[R-18]ドSな天才魔法使いの狂愛─魔女の執着はいつしか逆転する─

プリオネ

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無駄なあがき

1話 勝てないライバル

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「ハヤト!帰る支度済んだら中庭に来て」
「また勝負?いいけど、何も変わらないと思うよ」

 私は男への挑戦を始めた。あの日の大会後、わざわざ私の所まで来て挑発をしてきたからだ。凄い凄いと騒ぐ周囲に気付かれないように、私だけに向けた見下したような視線。天才魔女オリビアを超えた男としてもてはやされる中、ぽつりと呟いた「天才?あれで?」という言葉を私は聞き逃さなかった。私のプライドを傷つけたハヤトを、許さない。

 この怒りを収めるにはただひとつ、彼に勝つ事しか無かった。私は毎日のように彼にホウキレースの勝負を仕掛けた。その度に彼は余裕そうに笑い、私の挑戦を受け入れる。

「ほら、僕の勝ち」
「っ…はあっ、はあっ…うぅ……!!」

 しかし、私は何度やってもハヤトに勝てなかった。魔力に男女の差は無いというのに、彼のホウキは何か特殊なエンジンでもついているかのように圧倒的なスピードを見せ、私を翻弄する。柄を片手で軽く握り、空気の流れを読んで絶妙に角度を変える。悔しい程に鮮やかなホウキさばきで、その背中が見えなくなりそうな程遠くへ飛んでいく。私は息を切らしながら、彼の数十秒も後にゴールにしている目印の校舎にようやく辿り着く。

「どうしてよ……!!ライバルとこんなに差がついてるなんて……」

 独り言のつもりで呟いたのに、ハヤトは反応した。

「ライバル?僕、君のライバルなの?心外だなぁ」
「何よ!」
「オリビア、そろそろ諦めたらどう?毎日放課後に君のプライドに付き合わされるの疲れてきたよ」

 ハヤトはホウキから降りながら私に歩み寄る。悔しさと不甲斐なさに歯を食いしばって立っている私と違い、細身で体力も無さそうなのに息も乱れていない彼。いつもの涼しげな顔に苛立って、私は目を吊り上げて反論した。

「諦めるわけないでしょ!絶対勝ってみせるから」
「僕さ、君のために他の人からの誘い断ってるんだよ?僕だってたまには遊びたいんだよ。オリビアが今以上の力を見せてくれないなら、そろそろこの勝負もおしまいだ。君もさ、こんな結果が分かってるレースなんかしないで、遊びに行かない?みんなでクレープでも食べに行こうよ」
「行く訳無いじゃない。私はこれからまた特訓するから」
「……ふっ。そうか。じゃ頑張ってね」

 ハヤトは含み笑いをすると、冷たくそう言い放った。拳を作って立ち尽くす私をそのままにして、彼は校舎に向かって歩き出してしまった。

 ***

 ハヤトはだんだんと私の勝負に乗らなくなった。初めこそ馬鹿にしながらも付き合ってくれていたハヤトだったけど、勝負にならない毎日にしびれをきらしたのだろう。いつしか私の「天才」という通り名も、私ではなくハヤトのものになっていた。

 それでも諦めきれない私は、今度はテストがある度にその結果をハヤトへ聞きに行くようになった。ならば学力ならどうだと、ハヤトのいる教室へ毎日のように足を運ぶ。今日も女の子たちの中心にいた彼は私に気が付くと、魔法で可愛らしいチョコレートをポンポンと出してみせ、「ごめん、みんなで食べてて」と笑いかけた。髪は丸く刈り込んであるが、顔はよく見ると整っている。きりっとした眉と、長い睫毛に縁取られた切れ長の目、高い鼻筋に薄い唇、シュッとした顎。その見た目と能力から、彼はあっという間に女の子たちの興味を引いた。彼女たちより頭ひとつ分背が高いハヤトは、自分に群がるファンたちをきゃあきゃあとチョコレートに夢中にさせている間に私の所まで来た。

「また来たの?本当に懲りないね……今日は何?」

 ハヤトは私にも動物の形をした棒付きチョコを差し出してきたが、私は無視する。

「魔法学、何点だった?」

 私は息を巻いて聞いた。実技だけでなく筆記さえも勝てない日々だったけど、今日こそはという確信があった。猛勉強の末に勝ち取った今回のテストは、なんと98点だった。悔しいけど、数学や国語に比べて難しいとされる魔法学で1問ミスなら上出来だろう。これならあの人が満点でも取らない限り、絶対に負ける事は無い。

「ああ、それか。90点だったよ」
「えっ……ほんと?だ、大丈夫?どこ間違えちゃったの?」

 あまりに驚いて、思わず心配するような声をかけてしまう。私に98点が取れるという事は、彼にだって簡単に高得点が狙えるテストだったはずだ。心のどこかでそう上手くいくはずがないと思っていたのに、まさかの結果に喜ぶ事を忘れる。

「それがさ。記号で答える所あったろ?あれ全部、言葉で書いちゃったんだ。全部合ってるんだから先生も見逃してくれたらいいのに、しっかり減点されたよ」
「……つまり、記号で答えていたら満点だったって事?」
「そうだね。オリビアは何点だったの?」
「……98点」
「えっ、凄いじゃないか。僕負けちゃったね。悔しいなぁ」

 ハヤトは言うほど気にしていなさそうに笑った。私は確かに点数では勝った。でも、おめでとうと言う彼をよそにうつむく。私が間違えた問題は、ハヤトが記号でさえ解答していればチェックを貰えていた部分だった。記号選択というのは言わばヒント付きのラッキー問題なのだ。長ったらしい魔道具を正式名称で答える方が、難しいのだから。


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