13 / 15
第十三話 ”普通”な男の選択
しおりを挟む星垣さんは後ずさりした。頭を掻きむしり、わずかに呻く。そしてーー
「……ミツル」
眉を寄せ、苦しそうな顔で、藻沼に向かって告げた。
「お前が選んでくれたサバの味噌煮定食、美味かったよ」
藻沼の口はマスクで見えないはずなのに、ニヤリと笑ったのがはっきりと分かった。
「いつだってお前は、俺に最高の道しるべを示してくれていた。お前の話、ちゃんと聞かなくて……ごめんな。目が覚めたよ」
「星垣っ!!やっぱりあんたって、本当に情けない男ねっ!!」
私はあらんかぎりの声を張り上げて、星垣を怒鳴りつけた。
「え……しずくさん……?」
「どうせ藻沼を選ぶと思った!関わるんじゃなかった。そうよ、こいつの言う通りよ。あんたみたいな地味でダサくてつまらない男、一瞬だって好きにならなかったっ!!やっぱりあんたたちは、湿った沼底に仲良くへばりついていたらいいのよ!」
歯を食いしばって、顔を伏せた。その頭を、誰かの手に撫でられる。星垣さん?藻沼?どうして撫でるんだろう。でも、確認する気力は無い。
しばらくして、星垣さんは口を開いた。
「ああ……そうだ。カフェに支払いを待ってもらっているんだ。行かないと……あの、ミツル」
「ええ、いいですよ。後は任せてください」
「しずくさん……本当に僕のこと、なんとも思ってなかったんですね」
「……」
「ミツル……お前がいてくれて良かったよ」
私は顔を上げなかった。最後まで何の役にも立たなかった星垣さんは、逃げ出すように出て行った。その丸まった背中が、誰かに似ている。
***
再び二人きりになったオフィス。いつの間にか、星垣さんのパソコンは更新を終えて静かになっていた。藻沼が、淡々と私の拘束を解いた。私はその場にへたりと座り込み、目の前に立った藻沼の革靴を眺めた。
「……どうして嘘をついたの」
「嘘には嘘を、です。星垣さんは物的証拠に弱いですから」
藻沼は言いながら、デスク下にデスク下で倒れていた角ばった大容量のペン立てを拾った。
星垣祥。簡単な男だと思っていたのに、あいつは結局最後まで藻沼を優先した。こんなにじめじめとした陰湿な男を。
「星垣さんは、あんたのせいで一生独り身ね。陰気臭い友達がいて気の毒な男」
少しでも傷つけばいい。そう狙って言ったのに、藻沼はすかさず切り返した。
「あなたにはその友達さえいないのではないですか?」
「……いるもん。姫香とか……」
声が小さくなっていく。そういえば私、姫香以外に友達と言える人、思い出せない。それに姫香にさえ、二人でおしゃれなランチに行く以外の楽しみを見いだせない。話していても底の浅いマウント話ばかりで疲れるし、大げさなモテ自慢にも辟易している。
藻沼が星垣さんとの奇妙な絆で、自分たちの脆い友情に斬りかかってくる。何か言い返したいのに、視線を合わせることができない。そんな私のことなど目に入らないかのように、彼は散らばっていたペンやホチキスや消しゴムをペン立てに迷いなく収納していく。星垣さんこだわりの配置を、全て覚えているかのようだ。
藻沼は片付けを終えたペン立てを星垣さんのデスクに置き直し、私を見下ろした。私の尻すぼみな反論の裏側を全て見透かし、決定的な言葉を投げかけた。
「そうやって他人を見下している限り、他人があなたを心から愛することはないでしょうね」
その一言は、ずっと閉じ込めていた記憶を呼び起こした。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
鬼より強い桃太郎(性的な意味で)
久保 ちはろ
恋愛
桃太郎の幼馴染の千夏は、彼に淡い恋心を抱きつつも、普段から女癖の悪い彼に辟易している。さらに、彼が鬼退治に行かないと言い放った日には、千夏の堪忍袋の緒も切れ、彼女は一人鬼ヶ島に向かう。
放課後の保健室
一条凛子
恋愛
はじめまして。
数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。
わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。
ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。
あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる