夏の思い出と僕(3部)

市川 雄一郎

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第一章・懐かしき25年前

第2部・林間キャンプと運命の対面

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 〈その日の夜・テントにて〉

 川で風呂代わりに身体を洗ってからテントに戻るとシェリルさんは既に寝ていましたがマサトさんは横になりながらタブレットらしきものを持って何かを見ていました。

 「あはははは!!この子怖がりやん!!」

 『ぎゃああああああ!!せんせーっ!!怖いよ~!!』

 『翔太君大丈夫だよ、俺がついてる。』

 何かホラー映画を見ているのかと思い後ろから覗くと大人が子供を抱えてある建物の2階へと行き、そこには誰かが変装したお化けが出てきました。するとマサトさんが後ろを振り向き僕に声を掛けてきました。

 「竜太君も見る?」

 「何ですか?それ。しかも大人の声、どこかで聞いたような・・・」

 「アハハ!!今、学校で肝試しをしているみたいだよ。だよ!!だからその様子を眺めていた所だよ。」

 「(え!?まさかの盗撮!?というかこの人タブレットを持っていたの!?)」

 「どうしたん?見ないん?」

 「見ます見ます(笑)!!」

 ライブ中継ではなく盗撮じゃねえかと突っ込みたい所ですが僕も見たくなったので肝試しの中継を見ていて懐かしい気持ちになっている僕がいました。また声の主は上川さんのようです。上川さんの子供に対する優しい表情が映像を通じて伝わってきました。しかし一方でこの時まで僕はマサトさんがタブレットを持っていたことを知りませんでした。また僕のスマートフォンは未だに使えないのになぜマサトさんのタブレットが使えているのかとかどうやって肝試しの様子を盗撮したのかとか色々と理由が全く分かりませんでした。すると・・・

 「お、これ竜太君じゃないか?」

 「どれどれ?」

 『ぎぃゃあああああああああああ~~っ!!!下ろして~~っ!!!!』

 「めっちゃ怖がってるやん。うるさいガキやん(笑)。」

 「(この野郎!!)」

 何だかんだでタイムスリップの一日目が終わりました。しかしさっきから一つ気になるのが僕の中で上川さんとの想い出が何も甦ってこないことです。小さい時とはいっても大体の職員の方は覚えているはずなのに・・・


 〈翌日、1992年8月15日=終戦記念日=〉

 翌朝、目が覚めると僕は学校の様子を見に行きました。すると校庭には誰も居らず静かでした。誰もいないのでちょっと校庭で軽くジョギングすると小さい頃にこの場所で朝早くから走っていた時のことを思い出しました。


 {回想}

 林間キャンプを楽しんでいたある日の僕は朝早くに起きると校庭を走り回っていました。すると玄関の前に職員の男性が座っていました。

 「早いな!」

 「うん!だから走っていたんだよ!!」


 {回想終わり}

 懐かしい思い出を振り返って顔がいつの間にかニタニタしていると気が付けば男の子がいました。

 「おっちゃん、おはよう。何ニヤニヤしているん?」

 「(げっ!朝早いなあ!!いつの間に・・・ってあれ?この子は肝試しで上川さんに抱えられていたやつじゃないか。)やあ、君!!おはよう!!君は誰かな?」

 「俺は小学3年の朝酌あさくみ翔太しょうたやで。よろしく!!」

 「僕は石川竜太だよ。こちらこそよろしくね!」

 「い・・・石川?もしかしておっちゃんは竜太のやつと関係あるの?」

 「(あ、やべっ!本名言っちゃった・・・!!)竜太君って誰かな!?僕とはたぶん関係ないよ!!ごめん、用事があるから宿泊先に戻るわ。また夜に来るからまたね!!」

 僕は翔太君に未来の自分と感付かれたと思い込み、とりあえず一旦その場を去ることにしたのでした。しかし回想のように校庭をジョギングしていると誰かに見られるというデジャブな光景が僕にとっては懐かしくて楽しい気持ちを思い出させてくれます。テントに歩いて戻るときに僕の顔がここ最近見せなかった笑顔になっていました。

 「(ストレスだらけの毎日を過ごしていたからこんな笑顔になれたのは何年ぶりかな・・・?)」

 20歳の頃から中部河内新聞の配達をしていて精神的に余裕がなくなっていた僕は久々にこの清々しい気持ち・・・そう、あの4歳の頃の純粋な気持ちになっているんだと感じました。

 「(本当にこの日々がずっと続いたらいいのにな・・・)」


 〈昼・テントにて〉

 川で少し泳いだり、近くの民家の農業を手伝ったりして(シェリルさんの車を停めさせてもらっているお礼を自主的にしています)いると気が付けば昼になりました。するとマサトさんはタブレットでまた学校の様子を見ているのでした。

 「マサトさん・・・また盗撮ですか?」

 「盗撮じゃねえ!ライブ中継だよ!!あ、子供達が流し素麺をしているよ。」

 「どれどれ?あ、ホントだ。」

 「みんな楽しんでるな!じゃあ僕達も流しはしないけど素麺を食べよう!先に食べてな!僕はシェリルと一緒に食べるから。」

 するとマサトさんはカバンの中から3つの素麺(コンビニで販売しているやつ)を取り出しました。

 「(準備良すぎやろ(笑))。」

 「シェリル~、昼だぞ~っ!!」

 マサトさんはテントの外に出てシェリルさんを呼ぶとシェリルさんはすぐにやって来ました。そのシェリルさんは右手に2匹の魚を持っていました。

 「あれ、シェリルさん?この魚は・・・?」

 「オオサンショウウオですよ!!まさか2匹も捕まえれるとは思いませんでした。鷲掴みがうまく出来ましたから。」

 「(え・・・オオサンショウウオなんかなかなか捕れないはずだぞ。しかも鷲掴みってあんた何者だ!?)」

 シェリルさんの意外な特技といい、マサトさんの準備の良すぎるカバンといい本当ににぎやかで楽しい時間が続きます。僕は先に食事を済ませて寝転んでいました。すると上川さんがなんとテントまでやって来たのです。二人は食事中で先に食べていた僕が上川さんと話をしました。

 「あれ?上川さんでしょうか?」

 「石川さんですね。」

 「急にどうされましたか?」

 「ええ、僕達は今は川で泳ぐ時間なんです。」

 「あ、そうでしたか。」

 僕は上川さんが来た方向を向くと確かに子供達が泳ぎに来ていました。皆が楽しそうに泳いでいるのを見て僕も笑顔になっていました。

 「本当だ・・・楽しそうですね。」

 「ええ。それと今日の夜ですが子供達と仲良くしてやってくださいね。そういえば竜太君という子が石川さんと会いたいと言ってましたから。」

 「(同じ名前のあの子か・・・)は、はい。是非とも!!」

 どうやら過去の僕も現在の僕に会いたいようでして夜が楽しみになってきました。


 〈同日夜、小川小学校にて〉

 夜になると自炊の準備が始まりましたが僕達は上川さんの指示があるまで見守っていました。そしてすぐに上川さんが校門までやって来ました。

 「皆さんこんばんは。今日はよろしくお願いします!!」

 「こちらこそよろしくお願いします!!」

 しかし大体予想はついていたのですが一部の子供を除き、大多数の子供達の顔が僕達を警戒していたのです。

 「みんな!!地元の教育委員(PTA)の皆さんだよ。今日は遊びに来てくれたよ!!」

 「(上川さん・・・いつの間にPTAになったんですか僕達・・・)」

 上川さんは地元の教育委員だとごまかしてくれていたようですが身分を偽ろうが偽らなかろうが子供達が警戒しているのは変わりがありませんでした。とりあえず僕は近くの子供達に歩み寄ると皆の目がやや鋭かったです。男の子と女の子の近くに行くと当然でしょうが突然女の子が男の子の背中に隠れたのです。

 「きゃっ!!」

 「おっちゃん、俺の妹に手を出すな!!」

 「違うよ、そんなことしないよ。皆と遊びたくて来ただけだよ。僕は石川竜太、上川さんと同じで教育活動をしているんだよ、」

 「俺はコウイチ!朝倉あさくら康一こういちだよ。」

 「私は知子ともこです。こっちはお兄ちゃんなの。」

 「康一君、知子ちゃんよろしくね!一緒に遊ぼうね!」

 僕は満面の笑みで二人に話しかけると少しずつですが警戒していた二人の顔つきが穏やかになってきました。

 「じゃあまずは手遊びしようね!」

 僕はとりあえず即興で手遊びを披露しました。

 「グーチョキパーで、グーチョキパーで、何作ろ、何作ろ。右手がグーで左手がチョキでアリさんだ~、アリさんだ~。」

 とりあえずグーにした右手の上にチョキにした左手を乗せてアリさんを作りましたがやや不評でした。


 〈一方のマサト〉

 一方、マサトさんは子供達と鬼ごっこしていました。

 「まて、このガキャ!!大人をバカにしよってからに!!」

 「うわー、あのおっさんに捕まったらやられるぞ(笑)!!」

 「長幸おさゆき~!待ってよ~!!捕まりたくないよ~!!置いてかないでよオサユキ~!!」

 しかし顔は笑っているがマサトさんの顔がやや本気のようで一部の子供が少し怖がっていたようです。これじゃ子供の遊びどころか『逃走中』や『リアル鬼ごっこ』を連想してしまいました。


 〈一方のシェリル〉

 一方でシェリルさんは子供達とかけっこしていました。

 「よーい、ドン!」

 シェリルさんが走ると子供達(女性だからか遊んでいる子供は大体は女の子達が集まっています)も走りますが一人こけてしまったようです。

 「うわ~ん!!」

 「万知子ちゃん!?大丈夫!?」

 「痛いよ~!!」

 すると調理をしていた職員の菊池きくち真弥まやさんがすぐに飛んできました。

 「まちこちゃん!!痛いの痛いの飛んでけ!!」

 菊池さんは女の子の足を優しく撫でてから手で何かを払うような仕草をすると女の子は泣き止みました。

 「す、すみません・・・」

 「大丈夫ですよシェリルさん!!この子は私が母親代わりをしているので何かあれば呼んでくださいね!!」

 「は・・・はい!」

 子供を泣かせてしまい落ち込むシェリルさんを菊池さんがなぐさめていました。すると泣きやんだ女の子がシェリルさんに笑顔で声をかけました。

 「お姉ちゃん!!かけっこの続きしよっ!!」

 「うん!!」

 女の子の一言にシェリルさんも再び笑顔になりました。


 〈一方の竜太〉

 僕は手遊びをしていると康一君が僕に話しかけてきました。

 「おっちゃんはどこから来たの?」

 「僕?僕はおお・・・いや、この古座の村に住んでいるんだよ。」

 「ふ~ん。じゃあ大人になったらまた遊びに来るからここで会おうね!!」

 僕は康一君と再会の約束をしていると上川さんにある男の子が声をかけていました。

 「先生、トイレに行ってくる。」

 「良いよ!」

 するとその男の子の声を聞いて僕もトイレに行きたくなって上川さんに声をかけたのである。

 「上川さん、ちょっと僕もトイレに行きたいんですが・・・」

 「良いですよ。じゃあ少しの間だけ康一君達を見ておきますね。」

 「ありがとうございます。」

 そして僕はトイレに向かうと上川さんの表情は少し何かを楽しんでいるかのようなものに変わりました。

 「(お、二人が同時に。これは何かの巡り合わせだな。)」


 《小川小学校・便所》

 便所に到着すると男子用の個室が閉まっていました。僕は小の方を済ませると個室の扉が開きました。個室から出てきた男の子の顔を見たその時僕の目は大きくなりました。よく見るとその子は昔の僕だったのです。

 「おじちゃーん!」

 すると昔の僕が笑顔で突然僕に抱きついてきたのです。僕は驚きましたが昔の僕はさらに驚くことを言いました。

 「おじちゃん、おじちゃんも石川竜太でしょ!?僕も石川竜太だよっ!!」

 「え、何で分かったの!?」

 「話に聞いていたけどおじちゃん、僕にそっくりだもんっ!!」

 「・・・!?そうだよ、石川竜太だよ。」

 「キャッ!!キャッ!!」

 昔の僕はとても嬉しそうな笑みをしていたので僕はそれを見て真実を伝えようと彼に未来の自分だと告白することにしました。


 僕は彼に本当のことを言っていいのかと考えようとしました。だけど過去の僕のためにと思い、勇気を持って言うことに決めました。

 「ねえ、竜太君。」

 「どうしたの、おじちゃん?」

 「林間キャンプは楽しい?」

 「うん、楽しいよ!!」

 「そうだよね。でも楽しんでいるときに驚かせちゃうかも知れないけど実はね・・・僕は教育委員の人じゃないんだ。僕はね、未来からやって来た君なんだ。」

 「おじちゃんは僕だったんだ!!」

 「分かっていたんだね・・・!」

 「何となくそう感じちゃったんだ!!」

 どうやら彼は未来の自分だと気付いていたみたいだ。しかしその時、僕の頭の中で大量の記憶がフラッシュバックし始めたのである。僕は苦しくなって頭を抱えてしゃがみこんだのである。

 「あ、あ・・・アァーーッ!!!ぐぅーーっ!!」

 「お・・・おじちゃん、どうしたの!?先生!!おじちゃんがーっ!!」

 過去の僕が苦しむ僕の姿を見て泣きながら先生を呼びに行きました。僕はその声を聞いた瞬間に周りが暗くなり、すぐに映画の銀幕のようなものが目の前に現れました。

 「(これは・・・?)」

 すると銀幕にある映像が映りました。それは職場の事務所の出来事で3人の話し合いが行われていました。画面左上には『2011年』と表示されていることから僕のいる現在から6年前になります。当時は入口さんが居らず、長髪で眼鏡をかけていた三輪みわみつるさんという方が居ました。その三輪さんと新山さんと僕が会話をしているところです。

 『新山さん、僕達ってここでの立場低いよな。』

 『ほんまやな、俺らって人の嫌がる業務しているし仕事時間も長いしな・・・』

 『いっちゃんも新山さんも利用されているよ。売上に貢献できる連中がひいきされているよ。しかも彼らは上にこびを売っている。俺たちは結局だよ。』

 『来る職場を間違えたぜ。』

 「(本当に僕は汚い世界の人間になった。あの子(昔の僕)みたいな純粋な心を無くしている。)」

 僕はこの映像だけで社会の汚さ、そしてその社会に入った僕自身が汚くっていたことを改めて理解した。すると銀幕の映像が変わり、今度は『2013年5月11日』である。今度は職場で誰かと電話していたところでした。

 『石川です。』

 『もしもし、俺や!竜治や。』

 電話の相手は弟の石川いしかわ竜治りゅうじでした。彼はこの時から見て2年前に僕を家から追い出した憎き弟でした。それ以前に彼のせいで長年住んでいた長屋を売らされたり、自分がいいところに進学したかったばかりに僕を定時制高校しか行けない状況を作ったり人が仕事をしているのに自分は大学に進んで暇なときはどこかへ遊びに行っても僕の給料のおかげで生活出来ていたりととにかく僕に害をたくさん与えた人物でした。

 『あのな、俺さ東京で暮らすから連帯保証とは違うけど名前を貸してほしいんや。』

 『断る!!人を追い出しといて都合が良すぎるぞ!!』

 『だってあれは君が勝手に出ていったから・・・』

 『違うだろ。とにかく断る!!』

 『じゃあもう縁を切ろう・・・』

 『そうだな。僕とはもう関わらないでくれ。さよなら・・・』

 「(とにかく自分勝手なやつだった。こいつのせいで人生無茶苦茶だった。自分から出ていったってどういう意味やねん!)」


 {2年前・2011年5月15日、羽曳野市内の当時の自宅にて}

 用事を終えて夕方に帰宅した僕は少し眠気がしたので横になっていると竜治は部屋にやって来てある言いがかりをつけて蹴りを食らわせてきました。

 「竜太!!お前、怪しい付き合いをしているやろ!!今日家に変なやつが来て『竜太さんの友達です』と言っていたぞ!!」

 「僕は変な付き合いなんかしとらへんわ!!」

 当時、仲の良い関係以外は交友関係はないはずでその人物が誰かは分からないのに竜治の態度は尚更理解できず頭に来たので蹴り返してやりました。すると竜治はこう言いました。

 「もう出てけ!2度と帰ってくるな!!」

 「ああ、2度と帰ってくるか!!顔も見たくないわアホッ!!」


 {現在・記憶の中}

 回想をするとまさに『閉め出している』のにしらを切る弟・・・僕は弟に憎しみしかありませんがこの林間キャンプにも弟が居るのかと思うと何かしてしまいかねないか心配になりました。そして銀幕に新しい映像がありました。『2017年』と表示されており、最近だと分かりました。現在、僕が住む松原市内の飲食店で友人二人(といっても20年以上先輩の方々です)と会話していた時のことです。

 (※松原市は大阪府の市名。竜太が現在住んでいる場所で市の木は『マツ』で市の花は『バラ』である。尚、まつばらバーガーなる名物がある。人口は2015年時点で12万750人。)

 「西村さん、本当に出会いって不思議ですよね。」

 「そやな、でも僕達は人類は皆兄弟やと思っている。なあ、うめちゃん。」

 「そやで、俺達は繋がっていたんや。」

 このやり取りは僕が4年ほど前に別の飲食店で背の高くて若々しい西村にしむら洋明ひろあきさんと眼鏡をかけて穏やかな顔の梅上うめがみ善和よしかずさんに偶然出会って仲良くなったときのことを思出話として食事をしていた時でした。

 「席が横じゃなければ話しかけられてませんでしたよね。」

 「そやな、しかもあの時梅ちゃん飲んでたからな(笑)。」

 「飲んでたら気さくになれるんや(笑)。」

 3人で盛り上がるシーンを見ていて自分はハッと気付きました。悪いことばかり考えていたけどそうじゃない・・・良いことだってあったじゃないかと考えると再びトイレの場所に僕は戻ってきました。しかし過去の僕だけじゃなく上川さん、翔太君、菊池さん、康一君、知子ちゃんと5人も来ていました。

 「おっちゃん大丈夫か!?」

 「翔太くん・・・ありがとう、大丈夫だよ。」

 「石川さん、大丈夫ですか?」

 「急にどうされましたか!?」

 「上川さん、菊池さん・・・いや・・・大丈夫ですよ。少し疲れていただけでしたから。」

 「おっちゃん、心配したんだよ俺。」

 「大丈夫?無理しちゃダメだよ。」

 「康一君、知子ちゃん・・・ごめんね。大丈夫だよ・・・」

 こんな僕を心配してくれた皆に感謝の気持ちが膨らみます。どうやら過去の僕は僕の正体を言ってないようです。するとある男の子がこちらへとやって来たのでした。

 「おじちゃん、大丈夫?」

 「大丈夫だけど君は?」

 「僕は竜治だよ。そこに居るのが兄の竜太だよ。」

 幼いのにえらいしっかりしているなと思ったら僕の弟の竜治でした。僕は彼に憎しみの視線を浴びせようとしていましたが・・・

 「おじちゃん、竜太のことよろしくね。」

 「!?」

 純粋な目で竜治は僕のことを見ていました。僕はそれを見てあることに気が付きました。

 「(そういえば・・・あいつ竜治も悪いところばかりじゃなかったんだったな・・・)」

 僕は竜治の優しい一面も思い出してきました。出掛け先でほしい本を買ってきてくれたり、ご飯を分けてくれたりといった思い出が頭の中をよぎると僕は3歳の竜治を抱き締めました。

 「これからもずっと竜太君と仲良くしてあげてな!!」

 「おじちゃん、苦しいよ。うん・・・分かったよ。」

 僕は竜治にそう伝えると僕の様子を見に来ていたマサトさんやシェリルさんの姿がありました。

 「良かったじゃないか・・・言いたいことが言えて。」

 「竜太さん、ずっと竜治さんに言いたかったんですよねその言葉。」

 「はい・・・その通りです。」

 そうでした。僕は弟である竜治と本当は仲良くしたかったんです。だから・・・この言葉を彼に言えたのは嬉しかったのです。そして僕は再び過去の僕に対しても言いたいことがあったので彼に声をかけたのです。

 「竜太君!」

 「おじちゃん?」

 「(今僕の目の前に居るのは鷲ノ森学園に入園したばかりの頃の僕だ。3年後には施設を出て、親の再婚相手の枝村えむら家に養子に入り、小学時代の同級生とトラブルが続いたり中学時代にはいじめを経験して高校時代には家庭も乱れたりした。それで中部河内新聞社で働くことになり、本当に辛い人生だ。だけど未来は分からない・・・僕も作家の夢をあきらめていないからこそこの子が人生をあきらめないようにするのだからこの子に伝えたいことがある。)」

 「?」

 「竜太君?」

 マサトさん達が見守るなか僕は過去の僕に言いました。

 「人生辛いことがあっても・・・絶対にあきらめるなよ!!」

 すると過去の僕は笑顔でうなずきました。僕は彼のその笑顔を見ると少し涙を浮かべました。

 「おじちゃん・・・なんで泣いてるの?」

 「ごめん、目にゴミが入っただけだよ。」

 「取ってあげるね。」

 「大丈夫、目をこすったら取れたよ。ありがとう。」

 僕は腕で涙を拭いて過去の僕に心配させないようにしました。そして周りの皆も優しい笑顔で僕達を見つめていました。そして皆で校庭に戻りました。すると・・・

 「みんな、カレーが出来ましたよ!!」

 「やったー!!カレーだあ!!」

 過去の僕がカレーを食べれることに喜んで校庭に向かって走っていくもすぐに転びました。彼は痛かったのか泣いてしまいました。

 「うぇ~ん、痛いよーっ!!」

 「ハハハ!!注意不足だな!!気をつけて走らないとな。将来が心配だぜ!!」

 「(こ・・・この野郎!!)」

 冗談のつもりかは分かりませんが少し嫌味な発言をしたマサトさんに僕は少し苛立ちました。でも・・・

 「カレーが食べれるぅーっ!!」

 僕もカレーが食べれるのが嬉しくなって皆の元へ元気に走りました。しかし元気よく走るも不注意から石につまずいてこけました。

 「おいおい、君も倒れたか!!絵に描いた光景だよ!!」

 「(む・・・ムカつく!!)」

 転んだ僕に対してもマサトさんは嫌味ったらしく言うので少し苛立ちましたがなんやかんやで皆とカレーが食べたいのですぐに起き上がって皆の元へ向かいました。

 僕は菊池さんに皿にカレーを入れてもらうと満月を見ながら食べました。こんな綺麗な自然に囲まれて満月を眺めながら食べるカレーは格別な味でした。

 「綺麗な月を見つめて食べるカレーはやっぱ違うな!」

 「おじちゃん、綺麗なお月様だね。」

 「わっ!竜太君じゃないか!!いや~、本当に綺麗な月だねぇ!!なあ・・・楽しいな。」

 「うん!」

 二人でカレーを食べていると突然朝倉兄弟や翔太くんもやって来ました。

 「おっちゃん、一緒に食べよーや!!」

 「私も仲間に入れて~!!」

 「おっちゃん、話をしたいねん!!食べながら話をしようや!!」

 「康一君!!知子ちゃん!!翔太くんも!!勿論さ!!一緒に食べよう!!」

 マサトさんもシェリルさんも一緒に遊んでいた子供達と、弟の竜治は上川先生とカレーを食べていました。そしてカレーを食べ終わると皆で空の月を見ました。

 「綺麗なお月様だね。」

 「うん・・・ねえ、おじちゃん。」

 「なんだい竜太君?」

 「また僕達と会えるよね?」

 「うん、また会えるさ。ここにいる皆と僕達は仲間だよ。楽しい思い出をありがとう・・・これからも頑張れそうな気がする。」

 「僕も楽しい思い出をありがとう!おじちゃん!」

 「うん!アハハハハ!」

 「キャッキャッ!!」

 「さあ、竜太君。そろそろテントへ戻ろうか。」

 過去と現在の僕達が笑顔で対面するこの不思議な瞬間・・・その終わりを告げるかのようにマサトさんが僕に声をかけてきました。ところが・・・

 「ああ、皆さん。良かったら学校で泊まっていきませんか?せっかくこうして皆さんと子供達が仲良くできたのですから・・・ねっ!」

 帰ろうとした僕達に上川さんが声を掛けてきてくれたのでした。だが僕は子供達の邪魔になるかもしれないのを懸念して断ろうとしました。

 「いえ・・・せっかくのご好意に対して申し訳ございませんが僕はこれからゆっくり・・・」

 「シェリル!!」

 「はいっ!!」

 マサトさんはシェリルさんに声を掛けると彼女はすぐにテントの方へと向かい、マサトさんは僕に言いました。

 「まあ、せっかくのお誘いを断っちゃダメだよ。子供達と触れ合う時間も増えるし。」

 「マサトさん・・・でも僕は・・・」

 「ね?」

 「あ、はい。・・・では一晩だけですがよろしくお願いします。」

 僕はマサトさんにそう言われると上川さんの好意に応えることにしました。するとシェリルさんが車に乗って校庭に現れました。

 「竜太さん、テントは回収しましたよ!!これでもう泊まれますよ!!」

 「シェリルさん!?一人で片付けたのですか!?」

 「違いますよ。車を停めさせてくれた民家のおじさんが手伝ってくれました。それと農業を手伝ってくれた竜太さんにお礼にこれを・・・と。」

 「わっ!野菜だ!!駐車のお礼のつもりだったんだけどな・・・ありがとう、おじちゃ~ん!!」

 シェリルさんが僕に渡してくれた袋の中には大きなみかんが6つ、ブドウが4つ入っていました。民家の敷地内に駐車させてもらっただけでなく野菜をいただきテントの片付けまで協力してもらったりとおじさんに感謝の気持ちでいっぱいです。そして盛り上がった林間キャンプの2日目は終わりを迎えました。
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