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ネコ軍団

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第2章 闇に沈む鉱山を救え

第54話 弟のトラウマが迫る

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 グレンとクレアの二人は自宅へと戻った。
 翌日は早朝からロボイセーへと向かうため、準備を終えると二人はすぐにそれぞれの寝室へ向かうのだった。
 寝付けないクレアが寝巻き姿で、ベッドに横になり本を読んでいた。すると…… 寝室の扉がわずかに開いた。音で気づいたクレアは扉に視線をむけすぐに優しく微笑む。

「ねっ義姉ちゃん…… 起きてる?」

 扉と壁の間からグレンが顔を出している。
 体を起こしたクレアは笑ってうなずき、本を閉じてサイドボードの上に置いた。クレアはグレンに顔を向け、自分の横に座るようにポンポンと軽くベッドを叩く。それをみたグレンは嬉しそうに彼女の寝室へと足を踏み入れた。グレンが隣の座るとクレアは彼の肩にそっと自分の頭を乗せた。軽い彼女の頭の感触を肩に感じ、グレンは恥ずかしそうに下を向いた。

「ごめん…… なんか寝れなくて」
「いいですよ。私も眠れないので……」

 謝るグレンに肩から頭を離したクレアは優しく声をかけた。クレアは顎に指を置き視線を上に向け、考えながら話しを続ける。

「でも…… テオドールの町以外へ二人で行くのは初めてなのでそこはいいかもですね」

 嬉しそうにグレンに向かって笑うクレア。忙しい二人に休みは少なく緊急対応などで呼び出しもあるため、グレンと二人一緒にテオドール周辺から離れたことはない。クレアは初めて二人で遠出できるのが少し楽しみにしているようだ。

「えっ!? そっそうだっけ…… そうだよな。俺が東に行くのが…… でも……」

 うつむいて暗く小声で、申し訳なさそうにつぶやいたグレンの体が、何かに怖がっているのか小刻みに震えていた。クレアには彼が何を怖がっているか察しはついていた。

「グレン君はあの人達と会うのが怖いんですよね?」
「えっ!? ねっ義姉ちゃん…… うん。少しだけ……」

 強がって笑ってうなずくグレン。彼は五年前にダイアとレオンという二人の冒険者に裏切られ、ドラゴンのもとに取り残されたところをクレアに救われた。
 ダイアとレオンはその後ノウリッジ大陸を東に向かって行った。当時はまだノウレッジに町の外での冒険者同士に殺傷を裁く法律はなく二人は罪に問われなかったのだ。彼らの消息は冒険者ギルドを使えば調べられるが、クレアはグレンが望まない限り調べようともせずまた二人で話題にすることも極力さけていた。
 ちなみにグレンの事件がきっかけで、町の外での冒険者同士の喧嘩や争いを裁く法律が出来た。

「!?!?」

 グレンは何かに強引に引き寄せられ視界が真っ暗になった、彼の鼻に馴染み深い義姉から発生する、とても落ち着く花のような髪の匂いが感じられる。

「ねっ義姉ちゃん? ちょっと!?」

 驚いて声をあげるグレン、クレアはグレンの顔を自分の胸へと引き寄せ抱きしめていた。
 まだ小刻みに震えるグレンの耳元でクレアは優しくささやく。

「大丈夫ですよ。あなたは強くなりました。立派な冒険者ギルドの支援員です。もうあの時のグレン君じゃありません」

 小刻みに震えてグレンだったが、クレアの温もりと声で心から恐怖が徐々に消えていき震えがおさまる。
 グレンの震えが完全におさまるとクレアは彼の体から手を離した。グレンはクレアから離れると少し物足りなそうにしてる。そんな彼を見てクレアは満足そうに笑う。

「それに……」

 満足そうな顔のままクレアは腕まくりをして両手の拳を握った。

「ここに頼りになるお姉ちゃんがいますからね。グレン君をいじめて来るやつはポカポカポイです!」

 両手で拳を握ったクレアは、体の前で上下に動かし何かを殴る動作をして、後ゴミを丸めて捨てる仕草をする。
 彼女の行動に呆然とするグレン、クレアは胸を突き出して得意げにしていた。自分のことを必死に元気づけようとしている、クレアの気持ちが嬉しくてグレンは思わず吹き出してしまった。

「フフ…… でも頼りになるお義姉ちゃんって誰だ? あぁ! オリビアか!」
「プクー!」

 わざとらしくクレアを無視してオリビアの名前を出すグレン。頬を膨らませたクレアだったが、直後にニヤリと口元を緩ませてグレンの背中を両手で軽く押した。

「ふーん。そうですか。私じゃなくてオリビアちゃんが良いんですね。じゃあ出ていってください」

 クレアは右手でグレンの背中を押し左手で部屋の扉をさした。

「えぇ…… それは…… 困る…… おっ俺……」

 ベッドに視線を向けて寂しそうにするグレン、彼は取り残された恐怖から一人で夜を過ごすことができない時がある。そういう時は必ずクレアが隣で寝るまで一緒に居てくれる。
 クレアはグレンが寝るまで一緒に居てほしいと思ってるのが知りながら、わざと出ていくように意地悪をしている。
 うつむくグレン、いたずらに笑ったクレアは彼の背中をさすりながら口を開く。

「まぁ私は優しいお姉ちゃんですからね。弟がちゃんとお姉ちゃんと一緒にいたいようって言えば居てあげますよ」
「はっ!? なんだよ。それ…… そんなこと言えるか!」

 クレアの手を背中からどけ、グレンは恥ずかしくて言えないとクレアに訴えた。すぐにクレアは余裕の表情で、左腕を伸ばして部屋の扉を指さした。

「じゃあ出ていってください」

 部屋を指しながらクレアはニッコリと勝ち誇った笑み浮かべる。観念したグレンは顔を真赤にしてうつむいた。

「おっお義姉ちゃん…… 一緒に…… 居てください……」
「違いますよ。お姉ちゃんと一緒にいたいようです」
「はっ!? うっ……」

 驚いて顔を上げたグレンに、クレアは微笑んだまま黙って部屋の入口を指さした。
 観念したようにグレンはまたうつむいた。

「いっ一緒に…… 居たいよう……」

 蚊の鳴くような声でグレンがクレアに一緒にいたいと言う。

「よく聞こえないですね」
「おっお義姉ちゃんと! 一緒にいたいよう! もうこれでいいだろ!」

 やけくそで叫ぶグレン。クレアはグレンの言葉を聞くと優しく微笑んで両手を広げた。

「ふふふ。いいですよ。はい。ぎゅっーーーーーーーーーーーーーーー」

 グレンと強く抱きしめたクレア、グレンは彼女の胸に頭を置いて目をつむる。
 その後、並んでベッドの上に横になった二人、クレアは優しくほほ笑みながら隣のグレンが眠るまで見守るのだった。
 翌朝、うつろな頭で横にいるグレンにくっつこうとクレアは寝返りをうつ、大きく開いた彼女の足の間から黒い下着がのぞく。だが、愛おしい義弟にからみつくはずだった、彼女の足と手は空を切って虚しくベッドの上へと落ちた。
 目が冴えてグレンが横に居ないことにクレア気づく。飛び起きたクレアの顔を優しい朝日の光が照らす。

「うーーーーー…… 先に起きて下りましたね…… お姉ちゃんを置いて行くとはひどい弟ですね」

 不満そうにグレンの居ないベッドを見つめた、クレアは立ち上がって部屋からでていく。
 階段を下りた卵の焼けるいい匂いにひかれ、クレアは階段脇の廊下を進んでキッチンへ。キッチンの入り口に立ったクレアに、料理をするグレンの背中が見えた。
 グレンはかまどで卵を焼いているようだ。彼の背後にあるテーブルにはボールに入った野菜とパンが置かれている。
 彼の背中を見たクレアは足取り軽く、キッチンへと入ってグレンの背中に抱きついた。

「あっ!」
「グレン君…… おはよう」
「もう…… 義姉ちゃん。危ないだろ……」

 抱きつかれたグレンは右手にヘラ、左手にフライパンを持ったまま振り返りクレアに注意をする。
 クレアは微笑みながらグレンに抱きついた手の力を強めた。

「えへへ。勝手に居なくなるからですよ。捕まえておかないといけません」
「はいはい。どこにも行かねえから! ほら! 朝ごはんもうできるからさ。食べたら出発しようぜ」
「はーい」

 手に持ったヘラでテーブルをさすグレン、クレアはグレンの腰から手を離して返事をするのだった。

「ロボイセか。そういやキティル達は順調なんだろうか」

 食事を取りながらグレンはふと口を開いた。クレアは手を止めて不安そうな表情をした。

「わかりません。支援要請がないということは順調だと思います。ただ……」
「ただって? 何か気になることでも?」

 真剣な表情でクレアはグレンを見てうなずいた。

「えぇ。キティルちゃん達のことを教会がどう思ってるのか少し不安なんです」
「教会が? どうして? 俺達をテオドールから外したのは二人を危険から避けるためだろ? 違うのか?」
「えぇ。そうだと思います。表向きは…… もしかしたら白金郷を見つけるために二人を利用してる可能性も……」
「はぁ!? もし二人が白金郷を見つけられたら教会が横取りするつもりってことか?」

 真顔でどこか悲し気にクレアがうなずいた。彼女は教会がキティルとメディナを、ただ監視し保護するためだけに自分達を派遣したわけでないと疑っていた。

「キーセン神父がそんなことに加担するなんて思えないけど……」

 朝日が差し込む窓をクレアは遠い目で見た。少し間を開けてから口を開いた。

「グレン君…… 教会の内部はあなたが思ってるほど精錬潔白じゃないんですよ」
「なんだよ。それ…… でも、義姉ちゃんがそう言うなら俺も注意しておくよ」
「ありがとう」

 クレアはグレンにニッコリと微笑んで礼を言うのだった。
 食事を終え片付けを終えた二人は、ロボイセへと向かって旅立つのだった。
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