41 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
41.リーリウム慌ただしい昼休み3
しおりを挟む
一人になったリーリウムは、マシューの研究室へ向かう。
学部長や学園長の研究室のある最上階から、再びフレエシアの研究室のあるフロアへと降りると、階段のそばにマシューの研究室があった。
「マシュー・ローレンス」という名札を確認すると、コンコンとドアをノックする。
「どちら様?」
中から男性の声がする。
「わたくし、リーリウム・ウェスペルと申します。
マシュー先生とお話させていただきたく、参りました。」
リーリウムが名乗ると、しばらく無言の時間が過ぎる。
「あ、あのマシュー様……?」
焦れたリーリウムがもう一度声を上げるのと同時に、ドアが開かれた。
「きゃ」
「おっと」
驚いたリーリウムがバランスを崩すと、ドアから出てきたマシューがそれを支えてくれた。
マシュー・ローレンスは男爵家の次男。
リーリウムより十歳も年上なので直接の面識はないが、その噂は上位貴族の令嬢たちにもよく知られている。
上位貴族の夫人たちが取り合いをするほど美しい“白銀の君”。
その名で知られる通り、マシューは美しい銀髪の持ち主だった。
肌も白く、赤みがかったブラウンの瞳も神秘的だ。
そしてその整った中性的な顔立ちはまるで妖精のようで、リーリウムも見惚れてしまうほどだった。
「はじめまして、リーリウム嬢。
君のことは、フレエシア君からよく聞いているよ。
あの子が言う通り、本当に愛らしいお嬢さんだ。」
リーリウムの腰を支えながら、挨拶をするマシュー。
「はじめまして、マシュー先生。
お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
リーリウムはマシューの手をそっと腰から外すと、丁寧に挨拶を返した。
距離感の近い人物にはどうしても警戒心が増してしまうが、フレエシアが「悪い人ではない」と言っていたのだから、それを信じるしかない。
「もちろんだよ。
王太子殿下と学園の改革を考えているそうだね。
どうぞ、入って。」
フレエシアと同じ間取りの研究室だったが、こちらはきちんと整頓されている。
それに、学部長の部屋とも違い、大量の資料と本、筆記用具、発掘物などが机の上に置かれ、マシューが普段から研究に取り組んでいることも感じ取られた。
マシューは応接セットの椅子にリーリウムを座らせ、自分はデスクの椅子に腰かける。
「ねえ、授業、ひどかったでしょ?」
フレエシアと同じことを、クスクスと笑いながらリーリウムに問う。
「はい。
想像していた授業内容とは、だいぶ違いました。」
素直に答えるリーリウム。
「マシュー様がご入学されたときには、現在とは違っていたと聞いたのですが?」
「うん。
僕も前の学園長時代は二年ほどしか経験していなかったのだけどね。
その頃は、各分野の第一線で研究をしている先生方やその助手の方が授業も担当していたから、とっても有意義なものだったよ。
何よりすごくワクワクしたしね。
だけど、学者でもない侯爵が学園長になってからはひどいものだよ。
それまで授業を担当していた先生たちはみんな閑職へ追い込まれて、自分の手足になる貴族たちを重用し始めたんだ。
しかも最悪なのが、学園長を陛下による任命制ではなくて選挙制にしたこと。
陛下はなんでそんなこと許可したのだろうね?」
今までの不服をぶつけるように、リーリウムへ伝えるマシュー。
「学園長選出が選挙制になったのは、現在の学園長になってからだったのですね……。」
それならば、学園が学園長の私物と化しているのは陛下の采配ミスだということになる。
重要ポストがすべて学園長の手の内にある以上は、学園長の天下は盤石なものになってしまっているのだから。
「そうだよ。学園長の任期が二年だから、もうすぐ選挙の時期だね。
たぶんまた、再任されるだろうね。
せめて再任禁止とかのルールがあれば良かったのだけどね……。」
「マシュー様、もともといらっしゃった先生方は現在どうなさっているのですか?」
「学園に残って自分の研究を続けている方が多いかな。
研究よりも教えることが好きだった先生の中には、平民の高等学校へ就職した方もいらっしゃるし。
前学園長先生も少し前まで研究室で研究をしておられたけど、
お年だということで引退して、今はその助手だった方が研究を引き継がれているよ。」
「なるほど……。
その先生方にもう一度授業をお願いできないかしら?」
「そうだなぁ、してくれる先生もいるだろうけど、研究に集中したいから教える時間がもったいないと思う先生がほとんどかもしれないなぁ。」
「そうなのですか……。」
この話は一度持ち帰って、ヘンリクスやもしかすると陛下とも話さなくてはいけないかもしれない。
リーリウム一人で決定できる内容ではなかった。
「今日は有意義なお話が聞けて良かったです。
ありがとうございました。
また、お話をしに伺っても良いでしょうか?」
「いやいや、力になれてなによりだよ。
もちろん、君ならいつ来てくれても大歓迎だよ。」
リーリウムの手を取り、手の甲にうやうやしくキスをする。
令嬢に対する礼儀はなっていないが、確かに悪い人ではない。
リーリウムの警戒心がなくなったわけではないが、マシューが味方になってくれたことが心強かった。
学部長や学園長の研究室のある最上階から、再びフレエシアの研究室のあるフロアへと降りると、階段のそばにマシューの研究室があった。
「マシュー・ローレンス」という名札を確認すると、コンコンとドアをノックする。
「どちら様?」
中から男性の声がする。
「わたくし、リーリウム・ウェスペルと申します。
マシュー先生とお話させていただきたく、参りました。」
リーリウムが名乗ると、しばらく無言の時間が過ぎる。
「あ、あのマシュー様……?」
焦れたリーリウムがもう一度声を上げるのと同時に、ドアが開かれた。
「きゃ」
「おっと」
驚いたリーリウムがバランスを崩すと、ドアから出てきたマシューがそれを支えてくれた。
マシュー・ローレンスは男爵家の次男。
リーリウムより十歳も年上なので直接の面識はないが、その噂は上位貴族の令嬢たちにもよく知られている。
上位貴族の夫人たちが取り合いをするほど美しい“白銀の君”。
その名で知られる通り、マシューは美しい銀髪の持ち主だった。
肌も白く、赤みがかったブラウンの瞳も神秘的だ。
そしてその整った中性的な顔立ちはまるで妖精のようで、リーリウムも見惚れてしまうほどだった。
「はじめまして、リーリウム嬢。
君のことは、フレエシア君からよく聞いているよ。
あの子が言う通り、本当に愛らしいお嬢さんだ。」
リーリウムの腰を支えながら、挨拶をするマシュー。
「はじめまして、マシュー先生。
お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
リーリウムはマシューの手をそっと腰から外すと、丁寧に挨拶を返した。
距離感の近い人物にはどうしても警戒心が増してしまうが、フレエシアが「悪い人ではない」と言っていたのだから、それを信じるしかない。
「もちろんだよ。
王太子殿下と学園の改革を考えているそうだね。
どうぞ、入って。」
フレエシアと同じ間取りの研究室だったが、こちらはきちんと整頓されている。
それに、学部長の部屋とも違い、大量の資料と本、筆記用具、発掘物などが机の上に置かれ、マシューが普段から研究に取り組んでいることも感じ取られた。
マシューは応接セットの椅子にリーリウムを座らせ、自分はデスクの椅子に腰かける。
「ねえ、授業、ひどかったでしょ?」
フレエシアと同じことを、クスクスと笑いながらリーリウムに問う。
「はい。
想像していた授業内容とは、だいぶ違いました。」
素直に答えるリーリウム。
「マシュー様がご入学されたときには、現在とは違っていたと聞いたのですが?」
「うん。
僕も前の学園長時代は二年ほどしか経験していなかったのだけどね。
その頃は、各分野の第一線で研究をしている先生方やその助手の方が授業も担当していたから、とっても有意義なものだったよ。
何よりすごくワクワクしたしね。
だけど、学者でもない侯爵が学園長になってからはひどいものだよ。
それまで授業を担当していた先生たちはみんな閑職へ追い込まれて、自分の手足になる貴族たちを重用し始めたんだ。
しかも最悪なのが、学園長を陛下による任命制ではなくて選挙制にしたこと。
陛下はなんでそんなこと許可したのだろうね?」
今までの不服をぶつけるように、リーリウムへ伝えるマシュー。
「学園長選出が選挙制になったのは、現在の学園長になってからだったのですね……。」
それならば、学園が学園長の私物と化しているのは陛下の采配ミスだということになる。
重要ポストがすべて学園長の手の内にある以上は、学園長の天下は盤石なものになってしまっているのだから。
「そうだよ。学園長の任期が二年だから、もうすぐ選挙の時期だね。
たぶんまた、再任されるだろうね。
せめて再任禁止とかのルールがあれば良かったのだけどね……。」
「マシュー様、もともといらっしゃった先生方は現在どうなさっているのですか?」
「学園に残って自分の研究を続けている方が多いかな。
研究よりも教えることが好きだった先生の中には、平民の高等学校へ就職した方もいらっしゃるし。
前学園長先生も少し前まで研究室で研究をしておられたけど、
お年だということで引退して、今はその助手だった方が研究を引き継がれているよ。」
「なるほど……。
その先生方にもう一度授業をお願いできないかしら?」
「そうだなぁ、してくれる先生もいるだろうけど、研究に集中したいから教える時間がもったいないと思う先生がほとんどかもしれないなぁ。」
「そうなのですか……。」
この話は一度持ち帰って、ヘンリクスやもしかすると陛下とも話さなくてはいけないかもしれない。
リーリウム一人で決定できる内容ではなかった。
「今日は有意義なお話が聞けて良かったです。
ありがとうございました。
また、お話をしに伺っても良いでしょうか?」
「いやいや、力になれてなによりだよ。
もちろん、君ならいつ来てくれても大歓迎だよ。」
リーリウムの手を取り、手の甲にうやうやしくキスをする。
令嬢に対する礼儀はなっていないが、確かに悪い人ではない。
リーリウムの警戒心がなくなったわけではないが、マシューが味方になってくれたことが心強かった。
0
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる