悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.0 不思議な図書館と謎の日記

3.古ぼけた日記帳

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図書館の中には時計も窓もないため、時間の経過がわからない。
もしかすると丸一日経っているのではないかと慄きながら、リーリウムは図書館から持ち出す本を3冊選び出した。
「持出厳禁」とは言われていないので、就寝前に自室で続きを読もうと考えたからだ。
そして、机の前にずらりと並んだ歴代当主たちの日記からは、最も古い表紙の1冊を棚から持ち出した。

(何かお父さまのためになる内容が記されているかもしれませんものね。)

個人の日記を読むことに多少の罪悪感はあるが、好奇心が勝ってしまった。
「お父さまのため」と言い訳しつつ、持ち出す書籍の一番上に古びた日記を乗せる。

照明のスイッチを切り、図書館から出ようとすると、扉が開いているのに見えない壁があるようでどうしても進めない。
手で触ってみると、ふにふにとやわらかくて透明の壁が確かに存在していた。

(どういうことかしら?魔法の力?)

現在では貴重となった魔法の力でも、不思議で美しい図書館を目の当たりにしたあとでは、この程度のことで驚かない。
見えない壁をふにふにと触りながらよく観察してみると、壁に触れている瞬間、持ち出そうとした本のうち日記以外の3冊がほのかに光っていた。
リーリウムは「もしかすると」と思いつき、その3冊をすぐそばの棚に置き、もう一度図書館から出てみた。
今度はすんなりと書斎へ戻ることができた。

書斎には公爵の姿があった。図書館の扉が開いたにもかかわらず、なかなか書斎に戻ってこない娘をいつもの柔和な微笑みをたたえながらじっと見つめていた。
いつも冷静なリーリウムがパントマイムのような動きをしていることが可愛らしくて仕方がないといった様子だった。

「リーリウム、なにか面白い本はあった?」

やっと図書館から出てこられた娘に、微笑みながら本日の収穫を訪ねる。

「はい。お父さま、とても有意義なひと時を過ごせました。
時間の経過も忘れてしまうほど!」

「それなら、ちょうど良いタイミングで出てきたね。
もうすぐ夕食の時間だよ。」

どれだけの時間を費やしたかと心配していたが、思いのほか時間がたっていなかったことに安堵したリーリウムは、少し図書館のことを公爵に尋ねてみようと思った。

「お父さま、この図書館の本はほとんどが持ち出すことができませんの?」

「うん。基本的にはできないはずだよ。
……だけど、例外もあったようだね。」

リーリウムの手元にある、古ぼけた日記帳に目を落とす。

「この日記帳は、何故持ち出せたのでしょうか?」

2人で不思議そうに日記帳を見つめるが、使い古され少し光沢が出た牛革の表紙には何も書かれていないため、誰の日記なのかは推察できなかった。

「それにしても不思議だね。
今まであの図書館の中にある物は何も持ち出せなかったし、こちら側の物は“紙”と“筆記具”以外は持ち込めなかったんだ。
君のお母さまは『あの図書館の椅子では集中できない!』と言って、自分のお気に入りのロッキングチェアを持ち込もうと四苦八苦していたよ。」

若かりし頃の妻を思い出し、懐かしそうに目を細める。

図書館は当主専用となっているが、公爵夫妻専用と言った方が正しい。
この公爵家は数代前から女の子しか生まれなかったため、代々他家から婿養子をもらっている。
これは“ウェスベル家の呪い”として国中で知られていた。
そして、長女は次期公爵としての教育を幼少期から婚約者と共に叩き込まれる。
夫婦どちらが欠けても困ることがないよう、公爵夫婦はどちらも当主としての知識を有していた。
ただ、国の慣例があるため、便宜上は夫の方が公爵の爵位を継いでいるだけだった。

「ふふ、お母さまらしいですわね。」

母親がロッキングチェアを前にいろいろと思案している様子が目に浮かび、思わず笑みがこぼれる。

今、リーリウムたちの母親は王都から馬車で2日ほどかかる領地に住んでいる。
離れて暮らす母のことが恋しくないわけではないが、優しい父と個性的な姉妹たちに囲まれているので寂しくはなかった。

「まぁ、彼女も僕と一緒で読書家ではないから、そんなには図書館を使っていたわけではなかったんだけどね。
だから、その日記に何か面白いことが書いてあったら、必ず報告するように。」

公爵ももちろん、ものすごく日記の内容が気になっていた。
だが、娘の楽しみを取り上げるほど野暮ではない。
リーリウムは、そんな父親が大好きだった。

「はい、承知していますわ。
お父さま、今日読んだ本の概要もまとめておきました。」

今日の日づけと本の題名、どんな内容だったかをまとめた書類を公爵に渡した。
自分の部屋にあった筆記具と紙は、図書館にも持ち込めた。
そして、本の内容を書き留めたその紙は、図書館から持ち帰ることができたのだ。

(本は持ち出せないけれど、写本はできてしまう……。
本の内容を洩らしたくないわけではないのね……。)


公爵の書斎の横にある不思議な図書館はさまざまな魔法を張り巡らされているが、魔法の技術や知識が衰えてしまった現在では、その謎を解き明かすことは不可能だろう。
誰がなぜ、あの図書館を作ったのか。
リーリウムの頭の中には疑問が山積していた。

(あとでこっそりフレエシアお姉さまに聞いてみようかしら…)

次姉のフレエシアは学園で魔法の研究をしていた。
100年ほど前に最後の魔法使いが死んでしまってから、この国には魔法を使える人間はいなくなってしまった。
そのため、今でも現役で動いている魔道具は、故障してしまったら誰にも直せない貴重なものとして、とても大事に扱われていた。

その魔道具の動力源が“魔法石”だ。
幸いにも、魔法石は鉱山から少量ではあるが発掘され続けている。
だから、魔法の力がない現代でも便利な魔道具は魔法石が無くならない限り使い続けることができる。

フレエシアは、魔道具の仕組みを研究し、今の技術で修理ができるようにならないかと考えている。
また、できれば魔力ゼロの自分でも魔道具を作り出すことが出来ないかと研究を続けていた。
図書館の照明のようにスイッチ一つで部屋が明るくなったり、火を出して料理をしたり、水を出して洗濯をしたり、魔道具は人々の暮らしを便利にしてくれるからだ。

魔法を研究する学者は多くいるが、フレエシアの研究はどちらかというと現実味がないためバカにされていた。
しかし、自身に対するどのような評価にも屈することなく、人々の暮らしをよりよいものにするために毎日研究を続けているフレエシアを、リーリウムは尊敬していた。


ちょうどそんなことを考えていると、アドルフが食事の用意ができたことを告げにきた。
公爵と共に食堂へ向かい、家族での晩餐を楽しんだ。
図書館での出来事の高揚感と朝食後何も食べていなかった空腹感で、いつもは小食のリーリウムもこの日ばかりはデザートまでペロリと平らげ、家族を驚かせた。
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