チェスがしたいだけなのに!

奏穏朔良

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【番外編】まさかの異世界転生!?7

まあ、芝崎ことシヴァが今更無垢なフリをしようが、順調に勘違いは進んでいるので最早意味は無い。

しかし、それに気が付かないのが芝崎クオリティ。まるで実家のような安心感。


だがしかし、シヴァはそれよりも気にしなければ行けないことがある。

「お披露目パーティー……?」

そう、前代未聞の全属性を叩き出したことによる公爵家主催の次男お披露目パーティーが開催されることになったのだ。

またの名を「うちの子これだけ優秀ですけどぉ?自慢パーティー」だ。

面倒臭いこと極まりない。
極力目立ちたくないし、パーティー会場にはボードゲームも持ち込めない。

しょもしょもと口をすぼめ俯く息子に公爵は「うーん……まだ人見知りの時期かなぁ?」と顎をさすった。

しかし公爵家としては何としてもこのお披露目パーティーを行いたい理由があるため、いくらシヴァが顔をしわしわさせた所で開催は決定事項である。
なんせ長男であるガブリエルが神官長であるルドラと揉めたのだ。公爵家としては次男の話題でそのスキャンダルを下火にしたい。
更には一部の貴族間では次男の才能に長男が嫉妬した、なんてガブリエルが聞いたら言ったやつらをボコボコにしそうな噂まで出てきているのだ。

「いいか?それまでにマナーをしっかり覚えるんだぞ。」
「……わかりました、お父様。」

なので、シヴァは渋々、本当に渋々頷くのだった。


****


パーティーの準備はつつがなく進んだ。
もともとシヴァの精神年齢はとっくに成人を超えた大人なのだ。言われたことはちゃんとこなすし、他の6歳児のようにすぐにあちこち意識や興味が移ろうこともない。それこそマナーの指導に来た伯爵夫人が目を丸くするほどだ。

そして、ガブリエルの謹慎が明けたタイミングで開催されたシヴァのお披露目パーティー。

公爵家の威厳を示すためより豪奢に飾り立てられたホールに、それに見劣りしないドレスの花がくるりと回る。

しかしシヴァはすでに帰りたくなっていた。香水の匂いがきつく、常に持ち上げていなければならない口角は引きつり、次から次へと挨拶という腹の探り合いにやってくる貴族たち。

父親が隣に立っているが、大して交流のない父なんてなんの安心材料にもならない。
シヴァは学友への挨拶回りに向かった兄が早く帰ってこないかなぁ、とその視線をうろつかせた。

いくら前世の関係者であろうとも兄は今まで自分を害することはしなかった。生きる気力をなくしていた自分に異世界のボードゲームを与えてくれた。

シヴァにとって今この世で一番信頼できるのはガブリエルと言って過言は無い。まあ、ガブリエルが聞いたらむせび泣いて更にブラコンを拗らせそうだが。

(……早く帰って新しいボードゲームやりたいなぁ……)

と、機嫌のいい父親の笑い声をBGMにそっとため息をついた、その時だった。

「……シヴァ様……?」

前世で聞きなれた、シヴァの目……チャトランガの中枢の人間の声が聞こえたのは。

「ああ、シヴァ様!この瞬間をどれほど待ち望んだことか!」

振り向いた先、落とし割れたワイングラスを気にも留めず両手を広げて走ってくるかつての後輩。そう、唯一のまとも枠で登場したはずが最後には狂信者にメガ進化した、第三の目アジュナ……松野翔その人であった。

(うわぁぁぁぁぁぁぁ⁉)

内心シヴァは発狂した。だって、だって、松野の身に着けている服や装飾品たちからして

「あ、アジュナ王子!?一体どうされたのですか⁉」

「だ、第三王子がご乱心だぁー!?」

どう見ても高貴な血筋の方アァーーーーーーー!

あわわわわ、と口に手を当て困惑するシヴァをそのままにアジュナは幼いシヴァと目線を合わせるためにその膝を床に着くではないか!

「アジュナ王子!あなたのような高貴な方が膝をつくなど!」

そう傍に控えていた従者の人が青い顔でアジュナをたしなめるが、そんな言葉にアジュナはキッと従者を睨みつける。


「うるさいですよ!そもそもお前ら全員シヴァ様に対して頭が高いんですよ!!!!」

(やめてぇぇぇぇーーーーー!)

シヴァの胃はもう限界よ!
前世は確かに何だかんだあってアジュナのボスだったが、今世のシヴァは一公爵家の次男に過ぎないし、アジュナはこの国の王族。
本来ならばシヴァがアジュナを敬わなければいけない立場である。

(はっ!そうじゃん!俺が敬わなきゃいけない立場じゃん!)

アジュナの奇行に呆気に取られてしまったが、本来ならば公爵子息であるシヴァから王族であるアジュナに挨拶をしなければいけないのだ。
アジュナしかいない状況なら構わないだろうがここには数多の貴族たちの目があるのだ。後々不敬罪を問われたらたまらない!とシヴァは慌てて

「ぇっと……わが国の偉大なる太陽の御子、アジュナ王子にあいさつを申しあげます……」

そう、アジュナと同じように膝をついて正式な挨拶文を述べたのだ。
それに肝を冷やしていた公爵は僅かだがホッと肩の力を抜いたが、反対にアジュナはサァっと音が聞こえそうな程にその顔から血の気を引かせた。

だって、やっと再会できたのに、これじゃあまるで僕の事を覚えていないみたいじゃないか。とアジュナは音にならない言葉で唇を震わせる。

「わ、我が国の偉大なる太陽の御子、アジュナ王子に挨拶申し上げます!」

そんな中、シヴァとアジュナの間に割って入ったのは

「シャトランジ公爵家嫡子ガブリエルにございます!」

そう、すべての事情を把握しているガブリエルだった。ま、その事情も勘違いなんですけど。


「お前は弓の射手の……」

ガブリエルがかつて爆弾魔ガブリエルと呼ばれていた男だと気づいたアジュナはその子供を睨みつけるが、

「殿下、後ほど詳しくご説明いたします。ですから今はどうか……!」

と、ガブリエルも負けじとその目を睨み返す。かつての引きこもり頑張ってる。なんせ俺はお兄ちゃんだから!!

そして初の公の場でのパーティーで不測の事態起きまくり。胃にダメージ受けまくり。そんな中自分を庇いに来てくれていた兄の背中。限界に近かったシヴァはその背中に思わず縋りついてしまった。

勿論シヴァはそんな本物の子供みたいなことをするつもりはなかった。しかし、まだ幼い体と、前世よりちょっぴり動くようになった表情筋が仕事をしてしまった結果、じわりじわりと涙がにじみ出てしまったのだ。

そのため、王族(しかもかつての部下)によるダイナミックお久しぶり!と、失態を見せてはいけないという気持ち、そして兄への安堵が混ざり合いパニックになったシヴァは、ガブリエルの背中に顔を隠すように縋る結果になった。

これにはガブリエルも驚き、王族の前だというのに礼儀も忘れて慌てシヴァを正面から抱きかかえる。「ごめんね、もっと早くに戻ってくればよかったね。わからないこと起きて怖かったよね。」とその背中をさするガブリエルに肝心の公爵は

「ああ、アジュナ王子の御前だというのに二人して情けない!申し訳ありません、私の教育が至らぬようで……二人にはきつく言い聞かせますので。」

と、その手を揉みながらアジュナに猫撫で声ですり寄る。しかし、そんな公爵の声はアジュナには聞こえていなかった。
彼の中にあるのは崇めてやまない神からの拒絶の事実のみ!

そう、つまり

「……ありったけの宝飾品持ってきてッッッ!!!そしてそれを全部シヴァ様に!!!すみません!シヴァ様まだ6歳ですもんね!!!こわ、こ……怖がられた事実なんて認めたくないッッ!でもシヴァ様がな、な、泣いてるッッ!!!ナカナイデッ!コワクナイヨッッ!」

某神官長と同じ反応リターンズ。
王族の威厳なんて最初から幻だったんだ。




感想 9

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