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一学期
第8話 唐揚げを買いに
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美空と別れてから15分後。俺は家でのんびり……しているはずが、早速外に出ていた。学校に行く時くらいしか外出をしない、いわゆるインドア派の俺がなぜ外にいるのかというと、帰宅して早々母親からお使いを頼まれたからだ。頼まれたからだ。お使いというのは唐揚げを買ってくること。でもただの唐揚げじゃない。
俺の唯一の親友、南部ケイタの家の唐揚げだ。あいつの家は昔から精肉店を営んでおり、坂井家はいつもそこの肉を食べている。唐揚げからコロッケ、ヒレカツやメンチカツまで、幅広い種類があるお店だ。
小学生の時なんかは、夕方まで遊んで、帰りにケイタの父さんから精肉店で余った惣菜を無償で食べさせてもらった事もあった。
そして何より、ここの唐揚げは超美味い。
家から徒歩で15分。駅の近くに立つそのお店は、正面に大きく【南部精肉店】と書かれた看板がついている。
俺は引き戸を開け、店内へと入る。
店内に客はおらず、カウンターにはエプロンをつけたケイタが立っていた。
ケイタはこの春から、店の後を継ぐべく見習いとしてここで働いているらしい。だからこいつは、実質社会人だ。
「よ」
俺は小さく手をあげる。
「おぉ! シンジじゃねえか! 久しぶり!」
最後に会ったのはケイタの卒業式の日。そのため会ったのはちょうど1ヶ月ぶりだ。
「いや……俺は感激だよ、シンジが俺を恋しくなってここまで来てくれた事」
ケイタはすすり泣きの振りをして俺に言った。
「勝手な妄想すな。唐揚げを買いに来たんだよ」
「つれないな~」
ケイタはいつも通りだ。
こいつが高校を卒業して1ヶ月。
俺は心のどこかで、もしかしたらケイタが社会人になって変わってしまうかと不安になっていたが、実際はそうでも無さそうで安心した。高校生という肩書きが、社会人という肩書きに変わっただけ。ましてやあのケイタが、そんな大きく変わるはずないなんて事わかっていたはずなのに。
「何グラム?」
「500で」
俺は母親に渡された買い物メモを見てそう伝える。
「で、学校はどうなんだ?」
「……まだ2日しか経ってないが、毎日はちゃめちゃだ」
「ははっ、そうか」
「まず、あの松島が担任になった……」
「は? お前またかよ!」
ケイタも、俺と共に松島にメンタルを削ぎ落とされた仲間だ。そのおかげで、俺以上にケイタのメンタルは鋼と化した。まあある意味ケイタは、松島に感謝するべきだろう。
「そして、クラスで浮いた」
「そ…そうか」
ケイタは「残念だったな」と申し訳程度の励ましをする。
「まあ、理由が理由でも、留年には変わりないしな」
「ていうかお前、去年ですら浮いてたし」
それは初耳だ。けど確かに、俺が高校の3年間でちゃんと絡んだのは、ケイタを含め数人。友達はかなり少なかった。
本が好きだった訳ではないが、休み時間は決まって本を読んで時間を潰していた。
––今思えば、俺はクラスで浮いていたのかもしれない。
「不本意だが、確かに」
悔しくも納得してしまった。
「極め付けは、一人の美少女によく絡まれるようになった」
「……いやいや、さっきの話の流れからしてそんな事あるか⁉︎」
「それがあったんだよ」
いまだに美空の考えてることは分からない。まだ付き合いが浅いというのもあるが、あいつが俺にそこまでする義理はないはずなのにな。
でもありがたいとは思ってる。実際俺は、この2日でいきなり諦めかけたことが何個もある。そんな俺を助けてくれたのは、他の誰でもない美空だ。
「それで、その女の子は可愛いのか⁉︎」
「美少女って言ったんだから、分かるだろ」
「おぉー! シンジ、留年してモテ期当来!」
「その嬉しくも悲しくもない事言うのやめろ」
「で、シンジはその子に恋したって訳か」
「してねーよ! てかそれこそさっきの話の流れからしてないだろ!」
俺は全力で否定する。出会って2日の女子に恋心を抱くほど、俺は恋に飢えてない。
「俺はハナ一筋だからな」
そういえばハナ、どうしてるんだろう。
ハナは遠くの大学に進学して、今はこの辺りにはいない。
久しぶりに思い出すハナの顔。その瞬間、俺の心の中にはある一つの思いが込み上げてきていた。
「ハナに会いたい そう思ってるんだろ?」
「なっ……なぜそれを……」
「顔に出てんだよ」
ケイタはハハっと笑って言った。
「でもよく分かったよ、お前のハナちゃんへの情熱が」
そう、会えなくたって俺の思いは変わらない。
「でも、その情熱も程々にしとけよー」
この何気ない一言。でも俺には、この言葉に深い意味があるように感じた。ケイタにしては繊細で、大きな意味が。
「あ、やべ、からあげ忘れてた。今準備するわ」
––そういえばさっきから、何だか視線を感じる。
気になってチラッと後ろを見ると、ガラスの引き戸の向こうから、高めのポニーテールで白ふちのメガネが特徴的なOL姿の女性がこちらをのぞいていた。
なんだあの人、客か?
俺が女性の方を見ると、女性はこっちに気づいたようで慌てて引っ込んだ。
「ごめんごめん。はい、唐揚げ500グラム。1000円な」
俺はお金を払い、唐揚げの入った袋を受け取る。
「じゃ俺帰る、またな。頑張れよ」
「おう! お前もな!」
店先に出て周囲を見渡すと、店の横でさっきの女性が体育座りで座っていた。
「あの……大丈夫ですか?」
このまま放っておくのも悪いので、声をかけてみる。
「わっ‼︎ あ、あ、ごめんなさい!」
女性は立ち上がったが、かなり慌てている。
「さっき店内をみてたんで……あ、もう入って大丈夫ですよ」
この人の行動を見る限り、店に来たが中で友人らしき人と話し込んでいるのを見て、『入って大丈夫かな』と悩んでいたのだろう。どちらにしろ、声をかけたのは正解だった。
「ありがとうございます」
女性はお辞儀をして、スッと店に入って行った。
帰路の最中、やっぱり俺は思った。
なんか俺、良い事したな。
追記
ちなみに、ケイタが唐揚げを用意する時間。ちょー短いですがケイタは出来上がってる唐揚げを袋に詰めてるだけなので安心してください。
唐揚げ食べたくなってきた。
俺の唯一の親友、南部ケイタの家の唐揚げだ。あいつの家は昔から精肉店を営んでおり、坂井家はいつもそこの肉を食べている。唐揚げからコロッケ、ヒレカツやメンチカツまで、幅広い種類があるお店だ。
小学生の時なんかは、夕方まで遊んで、帰りにケイタの父さんから精肉店で余った惣菜を無償で食べさせてもらった事もあった。
そして何より、ここの唐揚げは超美味い。
家から徒歩で15分。駅の近くに立つそのお店は、正面に大きく【南部精肉店】と書かれた看板がついている。
俺は引き戸を開け、店内へと入る。
店内に客はおらず、カウンターにはエプロンをつけたケイタが立っていた。
ケイタはこの春から、店の後を継ぐべく見習いとしてここで働いているらしい。だからこいつは、実質社会人だ。
「よ」
俺は小さく手をあげる。
「おぉ! シンジじゃねえか! 久しぶり!」
最後に会ったのはケイタの卒業式の日。そのため会ったのはちょうど1ヶ月ぶりだ。
「いや……俺は感激だよ、シンジが俺を恋しくなってここまで来てくれた事」
ケイタはすすり泣きの振りをして俺に言った。
「勝手な妄想すな。唐揚げを買いに来たんだよ」
「つれないな~」
ケイタはいつも通りだ。
こいつが高校を卒業して1ヶ月。
俺は心のどこかで、もしかしたらケイタが社会人になって変わってしまうかと不安になっていたが、実際はそうでも無さそうで安心した。高校生という肩書きが、社会人という肩書きに変わっただけ。ましてやあのケイタが、そんな大きく変わるはずないなんて事わかっていたはずなのに。
「何グラム?」
「500で」
俺は母親に渡された買い物メモを見てそう伝える。
「で、学校はどうなんだ?」
「……まだ2日しか経ってないが、毎日はちゃめちゃだ」
「ははっ、そうか」
「まず、あの松島が担任になった……」
「は? お前またかよ!」
ケイタも、俺と共に松島にメンタルを削ぎ落とされた仲間だ。そのおかげで、俺以上にケイタのメンタルは鋼と化した。まあある意味ケイタは、松島に感謝するべきだろう。
「そして、クラスで浮いた」
「そ…そうか」
ケイタは「残念だったな」と申し訳程度の励ましをする。
「まあ、理由が理由でも、留年には変わりないしな」
「ていうかお前、去年ですら浮いてたし」
それは初耳だ。けど確かに、俺が高校の3年間でちゃんと絡んだのは、ケイタを含め数人。友達はかなり少なかった。
本が好きだった訳ではないが、休み時間は決まって本を読んで時間を潰していた。
––今思えば、俺はクラスで浮いていたのかもしれない。
「不本意だが、確かに」
悔しくも納得してしまった。
「極め付けは、一人の美少女によく絡まれるようになった」
「……いやいや、さっきの話の流れからしてそんな事あるか⁉︎」
「それがあったんだよ」
いまだに美空の考えてることは分からない。まだ付き合いが浅いというのもあるが、あいつが俺にそこまでする義理はないはずなのにな。
でもありがたいとは思ってる。実際俺は、この2日でいきなり諦めかけたことが何個もある。そんな俺を助けてくれたのは、他の誰でもない美空だ。
「それで、その女の子は可愛いのか⁉︎」
「美少女って言ったんだから、分かるだろ」
「おぉー! シンジ、留年してモテ期当来!」
「その嬉しくも悲しくもない事言うのやめろ」
「で、シンジはその子に恋したって訳か」
「してねーよ! てかそれこそさっきの話の流れからしてないだろ!」
俺は全力で否定する。出会って2日の女子に恋心を抱くほど、俺は恋に飢えてない。
「俺はハナ一筋だからな」
そういえばハナ、どうしてるんだろう。
ハナは遠くの大学に進学して、今はこの辺りにはいない。
久しぶりに思い出すハナの顔。その瞬間、俺の心の中にはある一つの思いが込み上げてきていた。
「ハナに会いたい そう思ってるんだろ?」
「なっ……なぜそれを……」
「顔に出てんだよ」
ケイタはハハっと笑って言った。
「でもよく分かったよ、お前のハナちゃんへの情熱が」
そう、会えなくたって俺の思いは変わらない。
「でも、その情熱も程々にしとけよー」
この何気ない一言。でも俺には、この言葉に深い意味があるように感じた。ケイタにしては繊細で、大きな意味が。
「あ、やべ、からあげ忘れてた。今準備するわ」
––そういえばさっきから、何だか視線を感じる。
気になってチラッと後ろを見ると、ガラスの引き戸の向こうから、高めのポニーテールで白ふちのメガネが特徴的なOL姿の女性がこちらをのぞいていた。
なんだあの人、客か?
俺が女性の方を見ると、女性はこっちに気づいたようで慌てて引っ込んだ。
「ごめんごめん。はい、唐揚げ500グラム。1000円な」
俺はお金を払い、唐揚げの入った袋を受け取る。
「じゃ俺帰る、またな。頑張れよ」
「おう! お前もな!」
店先に出て周囲を見渡すと、店の横でさっきの女性が体育座りで座っていた。
「あの……大丈夫ですか?」
このまま放っておくのも悪いので、声をかけてみる。
「わっ‼︎ あ、あ、ごめんなさい!」
女性は立ち上がったが、かなり慌てている。
「さっき店内をみてたんで……あ、もう入って大丈夫ですよ」
この人の行動を見る限り、店に来たが中で友人らしき人と話し込んでいるのを見て、『入って大丈夫かな』と悩んでいたのだろう。どちらにしろ、声をかけたのは正解だった。
「ありがとうございます」
女性はお辞儀をして、スッと店に入って行った。
帰路の最中、やっぱり俺は思った。
なんか俺、良い事したな。
追記
ちなみに、ケイタが唐揚げを用意する時間。ちょー短いですがケイタは出来上がってる唐揚げを袋に詰めてるだけなので安心してください。
唐揚げ食べたくなってきた。
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