この救いようのない世界で俺は快楽に溺れる

ぷぁぷぁ

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第2話 え?女神様?

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「必要悪という存在をご存知?」

 目の前の女? のようなものが言う。なぜ性別が具体的にわからないのか、それは女の姿が見えず、声だけで判断しているから。いや、この場合はそもそも俺の目が光を失ったといえばいいのかもしれない。

 必要悪、それは『悪がいるからこそ自分達の正しさが証明できる』という正義の意味付け的な存在で、強大な悪がいるからこそ結束を促されることがあるという原理である。

(その必要悪がなにか?)

 そう言おうとするも俺の声は出ていなかった。

「あなたにはその必要悪になってもらおうと思って」

 底冷えしそうな笑みをこぼし言う女。

(悪になるっていったいどういう…、俺はただの大学生だし)

「あら、あなたは死んだんじゃない?」

 ヒュッと息をのむ。
 思い出した、思い出さされた。
 死の恐怖、あの落ちるような感覚。
 息が荒くなり早くなっていく。

(か、く、苦しい)

 死、死は嫌だ。
 怖い、怖い、怖い。
 体は小刻みに震えだし止まらなくなる。

「あらあら、かわいい、ほら大丈夫よ」

 過呼吸に陥り息がうまくできず苦しんでいた俺に、暖かいものに包まれたような感覚が広がる。

(ああ、暖かい)

 強張っていた体が次第にほぐれていった。
 あまりの癒しに涙が流れるような気がした。
 このまま成仏してしまうのではないか、そう思ったとき、体を包んでいた暖かさが失われる。

(なんで、このまま俺は…)
「初めに言ったでしょうに、あなたには必要悪になってもらうって」
(でも一体、どうやって)

 女は再び笑うと説明を始めた。

「これからあなたにはテルグムに行って、もう一度生きてもらうわ」
(でも、テルグムって?)
「地球とは異なった世界ね、あなた達の言葉でいうと異世界かしら」

 異世界という言葉に少し心を躍らす俺。転生は否定しても実際異世界に行けるとなれば話は別だった。

(やった、異世界。勇者や剣と魔法、ありますか?)
「ええ、あるわ。とっても楽しい世界よ」
(それに魔物、あと魔王も)

 そこにきて俺は気が付いた。この女の言う必要悪とは魔王のことなのではと。 

「ふふっ、さすが日本の生まれね。そういうことには察しがいいわね」

 魔王、それは災害や堕落の象徴。勧善懲悪のシナリオにおける「敵」であり、「悪」として魔物の軍勢という現実的脅威を率いて人間を侵略する立ち位置にある。 

(でも、俺にそうなれると?)
「具体的にどうとは言わないわ。好きなようにしていいのよ。あなたに降りかかるものすべてが運命、すべてが必然なのだから。愛、死、喜び、悲しみ、美しい、醜い、信じ、疑い、怒り、笑い、痛み、快い、驚き、嫌い、憎み、苦しみ、媚、幸せ、好き、悩み、楽しい、妬き、呆れ、酔い、笑い、奪い、失い。それらがあなたの糧となる。少しずつ成長してなればいいわ」
(でも、魔王なんて、俺にそんな力はないし)
「それでもあなたは悪にならざる負えない」

 そう言った女の口調は笑っていた。
 しかし、次の俺の一言で女の態度は豹変した。

(でも、俺は…)
「でも、でも、でも、でも。呆れてしまうわね。あなたはそうやって否定し続けて現実を受け止めようとはしない。現実はこう、行くか行かないか。行くのなら希望があるわ、行かないのなら、残念だけれどもう一度死ぬだけ」

 恐ろしい言葉をかけられ。その言葉が本気であることを知る。この女にはそれをしうる力があるのだ。

 もう一度死ぬ。
 そういわれた俺は恐怖した。あんな体験は二度としたくない。死という体験をした人間は俺以外にいないだろう。なぜなら、死を体験した後、その人の意識はその体にはないのだから。
 あれはだめだ。思い出すだけでもう一度そうなってしまったかのように体が硬直してしまう。

(行きます、行かせてください)

 俺は自然とそう答えていた。
 理由は二つ、死が怖いこととこの女に嫌われたくなかったことだ。

「そう、それはよかった」

 女は微笑みながら近づき俺を再び暖かいもので包み込んだ。

「さっきはごめんなさい。希望はしっかりあるのよ。あなたが役目を果たした後、一つだけ願いをかなえてあげるわ」

 言いながら女は俺の背中に何か特別熱いものを押し当てた。

(あ、ぐっ、あっ、なにを)

「これは餞別、私の新たなる駒になるあなたへの、ふふっ」

 熱い何かが俺に入り切った時、先ほどまで見えなかった女を見ることができた。

 見えた女はそれはそれは美しく、とても邪悪に微笑んでいた。
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