悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

文字の大きさ
4 / 141
Lesson.1 「悪役令嬢」という存在

4.開かずの日記帳

しおりを挟む
リーリウムは夕食後部屋に戻ると侍女たちを下がらせ、さっそく日記を読もうと自分の机に向かった。
椅子に座り、心を落ち着けるために深呼吸をする。
そして、使いこまれて手馴染みがよくなっていた牛革の表紙をそっとめくると、1ページ目にはこう書かれていた。


『この日記はユニカの名を持つ子にしか開けない』


「なんてこと…!」

“ユニカ”は公爵家で最も重要で歴史のある名前だ。
ユニカは歴代長女の“真名”である。
公爵家の長女は、自分が子を産むまで代々“ユニカ”の名を継いでいた。
もちろん、三女であるリーリウムは“ユニカ”ではなく、現在は長女のヴィオラが“ユニカ”を継いでいた。

試しに、その文章が書かれたページをめくろうとしてみたが、まったく動かなかった。
2ページ目以降はすべてのページがくっついているように、めくることができなかったのである。

日記を抱えると、すぐさまリーリウムは“ユニカの名を持つ子”、つまりヴィオラの部屋へと向かおうと自室を出た。
しかし、ふと思い当り、まずはフレエシアの部屋を訪れた。
やはり図書館の件を含め、魔法関連の事はフレエシアに話した方が良いと判断したからだ。

いつもとは違い、少し乱暴にドアをノックする。
しばらく間を置き、ガチャリとドアが開くと、少々驚きの顔をしたフレエシアが迎え入れてくれた。

フレエシアは、くるくるとロールした豊かなプラチナブロンドの髪を後ろで一つに束ね、白いシャツに黒いパンツスタイルという、およそ公爵家の令嬢とは思えない格好をしていた。
しかし、それがフレエシアの日常着であり、すらりとした長身を魅力的に見せていた。
寝間着に着替えていないということは、また夜遅くまで研究に没頭するつもりらしい。

「ノックの音からして、プリムラかと思ったけど。リーリウムが来るなんてめずらしいじゃないか。」

「お姉さま、今日はたくさんのことがありすぎて、どこからお話すればいいのか分からないのですが……。
一先ず、ヴィオラお姉さまのお部屋まで付いてきてくださいませんか?」

ふむ、と少し思案したフレエシアはいつも冷静な妹に何か起こったのだと察すると、「わかった」とうなずきリーリウムの言葉に従った。
そうして2人は、隣のヴィオラの部屋へと赴いた。


絹糸のように細くまっすぐなプラチナブロンドの髪をきれいに編み込み、シルクのネグリジェの寝間着姿のヴィオラは、妹たちの突然の訪問に驚きはしたが、さっと花々の刺しゅうが入った純白のガウンをはおって2人を快く部屋に招き入れてくれた。

「おふたりに見ていただきたいものがあるのです。」

リーリウムはおもむろに、ヴィオラの部屋にある小さいながらも可憐な意匠が施されたテーブルにあの日記帳を乗せた。

「…汚い、ですわね。」

ヴィオラは少し顔をゆがめると、率直な感想を述べる。

「リーリウム、これはなに?」

すでに興味津々なフレエシアの質問を受けて、リーリウムは今日あった出来事をすべて話した。
魔法の力が施された図書館のこと、そしてそこから唯一持ち出せたこの日記帳のことを。

話を聞いている間にフレエシアの顔色が変わり、「うんうん」と大きく相槌を打ちながら熱心に耳を傾けていた。
ヴィオラはずっと冷静に、顔色を全く変えることなく静かに話を聞いている。

「驚くことばかりですわね。」

リーリウムが話し終わると、まったく驚いていない様子でヴィオラが感想を述べた。

「うわー私も図書館に入ってみたいよ! スイッチ一つで複数の照明が灯る魔道具なんて!
物を持ち込みも持ち出しもできないなんて、どんな仕組みなのかな!?」

一方フレエシアは大興奮だ。これでもかというほど鼻息が荒い。

「それで、その謎の日記がこれだね!?」

興奮したまま日記帳を指さす。

「ちょっと試してみていい?」

フレエシアは表紙をめくると、例の1ページ目に指を掛けようとした。
しかし、やはり2ページ目以降はまるでそれが一つの石のように強固にくっつきあって、どうしても開けなかった。

「やっぱりお姉さまでないとダメみたい。」

フレエシアは背中がこれでもかというくらいぐんにょりと曲がり、全身でがっかりとした気持ちを表現しながら、現在の“ユニカ”であるヴィオラへ日記帳を渡す。

対照的にいつも以上に背筋がピンと伸びたヴィオラは、優雅にフレエシアから日記帳を受け取り、1ページ目に書かれた例の文章を確認した。

「あまり上手とはいえない筆跡ですわね。だけど女性の字だわ。」

そう言うと同時に、ページを何事もなかったようにめくった。
妹2人がどうしても見ることのできなかった2ページ目があらわになる。

「お、お姉さま!?」

「い、今見てなかったよ! お姉さま、もう一回めくってみて!」

あまりに突然すぎて大きな声で抗議する妹たちを放っておいて、ヴィオラは2ページ目を読み始めた。
もちろん黙読だ。

しばらく沈黙の時間が流れる。

ヴィオラのあまりにもマイペースすぎる様子に、2人の妹も抗議の声を潜め、姉が読み終わるのをおとなしく待つほかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...