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第十四話 自分がしたこと
しおりを挟む目の前にくっきりと一か月前の光景が広がる。私の部屋。置いてあったスマホの画面に表示された、見慣れない女の名前。
ーー浮気じゃなくて、本気だよ。君よりもずっと僕に優しくしてくれる、運命の人を見つけたんだ。
「そんなことない!!」
気が付いたら私は叫んでいた。反射的に大声を出したから、藻沼の目が少しだけ大きくなる。
「あの人は……私を好きだった」
言葉にしたとき、悲しげに笑う顔が浮かび、涙が頬を伝った。
「星垣さんは桑折さんをあっさりと手放しましたよ。本気になる前に目が覚めて良かったです」
藻沼の顔が、遠くに見える。
「……料理が得意な人だった。誕生日には私が好きだと言った、写真映えするケーキを作ってくれた」
「?」
でも写真に撮った後は太るからと、数口しか食べなかった。
「私が行きたい所、どこへでも連れて行ってくれた……あの人は私を好きだって言ってくれた。私は、愛されていたのよ」
だけど大学では目立たない人だったから、雑に扱った。付き合ってもらえて嬉しいでしょ?得意料理を美味しそうに食べる彼女がいて幸せでしょ、と。
「愛されていた?ああ、前の男の話ですか。その様子だと愛想でも尽かされたようですね」
「……星垣さんみたいな、献身的な人だった。私が喜ぶことなら、何でもしてくれた……」
はらはらと涙が落ちてくる。あの時はダサい男の貢ぎ物としか思わなかった贈り物の数々が、今になって心のこもったプレゼントに思えてくる。
「つまり、自分を大切にしてくれた人をみすみす逃すような態度を取り続けていたと。だったらどうして、今度は相手を大事にしようと思わなかったのですか?好きになれる相手ではなく、格下だと思った男を再び振り回そうとするのですか?」
「……そうね。どうして同じこと、しちゃったんだろう……」
涙を流しながら力なく笑う。
私、どこで間違えてしまったんだろう。どうして、こんな恋愛とも言えない付き合い方しか、できないのだろう。
「自分の非を認めないから、同じことを繰り返すのです」
藻沼の言葉が、槍となって私を貫く。決して見たくなかった自分の、黒い、影の部分が、藻沼によって無理やり照らされる。
「だって、付き合ったらまた……あんな風に終わるから。私のことを、ずっと好きでいて欲しかった……」
「あなたの孤独を純粋な男で満たそうとするの、やめてください。当てましょうか、あなたがそうなった理由」
藻沼は座り込む私の顎を持ち上げ、自分の方を向かせた。
「理由……?」
「ええ。あなたは見た目や社会的立場で人に順列をつける。それは自分が外見を理由に、好きな男に振られた経験でもあるからではないですか」
「え……」
藻沼に言われて思い出した。さらに昔、中学生の頃、クラスで一番かっこいい人に告白した。『お前はカーストが低いから無理』と言われて、笑われたのだ。
だから私は、それから自分磨きに力を入れて、見返してやろうと思ったんだっけ。そしていつしか目的を忘れ、彼のような冴えない男を見ると同じことを思うようになったんだっけ。
私は、何がしたかったのだろう。星垣さんをからかっても、寂しさは癒えなかった。
だって、あの人のことが、好きだったから。
それなのに彼の優しさにあぐらをかいて、自分が上だと勘違いして、いつまでも女王様気分だった。
だから、私は振られたのだ。
彼を傷つけた自分が悪いくせに、現実から目を背けた。そして、より都合良く扱える人を探した。私の醜い姿にいつまでも気付かない、愚かで簡単な相手を。最も突き刺さる現実を、最も見下していた人に突きつけられた。
あんな態度、取らなければ良かった。
私の体を弄んだのに表情ひとつ普段と変わらない藻沼。彼は私が落としたスマホを拾い上げて、デスクの上に置いた。私が乱れたせいで散乱した書類も元通りに片付けて、配線を確認し、スーツのほこりを払って落とす。まるで業務が終了したときのように、静かに闇を引き連れて消えようとしている。
「手荒な真似して申し訳ありません。制裁は終わりです。しかるべき所へ訴えるというのなら、ご勝手にどうぞ」
立ち去ろうとする藻沼を見ていたら、自然と声が出た。
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