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Lesson.1 「悪役令嬢」という存在
4.開かずの日記帳
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リーリウムは夕食後部屋に戻ると侍女たちを下がらせ、さっそく日記を読もうと自分の机に向かった。
椅子に座り、心を落ち着けるために深呼吸をする。
そして、使いこまれて手馴染みがよくなっていた牛革の表紙をそっとめくると、1ページ目にはこう書かれていた。
『この日記はユニカの名を持つ子にしか開けない』
「なんてこと…!」
“ユニカ”は公爵家で最も重要で歴史のある名前だ。
ユニカは歴代長女の“真名”である。
公爵家の長女は、自分が子を産むまで代々“ユニカ”の名を継いでいた。
もちろん、三女であるリーリウムは“ユニカ”ではなく、現在は長女のヴィオラが“ユニカ”を継いでいた。
試しに、その文章が書かれたページをめくろうとしてみたが、まったく動かなかった。
2ページ目以降はすべてのページがくっついているように、めくることができなかったのである。
日記を抱えると、すぐさまリーリウムは“ユニカの名を持つ子”、つまりヴィオラの部屋へと向かおうと自室を出た。
しかし、ふと思い当り、まずはフレエシアの部屋を訪れた。
やはり図書館の件を含め、魔法関連の事はフレエシアに話した方が良いと判断したからだ。
いつもとは違い、少し乱暴にドアをノックする。
しばらく間を置き、ガチャリとドアが開くと、少々驚きの顔をしたフレエシアが迎え入れてくれた。
フレエシアは、くるくるとロールした豊かなプラチナブロンドの髪を後ろで一つに束ね、白いシャツに黒いパンツスタイルという、およそ公爵家の令嬢とは思えない格好をしていた。
しかし、それがフレエシアの日常着であり、すらりとした長身を魅力的に見せていた。
寝間着に着替えていないということは、また夜遅くまで研究に没頭するつもりらしい。
「ノックの音からして、プリムラかと思ったけど。リーリウムが来るなんてめずらしいじゃないか。」
「お姉さま、今日はたくさんのことがありすぎて、どこからお話すればいいのか分からないのですが……。
一先ず、ヴィオラお姉さまのお部屋まで付いてきてくださいませんか?」
ふむ、と少し思案したフレエシアはいつも冷静な妹に何か起こったのだと察すると、「わかった」とうなずきリーリウムの言葉に従った。
そうして2人は、隣のヴィオラの部屋へと赴いた。
絹糸のように細くまっすぐなプラチナブロンドの髪をきれいに編み込み、シルクのネグリジェの寝間着姿のヴィオラは、妹たちの突然の訪問に驚きはしたが、さっと花々の刺しゅうが入った純白のガウンをはおって2人を快く部屋に招き入れてくれた。
「おふたりに見ていただきたいものがあるのです。」
リーリウムはおもむろに、ヴィオラの部屋にある小さいながらも可憐な意匠が施されたテーブルにあの日記帳を乗せた。
「…汚い、ですわね。」
ヴィオラは少し顔をゆがめると、率直な感想を述べる。
「リーリウム、これはなに?」
すでに興味津々なフレエシアの質問を受けて、リーリウムは今日あった出来事をすべて話した。
魔法の力が施された図書館のこと、そしてそこから唯一持ち出せたこの日記帳のことを。
話を聞いている間にフレエシアの顔色が変わり、「うんうん」と大きく相槌を打ちながら熱心に耳を傾けていた。
ヴィオラはずっと冷静に、顔色を全く変えることなく静かに話を聞いている。
「驚くことばかりですわね。」
リーリウムが話し終わると、まったく驚いていない様子でヴィオラが感想を述べた。
「うわー私も図書館に入ってみたいよ! スイッチ一つで複数の照明が灯る魔道具なんて!
物を持ち込みも持ち出しもできないなんて、どんな仕組みなのかな!?」
一方フレエシアは大興奮だ。これでもかというほど鼻息が荒い。
「それで、その謎の日記がこれだね!?」
興奮したまま日記帳を指さす。
「ちょっと試してみていい?」
フレエシアは表紙をめくると、例の1ページ目に指を掛けようとした。
しかし、やはり2ページ目以降はまるでそれが一つの石のように強固にくっつきあって、どうしても開けなかった。
「やっぱりお姉さまでないとダメみたい。」
フレエシアは背中がこれでもかというくらいぐんにょりと曲がり、全身でがっかりとした気持ちを表現しながら、現在の“ユニカ”であるヴィオラへ日記帳を渡す。
対照的にいつも以上に背筋がピンと伸びたヴィオラは、優雅にフレエシアから日記帳を受け取り、1ページ目に書かれた例の文章を確認した。
「あまり上手とはいえない筆跡ですわね。だけど女性の字だわ。」
そう言うと同時に、ページを何事もなかったようにめくった。
妹2人がどうしても見ることのできなかった2ページ目があらわになる。
「お、お姉さま!?」
「い、今見てなかったよ! お姉さま、もう一回めくってみて!」
あまりに突然すぎて大きな声で抗議する妹たちを放っておいて、ヴィオラは2ページ目を読み始めた。
もちろん黙読だ。
しばらく沈黙の時間が流れる。
ヴィオラのあまりにもマイペースすぎる様子に、2人の妹も抗議の声を潜め、姉が読み終わるのをおとなしく待つほかなかった。
椅子に座り、心を落ち着けるために深呼吸をする。
そして、使いこまれて手馴染みがよくなっていた牛革の表紙をそっとめくると、1ページ目にはこう書かれていた。
『この日記はユニカの名を持つ子にしか開けない』
「なんてこと…!」
“ユニカ”は公爵家で最も重要で歴史のある名前だ。
ユニカは歴代長女の“真名”である。
公爵家の長女は、自分が子を産むまで代々“ユニカ”の名を継いでいた。
もちろん、三女であるリーリウムは“ユニカ”ではなく、現在は長女のヴィオラが“ユニカ”を継いでいた。
試しに、その文章が書かれたページをめくろうとしてみたが、まったく動かなかった。
2ページ目以降はすべてのページがくっついているように、めくることができなかったのである。
日記を抱えると、すぐさまリーリウムは“ユニカの名を持つ子”、つまりヴィオラの部屋へと向かおうと自室を出た。
しかし、ふと思い当り、まずはフレエシアの部屋を訪れた。
やはり図書館の件を含め、魔法関連の事はフレエシアに話した方が良いと判断したからだ。
いつもとは違い、少し乱暴にドアをノックする。
しばらく間を置き、ガチャリとドアが開くと、少々驚きの顔をしたフレエシアが迎え入れてくれた。
フレエシアは、くるくるとロールした豊かなプラチナブロンドの髪を後ろで一つに束ね、白いシャツに黒いパンツスタイルという、およそ公爵家の令嬢とは思えない格好をしていた。
しかし、それがフレエシアの日常着であり、すらりとした長身を魅力的に見せていた。
寝間着に着替えていないということは、また夜遅くまで研究に没頭するつもりらしい。
「ノックの音からして、プリムラかと思ったけど。リーリウムが来るなんてめずらしいじゃないか。」
「お姉さま、今日はたくさんのことがありすぎて、どこからお話すればいいのか分からないのですが……。
一先ず、ヴィオラお姉さまのお部屋まで付いてきてくださいませんか?」
ふむ、と少し思案したフレエシアはいつも冷静な妹に何か起こったのだと察すると、「わかった」とうなずきリーリウムの言葉に従った。
そうして2人は、隣のヴィオラの部屋へと赴いた。
絹糸のように細くまっすぐなプラチナブロンドの髪をきれいに編み込み、シルクのネグリジェの寝間着姿のヴィオラは、妹たちの突然の訪問に驚きはしたが、さっと花々の刺しゅうが入った純白のガウンをはおって2人を快く部屋に招き入れてくれた。
「おふたりに見ていただきたいものがあるのです。」
リーリウムはおもむろに、ヴィオラの部屋にある小さいながらも可憐な意匠が施されたテーブルにあの日記帳を乗せた。
「…汚い、ですわね。」
ヴィオラは少し顔をゆがめると、率直な感想を述べる。
「リーリウム、これはなに?」
すでに興味津々なフレエシアの質問を受けて、リーリウムは今日あった出来事をすべて話した。
魔法の力が施された図書館のこと、そしてそこから唯一持ち出せたこの日記帳のことを。
話を聞いている間にフレエシアの顔色が変わり、「うんうん」と大きく相槌を打ちながら熱心に耳を傾けていた。
ヴィオラはずっと冷静に、顔色を全く変えることなく静かに話を聞いている。
「驚くことばかりですわね。」
リーリウムが話し終わると、まったく驚いていない様子でヴィオラが感想を述べた。
「うわー私も図書館に入ってみたいよ! スイッチ一つで複数の照明が灯る魔道具なんて!
物を持ち込みも持ち出しもできないなんて、どんな仕組みなのかな!?」
一方フレエシアは大興奮だ。これでもかというほど鼻息が荒い。
「それで、その謎の日記がこれだね!?」
興奮したまま日記帳を指さす。
「ちょっと試してみていい?」
フレエシアは表紙をめくると、例の1ページ目に指を掛けようとした。
しかし、やはり2ページ目以降はまるでそれが一つの石のように強固にくっつきあって、どうしても開けなかった。
「やっぱりお姉さまでないとダメみたい。」
フレエシアは背中がこれでもかというくらいぐんにょりと曲がり、全身でがっかりとした気持ちを表現しながら、現在の“ユニカ”であるヴィオラへ日記帳を渡す。
対照的にいつも以上に背筋がピンと伸びたヴィオラは、優雅にフレエシアから日記帳を受け取り、1ページ目に書かれた例の文章を確認した。
「あまり上手とはいえない筆跡ですわね。だけど女性の字だわ。」
そう言うと同時に、ページを何事もなかったようにめくった。
妹2人がどうしても見ることのできなかった2ページ目があらわになる。
「お、お姉さま!?」
「い、今見てなかったよ! お姉さま、もう一回めくってみて!」
あまりに突然すぎて大きな声で抗議する妹たちを放っておいて、ヴィオラは2ページ目を読み始めた。
もちろん黙読だ。
しばらく沈黙の時間が流れる。
ヴィオラのあまりにもマイペースすぎる様子に、2人の妹も抗議の声を潜め、姉が読み終わるのをおとなしく待つほかなかった。
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