悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

41.リーリウム慌ただしい昼休み3

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一人になったリーリウムは、マシューの研究室へ向かう。
学部長や学園長の研究室のある最上階から、再びフレエシアの研究室のあるフロアへと降りると、階段のそばにマシューの研究室があった。
「マシュー・ローレンス」という名札を確認すると、コンコンとドアをノックする。

「どちら様?」

中から男性の声がする。

「わたくし、リーリウム・ウェスペルと申します。
マシュー先生とお話させていただきたく、参りました。」

リーリウムが名乗ると、しばらく無言の時間が過ぎる。

「あ、あのマシュー様……?」

焦れたリーリウムがもう一度声を上げるのと同時に、ドアが開かれた。

「きゃ」

「おっと」

驚いたリーリウムがバランスを崩すと、ドアから出てきたマシューがそれを支えてくれた。
マシュー・ローレンスは男爵家の次男。
リーリウムより十歳も年上なので直接の面識はないが、その噂は上位貴族の令嬢たちにもよく知られている。

上位貴族の夫人たちが取り合いをするほど美しい“白銀の君”。
その名で知られる通り、マシューは美しい銀髪の持ち主だった。
肌も白く、赤みがかったブラウンの瞳も神秘的だ。
そしてその整った中性的な顔立ちはまるで妖精のようで、リーリウムも見惚れてしまうほどだった。

「はじめまして、リーリウム嬢。
君のことは、フレエシア君からよく聞いているよ。
あの子が言う通り、本当に愛らしいお嬢さんだ。」

リーリウムの腰を支えながら、挨拶をするマシュー。

「はじめまして、マシュー先生。
お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

リーリウムはマシューの手をそっと腰から外すと、丁寧に挨拶を返した。
距離感の近い人物にはどうしても警戒心が増してしまうが、フレエシアが「悪い人ではない」と言っていたのだから、それを信じるしかない。

「もちろんだよ。
王太子殿下と学園の改革を考えているそうだね。
どうぞ、入って。」

フレエシアと同じ間取りの研究室だったが、こちらはきちんと整頓されている。
それに、学部長の部屋とも違い、大量の資料と本、筆記用具、発掘物などが机の上に置かれ、マシューが普段から研究に取り組んでいることも感じ取られた。
マシューは応接セットの椅子にリーリウムを座らせ、自分はデスクの椅子に腰かける。

「ねえ、授業、ひどかったでしょ?」

フレエシアと同じことを、クスクスと笑いながらリーリウムに問う。

「はい。
想像していた授業内容とは、だいぶ違いました。」

素直に答えるリーリウム。

「マシュー様がご入学されたときには、現在とは違っていたと聞いたのですが?」

「うん。
僕も前の学園長時代は二年ほどしか経験していなかったのだけどね。
その頃は、各分野の第一線で研究をしている先生方やその助手の方が授業も担当していたから、とっても有意義なものだったよ。
何よりすごくワクワクしたしね。
だけど、学者でもない侯爵が学園長になってからはひどいものだよ。
それまで授業を担当していた先生たちはみんな閑職へ追い込まれて、自分の手足になる貴族たちを重用し始めたんだ。
しかも最悪なのが、学園長を陛下による任命制ではなくて選挙制にしたこと。
陛下はなんでそんなこと許可したのだろうね?」

今までの不服をぶつけるように、リーリウムへ伝えるマシュー。

「学園長選出が選挙制になったのは、現在の学園長になってからだったのですね……。」

それならば、学園が学園長の私物と化しているのは陛下の采配ミスだということになる。
重要ポストがすべて学園長の手の内にある以上は、学園長の天下は盤石なものになってしまっているのだから。

「そうだよ。学園長の任期が二年だから、もうすぐ選挙の時期だね。
たぶんまた、再任されるだろうね。
せめて再任禁止とかのルールがあれば良かったのだけどね……。」

「マシュー様、もともといらっしゃった先生方は現在どうなさっているのですか?」

「学園に残って自分の研究を続けている方が多いかな。
研究よりも教えることが好きだった先生の中には、平民の高等学校へ就職した方もいらっしゃるし。
前学園長先生も少し前まで研究室で研究をしておられたけど、
お年だということで引退して、今はその助手だった方が研究を引き継がれているよ。」

「なるほど……。
その先生方にもう一度授業をお願いできないかしら?」

「そうだなぁ、してくれる先生もいるだろうけど、研究に集中したいから教える時間がもったいないと思う先生がほとんどかもしれないなぁ。」

「そうなのですか……。」

この話は一度持ち帰って、ヘンリクスやもしかすると陛下とも話さなくてはいけないかもしれない。
リーリウム一人で決定できる内容ではなかった。

「今日は有意義なお話が聞けて良かったです。
ありがとうございました。
また、お話をしに伺っても良いでしょうか?」

「いやいや、力になれてなによりだよ。
もちろん、君ならいつ来てくれても大歓迎だよ。」

リーリウムの手を取り、手の甲にうやうやしくキスをする。
令嬢に対する礼儀はなっていないが、確かに悪い人ではない。
リーリウムの警戒心がなくなったわけではないが、マシューが味方になってくれたことが心強かった。
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