錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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「えーっと、つまりステラートはただのゲームじゃなかった、と。」

ベッソベソビッシャビシャに泣きまくる女から何とか聞き出した情報曰く、女は世界を創設した女神であり、その世界こそがステラートだというのだ。

「でも、ステラートの世界を支える基盤がまだ未熟で、地球の人間の力を借りようとした、と……」 

『そうなのよ~~!地球は数多の神が存在する強力な世界だから、そこで作り出された人間の思想エネルギーも強力なのよ。だから、ゲームという形で人間の思想エネルギーをステラートに送り込んでいたんだけれど……』

「ユーザーが減ったことにより、それも難しくなったと。」

厳密にいえばステラートの世界を元にして作ったゲームであって、実際のステラート世界を遊んでいるわけだはないらしい。

つまり女神にとって重要だったのはステラートという世界の存在を認知してもらう事。
確かに、日本には言霊や信仰による神の存続など、思想や思考がエネルギーになるという考え方は古くから存在する。特に日本人はエンタメが大好きな人種だし、好きなゲーム、と言う形で信仰に似た思想を集めるというのも理にかなっているだろう。しかし、

「それなら俺一人が転移したところで意味は無いのでは?」

そう、ステラートは最盛期には数百万人のプレイヤーがいたゲームだ。それだけの人数の思想エネルギーでゲームではないほうのステラート世界を維持していたとなれば人間が一人転移した程度でどうにかできる問題とは思えない。

『いいえ、この世界の人間が一人転移するだけで、二つの世界に『縁』が結ばれるの。』

そう答えた女神は丸めていた背をすっと伸ばした。

『縁が繋がれば世界により効率よく思想エネルギーが流れ込むわ。そうすれば不安定さによって生み出される魔獣の数も減る。瘴気の発生も抑えられるの。』

(そういえばクエストで魔獣討伐とかあったな……実際のステラートの世界にも魔獣がいるんだ……)

それってつまり、魔獣の素材もステラートの世界ではリアルに手に入るという事では?

さらに言うなら、リアルで錬金術もできる可能性があるという事では??

『もう少し、もう少しで私も信仰による神力が満ちる。そうすれば地球の人間に頼らなくても世界を維持できる。』

それまでは世界を崩壊させるわけにはいかないのです、と女神の続けた言葉はもはや陽向の耳には届いていなかった。

スッと右手を挙げた陽向に女神は『どうしました?』とその影のかかった顔に手を添え、小首を傾げた。

「実際のステラート世界では錬金術を行えるんですか?」

『えっっっ。』

まさかの錬金術。女神は予想外の質問に思わず固まってしまった。
確かゲームの方のステラートでは錬金術の使える錬金術師アルケミストは不人気ではなかっただろうか?

実はこの女神、陽向の魂が適性があるという事だけで神の領域に引きずり込んだので、陽向が重度の錬金術ガチ勢の錬金術師アルケミストプレイヤーであると知らなかったのだ。

しかし、この際転移して向こうで生活してくれるならなんでもいい。

『実際には錬金術スキルはレアのレアですが、いいでしょう!あなたが転移してくれるのなら錬金術スキルを付与します!』
「転移します。」
『早い!!!』

さっきのお断りは何だったのか。あまりにも早すぎる即答。早すぎて意味が重複しちまうぜ。

『ほ、本当に錬金術スキルだけでいいの……!?勇者になりたいとか、女の子にモテたいとか!』
「女の子にモテた所で錬金術のレシピに変化がある訳じゃないですし……」
『やだこの子錬金術のことしか頭にないじゃない!』

女神は別の意味で泣きそうになってきた。
本当に、本当に女神にとって、ステラートの世界にとって陽向は最後の希望なのだ。

(ほ、本当にこのまま転移させて大丈夫なのかしら……!?)

実はすでに何人もの日本人を転移させたのだ。
けれども結局1年経たずに皆帰りたいと強く願い、結果地球に還ってしまった。

その度に次の適性者には様々な恩恵や願いを叶えてきたのに、それでも帰ってしまう。

女の子にモテたいと言った男は「女の子にモテてもお袋の味が最強だって気づいちまったんだよォ!!」と日本の家庭料理が食べたくなり帰還。

イケメンにチヤホヤされたいと願った女は「いたたまれなくなってきた。本当に愛してくれているのか女神の力で無理やり感情をねじ曲げているのか分からなくなってきた。もう無理病む。」とハイライトが家出した目で帰還。

勇者になってチート無双したいと望んだ少年は「自分のせいで誰か死ぬなんて思ってなかったんだ……!無理だよぉ!俺は無理!命を奪い奪われなんてリアルでやるのは無理!」とわんわん泣いて帰還。

それを何十と繰り返し最後に残された適性者が、陽向だったのだ。

つまるところ、女神は大変、非常に、めちゃくちゃ不安に駆られていた。

だって不人気極まりない錬金術スキル。それだけで果たしてステラートの世界に留まり続けてくれるのだろうか?

『ほ、他に望みは!?何でも叶えてあげるわ!何かあるでしょう!?ほら!!』

最早望みのカツアゲ。
陽向はちょっと引いた。

「あ、それなら……」
『何!?何が欲しい!?!?』

女神が前のめりにズイズイ顔を寄せて来る分、少し後ろに下がった陽向は「ゲーム機能そのまま使えるようにして欲しいです……集めた素材無くなるのは困るんで……」と頬をかいた。

『……え、それだけ?』
「はい。とりあえず錬金術のスキルと集めた素材やアイテム、作ったレシピ維持したいんでゲーム性だけ残してくれれば他は別に……」

本当に錬金術にしか興味がねぇこいつ。
女神はちょっと引いた。何こいつちょっと怖い。

仮にも転移だぞ??今までの生活も人生も捨てて異世界で暮らせって言ってんだぞ??
他に求めるものがあるだろうよ。現に今までの適正者たちはもっと圧倒的能力や環境を求めてきた。

ひとつ、補足すると陽向は元々現世への執着が薄い人間なのだ。

両親は世間体のために陽向を生み、最低限の衣食住の保証をしていただけで関わりはほぼなかった。最早同じ家に住んでいただけの他人。

そして17歳になった陽向は両親の愛を求めるような幼い心はもうなくなってしまっていた。要はどうでもよくなってしまったのだ。

少なくともVRゲームをしたり、高校の近くで一人暮らしができるだけの金銭支援をしてくれているだけありがたいことなのだろう。ただ、少なくとも今死んだところで、今際の際に思い出せるほど両親の顔を見たことがなかった。

しかし女神はそんなことを知らない。
女神にとって陽向は最後の適正者であり、自らの神力が満ちるまで何としてでもステラートの世界に留めておかなければならない存在だ。

『じゃ、じゃあステラートのゲーム性をそのままにすることと、念のため貴方のなたのアバター名に私のラストネームを与えるわ。神殿に行けば破格の待遇が受けられるはずよ。』

と、なんとかステラートの世界に留まってもらおうと、神の名を分け与えるなんて言うステラート世界の住人からすればひっくり返るような最高の恩恵を一方的に与える。
しかし女神の予想に反して陽向の反応は薄かった。

「錬金術が出来れば別に森の奥で引きこもりとかでいいんですけど……人間社会はめんどくさいし、ほんと錬金術だけできる人生にしてほしい。」
『驚くほどに錬金術にしか興味ないのね貴方なた……』

最早一周回って強欲だろこいつ。女神は陽向が訳の分からん生き物に見えてきた。

『まあいいわ。もしまた何か不都合があれば帰りたいと願う前に私を呼んでちょうだい。』
「錬金術できなかったらクレーム入れます。」
『錬金術以外のことは気にしないの!?』

転移させたいのに不安しかない。そんな女神とは反対に

(本当に錬金術ができる日が来るなんて!)

陽向は顔には出ないいものの滅茶苦茶期待に胸を膨らませていた。
こいつ、本当に錬金術にしか興味がねぇ。


まあ、そんなこんなで鈴木陽向は、この度異世界に転移することになったのだ。
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