。
そして一階に行き、洗面所でまず歯を磨く。鏡に映った自分の顔はいつも通り平凡。元同級生の女子からは、どこでにでもいそうな顔とまで言われたほどだ。すごくイケメンでも、すごく不細工でもないらしい。
歯を磨いたら顔を洗い、身支度をしたら、朝食を食べずに家を出た。起きた時間が遅かったせいだ。
いつもの通学路を歩いていると、前に美空が歩いているのを見つけた。
一瞬声をかけようか迷ったが、昨日少し話したくらいで、次の日から声をかけるのは何か違うと思って、そのまま何もせずに1人で登校した。
登校時間2分前で間に合った。教室の前まで来たが、中はかなり騒がしい。三年生が始まって二日目の教室とは思えない騒がしさだ。
俺はガラガラと横開きのドアを開け、教室に入る。
すると、クラスメートは達は俺を見た途端一斉に静かになった。
おいおいなんだよこの雰囲気。超気まずい。
俺は足早に自分の席へと着く。
そうするとさっきの騒がしさは元に戻る。
「おはよ、また朝から大変ね。こんなので自己紹介、上手くいくのかな」
突然のおはように動揺しつつも、隣で本を読む美空に返答する。
「お、おはよう。そうだな、自己紹介。今日が勝負所だな」
「おっはよー、ホームルームはじめんぞ、席つけー」
松島がいつものジャージ姿で教室に入ってきた。
「じゃあ今日は、昨日行った通り自己紹介。それと委員会も決めまーす」
ついに来た!自己紹介!
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる